犬がウップウップする・吐くのは危険?食道裂孔ヘルニアの症状・治療・受診の目安

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犬の食道裂孔ヘルニア|ウップウップする・吐く原因と治療・受診の目安

「ご飯を食べたあと、愛犬が首を伸ばして『ウップウップ』と苦しそうにしている……」 「最近、食べたものをそのまま吐き出すことが増えた気がする」

そんな愛犬の姿を見て、不安になっていませんか?

単なる「食べムラ」や「早食い」のせいだと思って様子を見てしまいがちですが、実はその症状、胸とお腹を仕切る筋肉の緩みが原因で起こる「食道裂孔(しょくどうれっこう)ヘルニア」という病気かもしれません。

聞き慣れない病名ですが、見過ごしていると胃の血流が悪化し緊急手術が必要になったり、重い肺炎を引き起こしたりして命に関わることもある、決して侮れない病気なのです。

今回は、実際の診療でもよく出会うこの病気について、初期症状の見分け方から治療法、お家でできる予防策までを複数の症例をもとに解説します。「隠れたSOS」に早く気づいてあげるためのヒントにしてください。

飼い主

最近、食後にウップウップすることが増えて、吐いてしまうこともあるんです。病気でしょうか?

Dr.Nyan

食後にウップウップする場合、胃や食道の逆流が関係していることが多いです。
実際の診療でも、このような症状で来院されるケースはよく見られます。

食道裂孔ヘルニアは馴染みの薄い病気のため、知っている飼い主さんは少ないと思います。
それは見逃されやすい病気だからなんです。

その前に食道裂孔が何かよくわからない…
そんな飼い主さんに、Dr.Nyanがわかりやすく解説していきます。

飼い主

食道裂孔って、そもそもどこのことなんですか?

Dr.Nyan

体の構造を理解すると、この病気がなぜ起こるのかが分かりやすくなります。

目次

食道裂孔ってなに?

横隔膜は呼吸をするときに大切な働きをしています。
そんな横隔膜は胸腔と腹腔との境界にある膜状の筋肉で、胸部(肺や心臓など)と腹部(胃や肝臓、腸など)を仕切っています。

横隔膜には血管や食道が通るためのいくつかの穴があり、なかでも食道が通る穴を特に食道裂孔(しょくどうれっこう)と呼びます。

イメージとしては、胸とお腹をきっちり仕切るゴムシートに開いた穴のようなもの。正常であればこの穴はピタッと締まっていますが、その穴(食道裂孔)がゆるんで広がってしまうと、胃がお腹側から胸側へ入り込んでしまうのが食道裂孔ヘルニアです。

犬の横隔膜と食道裂孔の位置を示した説明図
横隔膜と食道裂孔の位置関係を示した模式図。食道裂孔が広がることで胃が胸腔側へ入り込むことがあります。

ちなみに食道と胃の間には「噴門」と呼ばれる、胃酸や食べた物が胃から口へと逆流しないように働いている括約筋があります。

飼い主

食道は横隔膜に開いた穴を通って、お腹の中の胃に繋がっているってことなのね!

Dr.Nyan

次に、食道裂孔ヘルニアについて説明するね!

飼い主

どんな状態になるとヘルニアなんですか?

食道裂孔ヘルニアとは?

飼い主

ヘルニアって言うくらいだから、食道がどこかに飛び出ちゃってるってことかしら?
先生詳しく教えて!

食道裂孔ヘルニアとは、横隔膜にある食道が通る穴である食道裂孔から胃の一部が腹腔内から胸腔側へ入り込んでしまう病気です。

食道裂孔ヘルニアになると噴門が胸腔側へと入り込んでしまうため、噴門の機能が悪くなり胃酸や食べたものが食道に逆流しやすくなってしまいます。

犬の食道裂孔ヘルニアで胃が胸腔内へ入り込む模式図
食道裂孔ヘルニアでは、胃の一部が横隔膜を越えて胸腔側へ入り込みます。

軽度なものでは、ほとんどが無症状ですが、飛び出た部分が多くなってくると様々な症状が見られるようになってきます。
症状がひどい場合には、手術を行うことも必要となってきます。

飼い主

胃がお腹側から胸の中にズリ上がってしまうって…想像するだけで苦しそうですね。どんな症状が出てくるんですか?

Dr.Nyan

そうなんです。軽い場合は気づかないこともありますが、進行すると食後のえずきや咳など様々なサインが出てきます。次のセクションで詳しく見ていきましょう!

飼い主

どんな症状が出たら気づけますか?

Dr.Nyan

実際の診療でも、いくつか共通したサインがあります。

食道裂孔ヘルニアの症状

食道裂孔ヘルニアの代表的なサインのひとつが「ウップウップ」とえずく動作です。具体的には、唾液を何度も飲み込むような動作や、上を向いて首を前後に伸ばし何かを飲み込もうと苦しそうにする動作がみられます。食後に繰り返す場合は特に注意が必要です。

食道裂孔から胃が胸腔内に飛び出しているため、その部分に胃酸が逆流しやすくなります。
その結果、食道炎を起こすことがあります。

また胸部の中に出てきた胃が、心臓や肺などを圧迫してしまうことがあります。
場合によっては胃が捻れてしまうこともあり、食べ物がうまく飲み込めないようなことが起こることもあります。
重症例では胃の血流が悪くなり、命に関わることもあります。

また、吐出した内容物が気管に入り込むことで「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」を引き起こすことがあります。これは命に直結する重篤な合併症で、繰り返す吐出や咳を放置することの危険性のひとつです。「なんとなく咳が続く」「食後に呼吸が苦しそう」という症状がある場合は、早めの受診が必要です。

食道裂孔ヘルニアの犬で胸腔内に入り込んだ胃が確認できるレントゲン画像
胸腔内へ入り込んだ胃が確認された実際のレントゲン画像。

食道裂孔ヘルニアになっても、症状が見られない場合も多々あります。
しかも食道裂孔ヘルニアは初期には症状が分かりにくいことも多いため、よく確認してあげてくださいね!

【食道裂孔ヘルニアの症状】

  • 食欲がない
  • 嘔吐
  • 吐出
  • 食道炎
  • 食道潰瘍
  • 胸の不快感
  • 咳や呼吸が苦しそうになる

Dr.Nyan

これらの症状が複数見られる場合は、早めの受診が必要になるケースが多いです。

飼い主

どうしてこの病気になるんですか?

Dr.Nyan

実際の診療でも、日常生活の中に原因が隠れていることが多いです。

飼い主

どうして食道の穴がゆるんでしまうんですか?うちの子も太り気味なんですが、関係ありますか?

Dr.Nyan

肥満は食道裂孔ヘルニアの大きなリスク要因のひとつです。お腹にかかる圧力が増すことで、胃が押し出されやすくなるんですよ。

食道裂孔ヘルニアの原因

食道裂孔から胃が飛び出してしまう原因には、以下のようなことが考えられます!

  • 生まれつき食道裂孔が広い
  • 加齢に伴い食道裂孔が広がる
  • 肥満などで腹圧が高くなり胃が押し出される
  • 慢性気管支炎など頻繁に咳が出る慢性的な呼吸の問題がある
肥満により腹圧が高くなり食道裂孔ヘルニアのリスクが高まる犬のイメージ
肥満により腹圧が高まると、食道裂孔ヘルニアのリスクが上昇します。

飼い主

治療はどんなことをするんですか?

Dr.Nyan

症状の程度によって治療方法は変わりますが、基本的な流れがあります。

食道裂孔ヘルニアの治療法

軽症例では、以下のような内科治療を行います。

  • 体重管理
  • 胃酸分泌を抑える薬
  • 食事内容の調整

それでも改善しない場合には、手術を検討します。

手術には、以下のような方法があります。

  • 胸腔へ出た胃を元の正しい位置に戻し、胃が再度飛び出さないように固定する。
  • 緩んだ食道裂孔を縫い縮めて整える

食道裂孔ヘルニアの予防方法と費用

飼い主

食道裂孔ヘルニアの予防って、何があるのかしら?

基本的には、肥満を防ぐことが大切です。
咳などの呼吸器病は早めに治療することです。
また先天性が疑われる場合も、同じように早めに治療を始めて重症化を防ぐことが大切です!

胃酸を抑える薬を飲む程度であれば、体の大きさにもよりますが小型犬であれば1週間に3000円くらいの治療費になります。
これが手術となると、ヘルニアの程度にもよりますが手術内容によっては20万円前後の費用がかかることがあります。

食道裂孔ヘルニアになりやすい犬

  • 太った犬
  • 慢性の咳をするなど呼吸器疾患を持つ犬

犬の食道裂孔ヘルニアでよくある質問

食後にウップウップするのは病気ですか?

食後にウップウップする症状は、胃酸の逆流や食道裂孔ヘルニアなどが関係している可能性があります。頻繁に見られる場合は一度動物病院での確認をおすすめします。

犬が食後に咳をするのは関係ありますか?

胃酸の逆流や誤嚥により、食後に咳が出ることがあります。繰り返す場合は食道裂孔ヘルニアや誤嚥性肺炎の確認が必要です。

犬が吐くのと吐出は違うのですか?

吐く(嘔吐)は、お腹をウップウップと波打たせる「悪心(えずき)」の動作の後に、胃の内容物を吐き出す状態です。
一方、吐出(としゅつ)は、前触れなく(お腹を波打たせることなく)ストンと目の前に食べたものを落とすように出す状態で、食道にあるものがそのまま出てきます。

この「えずく動作があるかどうか」が最大の見分けポイントです。
食道裂孔ヘルニアでは吐出が見られることが多く、飼い主さんが「吐いた」と思っていても実は吐出だったというケースが少なくありません。

食道裂孔ヘルニアは自然に治りますか?

自然に完全に治ることは少なく、症状を抑えながら管理していくケースが多い病気です。軽度であれば内科治療でコントロールできることもあります。

どんな症状が出たら受診すべきですか?

吐く回数が増えている、食後に苦しそうにする、食欲がない、咳が出るなどの症状がある場合は早めの受診が必要です。

食道裂孔ヘルニアは手術が必要ですか?

軽度の場合は薬で管理できることが多いですが、症状が強い場合や改善しない場合には手術が検討されます。

肥満は関係ありますか?

肥満により腹圧が上がることで、胃が押し出されやすくなり発症リスクが高まります。そのため体重管理は非常に重要です。

どんな犬がなりやすいですか?

肥満の犬や慢性的に咳が出る犬、また先天的に食道裂孔が広い犬は発症しやすい傾向があります。

予防する方法はありますか?

肥満を防ぐこと、咳などの呼吸器症状を放置しないことが予防につながります。早期対応が重症化防止に重要です。

犬が食後すぐに吐く場合、食道裂孔ヘルニアの可能性はありますか?

食後すぐに吐く、または食べたものがそのまま出てくる場合は、胃酸の逆流や吐出、食道裂孔ヘルニアなどが関係している可能性があります。繰り返す場合は早めに動物病院で確認しましょう。

Dr.Nyan

実際の診療でも、「様子を見ていたら悪化していた」というケースは少なくありません。
特に、食後の違和感や軽い嘔吐から始まるケースは多いです。

まとめ

食道裂孔ヘルニアは気づかれにくく、薬で症状が改善しても再発しやすいことがあります。
そのため、長期的な管理が必要になる場合もあります。
早めに気づいてあげて、対処することが大切です!
お家で行えることはお家で行い、それでも無理な場合には我々もお手伝いしますのでご相談くださいね!!

飼い主

早期発見が大切なんですね。どんな症状が出たら病院に連れて行くべきですか?

Dr.Nyan

食後のウップウップが繰り返される・咳が続く・食欲が落ちた…このような変化が見られたら、早めにご相談ください。気づいてあげることが大切ですよ!

筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

若山動物病院院長 獣医師 若山正之(Dr.Nyan)

本記事は、犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。

特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。
また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。

これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。

本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。