Dr.Nyanのすこやかコラム
飼い主様に伝えたい犬猫の病気や日常ケアについての役立つコラムをお届け♪
犬の咳、それフィラリアかも?症状・治療・予防を獣医師が解説
朝や興奮したときに、喉に何かが詰まったような咳をする。
それ、もしかすると「フィラリア症」のサインかもしれません。
放置すると命に関わることもあるため、早めの気づきがとても重要です。

せんせい〜なんか喉にモノが詰まったような咳が出ちゃうの!
しかも咳の終わりの方で「ゲェ〜」ってなっちゃうの!どうにかして〜ッ!

あらッ、ひょっとして『フィラリアに罹ってる』かもしれないよ!
「フィラリア」は蚊から感染する寄生虫だよ!
じゃ〜血液検査してみようね!

フィラリアの子虫が見えます。

えええええ〜ッ・・・こんな虫が血液の中にいるの?
いや〜信じたくなぁ〜い!

ほぇ〜これって猫にも感染するんじゃろ?
せんせい〜今度で良いから、猫のフィラリア症も教えてネ!
フィラリア症とは、犬フィラリア(犬糸状虫)が心臓や肺動脈に寄生して起こる病気です。
ここでは『犬のフィラリア症』の原因と対処法などについて、Dr.Nyanがわかりやすく説明いたします。
ちなみにフィラリア症は発症例こそ少ないものの、ヒトにも感染することがあります!
犬のフィラリア症とは?原因と感染の仕組み
犬のフィラリア症の症状|見逃しやすい初期サイン
しかも犬フィラリアは血管や心臓の中に寄生するため、血液の流れも悪くなるなど慢性的な循環障害を起こしてしまいます。進行すると命に関わることもある危険な病気です。
特に以下の症状が見られた場合は早めの受診が必要です。
・朝や興奮時の咳
・運動を嫌がる
・呼吸が速い・苦しそう
・元気・食欲の低下

それでは一緒に症状を確認していきましょう!
咳をする
犬フィラリア症の初期の特徴的な症状は『咳』です。初めはあまり目立たない程度なので、見過ごしてしまうことも多々あります。

徐々に興奮したときや早朝などに咳が出るようになります。食欲や元気があるため見過ごされがちですが、様子を見ているうちに病状は進み次第に状態が悪化してしまいます。そして喉の奥に何か詰まったような咳をしたり、呼吸が苦しくなってしまいます。
ついには「呼吸が困難な状態」となり、場合によっては死に至ってしまうこともあります。
疲れやすい
犬フィラリアは血管の中に住むため、血液の流れを悪くしてしまいます。そのため散歩や運動しても、思うように血が流れず組織への酸素も滞ってしまいます。
その結果、とても疲れやすくなったり階段を登るのも辛くなってしまいます。
心臓の異常からの浮腫や腹水
犬フィラリアは主に肺動脈や右心系に寄生し、血流障害や心臓機能低下を引き起こします。
そのため犬フィラリアが三尖弁を傷つけたり、血液の流れを悪くしてしまいます。その結果、右心不全を起こしてしまいます。

犬フィラリアと三尖弁の関係です。
心臓の右側は、全身から戻ってきた血液を肺に送り出す仕事をしています。つまり右心不全になると肺に血液を送り出せなくなるため、全身に血が溜まってしまいます。
その結果、息切れや足の浮腫、腹水が見られるようになります。

心不全になると心臓の血を送り出す機能が落ちるので
全身の血液の流れが悪くなって大変な状態になっちゃうんだよね!
赤いオシッコが出る
突然のように、赤いオシッコをすることがあります。場合によっては膀胱炎と勘違いされることもあります。
この赤いオシッコは、血がそのままの出てくる血尿ではありません。血管の中で赤血球が壊れてしまった結果、オシッコが赤い色となってしまう血色素尿と言うものです。
また黄疸が出て、眼や皮膚、歯茎が黄色くなってしまうこともあります。黄疸は肝炎でも出ますので注意して下さいね!

白眼の部分が黄色くなっています。
犬のフィラリア症の検査方法(血液検査)

フィラリア症(犬糸状虫症)は蚊から感染して起こる病気なんだって。
しかも心臓に住むんだってよ・・怖いね〜
蚊に刺される
ヒトの血も吸う蚊であるヒトスジシマカやアカイエカ、トウゴウヤブカなどがフィラリアを媒介します。蚊は気温が約15℃を超えると活動し始め、血を吸い出します。
~Dr.Nyan ポイント~
犬フィラリアってどうやって増えていくの?
1 蚊がフィラリアに感染した犬の血液を吸う・・
・蚊の体内に血液と一緒にフィラリアの子虫が入る
・フィラリアの子虫はミクロフィラリアとも言われ0.3mmほどの小さな虫
2 蚊の体内に入ったミクロフィラリアは・・
・発育し感染力を持つ幼虫(感染子虫)へとなる
・感染子虫は、蚊が別の犬を刺すときにその犬の体内に入る
3 犬の体内に入った感染子虫は・・
・6ヶ月後には30cmくらいまでに育つ
・犬の心臓や肺動脈の中に住み多数のミクロフィラリアを生む
このように犬フィラリアは犬と蚊の間を行ったり来たりしながら、感染を広げていきます。
犬のフィラリア症の治療法 内科・外科
フィラリア症の治療は「段階的」に行うのが基本です。
いきなり成虫を駆除すると危険なため、順番がとても重要です。
治療を行うに際しては、以下の寄生に対して薬剤などを使用した治療方法を組み合わせて行います。
- ボルバキア
- ミクロフィラリア
- 犬フィラリア成虫
犬フィラリアの体内には、ボルバキア(Wolbachia pipientis)と言う細菌の仲間が住んでいます。このボルバキアは、フィラリアの感染で起こる炎症やフィラリアの生殖にも関わっています。
また、犬フィラリアに感染した犬の体の中には、犬フィラリアの仔虫であるミクロフィラリアが多数住んでいます。このミクロフィラリアは体が小さく体の隅々まで入り込むことができるため、肝臓などの臓器の機能に悪影響を与えています。

ステップを踏みながら、各寄生に対して治療していきます。
〈ステップ1〉ボルバキアに対して抗生剤を使う
犬フィラリア成虫とミクロフィラリアの駆除の前に、ボルバキアの治療を行っておくのが良いとされています。ボルバキアの治療には、ドキシサイクリンやアジスロマイシンなどの薬を投与します。
ボルバキアを治療した際の効果は以下のようになります。
- 犬フィラリア症の症状が緩和される
- ミクロフィラリアの数の減少が見られる
- 幼虫の成長が抑えられる
- 成虫の繁殖能力を無くする
〈ステップ2〉ミクロフィラリアを駆除する
これ以上犬フィラリア症が悪化しないように、ミクロフィラリアの駆除を行います。
ミクロフィラリアを駆除した際の効果は以下のようになります。
- 幼虫の成長が抑えられる
- 成虫の寿命を短くする
ミクロフィラリアが大量に寄生している場合には、一気にミクロフィラリアが死滅してしまうとショック反応が起こることがあります。そのような状態が考えられる場合には、ショック反応に備えた治療を合わせて行う必要があります。
〈ステップ3〉犬フィラリアの成虫を駆除する
成虫の駆除は、あらかじめボルバキアとミクロフィラリアに対しての処置を行なった後に行います。
内科的な治療を行う
犬フィラリア成虫を殺す薬を使用します。ただ成虫は長さが30cmと大きく、しかも心臓や血管の中に住んでいます。
治療を行うと死んだ虫が血管の中を流れ、細い部分に詰まってしまうこともあります。その結果、様々な臓器の障害が起きてしまうことがあります。
そのため、犬フィラリアをジワジワと弱らせるような治療を行うこともあります。このような治療方法では、駆虫に1年以上の時間がかかることもあります。
治療の間は、死んだ虫による呼吸器や循環器などの合併症に細心の注意を払う必要があります。また運動にも、大きな注意が必要です。
外科的に成虫を摘出する
心臓の中に寄生しているフィラリアの成虫を、首の血管から特殊な器具を挿入して取り出します。手術を行うのに当たっては、全身麻酔を必要とするため高度な技術を必要とします。また犬の体には、大きな負担がかかります。

手術で取り出した犬フィラリアの成虫で、1匹の長さが約30㎝です。
状態が悪い場合は対処療法を行う
積極的な駆除を行うには、あまりにも状態が悪い場合には症状を軽くする治療を行います。
フィラリアの影響で心不全がある場合には、症状を緩和するための治療を行います。心臓の負担を避けるため、血管拡張剤や利尿剤などを使用します。また肺高血圧症の治療薬やステロイド剤を使うこともあります。
肺の障害が重度の場合には、呼吸を楽にしてあげるために酸素吸入が行われます。
急性期の最重症「ベナケバ症候群」
非常に死亡率が高い重篤な状態である、フィラリア症の急性期におこる「ベナケバ症候群」って?
フィラリア症の急性期に、突然に赤いオシッコが出ることがあります。その際に呼吸困難や虚脱症状となることもあります。この状態を『ベナケバ症候群』と言います。この状態になると、併発症であるDICや腎不全などを起こしてしまうこともあります。
そのため、早急に手術でフィラリアを心臓から取り出し治療しなければ非常に死亡率が高い重篤な状態です。
内科治療のみでの改善は難しく、迅速な外科的対応が必要になります。

心臓から取り出した犬フィラリアの成虫です。
赤いオシッコが出る理由は・・・
肺動脈や心臓の中に寄生したフィラリアの影響により、破壊された赤血球の中の血色素によるものです。こうなると、重度の心不全状態にもなってしまいます。

何にしろ蚊に刺されないこと、予防に勝る治療はありませんよね!
基本は予防が大切です!
犬のフィラリア症の予防方法|薬・時期・注意点
フィラリア症は「予防できる病気」です。
しかし予防をしないと命に関わることもあります。

フィラリア症の予防をしなくちゃ。すみませ~ん、予防薬ください~!

フィラリア症の予防の前に、必ずフィラリアが寄生していないことを確認する必要があります。
万が一、フィラリアに感染しているのに予防薬を飲ませてしまうとショック症状を起こしてしまいます。最悪の場合は死に至ることもあります。
予防してあげたいと思ったのに、それが原因で死んでしまっては可哀想ですよね!
投薬を行う前には、必ず以下の二つの検査を行い感染が無いことを確認し投薬事故を防ぐことが重要です。
- ミクロフィラリアを検出する方法
- 犬フィラリアの抗原を検査をする方法

以下のような検査の結果が出たら予防薬は飲ませられませんよ!
ミクロフィラリが陽性の場合

顕微鏡検査で、ミクロフィラリアが見つかりました。
犬フィラリアの抗原検査で陽性の場合

フィラリア抗原検査で陽性でした。

判定結果、上記画像により陽性ということがわかります。

それでは、フィラリア症の予防方法について説明していきます。
注射による予防
ミクロフィラリが陰性の場合に使用できます。フィラリア症予防の注射があります。
注射薬の利点は
- 内服薬のような飲ませ忘れが無いこと
- 注射は1年に1回、効果は12ヶ月間続くため通年予防ができる
- 注射の時期を選ばない
- 確実に予防できるのがメリット
メリットいっぱいの注射ですが、体重の変わる成長期には使用できません。体重が安定する成犬に使用します。
内服薬による予防
ミクロフィラリが陰性の場合、使用できます。
内服するタイプには、錠剤とチュアブル錠があります。成分は双方とも同じで、イベルメクチンやミルベマイシンなどです。
<錠剤とチュアブル錠の違い>
【錠剤】
薬を飲むことに抵抗の無いわんちゃんにおすすめです。
【チュアブル錠】
噛んでから飲み込むタイプの錠剤です。オヤツ感覚で食べたい子に、錠剤の飲ませ辛さが解消されます。内服薬は毎月1回、1ヵ月間隔で服用します。
背中に垂らすスポットオン剤による予防
ミクロフィラリが陰性の場合、使用できます。
セラメクチンなどが成分の薬です。液体の薬を、首の後ろの皮膚に滴下して使うタイプです。
内服するタイプの薬を受けつけない犬にも、使用することが出来ます。口に入る薬ではありませんので、食物アレルギーがあっても使えます。
【最も重要なポイント】
予防薬の効果を最大限発揮させるために知ってほしいこと
フィラリア症予防薬は、フィラリアの幼虫が心臓にたどり着く前に駆除する薬です。
予防薬は「蚊に刺されるのを防ぐ薬」ではありません。
体内に入った幼虫を駆除する薬です。
内服薬とスポットオン剤は、1ヶ月間効いているわけではありません。
- 投薬の開始は、蚊の活動が活発になる時期から
- 投薬終了は、気温が下がって蚊が見られなくなった1カ月後まで
投薬のタイミングを逃すと薬の効果が発揮できませんので、忘れずに使用しましょうね!
毎月きちんと投薬することが、最大の予防です。
蚊に刺されないようにする
フィラリア症予防薬を飲んでるから安心と思わず、蚊に刺されないようにしてあげます。
例えば蚊取り線香を使ったり扇風機で空気を動かす、また蚊が寄り付きづらいようなアロマを使うなどがあります。
蚊に刺されれば痒いし、蚊によるアレルギー反応を起こしてします場合もありますよね!蚊に刺されないようにしてあげることも、予防の一つになります。
すぐ受診すべきサイン
これらの症状がある場合は、早めの診察をおすすめします。
・咳が増えている
・散歩ですぐ疲れる
・呼吸が苦しそう
・赤い尿が出た(血液がそのまま出る血尿ではありません)
これらは進行したフィラリア症の可能性があります。
犬フィラリア症を起こしやすい犬種
- 屋外飼育の犬
- 予防薬を飲んでない犬
- 予防薬を規定どおりに飲んでない犬
フィラリア症は「予防できる病気」です。
しかし、予防をしなければ確実にリスクが高まります。
まとめ
犬フィラリア症は初期には目立たないことも多く、気づいた時には進行していることがあります。
しかし、正しく予防すれば防げる病気です。
・咳が気になる
・少し元気がない
このような小さな変化でも、お気軽にご相談ください。
フィラリア症は「予防できる命の病気」です。毎年の予防を忘れずに行いましょう。

咳など気になる兆候が見られたら早めにご相談ください。お家での管理や看護方法など、健康を守るお手伝いをします!
参考動画:フィラリア検査
筆者・若山正之のプロフィール

1974年より犬や猫の診療に携わり、飼い主さまと共に、動物たちが「太く長く、明るく楽しく」暮らせることを目指して、家族の一員である動物たちに寄り添った診療を佐倉市で行っています。
予防医療と高齢期医療を重視し、「病気になる前から集える動物病院」の実現に取り組んでいます。また「幹細胞療法」や「免疫療法」などの先進医療にも積極的に取り組み、動物にやさしい治療の提供に努めています。
診療のほか、一般の方や学生、動物看護師などを対象としたセミナー・講演を行い、知識の普及にも力を入れています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあり、動物の健康と幸せを支える活動を続けています。