若山動物病院ブログ
認知症
人の世界では人生100年時代と言われるようになり、2023年9月には100年以上生きている人が9万2139人になったと発表されました。
高齢化が進むにつれて問題となってくるのが『認知症』患者の増加です。
2022年の認知症患者数は約443万人、軽度認知障がいも加えると患者数は1,000万人を超え、65歳以上の高齢者の3~4人に1人は認知機能に何かしらの問題を抱えていることになります。
ワンちゃん猫ちゃんも人と同様に寿命が伸びてきたことで高齢化が進み、『認知症』を発症する子も増えてきています。
認知症とは
『認知症と』は『認知機能不全症候群』の略で、脳の障害やさまざまな原因によって脳が変化し認知機能が低下することで行動障害が引き起こされる病気です。
ワンちゃんでは8〜10歳を過ぎたあたりから認知機能の低下が始まって13歳頃から急増するとされています。
特に日本犬での発症が多く、他にはビーグルやマルチーズ、ヨーキーなども好発犬種として知られています。
猫ちゃんはワンちゃんほどではないですが11歳以上から少しずつ認知症の発症リスクが上がり、15〜16歳以上のおよそ半数の子で認知機能低下が認められたという報告があります。
認知症の主な症状
認知症の症状といえば夜鳴きや徘徊が有名ですが、それ以外にも数多くの症状があり、6つのカテゴリーに分類することができます。
通常は時間をかけゆっくりと症状が現れますが、飼育環境の変化や病気の発症などが引き金となって急激に悪化することもあります。
また認知症の症状に見えても実は病気のサインであることもあるので注意が必要です。
見当識障害
- 家の中や庭など、慣れた場所でも迷子になる
- 狭い場所や隙間に入ってしまい、出られなくなる
- 物をよけることができない
- 壁や床、宙など何もないところをぼんやり見つめる
- 家族や仲の良い動物などを認識できない
- おもちゃやご飯を見つけられない
- 視覚刺激(光景)や聴覚刺激(音)に対する反応が鈍い
社会的交流の変化
- 話しかけられたり、なでられても反応しなくなる
- 同居する家族や動物に対して攻撃的になる
- 家族を喜んで迎えなくなる
- 家族や他の犬と遊ぶ時間が減った
- 言葉で合図しても応えない
睡眠サイクルの変化
- 夜中に起きてウロウロと徘徊する
- 夜に鳴いたり吠えたりする
- 昼寝が増えたり、夜に眠らなくなる。
不適切な排泄、学習と記憶力の変化
- トイレ以外の場所で排泄してしまう
- 自分の名前や習得しているコマンドに反応しない
- 新しいことが覚えられない
- 散歩に行くことをせがまなくなる
- 集中力が減った
- 注意散漫になる
- 気を引くことが難しくなった
活動性の変化
- ぐるぐると同じ場所を回る
- 咀嚼や手足を舐めるなど同じ行動を繰り返す
- ウロウロと徘徊する
- おもちゃや家族、その他の動物と遊ばなくなる
不安の増加
- 飼い主から離れると異常に不安がる
- 視覚刺激(光景)や聴覚刺激(音)に対して過敏になったり、怖がったりする
- 場所や環境を怖がることが増えた
認知症を予防するには
現在の医療では認知症に有効な治療薬というものは存在しないため、治すことはできません。
少しでも認知症の発症や進行を遅らせるために生活習慣や環境の改善をおこない、日々の生活の中で適度に脳を刺激してあげることが一番の予防になります。
〈 頭を使った遊びをする 〉
おもちゃやオヤツを使った宝探しやノーズワークなど考えさせる遊びをすることで脳の活性化につながります。
〈 お散歩コースを変えてみる 〉
いつもと違う道を行ったり、逆方向から回ったりなどして普段のお散歩コースを少し変えることで好奇心が湧くようになります。
またコンクリート・土・石・草などいろいろな質感の上を歩くことで脳への刺激や運動機能の向上にもつながります。
ただし、不安定な足下は怪我や事故にもつながるので十分注意してください。
〈 日光浴をする 〉
日光を浴びることで体内時計がリセットされ、生活リズムを整えることができます。
また日光には精神安定効果、睡眠の質改善、ビタミンDの活性化など嬉しい効果がたくさんあります。
毎朝10〜30分ほど日光浴をするのがオススメです。
〈 昼寝の時間を短くする 〉
日中の活動時間を増やすことで夜にぐっすり眠るようになり、夜鳴きや夜間の徘徊を防ぐことができます。
〈 運動をする 〉
体を動かすことで筋肉の衰えや寝たきりを防ぎ、認知症の進行防止にもつながります。
またお散歩やお出かけで外に出ることで自然を感じたり、他の動物と交流することもいい刺激になります。
〈 部屋の環境を整える 〉
床を滑りにくい素材にしたり、クッション材などを使って部屋の角や家具の隙間などを保護したりして、お部屋の中を安心して歩き回れるよう整えてあげましょう。
外出などで目を離さなければならない場合は、円形に設置できるサークルや子供用のビニールプールに入れてあげることで行動を制限しつつ自由に歩き回ることができます。
また老齢の子は自律神経機能が低下しているため室温管理には注意が必要です。
〈 声がけをよくする 〉
こまめに話しかけることで安心感を与えることができます。
就寝時や外出時にはラジオやテレビをつけたままにしておくのも効果的です。
〈 マッサージをする 〉
マッサージで全身を触ることで脳への刺激や血流改善につながります。
またコミュニケーションの時間が増えることでお家の子の気持ちも明るく前向きに変わります。
〈 サプリメントを利用する 〉
抗酸化作用のあるDHAやEPA、ビタミンC・E、β-カロテン、フラボノイドなどを摂取することで脳の酸化ストレスを防ぎ、脳神経細胞を活性化させる働きがあります。
特にDHA・EPAは数多くのサプリメントがあるので、お家の子にあった物を探してあげるといいでしょう。
また症状によっては漢方を使うこと場合や最近では認知症に配慮したフードも販売されています。
認知症は早期発見が鍵
ワンちゃん猫ちゃんの認知機能の低下は老齢にともなう行動変化とも似ているため、簡単に見つけることができません。
しかし、初期段階で行動変化に気づくことができれば認知症の進行を遅らせることができ、場合によっては他の病気の早期発見にもつながります。