若山動物病院ブログ
ロイスの脾臓摘出手術・2
昨日、ロイスの脾臓摘出手術を行いました。
脾臓が無くても、その機能の一部は他の臓器やシステムが補うため日常生活には大きな問題は起こりません。
じゃ、どこの臓器や細胞が脾臓と似た働きを行うのでしょうか?
脾臓の代わりに働く臓器や細胞
脾臓が無くても、免疫機能や古い血球の分解機能をある程度維持できるようになっています。
それらについて説明します。
脾臓がない場合、脾臓の主な働きは肝臓、骨髄、そしてリンパ節が補います。脾臓は、主に「古い赤血球の分解」「免疫機能」「血液の貯蔵」といった役割を持つ臓器ですが、これらの機能は他の臓器やシステムで補完され、生命維持に大きな支障が出ることはありません。それぞれの働きを詳しく見ていきます。
肝臓
肝臓は脾臓と同様に、古い赤血球を分解したり免疫機能に関与しています。
古い赤血球の分解
脾臓が無くなった場合、肝臓が赤血球の分解を引き受けます。
肝臓にはクッパー細胞という特殊な細胞が多く存在し、これが古くなった赤血球や異物を捕らえます。
このように通常は脾臓で行われるこの処理を、肝臓が代わりに行うことで血液の浄化機能が維持されます。
免疫機能の補助
脾臓は体内の免疫反応を促進する役割もあります。
しかし脾臓がない場合には肝臓がこれをある程度補います。
肝臓内のクッパー細胞は異物を取り込み、体内の免疫反応を活性化するため、感染防御を支援することが可能となります。
骨髄
骨髄は血液の成分である赤血球などを作り出します。
血液細胞の生成
骨髄は赤血球、白血球、血小板を作り出す器官であるため、脾臓がなくても血液細胞の供給に関しては大きな問題が生じません。
脾臓が無くなると骨髄が白血球を、特にリンパ球や単球の生成を増加さ免疫機能を補うことにより、感染症に対する防御機能の働きを担います。
免疫機能の強化
骨髄で作られる白血球(リンパ球やマクロファージ)は、体内の病原体に対する防御の中心です。脾臓がなくなった場合、特にリンパ球が増加し、感染防御力を高めるため、免疫システム全体が対応力を強化します。これにより、脾臓がない場合でも、ある程度の免疫防御が維持されます。
リンパ節
リンパ節も免疫細胞が集まる場所であり、血流やリンパ液を介して異物や病原体に対する防御反応を行います。
そのため脾臓の免疫機能の一部を補う形で、細菌やウイルスなどの異物を取り除く働きを助けます。
感染防御と異物除去
リンパ節は免疫細胞の集まりとして、異物や病原体と戦う拠点です。
脾臓がなくなった分、リンパ節がその免疫機能を一部補います。
特にリンパ節内には多くのリンパ球やマクロファージが存在し、異物を捕らえ免疫反応を促進する働きを担うためリンパ節が防御壁となり感染から体を守ることができます。
全身的な免疫反応の維持
リンパ節は体内にネットワークを張り巡らせているため、全身にわたって感染防御の役割を果たします。
脾臓がなくなった場合でも、リンパ節が免疫細胞を活性化し、全身的な免疫反応を維持する役割を持つため、体の免疫防御は一定の水準を保つことができます。
このように脾臓が無くても、肝臓、骨髄、リンパ節が脾臓の機能を補うことで、生命維持や日常的な感染防御には大きな支障が出ません。
ただ細菌感染症への抵抗力がやや弱まる傾向があるため、細菌感染に対する日々の予防対策が推奨されます。
腫瘍が出来やすい理由
脾臓の機能には、他の臓器によるバックアップ・システムがあります。
その脾臓が他の臓器に比べて腫瘍ができやすいと言われている理由には、以下のような複数の要因が絡んでいます。
血液のフィルター機能
脾臓は血液を濾過し古くなった赤血球を分解・除去する働きをするため、血管が豊富に存在し大量の血液が流れ込みます。
そのため血管細胞や血液細胞の異常が発生するリスクが高く、腫瘍が発生しやすくなります。
免疫応答とリンパ組織
脾臓はリンパ系の一部であり多くのリンパ組織が含まれているため、免疫系に関与する細胞が集まっています。
そのため免疫細胞が異常増殖を起こすと、リンパ腫などの腫瘍が発生する可能性が高くなります。
特にリンパ腫は、脾臓で発生しやすい腫瘍のひとつです。
血管肉腫の発生リスク
血液と密接に関わるため、血管の内皮細胞(血管の内壁を構成する細胞)が異常増殖することにより血管肉腫が発生することがあります。
血管肉腫は脾臓で発生する代表的な腫瘍のひとつで、悪性度が高く、周囲に浸潤しやすい特性があります。
炎症や感染症の影響
脾臓は免疫機能を持つため、感染症や慢性炎症などで活性化しやすい臓器です。
そのため感染症や炎症が繰り返されると、細胞の異常な増殖が引き起こされてしまいます。
これが腫瘍形成の一因となる場合があります。
細胞の修復・再生プロセスの影響
血液中の異常な細胞や病原体に常に対応しているため、脾臓の細胞は修復や再生が繰り返されやすくなります。
その結果、細胞の遺伝的エラーが起こりやすく腫瘍形成のリスクが高まります。
これらの要因が組み合わさることで、脾臓は腫瘍が発生しやすい臓器の一つとされています。