Dr.Nyanのすこやかコラム
飼い主様に伝えたい犬猫の病気や日常ケアについての役立つコラムをお届け♪
【バイタルサイン】バイタルサインとは?その意味について解説
医療ドラマを見たことありますか?ドクターX、コードブルー、TOKYO MERなど、主人公が外科医か救命救急医のものが多く放映されました。
その中で医師や看護師さんの、こんな会話を聞いことがありませんか?
この患者さんの状態はどう?
バイタルは正常で、問題はありません!
ドクターXの中での外科医・大門未知子の決めゼリフ「私、失敗しないので」に対して、麻酔科医が手術が終わった時に言う決めゼリフ!
血圧◯◯、脈拍◯で、サイナス!
この「サイナス」って何だろうって思いませんでしたか?「サイナス」とは「洞調律」と訳され、その意味は「心臓は正常なリズムで動いている」と言うことなんです。
「サチュレーション」なんて言葉も出てきますが、これは動脈血酸素飽和度のことです。
このように医療用語には分かりづらい言葉が数多くあります。また略語の中には、一般的な意味と医学的な意味が全く違うものもあります。
例えば「WBC:World Baseball Classic」は、あの有名な野球のことです。
しかし医療では「WBC:White Blood Cell」は血液中に存在する免疫などに関わる白血球のことを言います。
DMはダイレクトメールのことですが、医療では糖尿病「Diabetes Mellitus」のこと。
このようなものが多数あり、面白いですよ!
まぁ~それは別として・・・
今回は「バイタル」についての話をしましょうね!
「バイタル」ってどういう意味?
「バイタル」とは「バイタルサイン・vital signs」の略です。
治療を行うには検査を行いますが、その検査の根底となるものが「バイタルサイン」です。
「バイタルサイン」とは「生命兆候」という意味で、「生きている」 ことを示す重要な指標となるものです。
そのの基本的なものが「呼吸」「体温」「血圧」「脈拍」「意識レベル」の5つの指標ですが、場合によっては「尿量」を含めた6つを指標とすることもあります。
ただ多くの場合は、基本的な5つの指標を意味します。
バイタルサインを測定することで、その日の健康状態を知ることができまが「呼吸」「体温」「血圧」「脈拍」は個体差もあるため、本来は事前に正常値を知っておくことが大切になります。
バイタルサインを調べることにより、全身状態の変化や異常を早期に発見することができます。そのためには基準値から外れているかどうかだけでなく、前回や前日と比べてみることも重要になります。
「バイタルサイン」を普段から測定しておくと、体の異常などの変化を早めに気づくことができます。
バイタルサイン・呼吸
動物が生きていくために、絶対的に必要なものの一つに「酸素」があります。
酸素が無いと、死んじゃいますもんね!
そんな酸素って、もともと地球の空気に含まれたんじゃなく、長い時間をかけて植物が光合成で作り出したのなんですよ!
「酸素」は肺から体内に取り込まれ、肺は二酸化炭素を体外へと出しています。
この一連の動作が「呼吸」と呼ばれているものです。
呼吸の数え方
呼吸では「呼吸数」と「呼吸の仕方」を、また「SpO2」を調べます。
呼吸数は「吸って・吐く」を1回と数え、胸やお腹の動きを見ながら1分間測ります。胸やお腹が上下に1回動いたら、1回呼吸したと数えます。また胸やお腹の動き以外でも、寝息やイビキなどからでも呼吸数がわかる時もあります。
1分間って短いようですが、実は結構長いものなんですよ。しかも呼吸数を測ろうとジーッと見てたら、視線を感じたのか眼を開け見返してくるなんてことも普通にあります。野生の直感がムクムクと蘇ってくるんでしょうか?呼吸数を測る際には見つめられていることを意識されないようにしないと、自然な呼吸数が測れなくなってしまいますので何気ない素振りで悟られないようにする必要があります。
呼吸数を測る際には、15秒間数えて4倍することで1分間の呼吸数とすることもできますよ!
呼吸数を測るのと同時に、呼吸の仕方もチェックします。
息苦しそうかゼーゼーなどの変わった音がしないかなど、いつもの呼吸とは違うことが無いかを確認です!
呼吸数は起きている時には増えてることが多いので、できれば安静時や熟睡時などリラックスした状態の時に測ることが大切です。寝ている時に呼吸回数を数えていると、夢を見たのか突然のように呼吸数が増えることがあります。このような場合には、再度呼吸数を確認してください!
呼吸数や呼吸の仕方は「見て・聞いて」 確認できますので、注意深〜くチェックしましょうね!
異常な呼吸
熟睡時でも呼吸が多い場合には、何らかの病気が隠れていることがあります。
また呼吸数が正常でも、以下のように呼吸の仕方がいつもと違う場合にも注意が必要です。
- 首を伸ばし上を向いている
- 深い呼吸をしている
- 伏せず立ったままでいる
室温が高い時などは、呼吸が早くなることがありますので注意しましょう。
猫ちゃんはワンちゃんとは違い、鼻呼吸と言って鼻で呼吸し口で呼吸をすることはありません。つまり「鼻呼吸」が普通なのに口を開けて呼吸をしている、これは普通の状態では無いと言えます。また口を開けていなくても呼吸が早かったり肩でする呼吸も普通では無いため、このような呼吸が見られたら注意が必要です。
SpO2を測る
「SpO2」は「oxygen(酸素)のsaturation(飽和度)をpercutaneous(経皮的)に測定する」という意味で、「経皮的動脈血酸素飽和度」と訳されます。
経皮的とは「皮膚を通して」という意味ですよ!
肺に取り込まれた酸素は赤血球の中にあるヘモグロビンと結合し、全身に運ばれ利用されます。
酸素飽和度とは動脈の赤血球中のヘモグロビンと酸素とが結合しているヘモグロビンの割合のことです。簡単に言えば、動脈を流れる血の中にどの程度の酸素が含まれているかを示す指標です。
正常であれば96~99%の値を示し、この数値が低ければ血液中への酸素の取り込みが悪いと言うことになります。
SpO2は「パルスオキシメーター」で測ることができますが、ワンちゃん猫ちゃんではヒト用のもので測るのは難しいので動物病院で測ってもらいましょう!
バイタルサイン・体温
「なんか、かったるくて調子悪い」
そう思う時には熱を測ってみますよね?
それで熱が高くなければ様子を見るし、熱が出てれば体を休めます!
それは、わんちゃん猫ちゃんの場合でも同じです。
「調子が悪そうに見えるぞ?」
そう感じたときには、同じように体温を測ってみることが大切です!
ワンちゃん猫ちゃんは、ヒトと同じように気温が変っても体温は変わることなく一定に維持されています。そのため体温が高くなるなどの変化がある場合には、何らかの異常が体の中で起きている場合です。このように体温は、体の異常を知らせてくれる分かりやすい指標の一つです。
ただ体温は個体差もあるし、早朝は比較的低く夕方になるにつれ高くなるという性質もあります。
では「体温」についてみていきましょう。
体温を測ることで何がわかる?
体温が高いときは、体のどこかに感染がある場合が多いとされます。
また体温が低いときは、寒い場所に長時間いて体が冷えたり栄養状態が悪いことなども考えられます。
体温は脳の中にある「体温調節中枢」によって、一定の温度に維持されています。
しかし「体温調節中枢」の設定温度が、感染などの原因により高くなってしまうと熱が出てしまいます。
微熱程度であれば、通常の生活にはほとんど支障をきたすことはありません。
高熱になると、立ち上がったり歩くことに支障をきたすようになります。
体温は気温や室温と、体内で作られる熱エネルギーによって変わります。
例えば激しい運動をすれば体温は上がります。また体を動かすには熱エネルギーが必要なため、体が冷えていれば思うように体は動きません。
体温が高いときには呼吸を盛んにしたり体の表面の血管を広げて、体の熱を放出して体温を下げようとします。また体温が低いときは体表の血管を収縮させ、体温を逃さないようにしたり、また筋肉を小刻みに震えさせ体温を維持しようとします。
寒いときには1分間に、プルプルと200回くらい震えるんだって!
しかも震えると、震えない時と比べて最大で6倍もの熱を作り出すんだってさ!
これって凄くない??
体温と他のバイタルサインとの連動
体温が上がると、他のバイタルサインも高くなることが知られています。
例えば体温が1℃上がると、脈拍も1分間に10回程度は増えるとされています。
また呼吸数も、多少ですが増えることがあります。
ただ異常に呼吸数が増えたりする場合には、十分に注意しましょう!
バイタルサイン・血圧
「歳をとると血圧が高くなる」
そのようなことを、よく聞きますよね。
血圧とは心臓から全身に血液が送り出される際に、血管の壁にかかる圧力をのことです。
ワンちゃんや猫ちゃんなどの動物では、左心室から大動脈弁を出た直後の大動脈内圧である。
心臓がギュッと縮んで血液を押し出した時を収縮期血圧とか最高血圧と言います。
逆に心臓の筋肉が最もゆるんだ状態の時を、拡張期血圧とか最低血圧と言います。
血圧を測ることで何がわかる?
血圧を測ることで「心臓から出た血液が血管の壁をどれだけ押しているか」がわかります。この壁を押す力が強いと、血管の壁を傷つけてしまうことがあります。
血圧に影響を与えるものとしては「心臓の血液を送り出す強さ」「心臓から血液の送り出される量」「血管の柔軟さ」などがあります。血圧を測定することで、心機能の異変や全身の血液量の異常などを察知することができます。
高血圧とは、正常範囲を超えて血圧が高く維持されている状態を言います。
高血圧となっても何ら症状を訴えないこともあるため、注意が必要です。
低血圧症は、一般に収縮期血圧が正常範囲以下の状態です。
やはり症状が見られない場合や、失神などの症状が見られるものまであります。
血圧を上げてしまう要因としては、興奮や恐怖、ストレス、痛みなどがあります。
リラックスすると血圧は、やや下がります。
肥満傾向にある場合は、血圧が高くなってしまいます。
血圧は一般には夜や寝ている間は下がり、食後や運動後は上がります。
また暖かいと下がり、寒いと高くなります。
バイタルサイン・脈拍
脈拍数は血圧と同じように、血液の流れを把握する指標になります。
脈拍数は心拍数と同じように思われがちですが、チョット違います。
心拍数は心臓が1分間に拍動する回数のことですが、脈拍数は体の中の動脈が1分間に拍動する回数を言います。脈拍と言われるのは、動脈に触れる場所で測るからなのですこのように脈拍とは心臓の収縮により血液が大動脈に送り込まれる時に生じる波動が、全身の動脈に伝わったものです。
心拍数=脈拍数と同じように思われがちですが、これもチョット違います。
なるほど心臓の拍動は血管の中では脈拍として伝わりますが、不整脈がある場合には心臓の拍動は血管の中にちゃんと伝わらず、脈拍は跳んだり休んだりするように感じます。つまり心臓に異常がある場合には、心拍数=脈拍数とはなら無いことがあるため、脈拍数を測ると気には、同時に脈拍のリズムを確認することが大切です。
脈拍が異常に多いのを頻脈、異常に少ないのを徐脈と言うんだよ。
脈拍を知ることで何がわかる?
脈拍は、身体のすみずみまで血液が行き渡っているかどうかを知る指標になります。
頻脈や徐脈、また拍動のリズムの異常がある場合には、心臓や血液循環に関連した病気が疑われます。
脈拍数は個体差が大きく年齢や体温、また活動状態によっても変化します。
しかも脈拍は心臓の動きが基になっているため、交感神経が興奮するような状況になると脈拍は早くなります。
また年齢や気温、食事や運動、また興奮や怒りなどの感情によっても変動します。
バイタルサイン・意識
「意識がある」とは脳において刺激を認識し、その刺激に対しちゃんとした反応を示す状態を言います。しっかりと目が覚めていて刺激を感じ取ることができ、判断や解釈に何ら問題も無い状態です。
目がきちんと覚めていず、また判断や物事を解釈できない状態を「意識障害」と言います。
意識障害が起きると周りからの刺激に対して、きちんとした反応が取れなくなってしまっています。つまり「意識がある」=「刺激認識→判断→反応・行動が出来る」状態ですから、当然 息もしているし心臓が動いています。
バイタルサイン・尿量
尿は体外に排泄されるもので、その中には体の代謝によって作られた不要物や老廃物が含まれています。
尿は腎臓によって作られるため、腎臓の機能にトラブルが起こると正常な尿を作ることができません。
そのため尿量は腎臓の機能の評価に有効な指標となります。
ただ尿量の評価には膀胱留置カテーテルを使用し、正確な尿の量を測る必要があります。
1日の尿量が極端に少ない場合は、泌尿器の疾患や腎臓機能の異常などを疑います。また多い場合にも、ホルモン病などが疑われます。
まとめ
バイタルサインは生命の兆候を表す重要な指標です。そのためバイタルサインが一つでも悪化してしまった場合には、生命に危険がおよんでしまっています。
ただ悪化の程度を判断するにはバイタルサインを日頃から測り、知っておくことが大切です。
著者プロフィール
若山正之・院長
大学では外科を専攻し、卒業後も外科研究室に在籍する。
前職:財団法人緒方医学化学研究所等にて、CRP、α1アンチトリプシン等の免疫学的研究等に従事
現職:1982年に千葉県佐倉市に若山動物病院を開院し現在に至る
当院の特徴:先制医療として「1次・2次・3次予防」をメインとし、病気にならないよう未病の領域に特化した診療を行っています。
現在までに国際動物専門学校非常勤講師、NHKカルチャーなど多数のセミナー講師を務め、またNHKわんにゃん茶館や学研、ねこのきもち、いぬのきもち、asBOOK等のメディアにも携わる
著書には「老犬生活」や「犬と猫の老齢介護エキスパートブック」等多数あります。
趣味はキャンプ、5匹の猫たちと暮らしています!