Dr.Nyanのすこやかコラム
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猫のフィラリア症|突然死を防ぐための知識!症状・原因・予防と受診の目安
「フィラリア症(犬糸状虫症)」といえば、犬だけの病気だと思っていませんか?
実は、フィラリアは猫にも感染します。しかも猫がフィラリア症を発症すると、犬よりも診断が非常に難しく、治療法も限られています。
そのため、ある日突然命を落としてしまう「突然死」のリスクが非常に高いという極めて恐ろしい特徴があります。
「うちの子は完全室内飼いだから蚊に刺されないし大丈夫」と思っている飼い主様も多いですが、マンションのベランダや玄関の開閉時に侵入した、たった1匹の蚊から感染してしまうケースが後を絶ちません。
今回は、猫のフィラリア症の症状・原因・検査や治療の現実、そして愛猫の命を守るための予防策について、Dr.Nyanが詳しく解説します。

飼い主
先生!フィラリアって犬だけの病気だと思っていました……。猫も感染するって本当ですか?
家から一歩も出さない室内飼いの猫でも危ないのでしょうか?
Dr.Nyan
驚かれるのも無理はありません。でも実は、フィラリアに感染していた猫ちゃんの約4割が完全室内飼育というデータがあるのです。
猫ちゃんは体が小さいため、たった数匹のフィラリアが寄生しただけでも命に関わる重篤な状態になることがあります。
リスク先生
猫のフィラリア症で最も怖いのは、さっきまで元気に遊んでいた子が何の前触れもなく突然倒れて亡くなってしまう「突然死」だ!手遅れになる前に、正しい知識と予防が絶対に必要だぞ!
猫のフィラリア症の主な症状
Dr.Nyan
猫の体内に侵入したフィラリアの幼虫は、やがて血管を通って肺の動脈へと向かいます。猫の体はフィラリアに対して非常に強い免疫反応(アレルギー反応)を起こすため、主に「呼吸器」に深刻な症状が出ます。
慢性的な咳(せき)・呼吸が苦しそう
猫のフィラリア症で最も多く見られる症状が「コンコン」という乾いた咳です。息が荒くなったり、ゼーゼーと苦しそうに呼吸をしたりすることもあります。これは、フィラリアの幼虫が肺の血管に詰まることで周囲に激しい炎症が起きるためで、一見すると猫喘息(ぜんそく)や気管支炎と非常に酷似しています。
胸のレントゲン写真でも肺炎・喘息に似た異常が見られるため、フィラリア症とすぐに断定することが難しい病気のひとつです。

飼い主
猫喘息だと思っていたら、実はフィラリアだったということもあるんですか?
Dr.Nyan
あります。特に「咳+嘔吐」が一緒にある猫ちゃんでは注意が必要です。
頻繁な嘔吐(おうと)
一見、呼吸器とは関係がなさそうですが、猫のフィラリア症では「吐く」という症状がよく見られます。毛球症(毛玉を吐くこと)や胃腸炎と勘違いして見過ごされがちですが、肺の血管の炎症や、フィラリアが分泌する物質が嘔吐中枢を刺激することが原因と考えられています。
元気消失・食欲不振・体重減少
体が常に炎症と戦っている状態になるため、なんとなく元気がない・おもちゃで遊ばなくなる・ご飯を食べる量が減って徐々に痩せてくるといった、非特異的な(どの病気でも見られるような)症状が現れます。「原因がわからないまま、なんとなく体調が悪そう」という状態が続く場合はフィラリア感染を疑う必要があります。
急性ショック・突然死
心臓や肺動脈にたどり着いたフィラリアの成虫が体内で死んだとき、あるいは血管を完全に塞いでしまったとき、猫の体は猛烈なショック症状(呼吸困難・虚脱・痙攣など)を起こします。病院へ駆けつける間もなく、発症から数分〜数時間で突然死に至ることがあります。
猫の突然死の死因の約3分の1がフィラリア症と心筋症によるものとも言われており、極めて深刻なリスクです。

受診の目安
以下の症状が見られる場合は、様子を見ずにすぐに当院(佐倉市の若山動物病院)またはお近くの動物病院を受診してください。
- 猫が首を前に伸ばして苦しそうに咳を繰り返している
- 呼吸の回数が早く、お腹を大きく上下させて息をしている
- 特に理由がないのに、週に何度も胃液やフードを吐く
- 元気がなく、食欲が落ちて体重が少しずつ減っている
- 急にぐったりして立ち上がれない、粘膜(歯茎・舌)が紫〜白っぽい(チアノーゼ)
猫のフィラリア症の原因と感染メカニズム
猫のフィラリア症は、フィラリアの幼虫(ミクロフィラリア)を宿した「蚊」に刺されることが唯一の原因です。ヒトスジシマカやアカイエカ、トウゴウヤブカなど、蚊は気温が約14℃を超えると活動を始め、フィラリアを媒介します。

飼い主
フィラリアって、蚊から感染するんですね。犬みたいに心臓に虫が大量にいるわけじゃないのに、どうして猫は突然死するんですか?
Dr.Nyan
はい、大きな違いがあります!犬の体内では心臓の中で大量のフィラリアが成長してしまいますが、猫では体の免疫システムが強く働くため、侵入した幼虫の多くは肺に到達する前に死んでしまいます。それでも、生き残った少数の幼虫が起こす炎症が非常に深刻な問題になるんです。
🐾 Dr.Nyanポイント
猫の体の中でのフィラリアの動き
1 蚊がフィラリアに感染した犬の血液を吸う
・蚊の体内に血液と一緒にフィラリアの幼虫(ミクロフィラリア)が入る
・ミクロフィラリアは0.3mmほどのとても小さな虫
2 蚊の体内でミクロフィラリアが発育し、感染力を持つ幼虫(感染子虫)になる
・感染子虫は蚊が猫を刺すときに猫の体内に侵入する
3 猫の体内に入った幼虫は皮膚・筋肉で成長し血管へと移行
・感染から約3〜4ヶ月後に肺の動脈へ到達する
・猫の強力な免疫により多くの幼虫は肺到達前に死滅するが、生き残ったわずかな虫(通常1〜3匹)が重大な肺炎(HARD)を引き起こす
猫特有の病態:HARD(猫呼吸器糸状虫疾患)
幼虫が肺血管に到達した時点で、猫の体内では激しいアレルギー性炎症が起こります。これを「猫呼吸器糸状虫疾患(HARD)」と呼びます。
犬のように「心臓に虫がウジャウジャ詰まる」というより、「少数の虫に対して猫の肺が過剰反応して重大な肺炎を起こす」のが猫のフィラリア症の本質です。体内で死んだ虫の死骸が血管を詰まらせてしまうこともあり、これが突然死の主な原因となります。

猫のフィラリア症:検査の難しさと治療法
猫のフィラリア症は、獣医師にとっても「診断が非常に難しい病気」のひとつです。犬で行う一般的な血液の簡易キットだけでは見落としてしまう(陰性になってしまう)ことが多々あります。

飼い主
血液検査をすれば、すぐ分かる病気じゃないんですね……?
Dr.Nyan
はい。猫ちゃんは虫の数が少ないため、“感染していても陰性”になることが珍しくありません。
診断の難しさ
猫は寄生する虫の数が非常に少なく、血液中に幼虫(ミクロフィラリア)を産まないことがほとんどです。そのため、当院では以下の複数の検査を組み合わせて総合的に診断を行います。
抗原検査・抗体検査(血液検査)
フィラリアの成分や、フィラリアに対抗するために体が作った抗体があるかを調べます。ただし猫の場合は偽陰性が出やすいため、単独での判断は困難です。
レントゲン・超音波(エコー)検査
肺の血管が太くなっていないか、心臓や肺動脈の中にフィラリアの影が見えないかを詳細に確認します。
主な治療法
現在の獣医療において、猫の体内に入ったフィラリアの成虫を安全に駆除するお薬は存在しません。犬用の駆虫薬を猫に使うと、虫が死んだ瞬間に猛烈なショックを起こして危険なためです。
対症療法(内科管理)
咳や呼吸困難を和らげるため、ステロイド剤(消炎剤)や気管支拡張剤を投与し、肺の炎症をコントロールしながら、フィラリアの自然死(猫の体内では約2〜3年)を長期間待ちます。
症状がぶり返すこともあるため、終生にわたる投薬管理が必要なケースもあります。
外科手術
エコーで見える位置(心臓の入り口など)に虫がいる場合、首の血管から特殊な器具を入れて虫を直接引っ張り出す手術を試みることもありますが、極めてリスクの高い手術となります。
リスク先生
治療法が極めて限られているからこそ、猫のフィラリア症は「かかったらおしまい」と言われるほど恐ろしい病気。
だからこそ、病気にさせないための「予防」が絶対に必要なんだぞ!
確実な予防方法:月1回のスポットタイプ(首元への滴下薬)
猫のフィラリア症は治療が困難ですが、「月に1回、定期的にお薬を投与すること」「適切な時期に継続投与すること」で、高い予防効果が期待できます。

飼い主
毎月ちゃんと続けられるか不安です……。嫌がったりしませんか?猫に合った方法はありますか?
Dr.Nyan
猫ちゃん用のフィラリア予防薬は、首の後ろに数滴垂らすだけの「スポットオン(液体)タイプ」が主流です。お薬を飲むのが苦手なネコちゃんでも、飼い主様がご自宅でストレスなく簡単に投与できますよ!
予防薬の投与(毎月1回)
猫ちゃん用のフィラリア予防薬は、首の後ろ(ノミ・マダニ駆除薬と同じ場所)に数滴垂らすだけの「スポットオン(液体)タイプ」です。セラメクチンなどが主な成分で、食物アレルギーがあっても使えます。
※ノミ・マダニ・お腹の寄生虫を同時に駆除できるオールインワンタイプが非常に便利で人気です。


予防する期間
千葉県佐倉市周辺の気候では、一般的に「蚊が出始める5月頃〜蚊がいなくなった1ヶ月後(12月頃)まで」の毎月1回の投与が推奨されています。1日の平均気温が14℃を超える時期が目安です。
近年は温暖化の影響もあり、当院では通年(年間を通じた)予防をおすすめする場合もあります。
🐾 Dr.Nyanポイント
予防薬の効果を最大限に発揮させるために
フィラリア症予防薬は、蚊に刺されるのを防ぐ薬ではなく、体内に入ったフィラリアの幼虫を駆除する薬です。スポットオン剤は1ヶ月に1回の使用ですが、投薬のタイミングを逃すと猫の体内でフィラリアが成長してしまいます。必ず蚊のいる期間+1ヶ月は継続して投与しましょう!
予防費用の目安
猫用フィラリア予防薬(1本/1ヶ月分)は、体重や薬の種類によって異なります。
ただ万が一発症した際の治療費・発症時のリスクを考えると、非常に重要な予防医療です。
こんな猫は特に注意!
- 屋外に出ることがある猫(外飼い・半外飼い)
- 予防薬を使用していない猫
- 予防薬を規定通りに投与していない猫
- 室内飼いでも、網戸の隙間・玄関の開閉で蚊が侵入しやすい環境の猫
よくある質問
本当に完全室内飼いでもフィラリア予防は必要ですか?
はい、絶対に必要です。蚊は網戸の隙間や、人が玄関を開けた瞬間に簡単に室内に侵入してきます。実際にフィラリアに感染してしまった猫ちゃんの約4割が「外に出たことがない猫」というデータがあります。
室内飼いだからと油断せず、しっかりと予防してあげてください。
犬のように、予防を始める前に必ず血液検査が必要ですか?
犬の場合は体内に大量のフィラリアがいる状態で予防薬を飲むとショックを起こすため、事前の血液検査が必須です。
猫の場合は寄生数が極めて少なくミクロフィラリアもほとんど出ないため、事前検査を必須としないケースが多いですが、安全のため前年度の予防状況などを確認した上で適切に処方いたします。
猫にフィラリア症の症状が出たら、どうすればいいですか?
咳・呼吸困難・嘔吐の繰り返し・ぐったりするなどの症状が見られたら、すぐに動物病院を受診してください。特に「急にぐったりして粘膜が白っぽい・紫っぽい」場合は緊急を要します。

飼い主
猫はフィラリアにならないと思っていました……。
Dr.Nyan
実際には、猫ちゃんだからこそ「症状が分かりにくく、突然重症化する」ことがあります。だから予防が本当に大切なんです。
まとめ
猫のフィラリア症は、一度発症すると診断が難しく、劇的な治療法もないため「突然死」を引き起こす極めて怖い病気です。しかし同時に、飼い主様が月に1回、お薬を首元に垂らしてあげるだけで高い確率で予防できる病気でもあります。
「室内飼いだから」「猫だから」と見過ごすことなく、大切な愛猫をフィラリアの脅威から守ってあげましょう。
当院では、猫ちゃんの生活スタイルに合わせた予防薬をご提案しています。
咳・嘔吐・呼吸症状など気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

本記事は、犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。
特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。
また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。