若山動物病院ブログ
犬の「膵炎」から起こる腎臓障害?

犬の「膵炎」は、お腹に強い痛みや嘔吐を引き起こす病気として知られています。
その膵炎が原因で、腎臓の働きが急激に落ちてしまったワンちゃんが来ました。
これは「急性腎障害」と呼ばれ、数時間~数日の間に腎臓の機能が悪化してしまう危険な状態です。
今回は膵炎がどのように腎臓へ影響し、命に関わる状態を作り出したのかのお話です。
「膵炎」が腎臓を悪くする
膵臓は、食べ物を消化する酵素を作る臓器です。
ところが膵炎が起きると、その酵素が膵臓自身や周囲の組織を攻撃してしまうことがあります。
そうなると、カラダの中に大きな炎症が広がってしまいます。

特に膵臓の炎症は、腎臓に危険な状態をつくり出します。
膵炎が腎臓を悪化させる理由には、以下の5つあると言われています。
嘔吐・下痢による強い脱水
膵炎が起きると腎臓に血が届かなくなり、以下の症状が現れます。
- 激しい嘔吐・下痢
- 食欲がなくなる
- 水が飲めなくなる
カラダの水分が急速に失われると、血液がドロドロと濃くなってしまいます。

腎臓は血液をろ過して、オシッコを作る臓器です。
その腎臓の血液の流れが悪くなると、腎臓は一気にダメージを受けてしまいます。
これが「腎前性腎障害」と呼ばれるタイプの腎臓のトラブルで、膵炎に伴う腎障害の最初の段階です。
強い炎症物質が腎臓の血管を壊す
膵炎は単なるお腹の炎症ではありません。
膵臓の炎症が進むと、血液の中に炎症物質が大量に放出されます。
これらの物質は、以下のような悪さをしてしまいます。
- 血管の壁に炎症を起こす
- 血管を詰まりやすくする
- 全身の臓器の血流を乱す

こうなると、腎臓の細い血管はダメージを受けてしまいますよね!
そして膵炎からの炎症から腎臓そのもののが働きが悪くなってしまう「腎性腎障害」へとなっていきます。
炎症が全身に広がる
強い膵炎では、炎症が全身に広がる全身性炎症反応症候群という状態を起こします。
その結果、以下のようなことが起こります。
- 血圧が急低下
- 血管が広がり、臓器の血流が悪化
- 血液が固まりやすくなる(DIC)
- 酸素不足が全身で起きる

特に腎臓は酸素不足に弱く、この段階で腎不全へと急激に進行してしまいます。
リンや老廃物が一気に血液中に溜まる
膵炎で食欲が落ちるとカラダの代謝が乱れ、尿毒素(BUN・クレアチニン)が溜まります。
特にリンが高くなると、以下のような悪循環が起こります。
- 血液中でリンとカルシウムと結合
- 全身の臓器に「石灰化」が起こる
- 腎臓の血管も傷つける

腎臓は毒素をオシッコと一緒に排泄する臓器ですが、急性腎不全になると処理能力が無いに近い状態になってしまいます。
その結果、さらに毒素がカラダの中に溜まるという悪循環へと進んでしまいます。
「オシッコが出ない」という危険
膵炎から腎臓の働きが落ちると、以下のような状態が起こります。
- オシッコの量が極端に減る(乏尿)
- オシッコがまったく出なくなる(無尿)

オシッコが出ないとカラダの中の毒素が排出されず、以下のような致命的な症状へとつながってしまいます。
- 中毒状態
- 不整脈
- 意識障害
- 肺水腫

膵炎からの急性腎不全は「数時間~1日で命に関わるレベル」まで進行することがあります。
決して軽く見てはいけません。
急性腎障害は命に関わる
腎臓の働きが急激に落ちると、以下のような危険が状態が起こります。
- 体のゴミ尿毒素)が血液の中にたまる
- リンが急上昇し、全身に石灰化が起こる
- カリウムが上がると心停止の危険性がある
- オシッコが出ない乏尿や無尿の状態となる
- 水分のバランスが崩れて肺水腫になる
- 血圧が不安定
- 血液が酸性に傾く
特に「オシッコが出ない」という状態はとても危険で、治療しなければ48~72時間で命に関わる状態に至ることもあります。

膵炎からの腎障害は、ときには「嵐のように」進行していきます。
さっきまで歩いていたのに、数時間後にはグッタリなんてことも珍しくありません。
どんな症状が出たら危険?
以下のような症状が出ている場合、膵炎や腎障害の可能性があります。
- 繰り返す嘔吐
- 水を飲まない
- ご飯をまったく食べない
- ぐったりして動かない
- オシッコが極端に少ない・出ていない
- お腹を触ると嫌がる
- 震えている
「様子を見る」と悪化することもあるため、できるだけ早く動物病院へ行くことが重要です。
「早期治療で助かる」ことも多い
膵炎+急性腎障害の治療では、以下のポイントが重要になります。
① 集中的な点滴治療
腎臓への血液の流れを回復させ、脱水を改善する最も重要な治療です。
② 膵炎の痛み・嘔吐を止める
嘔吐が止まると水を飲むことができるようになり、腎臓の負担が減ります。
③ オシッコの量の管理
腎臓が再びオシッコを作り始めることができるかが、今後の大きな分かれ目になります。
④ リン・カリウム・ナトリウムなどの電解質の補正
合併症を防ぎます。
⑤透析
腎臓が回復するまでの命をつなぐ治療です。
透析は救命率を大きく高めますが、処置できる施設は限られます。
まとめ
膵炎は「お腹の病気」ではなく、腎臓を含む全身の臓器にダメージを与える怖い病気です。
膵炎による急性腎障害は進行が早く、重症化すると命に関わりますが、
しかし早期に治療を開始すれば回復できる可能性は十分あります。
「いつもと違う」「元気がない」「水を飲まない」などのサインを見逃さず、早めに受診することが大切です。