Dr.Nyanのすこやかコラム
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犬の僧帽弁閉鎖不全症|咳・呼吸が早い原因と治療・受診の目安
「最近、咳をする」「散歩を嫌がるようになった」「呼吸が早い気がする」——こうした変化に気づいた時、すでに病気が進んでいることがあります。
中高齢の小型犬に最も多く見られる心臓病、それが「僧帽弁閉鎖不全症(MVD)」です。
この病気は、心臓の左心房と左心室の間にある「僧帽弁」が正常に機能しなくなることで発症します。進行すると肺水腫や心不全を引き起こす、命にかかわる疾患です。
実際の診療では、「年齢のせいかな」と思っていた咳や疲れやすさから見つかるケースが非常に多く、定期検診で初めて心雑音が発見されることも少なくありません。
本コラムでは、1975年から小動物臨床に携わる獣医師・若山正之(Dr.Nyan)が、実際の症例をもとに僧帽弁閉鎖不全症の症状・原因・治療・受診の目安をわかりやすく解説します。
飼い主
先生、うちの子が最近咳をするんですが、心臓病かもしれないんですか?
Dr.Nyan
可能性はあるよ。僧帽弁閉鎖不全症は初期に症状が出にくく、気づいた時には進行していることが多い病気なんだ。早めに心臓の検査を受けてみようね

飼い主
わかりました!早めに見つけて治療すれば、長生きできますよね?
僧帽弁について少し詳しく説明しましょう。
心臓には三尖弁、肺動脈弁、僧帽弁、大動脈弁という、四つの弁があります。そしてそれぞれの弁が、血液の流れを上手にコントロールしています。

「僧帽弁」は、左心房から左心室の間にある弁です。この弁は肺から届いた酸素の豊富な血液を全身に送り出す際に、重要な働きをしています。
「僧帽弁」は、血液が流れるときに左心房から左心室に向かってしか開きません。そのため血液は、左心房から左心室に流れます。
つまり、血液は常に一方方向に流れるようになっています。そのため健康であれば、左心室に入った血液は左心房に戻ってこられません。
ちなみに「僧帽弁」という名前の由来は…
「弁の形がカトリックの司教がかぶる帽子(マイター)の形に似ている」ことからなんです。
僧帽弁閉鎖不全症の症状

飼い主
僧帽弁閉鎖不全症って、どんな症状がでるの?
Dr.Nyan
心臓の動きを見ながら、症状を説明していきますね!
【初期症状】無症状で経過
僧帽弁閉鎖不全症は初期では無症状なことも多いため、気がつかないこともあります。

飼い主
症状がないのに心臓が悪くなっているなんて、どうして分かるんですか?
Dr.Nyan
心臓は無理をして働き続けるからね。だから外からは分かりにくいんだ。だからこそ心雑音を聞く定期検診が大切なんだよ
【主な初期症状】
- 無症状
- 心雑音が聞こえる
- 心拍数が増える
初期の段階で無症状なのは「血液の流れる量」に理由があります。
僧帽弁にトラブルが起こると、弁としての働きが悪くなり心臓の中の血液に逆流が発生します。
逆流が起きると、血液が正常に流れません。つまり、心臓から送り出される血液の量が減ってしまうということになります。
そこで心臓は、もっと血液を全身に流そうと心拍数を増やし一生懸命に頑張ります。その結果、体の中を流れる血液の量が増えていきます。

このように初期では血液が逆流を起こしていても、体全体に血液が十分に流れている状態なのです。
そのため不調が見られないか、不調があってもわかりづらいと言えます。
【中期症状】様々な症状が出てくる
無症状であった初期の状態から、咳が出るなど徐々に症状が見られるような状態へとなっていきます。
飼い主
夜に咳が出るんですけど、ただの風邪じゃないんですか?
Dr.Nyan
夜間や運動後の咳は”心臓のサイン”のことがあるよ。特に安静にしていても咳が出る場合は要注意!
【中期症状】
- 散歩に行きたがらない
- 坂道の上り下りで息切れを起こす
- 食欲が落ちる
- 運動後や興奮すると咳をする
- 安静時の呼吸数が増えてくる
血液を送り出すのに頑張っていた心臓は、徐々に疲れていきます。そして血液を送り出す力も、徐々に弱まっていきます。

逆流量も多くなり、咳も出て時たま失神もしてしまいます。
心臓が疲れ送り出せなかった血液は心臓の中に溜まり、心臓は膨らんでしまいます。その結果、心臓に溜まった血液は肺へと逆流してしまいます。また、肺の毛細血管の中にも血液が溜まりだしてしまいます。
リスク先生
失神は「ただの立ちくらみ」ではなく、不整脈や脳への血流低下が原因のことがあります。一度でも倒れた場合は、必ず心臓検査を受けましょう。
【末期症状】肺水腫や心不全を繰り返す
末期になると、肺水腫や心不全を起こしてしまい体を動かすのも辛い状態となります。
【末期症状】
- ほとんど動こうとしない
- 安静にしていても咳が出る
- 浅くて早い呼吸をする
- 激しく咳込みピンク色の痰を出す
- 突然パタンと倒れる
- 唇や舌などの粘膜が紫色になる
- 呼吸困難となる
リスク先生
安静時の呼吸が早い・口を開けて苦しそうに呼吸している場合は肺水腫の緊急サインです。夜中でも迷わず救急受診を!
肺の毛細血管の中に溜まった血液がさらに増えると、血管内の圧力が上昇します。そうなると、血液の中の水分が肺の組織の中にまで溢れ出てくるようになります。
その結果、呼吸をするときに空気の入る肺胞という部分にも水分が溜まり始めてしまいます。この状態になると、肺は酸素がうまく取り込めなくなってしまいます。また体の中に溜まった二酸化炭素も肺から放出できず、増えてしまいます。
いわゆる、これが「肺水腫」です。また心臓が体に必要な血液を送り出せなくなってしまう「心不全」にもなってしまいます。
肺水腫も心不全も、命にかかわる危険な状態です。

飼い主
心臓が悪いと横になれないって聞いたんですが…ここまで悪くなったら、もう元には戻れないんですか?
Dr.Nyan
横になると血液が全身に戻りやすくなって、肺への血流が増えるんだ。でも肺の血管がすでに過負荷の状態だから、横になるとさらに苦しくなってしまうんだよ。完全には戻らないけど、早く治療すればコントロールできるよ

飼い主
心臓だけじゃなくて、腎臓にも影響が出るって本当ですか?
Dr.Nyan
そうなんだ!心臓の機能が落ちると血流が悪くなり、腎臓にも大きな影響が出るんだよ。心臓と腎臓はセットで検査することがとても大切なんだよ
つまり心臓病は「心臓だけの病気」ではなく、全身の臓器に影響する病気なのです。
僧帽弁閉鎖不全症の原因
Dr.Nyan
中高齢の小型犬に多い僧帽弁閉鎖不全症。その原因について詳しく説明していきますね
高齢化
老化に伴い、僧帽弁は変形していきます。当然ながら老化を防ぐことはできません。
後述する予防方法も合わせてご覧ください。
粘液腫瘍変性
最も一般的な僧帽弁閉鎖不全症を起こす原因は、僧帽弁の粘液腫様変性と言われています。粘液腫様変性が起こると弁が分厚く、短く、いびつな形へとなります。弁が変形してしまうことにより、弁の動きが悪くなってしまいます。
遺伝的な問題
キング・チャールズ・スパニエルなどの犬種に見られます。
腱索の断裂
心臓の中の血液が一方向に流れるようにするため、僧帽弁は片方にしか開かないようになっています。
この働きをしているのが、弁に付いている「腱索(けんさく)」と呼ばれるパラシュートの紐のような靭帯です。
この「腱索」が、なんらかの理由で伸びてしまうことがあります。そうなると弁がうまく閉じなくなり、血液が一定の方向にうまく流れず血液が逆流してしまいます。
また腱索が切れてしまうと、逆流する血液の量が一気に増えてしまいます。その結果、血液の流れが悪くなり急激に症状が悪化してしまいます。
リスク先生
腱索が切れると症状が急激に悪化することがあります。心臓エコー検査で腱索の状態を定期的に確認することが重要です

歯周病菌
僧帽弁閉鎖不全症を起こした犬の僧帽弁には、歯周病菌が住んでいることがあります。しかも僧帽弁の歯周病菌の数は、歯周病が悪化しているほど多くなると言われています。
つまり歯周病菌は体の中に入ると心臓の弁に住み着き、弁膜症を発症させるだけでなく症状をも悪化させます。口腔内環境の悪化が、直接心臓に影響するのです。
歯周病菌毒素検査:歯周病の検査について / 犬の歯周病コラムはこちら
飼い主
歯磨きするだけで、心臓病の予防になるんですか?
Dr.Nyan
毎日の歯磨きが心臓を守る第一歩!歯周病菌は血液に入って心臓の弁に住み着き、弁膜症を引き起こすんだよ。お口のケアを大切にしてね
僧帽弁閉鎖不全症の主な治療方法
Dr.Nyan
僧帽弁閉鎖不全症の疑いがあっても焦らないで。病気の進行段階に合わせて、適切な治療を一緒に考えていきましょう
【初期症状】進行状況を確認する
基本的には、心臓の拡大が見られなければ投薬は行いません。最低でも半年に1回、心臓の超音波検査やレントゲン検査を行うことをお勧めします!
【中期症状】治療を開始する
食事療法と投薬を始めます。
- フード:ナトリウムを制限した心臓病食
- 降圧剤:血管を拡張させて血圧を下げ、血液を循環しやすくする
- 強心薬:心不全の症状を軽くする
僧帽弁閉鎖不全症では、急に症状が悪化する場合があります。その場合には入院し、投薬や酸素療法など集中治療を行うことが必要になります。
症状に改善が認められても、薬は継続して服用していくことがとても大切です。また定期的に心臓と腎臓の検査を行ったり、日々の状態を日記につけ記録しておくことも必要です。
飼い主
症状が良くなったら薬をやめてもいいですか?
Dr.Nyan
それはダメだよ!症状が落ち着いているのは薬が効いているからなんだ。自己判断でやめると急激に悪化することがあるから、必ず獣医師の指示に従ってね
リスク先生
心臓病は薬の効果を確認しながら投薬量を調整する必要があります。定期的な検査を怠らないことが、愛犬の命を守ることにつながります
【末期症状】積極的な治療をする
投薬しても症状が不安定なため、その状況に応じた治療を行います。
- 酸素吸入:呼吸を楽にする
- 利尿剤:心臓の負担を減らし、肺に溜まっている水分を取る
- 強心薬:全身の血液の流れを改善し肺水腫を軽くする
心臓の手術を行う場合もありますが、手術は限られた施設でのみの行われる高度な治療です。ご希望の場合にはお気軽にご相談ください!
僧帽弁閉鎖不全症の予防方法

飼い主
そもそも僧帽弁閉鎖不全症って、何か予防する方法はあるんですか?
Dr.Nyan
完全な予防は難しいけど、歯周病ケアと定期的な健康診断で早期発見・早期治療に繋げることができるよ
歯周病を予防する
歯周菌は傷ついた歯肉から血管の中に入り込み、血液にのって心臓へと運ばれていきます。そして歯周菌がたどり着いた心臓の弁に、病気を発症させてしまいます。
歯周病の予防には、歯周病の初期の症状である歯肉炎の早期発見と治療です。まずは、丁寧な歯磨きを行います。

食事療法
症状を悪化させないためには、フードに含まれるナトリウムの量に気を付けることが大切と言われています。
ナトリウムを制限することで、水分が体内に溜まることで起こる鬱血などの状態を改善することができます。ナトリウムを制限すると血圧が下がり、心臓への負担を軽くすることができるからです。
ただナトリウムが制限されているフードは、犬にとっては美味しいとは思えないらしく食べないことがあります。そのため、食べさせる工夫が必要になることもあります。
どうしても食べない場合には、高齢期用や腎臓病用の療法食を使うこともあります。心臓病用のフードの開始の目安は、中期症状からが良いとされています!
適度な運動と筋肉量の維持
下半身の筋肉は、伸縮することでポンプのような働きをします。そのため心臓へと血流を送り返す大切な働きをしています。ふくらはぎを「第2の心臓」と呼ぶ理由は、ここにあります。
つまり第2の心臓(下半身の筋肉)が衰えると血液の流れが悪くなり、さらに心臓病が悪化してしまいます。そのためバランスの良いフードを摂り適度な運動を行い、筋肉量の多い体を作っておくことが重要です。
定期的な健康診断を受ける
心臓病は、早期発見と早期治療が大切です。5〜6歳を過ぎた小型犬は、年に2回の心臓検診をおすすめします。
しかも心臓病になると腎臓の機能も悪化しやすくなります。そのため心臓だけではなく、腎臓の検査も合わせて受けることが必要です。
心臓病が腎臓にも影響する理由
心臓の機能が落ちると血液の流れが悪くなり、体は血圧を上げて補おうとします。
血圧が上がることで動脈の血管壁が硬くなり、腎臓に流れる血液量が減少して腎機能が低下します。
腎機能が低下すると赤血球を作るホルモン(エリスロポエチン)の分泌が減り、貧血が進みます。
貧血により酸素不足が起こり、さらに腎臓を悪化させます。最終的に慢性腎不全に陥るケースもあります。心臓と腎臓はセットで管理することが重要です。
僧帽弁閉鎖不全症になりやすい犬種
- 中高齢の小型犬
- キング・チャールズ・スパニエル
- マルチーズ
- ポメラニアン
- プードル
犬の僧帽弁閉鎖不全症でよくある質問
犬の咳や呼吸が早いのは心臓病のサインですか?
はい。犬の咳や呼吸数の増加は、僧帽弁閉鎖不全症などの心臓病が原因のことがあります。特に安静時でも呼吸が早い場合、夜間に繰り返し咳が出る場合は早めの受診をおすすめします。
僧帽弁閉鎖不全症の初期症状は何ですか?
初期は無症状のことが多く、定期健診での心雑音聴取で発見されることが一般的です。症状が出る前に発見できれば、早期治療で進行を遅らせることができます。
犬の心雑音はすぐ治療が必要ですか?
心雑音があっても、すぐに薬が必要とは限りません。しかし心臓病の初期サインであることが多いため、心臓エコー検査で進行度を確認することが重要です。
犬が夜だけ咳をするのは心臓病ですか?
夜間や就寝時の咳は、僧帽弁閉鎖不全症による肺うっ血が関係していることがあります。特に高齢の小型犬では注意が必要です。
僧帽弁閉鎖不全症は完治しますか?
残念ながら完全に元の状態に戻すことは難しい病気です。しかし内服薬・食事療法・生活管理により進行を遅らせ、長期的に症状をコントロールすることは十分可能です。
治療はどのタイミングで始めますか?
心臓の拡大や咳・呼吸数増加などの症状が見られたタイミングで治療を開始します。無症状の初期では定期的な心臓エコー検査・レントゲン検査による経過観察が基本です。
僧帽弁閉鎖不全症はどの犬種に多いですか?
中高齢の小型犬全般に多く見られます。特にキャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、マルチーズ、トイプードル、ポメラニアンは発症リスクが高い犬種です。5〜6歳を過ぎたら年に2回の心臓検診をおすすめします。
僧帽弁閉鎖不全症を予防する方法はありますか?
完全な予防は難しいですが、歯周病の予防・適切な体重管理・定期的な健康診断が有効です。特に歯周病菌は心臓弁に定着して病気を悪化させる可能性があるため、毎日の歯磨きが重要です。
犬の呼吸が苦しそうなときはどうすればいいですか?
肺水腫の可能性があり、命にかかわる緊急状態です。すぐに動物病院を受診してください。安静を保ち、無理に抱きかかえたり興奮させたりしないことが大切です。
咳だけでも受診した方がいいですか?
はい。夜間や安静時の咳は心臓病のサインである可能性があります。「たかが咳」と放置せず、早めに受診することをおすすめします。
犬の正常な呼吸数はどのくらいですか?
安静時で1分間に20〜30回が目安です。40回以上は心臓への負担が増加しているサインです。毎晩就寝前に1分間計測する習慣をつけましょう。
自宅でできる心臓病のチェック方法はありますか?
安静時の呼吸数(1分間の呼吸回数)を毎日記録することが最も有効です。普段より呼吸数が増えている場合は、心臓への負担が強まっているサインです。異変に気づいたら早めにご来院ください。

飼い主
うちの子、最近呼吸が少し早い気がします…どのタイミングで病院に連れて行けばいいですか?
Dr.Nyan
安静にしているときの呼吸数が1分間に40回を超えたら、それが受診のサインだよ。毎晩寝る前に測る習慣をつけるといいね
まとめ
僧帽弁閉鎖不全症は、中高齢の小型犬に最も多い心臓病です。初期は無症状のことが多く「年のせい」と見過ごされがちですが、心不全まで進行すると半数が1年以内に亡くなるというデータがあります。早期発見・早期治療が、愛犬の命と生活の質(QOL)を守る最大の鍵です。
当院では心臓エコー検査・レントゲン・血液検査を組み合わせた総合的な心臓評価を行っています。「最近咳をする」「呼吸が少し早い気がする」など、気になることがあればお気軽にご相談ください。重症例でも愛犬が楽しく過ごせるよう、スタッフ一同全力でサポートします。
「様子を見るべきか迷う」段階での受診が、肺水腫や突然死を防ぐ最も重要なポイントです。
筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

本記事は、佐倉市で犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。