若山動物病院ブログ
キャット・パラドックスとは?
猫は高いところから落下、落ちてもクルリとカラダを回転させて床に綺麗に着地します。
猫を飼っている飼い主さんは、そんな姿を一度は目にしたことがあるとは思います。
今回は、そんな猫の着地の秘密についてです!
猫の落下と矛盾する事実!
猫は、まるでオリンピックの体操の選手のような感じで、カラダを回転させて床にピタッと着地します。
実は、この猫のピタッと着地することに関して「キャット・パラドックス(猫の矛盾)」と呼ばれる現象が存在してるんです!い
これは「高いところから落ちた猫の方が、低いところから落ちた猫よりもケガが少ないことがある」と言う現象なんです。
一見すると、とっても矛盾すような不思議な現象とも言えますよね?
ヒトじゃ考えられない「キャット・パラドック」とう言う矛盾を、猫のカラダの仕組みから説明します。
事件の発端は都会での落下事故
1987年に高層ビル群で暮らす猫たちの「落下事故」に注目した研究が、獣医の専門誌にに掲載されました。
そこには動物救急病院に搬送された100頭以上の猫の落下状況を調べたところ、次のような傾向が見られたと言うのです。
- 低層階から落下した猫は、骨折や肺の損傷などの重傷例が多い
- 高層階から落下した猫は、意外にも比較的軽傷で済んでいるケースが多かった

ニューヨークでの調査だったんだけど・・・
ビルの7階以下と7階以上じゃ、ケガの大きさが違うんだって書いてあるんだよ!

この「高い所から落ちた方が軽症だなんて?どういうことなの?」という疑問から、この矛盾を「キャット・パラドックス」と名づけられました。
高さが命を救う?エアライト反射の発動時間
猫には「エアライト反射(空中反転反射)」という、本能的な運動機能があります。
これは空中で自分の体勢をクルリと回転させて、頭と足を下に向け着地する能力です。
しかしこの反射が完全に機能するにはある程度の高さ、つまり落下時間が必要だったのです。
🔹 低すぎるとエアライト反射が間に合わない
ある程度低い高さから落ちた場合、猫は体勢を整える前に地面に到達してしまいます。
つまり落下時間が足りず、十分な着地姿勢が取れないんです。
そのため着地が不完全になってしまうのです。
🔹 高さがあるとカラダの回転と調整ができる!
一方、ある程度の高さからの落下では、空中でのカラダの回転を完了し、足を伸ばして衝撃を分散させる準備が整う時間が生まれます。
つまり「落ちる時間が長い=体勢を整える猶予がある」ということなんです。
終端速度に到達する猫の秘密
そしてキャット・パラドックスを理解する上で欠かせないのが、「終端速度」です。
この終端速度とは・・・
「空気抵抗と重力が釣り合って、それ以上速度が上がらなくなる落下速度」のことです。
猫の終端速度は約60~100km/hとされヒトの約200km/hより、はるかに遅いんです。
つまり高いところから落ちても、猫の落ちていく速さは約60~100km/h以上にならないってことなんです。
🔹 これが猫の安全を高める!
高所から落ちる猫は、地面につく前に終端速度に達してしまいます。
つまり、それ以上は加速せずに落下していきます。
速度が一定になってから、猫は筋肉の緊張を緩めてカラダをリラックスさます。
その結果、しなやかな姿勢で衝撃を吸収しやすくなり、ケガが軽くなると言うわけです。
心理的余裕と筋肉の脱力
つまり「高い場所から落ちた猫の方が、リラックスして着地できる」ということなんです。
これって恐怖でカラダが強張るとか、焦らないんでしょうかね?
猫は「落下中に自分が落ちていることを認識し、諦めて筋肉の力を抜く」という、本能的な反応だそうなんです。
逆に短い距離では緊張したまま着地してしまい、衝撃を吸収できずに大ケガをすることがあると考えられています。
猫の「受け身の柔らかさ」は心の準備も含めた、全身のバランスによって支えられているのです。
ただし安全ではない!
キャット・パラドックスはあくまでも傾向的なことであって「高いところから落ちても安全」という意味ではありません。
実際には、どの高さでも次のようなリスクがあります:
- 肋骨や顎の骨折
- 肺挫傷や気胸などの内臓損傷
- 前脚の骨折や関節損傷
- 高齢猫の場合、骨粗しょう症や反射の遅れによる重篤な怪我
飼い主さんにできる対策
どんなに運動能力が高くても、完全室内飼育が主流の現代では「落下」は致命的な事故になりかねません。
猫の落下事故を防ぐために、以下の対策をおすすめします:
- 網戸ロックや脱走防止柵の設置
- ベランダ・窓辺に物を置かない
- 室内のキャットタワーや棚の高さを調整し、クッションを設置
- 高齢猫には滑り止めマットを活用
まとめ
「キャット・パラドックス」は、猫の身体能力と進化の知恵が生み出した不思議な現象です。
高い所からの落下に関する一見矛盾した事実は、猫の空中反射や柔軟な骨格構造、そして精神的なリラックス状態によって説明されています。
この能力を過信してはダメです!
落ちても「助かった」のではなく、「うまく生き延びられた」と思った方が良いですよ!
そして「落下リスクの見直し」家の中でも高い場所でもノビノビと暮らせるようにしてあげましょう!