犬が元気がない・寝てばかり・太る…それは甲状腺機能低下症?症状・治療・受診の目安

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犬の甲状腺機能低下症|元気がない・寝てばかり・太る原因と治療・受診の目安

歳をとった感じで、なんだか老け込んだようになって寝てばかりで怠けものみたい。そのような一見、犬の病気のサインとは考えにくいような症状が現れる病気が甲状腺機能低下症です。

飼い主

先生!うちの子、やたら寒がるし耳は遠くなるし、大きな声で呼んでもピクリともしないことが多いんです。老化なんでしょうか??

Dr.Nyan

あらッ、もしかして『甲状腺機能低下症』かもしれないよ!
血液検査してみようね。

犬 甲状腺機能低下症 T4検査 血液検査結果 甲状腺ホルモン低下
犬の甲状腺機能低下症で見られたT4(甲状腺ホルモン)検査結果です。

検査では甲状腺ホルモンの分泌量が少ないと結果が出ました。

「甲状腺機能低下症」は、高齢の犬に多い病気です。そのため「甲状腺機能低下症」を調べるため、シニア犬では血液検査を行うことが勧められます。

ちなみに猫では「甲状腺機能亢進症」がよく見られます。

ここでは『犬の甲状腺機能低下症』の原因と対処法などについて、Dr.Nyanがわかりやすく説明いたします。

目次

甲状腺機能低下症とはどんな症状?

甲状腺はヒトで言う「のどぼとけ」のすぐ下の左右に1対あり「全身の細胞の代謝をつかさどる甲状腺ホルモン」を分泌しています。

甲状腺機能低下症になると「甲状腺」の機能が「低下」、つまり甲状腺ホルモンの分泌量が少なくなり代謝が落ちてしまいます。

甲状腺機能低下症の症状は、老化による症状に良く似ており「年をとったな〜」と思ってしまう飼い主さんが少なくありません。そのため初期症状が見逃されてしまう、これが甲状腺機能低下症の大きな特徴です!

飼い主

最近うちの子、やたらと寝てばかりで……。
もうシニア犬だし、「年のせい」なのかなぁ?
食べる量は変わらないのに、なんだか太ってきた気もするんです。

Dr.Nyan

それはもしかしたら、年のせいではなく「甲状腺機能低下症」という病気かもしれません。体の元気の源(代謝)をつかさどるホルモンが減ってしまう病気なんですよ。

飼い主

えっ、病気なんですか!?
太る以外にも、何か見分けるサインはありますか?

Dr.Nyan

はい、以下のようなサインがよく見られます。
・寒がる(ストーブの前から動かないなど)
・体の左右対称に毛が抜ける
・尻尾の毛が抜けて「ネズミの尻尾」のようになる
・顔つきが腫れぼったく、悲しそうに見える

冬だけでなく、暖かい時期でも震えたり寒がる場合は注意が必要です。

リスク先生

皮膚の異常や元気のなさを放置すると、心拍数が下がったり、けいれん、頭が傾く(斜頸)といった重い神経症状につながるリスクもあるから要注意!

見た目や動きに変化が見られる

「大人しく、静かで、よく寝てる!」

そのような症状が見られることが多いのが、甲状腺機能低下症です。見た目や動きの変化には、以下のようなものがあります。

  • 顔が腫れぼったく悲しげな顔
  • 元気が無い
  • すぐ疲れる
  • よく寝ているのか刺激を与えないと起きない
  • 寒さに弱い
  • 食べる量が変わらないのに太る
  • 反応が鈍くなる
  • 呼んでも気づかない
  • 耳が遠くなったように見える

以前より暖房の前から動かなくなったり、毛布に潜ることが増えたりする犬もいます。
「年齢のせいかな?」と思われやすい症状ですが、甲状腺ホルモン低下による体温調節異常のことがあります。

皮膚に変化が見られる

甲状腺機能低下症になると、皮膚の新陳代謝が悪くなるため皮膚に様々な症状が見られるようになります。

  • 痒みを伴わない体の対称性脱毛
  • 尻尾の毛が薄くなる(ラットテイル)
  • 皮膚が黒っぽくなる
  • 膿皮症にかかりやすくなる
  • 再発を繰り返す
  • 皮膚炎の治療が長引いたり、治療に反応しない
犬 甲状腺機能低下症 脱毛 毛が抜ける 皮膚症状
甲状腺機能低下症により全身の毛が抜け、皮膚が見える状態になっています。

また、甲状腺ホルモンは心臓などの内臓の働きや、自律神経を刺激し体温を調節も行っています。そのため甲状腺ホルモンの分泌量が落ちると、それらの調節が異常になってしまいます。

体内の変化には以下のようなものがあります。

  • 心臓の動きが悪くなり心拍数が減る
  • 不整脈が見られる
  • 体温が下がる

神経的な変化が見られる

ヒトでは物忘れや手足の感覚が鈍くなるなどの症状が見られますが、犬では以下のような症状が見られます。

  • けいれんなどの発作
  • 頭が横に傾く(斜頸)
  • うまく動けない
  • 顔に麻痺が出る
  • ぐるぐると同じ場所を一方向に回る(旋回)
  • 足を引きずるようにする(跛行)

~Dr.Nyan ポイント~
甲状腺機能低下症が進むとおこる「静かな死」

ここまで紹介した症状は、いずれも甲状腺機能低下症に特有な症状ではありません。他の病気でも見られる症状のため、見逃されがちになってしまいます。

そのため治療をせずに放置しておくと、進行するにつれ体力が落ち老化が早くなってしまいます!そして末期を迎えると、静かな死を迎えてしまいます。

これが甲状腺機能低下症が静かなる安楽死』と言われている理由です。

リスク先生

「年のせいかな…」と放置されやすい病気ですが、実際には全身の代謝が落ち続けています。
「寝てばかり」「太った」「老けた」が同時に見られる場合は要注意です!

甲状腺機能低下症の原因は?

Dr.Nyan

甲状腺ホルモンの分泌が落ちてしまうのが、甲状腺機能低下症です。
それでは一緒に原因を確認していきましょう!

甲状腺ホルモンは、脳から分泌されるホルモンにより甲状腺ホルモンの分泌がコントロールされています。そのため甲状腺の機能が正常でも、甲状腺機能低下症の症状が見られることがあります。

甲状腺機能低下症を起こす原因は、以下の3種類があります。

甲状腺そのものの機能が落ちている場合

甲状腺炎や免疫の影響、甲状腺腫瘍、また原因がよく分からない甲状腺の萎縮などがあります。犬の場合では、ほとんどがこのタイプと言われています。

犬 甲状腺機能低下症 元気がない 動きが遅い 寝てばかり 老化のような症状
甲状腺機能低下症で、元気がない・動きが遅い・寝てばかり・老化のような症状

脳下垂体に異常がある場合

甲状腺ホルモンの分泌量の調節は、脳下垂体から分泌されている『甲状腺刺激ホルモン(TSH)』によります。

そのため甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌量が少なくなると、甲状腺の機能は正常でも甲状腺ホルモンの分泌量が減ってしまいます。

視床下部に異常がある場合

甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌量の調節は、脳の視床下部から分泌されている『甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)』によります。

そのため甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の分泌量が少なくなると、甲状腺の機能は正常でも甲状腺ホルモンの分泌量が減ってしまいます。

甲状腺機能低下症の治療法

飼い主

怖い……。どうしてそんなことになっちゃうんですか?
治る病気なんでしょうか?

Dr.Nyan

多くは免疫の異常などで、のどにある「甲状腺」そのものが萎縮してしまうことが原因です。
完全に治す(元に戻す)ことは難しいですが、足りないホルモンをお薬(飲み薬)で補えば、また元気に過ごせるようになりますよ。

リスク先生

ただし、お薬は基本的に「生涯」飲み続ける必要があるんだ。勝手にやめちゃダメ。
放置すると徐々に衰弱して死に至る、「静かなる安楽死」とも呼ばれる恐ろしいリスクがある

甲状腺機能低下症は発症していても、その症状がハッキリと見えません。
そのため、体の裏に隠れている病気とも言えます。

そのため治療を行う前に、

  • 一般的な血液検査
  • 甲状腺ホルモンであるサイロキシン(T4)の検査

の2種類を行います。

~Dr.Nyan ポイント~

「甲状腺が悪くないのに、検査だけ低く見える状態」である、甲状腺機能正常症候群とは?

全身に影響するような病気などがあると、甲状腺機能には問題が無くても見かけ上甲状腺ホルモン値が低くなる状態のことがあります。

原因には感染症や循環器疾患、貧血や腫瘍、糖尿病などの病気があります。またステイロイド剤などの使用でも、サイロキシン(T4)値が低くなることがあります。

数値が低い場合は、詳細な甲状腺関連ホルモンの検査を行い原因特定を行います。これらの原因が取り除かれれば、サイロキシン(T4)は正常な値に戻ります。

Dr.Nyan

それでは、甲状腺機能低下症の治療について説明しますね。
一般的には、飲み薬による『内科的治療』を行います。

飲み薬による内科的治療

犬の甲状腺機能低下症では、不足している甲状腺ホルモンを補充する治療を行います。そのため、甲状腺ホルモンを飲ませる内科的な治療がメインになります。

一般的には、投薬から数週間で改善する症状もあります。

しかし、場合によっては数か月も要することもあります。治療を始め1ヶ月を経過したころに、血液中の甲状腺ホルモンの量を再度検査します。

犬 甲状腺機能低下症 治療後 発毛 改善経過
治療後、少しずつ毛が生え始めた犬の様子です。

全身的に抜けた毛が少し生えてきました。

甲状腺を摘出する手術を行う外科的治療

甲状腺腫瘍が原因で甲状腺機能低下症を起こしている場合には、外科的治療が行われます。
甲状腺を摘出しても治るわけではありません。

元々が甲状腺ホルモンの分泌量が少ないわけですし、甲状腺を摘出してしまっています。そのため、甲状腺ホルモンの薬を一生涯飲む内科的な治療が必要になります。

外科的治療を行う場合には、麻酔のことや手術後のケアなどについて先生と良く相談しましょう。

甲状腺の外科的治療が必要となる場合には、専門病院を紹介しています。

甲状腺機能低下症の治療は一生続く

一般的には、甲状腺機能低下症は自然に治る病気ではありません。そのため、一生治療を続ける必要があります。

治療を始めると、徐々に効果が目にみえるようになります。まず元気が出て動きも良くなり、若返ったように感じます。また太った体も、元の体重に戻ります。少し時間がかかりますが、毛が抜けた部分にも毛が生えてきます。

Dr.Nyan

飼い主さんは「若返った!」と言われます。
これは若返ったのではなく、今の年齢に戻っただけなんです。
それだけ老けて見えていたんでしょうね!

治療に必要な薬の量は、その犬により違います。また同じ犬でも、血液中のホルモンの量は時間の経過とともに変化します。

そのため、治療を始めたら血液中の甲状腺ホルモンの量の検査を定期的に行います。例えば3ヶ月ごとに甲状腺ホルモンの量を調べ、投薬量の調整を行う必要があります。

~Dr.Nyan ポイント~
甲状腺ホルモンの飲み過ぎで起こる「甲状腺機能亢進症」

血液中の甲状腺ホルモン濃度が上がり過ぎると、以下のような変化が見られます!

  • 活動的になり落ち着きがなくなる
  • 怒りっぽくなる
  • 興奮しやすく時には凶暴になる
  • 大きな声で叫んだり変な声で鳴く
  • 水をいっぱい飲みオシッコをいっぱいする
  • すごく食べるのに痩せてくる

参考記事:【甲状腺機能亢進症】猫の甲状腺機能亢進症とは?症状や治療法を解説

甲状腺機能低下症の予防方法

甲状腺機能低下症の予防方法はありません

早期発見のため健康診断をする

甲状腺機能低下症の初期症状は気づきにくく、また少し病状が進んでも、分かりやすい症状が現れるとも限りません。そのため定期的な健康診断を行うことが、予防につながります。

Dr.Nyan

血液検査でわかる病気ですので、是非とも健康診断に組み込みたい項目です。

動きや皮膚の状態をチェックする

日頃から、犬の行動や皮膚の状態などのチェックを行ないます。そして上記の【症状】に書いてあるような症状が見られたなら早めにご相談ください。

甲状腺機能低下症を起こしやすい犬種

  • ゴールデン・レトリーバー
  • ラブラドール・レトリーバー
  • ドーベルマン
  • シェットランド・シープドッグ
  • 老齢の犬
  • 中型の犬
  • 大型の犬

とくに中高齢の中型犬・大型犬で見られることが多いため、年齢とともに元気や皮膚の変化がないか注意してみましょう。

犬の甲状腺機能低下症でよくある質問

犬が寝てばかりなのは甲状腺機能低下症ですか?

必ずしもそうではありませんが、元気がない・寒がる・太りやすいなどの症状がある場合は甲状腺機能低下症の可能性があります。血液検査で確認が必要です。

犬が寒がるのは甲状腺機能低下症ですか?

甲状腺機能低下症では代謝が低下するため、寒さに弱くなることがあります。暖房の前から動かない、毛布にもぐる、震えるなどの症状が見られることがあります。

老犬みたいに見えるのは甲状腺機能低下症ですか?

甲状腺機能低下症では、動きが鈍くなる・寝てばかり・耳が遠くなる・顔つきが老けるなど、老化に似た症状が見られます。そのため「年齢のせい」と誤解されることが多い病気です。

犬の甲状腺機能低下症は自然に治りますか?

自然に治ることはほとんどなく、多くの場合は生涯にわたる治療が必要になります。

どのくらいで良くなりますか?

早ければ数週間で元気が戻り始めますが、被毛の改善などは数ヶ月かかることがあります。

放置するとどうなりますか?

徐々に体力が低下し、老化が進んだような状態になります。重症化すると命に関わる可能性もあります。

予防する方法はありますか?

明確な予防法はありませんが、定期的な健康診断で早期発見することが重要です。

まとめ

甲状腺機能低下症は症状だけではわかりにくく、また診断もできません。しかし健康診断を行い治療すれば、健康な時と変わらない生活ができます。

もし何か気になる症状や、投薬中の体調等で気になることがある場合はご相談ください。健康に楽しく過ごせる生活を、スタッフ一同でお手伝いいたします!

筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

若山動物病院院長 獣医師 若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール写真

本記事は、犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。

特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。