若山動物病院ブログ
炎症性腸疾患や蛋白喪失性腸症に幹細胞療法は効果あるの?
「うちの子、下痢がなかなか治らない・・・」
「血液検査でアルブミンの値が低いと言われた」
そんなときに考えられる病気に炎症性腸疾患(IBD)と蛋白喪失性腸症(PLE)があります。
そして最近、これらの腸の病気に対する治療方法として「幹細胞療法」が注目されています。
今回は「幹細胞療法」が「腸のどんな病気に効くのか」「どんな効果が期待できるのか」の話です。
炎症性腸疾患と蛋白喪失性腸症
炎症性腸疾患(IBD)
簡単に言えば「IBDは犬のお腹の慢性的にアレルギーを起こしたような腸の病気」で、完全に治すというより「うまく付き合っていく」という病気です。
そのままの状態にしておくと栄養が十分に吸収できず、痩せたり元気がなくなったりしてしまいます。
どんな病気?
腸に慢性的な炎症が起こり、腸の粘膜が荒れてしまう病気です。
下痢や嘔吐を繰り返し、体重が減ったり毛ヅヤが悪くなったりもします。
▶️ 原因は?
食物アレルギー、腸内細菌の乱れ、免疫の異常などが関係すると言われています。
しかし原因をはっきり特定できないことが多く、厄介な病気です。
▶️ 診断は?
血液検査やエコー検査から病気を疑い、確定には腸の一部を採取し組織検査を行います。
いわゆる、大腸カメラです!
▶️ 一般的な治療法は?
アレルギー食や消化の良いフード
ステロイドや免疫抑制剤などの薬
整腸剤など
これらを組み合わせて炎症を抑え、腸の状態を安定させます。
蛋白喪失性腸症(PLE)
簡単に言えば、「PLEは「腸から大切なたんぱくが漏れ出してしまう病気」です。
慢性的な下痢と血液中のたんぱく質の量が減ってしまう病気で、体重の減少や浮腫や腹水が出ることもあります。
チワワやヨーキーなど、小型犬に多いとされます。
どんな病気?
▶️ 原因となる病気
炎症性腸疾患(IBD)
腸リンパ管拡張症
腫瘍や感染など
▶️ 一般的な治療法は?
アレルギー食や消化の良いフード
ステロイドや免疫抑制剤などの薬
併せて整腸剤など
血栓予防の薬が必要になる場合も
幹細胞療法とは?
幹細胞とは、体の中でさまざまな細胞に変わる能力を持つ「基になる細胞」です。
その中でも「間葉系幹細胞」には、以下のような働きがあることがわかってきました。
- 炎症を抑える
- 免疫のバランスを整える
- 傷んだ腸の粘膜を修復する
どんな効果があるの?
研究や症例報告では、以下のような効果が確認されています。
- ウンチの状態が良くなった
- 体重が増えた
- アルブミンが増えた
- 食欲が戻った
特に「ステロイドや食事療法だけではうまくいかなかった犬」で改善が見られた、という点が注目されています。
安全性と注意点
これまでの報告では、幹細胞療法による大きな副作用はほとんど見られてはいません。
ただ以下のような課題があります。
- 効果の出方や持続期間には個体差がある
- 複数回の投与が必要になることもある
- まだ研究段階で、標準治療としては確立されていない
- 費用が高額になる
まとめ
幹細胞療法は犬の炎症性腸疾患や蛋白喪失性腸症に対して、これまでの治療では改善が難しかった子に希望を与える可能性のある治療法です。
まずは食事療法や薬で安定を目指し、それでも難しいときに「次の選択肢」として検討する価値があります。
「慢性的な下痢が続いている」「アルブミンが低いと指摘された」など心配な症状があるときは、ぜひご相談ください。