Dr.Nyanのすこやかコラム
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猫伝染性腹膜炎(FIP)|お腹の膨らみ・元気消失・食欲不振の原因と治療・受診の目安

子猫なのに、妊娠したようにお腹が膨らんできた。しかも元気も無く、食欲も落ちてきた。そんな症状がみられたら、FIP(猫伝染性腹膜炎)の可能性があります。
来院時にはすでに腹水が認められ、症状が進行しているケースも少なくありません(症例より)
本記事は実際のFIP(猫伝染性腹膜炎)の症例をもとに、飼い主様が気づきやすい変化をまとめています。
飼い主
急にお腹が大きくなって、元気もなくて…これって大丈夫ですか?
Dr.Nyan
その症状はFIPの可能性もあるため、早めの受診が必要です。
FIPは、「猫腸コロナウイルス」が猫の体内で変異した「猫伝染性腹膜炎ウイルス」により引き起こされる病気で、1歳未満の子猫で発症することが多いとされています。
FIPの診断は血液検査や画像検査、PCR検査などを組み合わせて総合的に判断しますが、確定が難しいケースもあります。特にドライタイプでは診断がさらに難しくなります。
ただ現在は有効な治療方法も見つかり、早期に発見できれば治ることもある病気になっています。
ここでは『FIP』の原因と対処法などについて、Dr.Nyanがわかりやすく説明します。
FIPの主な症状
FIPの症状はさまざまですが、症状の違いから二つに分けられます。
- ウェットタイプ
- ドライタイプ
どちらのタイプを発症するかは、伝染性腹膜炎ウイルスに対する免疫反応の違いによると言われています。また必ず、ウェットタイプかドライタイプのどちらかが発症するわけではありません。
ウェットタイプだったのがドライタイプに、その逆のウェットタイプからドライタイプになってしまうこともあります。また、それらの混合タイプのような症状の場合もあります。
ウェットタイプかドライタイプでは特徴的な症状の違いがありますが、共通の症状もあります。
共通してみられる症状
FIPはウェットタイプとドライタイプに分けられますが、実際には両方の特徴が混在することもあります。
- 元気がなくなる
- 食欲が落ちてくる
- 熱が出る
- ウンチがビチャビチャになる
- 吐き気がある
- 体重が減ってしまう

飼い主
太っただけとの違いってありますか?
Dr.Nyan
短期間で急に膨らむ場合は、腹水の可能性を強く疑います
腹水や胸水が溜まるウェットタイプの症状
ウェットタイプの症状の特徴は、呼吸が苦しそうになることや、お腹が膨らんでくることです。

飼い主
呼吸が早いのも関係ありますか?
Dr.Nyan
胸水が溜まると肺が圧迫され、呼吸が苦しくなります
「胸膜炎(肺の表面を覆う胸膜に炎症が起こる疾患)」を起こすと胸水が溜まり息をするのが辛く呼吸数も増えてしまいます。
また場合によっては、呼吸困難にもなってしまいます。

正常な肺(左側)と、胸腔に水が溜まっている肺(右側)です。
胸水が溜まると、呼吸方法が変わって見えます。
息を吸うと胸が膨らみお腹が引っ込み、吐くときはその逆になります。
また「腹膜炎(腹部の臓器を覆ってる膜に炎症が起こる疾患)」を起こすと腹水が溜まり、お腹が膨らんでしまいます。

腹水が溜まってしまい、レントゲン検査でお腹がスリガラスのように見えます。
さらに血管に炎症が起き体の様々な組織や臓器が侵される「血管炎」を起こすこともあります。
双方とも、見た目の変化が分かりやすいという特徴があります。また、ウェットタイプは進行が早く、発症から亡くなるまでがとても早いことも特徴の一つです。
リスク先生
FIPは数日〜数週間で急激に悪化することがあります。様子見は非常に危険です
肉芽腫などが作られるドライタイプの症状
ドライタイプは、慢性的な炎症からいろいろな臓器に「肉芽腫」と呼ばれる「しこり」が作られるのが特徴です。
肉芽腫が肝臓に作られると肝機能が、腎臓に作られると腎臓機能が低下してしまいます。また、脳に作られれば痙攣などの神経症状が、眼に作られればブドウ膜炎など眼に症状が現れます。
ドライタイプでは胸水や腹水は溜まらないため、見た目では分かりづらく発見が遅れることがあります。しかし病状の進行がウェットタイプに比べて遅いことが、唯一の救いです。
FIPの原因
FIPの原因は「猫腸コロナウイルス」が変異した「猫伝染性腹膜炎ウイルス」の感染によるものです。
「猫腸コロナウイルス」は下痢を引き起こすウイルスで、感染した猫のウンチやオシッコ、唾液などの中に含まれているウイルスに触れて起こります。病原性が低いため感染しても無症状のこともあります。
しかし、猫の体の中で変異を起こしてしまうと、病原性が強い「猫伝染性腹膜炎ウイルス」となってしまいます。変異を起こす原因の一番は「ストレス」と考えられています。
しかし、猫伝染性腹膜炎ウイルスに感染しても、すべてが発症するわけではありません。
それは「猫腸コロナウイルス」が「猫伝染性腹膜炎ウイルス」に変異する際、その病原性の強さに差ができてしまうことと感染した猫の免疫力の強さによると言われています。
飼い主
治療できる病気なんですか?
Dr.Nyan
現在は抗ウイルス薬により改善が期待できるケースもあります
検査結果が「陰性」でも注意が必要なケース
近年の研究では、ウイルスが血液中から消えて検査で「陰性」になっても、骨髄などにウイルスが潜伏し続ける「回帰感染(Regressive Infection)」という状態があることが分かっています。 通常の抗原検査キットでは検出されませんが、強いストレスや他の病気で免疫が落ちた際に、ウイルスが再び活動を始めることがあります。一度でも「陽性」と出たことがある場合は、陰転した後も定期的な健康チェックを継続することが、愛猫の健康を守る鍵となります。
FIPの主な治療法と費用
FIPは発症すると、今まではほとんどが死に至ってしまう病気でした。
しかし現在は新型コロナ感染症の治療薬でもある、レムデシビルやモルヌピラビルが効果があることがわかっています。
そのため、早期に発見できれば病状を抑えられる可能性があります。
もちろん当院でも、FIPの治療を行なっています。
Dr.Nyan
FIPは初期症状に気づきにくく、診断も難しい病気です。体調の変化があれば早めの受診が大切です
FIPの診断は一般状態や血液検査、X線検査、超音波検査、PCR検査など様々な検査を行います。
しかし、FIPを疑いPCR検査を行ってもウイルスの検出ができず、診断が困難なこともあります。そのため他の検査結果や症状と合わせて診断する必要があります。
特にドライタイプではウェットタイプのように腹水や胸水のようなわかりやすい症状が見られないため、さらに診断が難しくなっています。
このように猫伝染性腹膜炎は、診断が難しい病気です。
完治が難しくてもできることはあります
現在、FeLVを体内から完全に排除する特効薬はありませんが、症状をコントロールし「穏やかな時間」を延ばすための治療法は進化しています。
免疫のサポート
猫インターフェロンの投与により、ウイルスの増殖を抑えたり免疫力を維持したりします。
二次感染の防除
免疫低下による口内炎や鼻炎には、早期の抗菌薬使用が劇的な改善をもたらすことがあります。
貧血への対応
貧血が進行した場合には、ホルモン剤(造血剤)や輸血によって、ふらつきや食欲不振を和らげることが可能です。 「陽性=すぐにお別れ」ではありません。適切なケアで、発症を防ぎながら天寿を全うできるケースも増えています。
FIPの治療費について
FIPは診療が長期間にわたることもあり、診療費も高額になる傾向にあります。
重症になると入院も必要となり治療費もかかってしまうため、早期発見が大切です。
FIPの予防方法
残念ながらFIPを直接予防する方法はないため、猫腸コロナウイルスの変異を防ぐことが大切です。
そのためにもストレスの少ない環境づくりを心がけることが重要です。また、免疫力が落ちないようにも、してあげることが大切です。
ただ猫によってストレスを感じるものは違いますが、以下のようなものには気をつけて下さい。
- 寒暖の差など環境の変化に気を付ける
- 消化の良いフードを食べさせ栄養状態に気をつける
- 落ち着いた場所でフードを食べたり水が飲める環境を作る
- 綺麗なトイレを落ち着く場所に置く
- 多頭飼育には互いの距離などに注意する
- 運動不足を解消する
数日、下痢が続くなどの症状が見られたら早めの受診をおすすめします。
同居猫がへの感染リスクを最小限にする工夫
理想は「部屋を分けること」ですが、住宅環境によっては難しい場合もあります。FeLVウイルスは乾燥や消毒薬に非常に弱いため、以下のポイントを徹底するだけでも感染リスクを下げることが可能です。
食器の共有を避ける
唾液が主な感染源です。食器は分けた上で、使用後は中性洗剤でしっかり洗浄し、乾燥させてください。
トイレの衛生管理
排泄物からのリスクを減らすため、こまめに清掃し、可能であればトイレ本体も分けて用意しましょう。
フェイシャル・フェロモン
ストレスは免疫の天敵です。フェリウェイなどのフェロモン製剤を活用し、猫同士の小競り合い(接触機会)を減らす環境作りも有効です。
FIPを起こしやすい猫種
Dr.Nyan
FIPの発症には年齢が関係していると言われているんだよ。
- 1歳以下の若い猫
- 老齢の免疫力の落ちた猫
よくある質問
FIPは他の猫にうつりますか?
FIP自体は猫同士で直接うつる病気ではありません。
ただし、元となる「猫腸コロナウイルス」は便や唾液を介して感染するため、多頭飼育環境では注意が必要です。
FIPは治る病気ですか?
以前はほぼ致死率100%とされていましたが、現在は抗ウイルス治療により改善が期待できるケースも増えています。
特に早期発見・早期治療が非常に重要です。
FIPの初期症状はどんなものですか?
初期は非常にわかりにくく、以下のような症状が見られます。
- 元気がない
- 食欲が落ちる
- 発熱
- 体重減少
これらが続く場合は注意が必要です。
お腹が膨らんでいるのは必ずFIPですか?
必ずしもFIPとは限りません。
腹水がたまる原因としては以下も考えられます。
- 心臓病
- 肝臓病
- 腫瘍
そのため、必ず検査による判断が必要です。
FIPはどんな症状から疑えばいいですか?
元気がない・食欲低下・発熱・お腹が膨らむ・呼吸が早いなどが初期サインです。
FIPはどのくらいで悪化しますか?
特にウェットタイプの場合、数日~数週間で急激に悪化することがあります。
「急にお腹が膨らんできた」「呼吸が苦しそう」などの場合は早急な受診が必要です。
FIPはどんな猫がなりやすいですか?
以下の猫で発症しやすいとされています。
- 1歳未満の若い猫
- 多頭飼育環境の猫
- ストレスが多い環境の猫
- 免疫力が低下している猫
FIPは検査で確定できますか?
単一の検査だけで確定することは難しく、
血液検査・画像検査・PCR検査などを組み合わせて総合的に診断します。
予防する方法はありますか?
FIP自体を完全に予防する方法はありませんが、以下が重要です。
- ストレスを減らす
- 清潔な環境を保つ
- 多頭飼育での感染管理
- 体調変化を早く見つける
まとめ
FIPは進行が早く、見逃すと命に関わる病気です。
しかし現在は、早期発見と適切な治療によって改善が期待できるケースも増えています。
「元気がない」「食欲が落ちている」「お腹が膨らんできた」などの変化があれば、できるだけ早くご相談ください。
家でできる「体調の変化」チェックリスト
早期発見が、合併症の重症化を防ぎます。週に一度は以下の点を確認してください。
⬜︎ 粘膜の色: 歯ぐきや結膜が白っぽくなっていないか(貧血の兆候)
⬜︎ しこりの有無: 顎の下、肩の前、膝の裏などに腫れはないか(リンパ節の腫れ)
⬜︎ 口の状態: よだれが出ていないか、極端に口臭が強くなっていないか
⬜︎ 体重の変化: 食欲はあっても体重が落ちてきていないか
【参考コラム】日本臨床獣医学フォーラム
筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

本記事は、犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。
特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。