若山動物病院ブログ
【蒼太探偵シリーズ】腸内細菌は本当に健康に関係するの?|犬の腸活・免疫・病気との意外な関係

シロのしっぽが、いつものように元気に揺れています。
お腹の調子もすっかり、体調は良好。
待合室をキョロキョロ見回しながら、蒼太の足元でゴロンと寝転がっています。
ホッとしたのも束の間、結衣の中に新しい「?」が浮かんできました。

結衣
シロのお腹、良くなって本当によかった。
でもさ、テレビでもSNSでも「健康は腸から」ってしょっちゅう聞くよね。
あれ、実際どこまで本当なの?

蒼太
お腹の菌が体全体に関係してるって言われても、正直ピンとこないんだよな。ちょっと話盛ってない?

おいどん先生
いいところに目をつけたね。
腸は「第二の脳」って呼ばれるくらい研究が進んでいて、体にとって本当に大事な場所なのは間違いないんだ。
ただし「腸活さえしておけば病気知らず」なんて、そんな都合のいい話はないよ。
今回、犯人が隠れているのは目に見えない場所。
捜査するのは、シロのお腹の中です。
腸内細菌は本当に健康に関係するのか
「腸内環境を整えれば、すべて解決する」
広告を見ているとつい、そう思いたくなりますよね。
たしかに腸内細菌は、食べ物の消化を助け、腸の粘膜を守り、免疫の働きを調整するなど、いくつもの大切な働きをしています。
だからこそバランスが崩れると、下痢や軟便という形で体からサインが出るのです。
ただ、ここで一つ、当院で日常的にぶつかる誤解があります。
それは、
- 「腸内細菌が乱れたから不調になった」 のか
- 「別の病気の結果として腸内細菌が乱れた」 のか
この順番です。
卵が先か鶏が先か、というのと似ていて、実はこれ、簡単には見分けがつきません。
だから私は、下痢便を見ただけで「腸内環境が悪いから乳酸菌を飲みましょう」と即答することは、絶対にしないと決めています。
まず突き止めたいのは、「何が原因でこのお腹の荒れが起きているのか」なんです。
腸内細菌とは、そもそも何者か
犬のお腹の中には、無数の細菌や微生物が暮らしています。
「腸内細菌」と聞くと悪さをする菌をイメージする方も多いと思いますが、それは誤解です。
腸の中の菌がすべて悪というわけではありません。
腸内細菌は、犬のお腹で一緒に暮らしながら、消化や腸の働きを支えてくれる存在です。

結衣
良い菌と悪い菌って、はっきり線引きされてるわけじゃないの?

おいどん先生
実際の腸の中は、そこまで単純じゃないよ。
同じ菌でも、数や周りの環境次第で働き方が変わる。
一種類の菌を追いかけるより、腸全体のバランスを見ることのほうがずっと大事なんだ。
「善玉菌」「悪玉菌」という呼び方はわかりやすい反面、実際の腸内環境の複雑さをすべて説明できるものではありません。
いくつもの菌が互いに影響し合いながら、腸内のバランスを保っています。
食べ物を発酵させる
食べた食物繊維の中には、消化酵素だけでは分解しきれないものがあります。
それを腸内細菌が発酵させ、短鎖脂肪酸などをつくり出す。この短鎖脂肪酸は、腸の細胞にとって大切なエネルギー源にもなります。
ただし食物繊維は、多ければ多いほど良いわけではありません。
その子に合わない種類や量を与えると、便が緩んだりガスが増えたりすることを、当院でも何度も経験しています。
腸の粘膜を守る
腸は栄養を取り込む場所であると同時に、体の外からやってくる異物と接する最前線でもあります。
必要なものを吸収しながら、害になるものを通さない。
つまり腸内細菌が作る物質も、この粘膜を守る仕組みの一つと考えられています。
もっとも、腸を守っているのは腸内細菌だけではありません。
食事、免疫、腸の動き、粘液、血流、いくつもの要素が重なり合って腸は守られているのです。
当院でも、腸の状態が整うにつれて皮膚炎や便の状態が安定してきた犬を経験しています。
ただし、腸活だけで改善したと断言できるケースばかりではなく、食事や基礎疾患の治療を組み合わせた結果であることも少なくありません。
免疫の働きに関わる
腸には、体に入ってきたものを見分ける免疫組織が集まっています。
腸内細菌は、この免疫と密接に関わりながら腸の働きを支えています。

蒼太
じゃあ、腸内細菌を整えれば免疫力も上がるってこと?

おいどん先生
関係があるのは間違いないよ。
でも、乳酸菌を一つ与えたら病気に強くなる、という話ではないんだ。
腸内細菌と皮膚、アレルギー、肥満、行動との関係も、研究が進んでいる分野です。
ただ興味深い一方で、まだわかっていないことも多いのが実情です。「関係が見つかった」ことと「原因だと証明された」こと、この二つは似ているようでまったく別物だと私は考えています。
腸の中に暮らす3つのグループ
犬のお腹の中に広がる細菌や微生物の集まりを、「腸内フローラ」と呼びます。
「細菌」と聞くと悪と思うかもしれませんが、それは大きな勘違いで、細菌は犬の体と共生している仲間とも言える存在なんです。
腸内フローラは大きく3つのグループに分かれ、それぞれ役割を持ちながら腸の働きを支えています。
| 菌のグループ | 特徴と役割 |
| 体に役立つ菌(善玉菌) | 乳酸菌や酪酸菌など。 消化を助け、腸のエネルギー源になる「短鎖脂肪酸」などをつくる。 |
| 増えすぎると困る菌(悪玉菌) | 普段はおとなしいが、体が弱ったりストレスがかかったりすると勢いを増す。 |
| どちらにもなる菌(日和見菌) | お腹の中で一番数が多く、優勢な方に味方する「世渡り上手」な菌。 |

結衣
そっか。
悪い菌を全部ゼロにする「除菌」がよいとは言えないのね。

おいどん先生
そのとおり。腸の中の菌たちは、みんなで一つのチームを組んでいるようなものなんだ。
どれか一種類だけが増えても、逆に減っても、チームのバランスは崩れてお腹の調子はおかしくなる。
腸内細菌が乱れると、どんな症状が出るのか
腸内環境のバランスが崩れた状態を、専門用語で「ディスバイオーシス」と呼びます。
犬の場合、次のようなお腹のサインとして現れることが多いですね。
- 軟便
- 下痢
- 排便回数の増加
- 粘液便
- お腹が鳴る
- ガスが増える
- 食欲が安定しない
- 体重が減る
こうした症状だけを見ると「やっぱり腸内環境が原因だ」と思いたくなるかもしれません。
でも、ここで声を大にしてお伝えしたいのは、これらの症状を起こす原因は他にも山ほどある、という事実です。
寄生虫、急な食事の変更、おもちゃの誤食、膵炎、慢性腸症、内分泌の病気、あるいは腫瘍。
見た目は同じ「下痢」でも、裏に潜んでいるものはまったく違います。この違いを見落とすことが、診療で一番怖いことだと私は思っています。
【実際の診療から】乳酸菌を続けても下痢が治らなかった犬
当院には、「ネットで評判のサプリを何種類も試したけれど、どうしても軟便が治らない」と駆け込んでこられる飼い主様が、本当にたくさんいらっしゃいます。
少し前に来院した、3歳のトイプードルの話をさせてください。
半年ほど前から軟便を繰り返し、ご家族は「きっとお腹が弱い子なんだ、腸内環境を良くしなきゃ」と、市販の乳酸菌サプリを数ヶ月にわたって飲ませていました。便の状態は良くなったり悪くなったりを繰り返すばかりで、当院を受診されました。
詳しい便検査を行ったところ、見つかったのは「ジアルジア」という寄生虫。
どんなに良い乳酸菌を続けても治らなかった理由が、そこにあったのです。駆虫薬を使うと、それまでの便の状態が嘘のように落ち着きました。
似たケースは他にもあります。
血液検査と超音波検査から膵炎が疑われた子。
フードを見直し、食事反応性腸症を考えて療法食に切り替えたところ便が安定した子。
腸の粘膜に強い炎症が見つかり、専門的な治療が必要だった子もいました。
もちろん、すべての犬に重い病気が隠れているわけではありません。
急なフードの切り替えやおやつの食べ過ぎ、環境変化による一時的なストレスだけで軟便になることも、実際にあります。
だからこそ私は「ただの軟便」と片付けず、症状の経過や全身状態を見ながら、どこまで詳しく検査すべきかを見極めるようにしています。
「良い菌をたくさん与えれば、お腹は良くなる?」の真実
診察室でよく聞かれる質問があります。
「先生、菌の数が多いプロバイオティクスを飲ませれば、お腹は強くなりますか?」
プロバイオティクスとは、健康への効果が期待される生きた微生物のことで、乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌などが代表格です。
この質問への私の答えは、正直なところ少し慎重です。即答で「はい」とは言えません。
「たくさんの菌を送り込んでも、多くはそのまま体を通り過ぎて便に出ていってしまいますよ」
そうお伝えすることのほうが、多々あります。
なぜそう言い切れるのか。
犬の腸内フローラは、子犬期にある程度決まってしまうと考えられているからです。
そのためプロバイオティクスを飲んでも、腸に住み着くというより、多くは腸を通過して便と一緒に外へ出ていきます。
では、サプリは意味がないのか。そうではありません。
通過する間、腸の動きを助けたり、もともと腸にいる菌たちを応援したりと、良い仕事をしてくれます。
ただしその効き方には、かなりの個体差があります。
Aちゃんには劇的に効いたサプリが、Bちゃんにはまったく変化がない、ということは普通に起こります。
だから私は、「何種類入っているか」「菌数が多いか」だけでなく、その製品にどんな根拠があるのかを確認するようにしています。

蒼太
乳酸菌なら店にもいっぱい並んでるし、どれも同じだと思ってたよ。

おいどん先生
薬に種類があるのと同じで、プロバイオティクスも全部が同じじゃないんだ。
名前が有名だから、という理由だけで選ばない方がいいね。
例外もある。ストレスで軟便になることも
犬も、環境の変化や強い緊張によって軟便になることがあります。
来客、旅行、ペットホテル、雷、工事の音、家族構成の変化。
そのような人にとっては小さな出来事でも、犬にとっては大きなストレスになっていることがあります。
食事の内容だけでなく、最近の暮らしに変化がなかったか、一度振り返ってみてくださいね。
腸内フローラ検査を受ければ、原因が分かる?
近年は、便から腸内細菌の構成を調べる検査も見かけるようになりました。
ただ、結果だけで下痢の原因や病名が確定するわけではありません。
腸内細菌の構成には、食事、年齢、薬、生活環境、採便時の体調など、さまざまな要因が影響します。
検査結果で「良い菌が少ない」と出ても、それだけを根拠に治療方針を決めるのは、正直難しいと言えます。
私はまず、症状や診察所見、一般的な血液検査などの結果を重視しています。
腸内フローラ検査を行う場合も、他の情報と合わせて考える。一つの検査結果だけを鵜呑みにしない、というのが私の診療スタンスです。
こんなサインがあれば、動物病院へ
「お腹に良いから」とサプリで様子を見続けて、病気の発見が遅れてしまうのが一番悲しいことです。
次のような様子が見られたら、腸活サプリで様子を見続けず、動物病院に相談してください。
- 下痢が数日続いている
- 軟便を何度も繰り返す
- 血便や黒い便が出た
- 嘔吐を伴っている
- 食欲や元気がない
- 水も飲めない
- お腹を痛がる
- 体重が減ってきた
- 子犬や高齢犬である
- 持病がある
- 異物や傷んだ食べ物を口にした可能性がある
リスク先生
特に、水も飲めないほど吐く、ぐったりしている、何度も血便が出る。こういうときは一刻を争うよ。
腸活で様子を見ていい場面と、急いで検査すべき場面は、はっきり分けて考えてほしいんだ。
今日の事件解決:Dr.Nyanが大切にしている「診療の順番」
腸内細菌が犬の健康や免疫、さらには皮膚のコンディションにまで関わっていることは、日々の診療の中で私自身も実感しています。
お腹を整えたことで全身の調子が良くなった子を、これまで何頭も見てきました。
だからこそ診察室で「お腹がゆるいですね、じゃあ腸内環境のせいでしょう」と簡単に片付けることはせず、本当に腸内細菌だけの問題なのかを、私は必ず考えます。
診療の順番
①まず、他の原因を探る
お腹に虫はいないか。変なものを食べていないか。膵臓や腎臓、腸そのものに重大な病気が隠れていないか。これらを一つずつ確認し、可能性を潰していきます。
②食事と生活環境を整える
フードやおやつの量が、その子の胃腸に合っているかを見直し、ストレス要因があれば取り除く工夫をします。
③プロバイオティクスを取り入れる
土台が整って初めて、その子の状態に合った乳酸菌や酪酸菌を最適な形で取り入れていきます。
この順番を守ってきたからこそ、治らなかった下痢が落ち着くのを、私は何度も見てきました。
遠回りに見えるかもしれませんが、一段ずつ登っていくことが、結果的に一番の近道になります。
体質や環境要因だけの改善で良くなる子もいれば、検査で病気が見つかり、そこから治療が始まる子もいます。
どちらも、焦らずその子の歩幅に合わせて進めることに変わりはありません。
これが、私が腸内細菌と向き合うときに、いつも大切にしている考え方です。

結衣
今日のポイントをまとめてみた
・腸内細菌は犬の健康を支える重要な存在
・下痢=腸内細菌が原因とは限らない
・原因を調べた上で腸活を行うことが大切
こんなことだよね!
次回予告

蒼太
先生、ペットショップに行くとサプリが棚一面に並んでいて、本当にどれがいいのか分からないんだよね。
乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌って、何が違うの?

おいどん先生
いいところに気がついたね。実はそれぞれお腹の中で活動する「場所」や「働き」が全然違うんだ。
よし、次回はそこを分かりやすく解き明かしていこうか!
次回:犬のプロバイオティクスとは?|乳酸菌・ビフィズス菌・酪酸菌の違い