若山動物病院ブログ
治らない犬の皮膚病
1年間も皮膚病が治らないワンちゃんが来院しました。
なるほど皮膚は脱毛して、湿疹ができてます。
でも、なぜ治療してるのに治りが悪いのでしょうか?
定期的にシャンプーもしているそうです。

ワンちゃんの皮膚は、体の中で最も広い臓器です。
体重5〜10kg程度の犬の場合、皮膚の面積は約1〜2平方メートル程度に相当します。
体重や品種によって異なりますが、基本的には体重の約12〜15%を占めるとされています。
ちなみ畳1枚の広さが約1.6平方メートルですから、ワンちゃんの皮膚の広さは想像できますよね?
そのような皮膚はカラダの外側を覆っており、温度の調節やバリア機能、感覚の受容、免疫反応など多くの重要な役割を担っています。
それだけ大きい面積を持つわけですから、皮膚病が治らないのには様々な原因があります。
当然その中には慢性的に続き、治る気配のないものもあります。

そのワンちゃんを調べてみると、肝炎と重度の歯周病を持っていました。
これらの病気が皮膚病に与える影響や、治療・対策について解説します。
皮膚病の主な原因
ワンちゃんの皮膚病は、大きく以下のような原因によって引き起こされます。
- アレルギー性皮膚炎(食物アレルギー、環境アレルギーなど)
- 細菌や真菌感染(膿皮症、マラセチア皮膚炎など)
- 寄生虫(ノミ、ダニ、疥癬など)
- 内臓疾患(肝炎、腎臓病、ホルモン異常など)
- 5.自己免疫疾患(天疱瘡、ループスなど)
特に肝炎を発症している場合では、体内の毒素をうまく分解・排出できなくなり、皮膚のバリア機能が低下しやすくなります。
その結果、皮膚が乾燥しやすくなったり炎症を起こしたりすることが増えます。
また歯周病が進行すると体内で慢性的な炎症が続き、免疫機能が低下して皮膚の再生能力が衰えることがあります。
肝炎と皮膚病の関係
肝臓は、皮膚の健康に対していくつかの重要な役割を果たします。
そのため肝臓の健康状態の良し悪しは、皮膚の状態にも大きく影響を及ぼします。
つまり肝炎を患っていると、皮膚にさまざまな影響が出てしまうということなんです。

皮膚に関する働きとして以下の点が挙げられます。
解毒作用
肝臓は体内に入ってきた毒素を解毒する役割を担っています。
この解毒作用がうまく機能していると、皮膚に悪影響を及ぼす毒素が体外に排出されるため、皮膚の状態が良好に保たれます。
肝臓の機能が低下すると毒素が体内に蓄積し、皮膚にかゆみや炎症、アレルギー反応が現れることがあります。
ホルモンの調整
肝臓はホルモンの合成や分解にも関与しており、これが皮膚の健康に影響を与えます。
例えば、性ホルモンのバランスが崩れると、犬の皮膚に脱毛や過剰な皮脂分泌が生じることがあります。
肝臓がホルモンの代謝を適切に行っていることが、健康な皮膚を維持するためには重要です。
ビタミンの代謝
肝臓はビタミンAやDの代謝にも関与しており、これらのビタミンは皮膚の再生や免疫機能に重要な役割を果たします。
ビタミンAが不足すると、皮膚の乾燥やかさつき、さらには皮膚病が発生することがあります。
肝臓がこれらのビタミンを適切に処理できることは、皮膚の健康を保つためには不可欠です。
脂質の代謝
肝臓は脂質の合成や分解も行います。
特に脂肪酸は皮膚のバリア機能をサポートするため、肝臓の脂質代謝が適切であることが皮膚の潤いを保つ上で重要です。
肝臓の異常があると、脂質のバランスが崩れ皮膚が乾燥しやすくなることがあります。
免疫機能の調整
肝臓は免疫系とも密接に関わっています。
免疫機能が適切に働いていると、皮膚の炎症や感染症が防がれます。
肝機能が低下すると免疫反応が乱れ、皮膚の感染症やアレルギー性皮膚炎が悪化する可能性があります。

まとめると肝臓は解毒、ホルモン調整、ビタミン・脂質代謝、免疫機能に関与し、これらがすべて皮膚の健康を支える重要な要素なんです。
肝臓の機能が低下すると、皮膚にさまざまな症状が現れるため、肝臓の健康を保つことが皮膚の状態を良好に保つためには非常に重要です。
歯周病と皮膚病の関係
歯周病が皮膚に与える影響は、意外にも深刻です。
歯周病は単に歯や口腔内の問題にとどまらず、全身に影響を及ぼす可能性があります。

歯周病が皮膚に与える影響について以下の点が挙げられます。。
口腔内の細菌と血流の関係
歯周病が進行すると歯周ポケットが深くなり、そこに細菌が繁殖します。
これらの細菌は血流に入り込むことがあり、全身に広がります。
特に免疫力が低下している場合では、これらの細菌が皮膚に悪影響を与えることがあります。
皮膚炎や膿皮症
歯周病によって血流に細菌が乗って皮膚に到達すると、皮膚に炎症を引き起こすことがあります。
これにより膿皮症(膿がたまる皮膚の感染症)や皮膚炎が発生する可能性が高まります。
これらの症状は、皮膚が赤く腫れたり、膿が出たりすることで確認できます。
免疫系の負担
歯周病の進行により免疫システムが全身で細菌と戦うために働き、免疫系に大きな負担が出てます。
その結果、皮膚の健康に悪影響を及ぼすことがあります。
つまり免疫力が低下すると皮膚の回復能力が低下し、感染症にかかりやすくなってしまうからです。
慢性的な炎症の影響
歯周病は慢性的な炎症を引き起こし、この炎症が全身に広がると皮膚にも影響を与えることがあります。
慢性的な炎症は皮膚のバリア機能を弱め、乾燥やかゆみを引き起こすしてしまうのです。
結果的に、皮膚が敏感になり、アレルギー反応を引き起こすこともあります。
アレルギーや皮膚トラブルの悪化
歯周病によって引き起こされた慢性的な炎症が、アレルギー反応や既存の皮膚疾患を悪化させることもあります。
例えば、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーを持っている犬では、歯周病がその症状を悪化させる可能性があります。
栄養の吸収障害
歯周病により食事を摂ることが困難になり、栄養不足が皮膚に悪影響を及ぼすことがあります。
歯が痛んで食べ物を上手に噛めないと栄養素が十分に吸収できず、皮膚が乾燥したり毛艶が悪くなったりします。
皮膚の色素沈着
歯周病が続くことで、体全体に影響を及ぼすことがあります。皮膚に色素沈着が現れることがあり、
特に犬の口周りや顔において見られますが、これは血液の循環不良や炎症によるものです。

これらの理由から、犬の歯周病は皮膚を含む全身に影響を与える可能性があるため、早期の予防と治療が重要です。定期的な歯のケアや、歯周病の兆候を見逃さないことが、犬の健康を守るための鍵となります。
治らない皮膚病への対策
肝炎と歯周病を持つワンちゃんの治りが悪い皮膚炎を治すためには、複合的な治療が必要です。
以下に重要なポイントを挙げてみました。
免疫力の強化
肝炎と歯周病はどちらも免疫系に影響を与えるため、免疫力を強化することが治療の鍵です。
必要な栄養素をバランスよく提供し、免疫サポートを行うことが重要です。
特にビタミンCやビタミンE、亜鉛などの抗酸化物質を豊富に含んだ食事を与えることが大切です。
また睡眠の質の向上も重要なポイントです。
消化器の健康管理
肝炎の影響を受けている場合には、胃腸などの消化器の働きが落ちている場合があります。
腸内環境を整えるために、プレバイオティクスやプロバイオティクスを使用することが効果的です。
また歯周病の予防と治療も消化器系の健康をサポートするためには、絶対に必要となります。
皮膚の保湿と外部からのケア
皮膚炎が治りにくい場合、外部の治療も非常に重要です。
抗炎症作用のあるシャンプーやクリームを使用して、皮膚を保湿をし炎症を抑えることが必要です。
またストレスを減らすことも、皮膚炎の改善には効果的です。

肝炎や歯周病の治療を続けながら、皮膚の状態を定期的にチェックすることで、早めに症状の悪化を防ぐことができます。
まとめ
犬の皮膚病が治らない場合、皮膚の問題だけでなく、肝炎や歯周病といった全身の病気が関係している可能性があります。
肝機能が低下すると皮膚のバリア機能が衰え、免疫力の低下や慢性的な炎症が悪化する原因となります。
また、歯周病によって全身の炎症が広がり、皮膚の回復力が低下することもあります。
皮膚病の改善には、適切な食事管理、口腔ケア、スキンケア、定期的な動物病院での診察を継続的に行うことが重要です。愛犬の健康を守るために、皮膚の症状だけでなく、全身の健康にも気を配りましょう。
筆者・若山正之のプロフィール
1974年から犬や猫の診療に携わり、飼い主さまと共に動物たちが「太く長く、明るく楽しく」暮らせることを目指して、家族の一員である動物たちに寄り添った診療を行っています。
予防医療や老齢医療を重視し「病気になる前から集える動物病院」を実現。また「猫に優しい動物病院」として国際的なゴールド認定を受け、猫が安心できる診療環境を整えています。さらに「幹細胞療法」や「免疫療法」といった先進医療にも積極的に取り組み、動物に優しい治療の提供に努めています。
診療以外では、一般の方や学生、動物看護師などを対象にしたセミナーや講演を行い、知識の普及にも力を入れています。著書には「老犬生活 完全ガイド」「犬と猫の老齢介護エキスパートブック」などがあり、動物の健康と幸せを支える活動を続けています。