Dr.Nyanのすこやかコラム
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猫の乳腺腫瘍|お腹のしこりの原因と治療・受診の目安

猫のしこりは1cm未満でも、すぐ病院へ。猫の乳腺腫瘍は約80〜90%が悪性です。犬は良性が半数近くを占めるのに対し、猫は将来的に命に関わる悪性腫瘍が圧倒的に多い点が特徴です。「元気そうだから様子を見よう」は、猫の乳腺腫瘍においては最も危険な判断です。小さなしこりを見つけたら、迷わず動物病院へご相談ください。
本記事は、佐倉市で実際に診察される乳腺腫瘍の症例をもとに、初期の気づきから進行例までをまとめています。
飼い主
せんせい〜オッパイのところにコリコリあるの
Dr.Nyan
場所的に乳腺腫瘍の可能性があるね。早めに確認しよう。

猫の乳腺は一般的には左右4対、あわせて8個あります。その乳腺の細胞が腫瘍化したものが『乳腺腫瘍』です。
猫の悪性腫瘍の中でも乳腺腫瘍は最も多い疾患のひとつで、発見時にはすでに進行しているケースも少なくありません。肺やリンパ節へ転移しやすい悪性腫瘍で、早期発見・早期治療が予後を大きく左右します。

飼い主
元気だから様子見でも大丈夫ですか?
Dr.Nyan
それが一番危険です。猫は症状を隠します
乳腺腫瘍の症状
猫は乳腺腫瘍ができても痛みや不快感を表に出しにくく、発症初期は飼い主が気づかないことがほとんどです。腫瘍がある程度大きくなるまで外見上の変化が現れにくいため、日頃のスキンシップによる触診が早期発見の唯一の手段となります。

飼い主
どんな感じなら危ないですか?
Dr.Nyan
硬くゴリッとしていたら要注意です
硬いしこり・表面の凹凸
乳腺腫瘍は触ると、硬くゴリッとしています。そのため「乳岩」と呼ばれた時代があったほどです。
表面はデコボコしていて形も整っていないことが多く、健康な組織との境目がはっきりしない場合もあります。
できる場所も数も様々
猫の乳腺は、脇の下から内股にかけて左右に並んでいます。そのため乳腺腫瘍ができるのは、脇の下から内股まで様々な場所に及びます。しかし一般的には内股に近い方に、また乳首に近い部位に発症する傾向があります。
乳腺腫瘍は一つの乳腺だけでなく、60%近くが複数の乳腺に発症しています。また腫瘍の大きさは、数ミリから大きくなったものまで様々です。
潰瘍・出血(進行期の症状)
乳腺腫瘍は大きくなると、体表に腫れとして現れてきます。そのため見ただけでも容易に確認することができるようになります。
時間が経つと腫瘍が大きくなって皮膚が破け、中身が露出してしまう状態(自壊)になることがあります。出血したり壊死を起こしてしまうこともあります。また傷から滲み出てきた液でジュクジュクし、乳腺腫瘍の周囲が汚れ異臭がするようにもなります。

リスク先生
出血や悪臭が出始めた場合、すでに腫瘍が進行している可能性があります。


飼い主
ここまで悪化するんですね…
Dr.Nyan
初期は小さいので見逃されやすいんです
肺転移による呼吸症状
リスク先生
乳腺腫瘍は肺転移が多い。呼吸の変化は危険サイン
乳腺腫瘍は、リンパ節や肺などに転移しやすい腫瘍です。肺に転移してしまうと咳が出たり息苦しそうにしたり、呼吸が早く荒くなるなどの症状も現れます。

炎症性乳癌(特殊な進行型)
見た目が他の乳腺腫瘍と違うのが、とても悪性度が高い『炎症性乳癌』です。
炎症性乳癌は乳腺が硬い板状のしこりとなり、赤く腫れ熱と痛みを持ちます。炎症性乳癌は周囲の組織へ強い炎症を伴いながら、とても早く広がります。
またリンパ液の流れが滞ることで、後肢がむくんで腫れることがあります。
▶ 犬の乳腺腫瘍については「犬の乳腺腫瘍(乳がん)|乳首のしこりの原因と治療」もご覧ください。
⚠️ 良性か悪性かは、見た目や触診では絶対に判断できません。猫の乳腺腫瘍のうち一部には良性腫瘍もありますが、多くは悪性です。また良性と悪性の見分けは外見や手触りではつきません。確定診断には病理検査(手術で摘出した組織の検査)が必要です。「小さいから大丈夫」「硬くないから良性だろう」という自己判断は危険です。しこりを見つけたら、まず動物病院を受診してください。
乳腺腫瘍の原因
乳腺腫瘍は、卵巣からのホルモンが影響を与えていると考えられています。
その根拠として、以下のことが挙げられます。
- 避妊手術を受けていない場合には、年齢が上がるにつれ発生率が高くなる
- 早期避妊手術を受けておくと、乳腺腫瘍の発生率が低くなる

飼い主
乳腺腫瘍って女の子だけがなるんですか?
Dr.Nyan
多いのは女の子ですが、まれに男の子にも発生します
乳腺腫瘍の主な治療法と費用
飼い主
手術は必要ですか?
Dr.Nyan
乳腺腫瘍は手術を行うことが多いけど、よく話し合って決めようね!
乳腺腫瘍の治療を行う前には、以下の検査を行った上で適切な治療を行っていきます。
- 腫瘍やリンパ節に針を刺し細胞診を行う
- 胸部レントゲン検査を行う
- 手術で切除した腫瘍の悪性度を調べる
腫瘍を手術で取り除く
他の組織への転移や炎症性乳癌で無ければ、手術による外科的治療が第一選択となります。これは悪性であっても、良性であっても同じことが言えます。
手術を行うにあたって、切除の範囲には以下の三つがあります。
- しこりの部分だけを切除する
- しこりの周囲の乳腺も一緒に切除する
- しこりのある側の乳腺を全て切除する
良性腫瘍は早期に手術を行うことで、良好な経過をたどります。しかし悪性腫瘍の場合では、切除しても再発することもあります。
再発率を下げるには、広い範囲で切除することが望ましいとされています。手術を行うにあたっては、手術方法を先生とよく相談してください。

抗がん剤を使う
乳腺腫瘍の転移がみられる場合には、抗がん剤を補助治療として使用することがあります。抗がん剤は、病状と健康状態に合わせて使用します。
免疫療法を行う
外科手術や抗がん剤の治療と併せて、樹状細胞療法や活性化リンパ球療法などの免疫療法を行うことがあります。また悪性乳腺腫瘍とわかった段階から、生活の質の維持を目的として活性化リンパ球療法を行うこともあります。
サプリメントを使ってみる
癌細胞の増殖を抑える効果があるとされている、「タヒボ」と言うアマゾン川流域に自生する樹木から見つかったモノがあります。その「タヒボ」を含むサプリメントを服用してみるのも、一つの方法です。
※ タヒボの抗腫瘍効果については近畿大学の研究でも報告されています(近畿大学農学部)。
リスク先生
避妊時期が遅れるほど発生率は大きく上がる
乳腺腫瘍の予防方法
早期に避妊手術を行う
避妊手術は、乳腺腫瘍の発生率を低くするという報告があります。しかし避妊手術を行えば、乳腺腫瘍を完全に予防できるというわけではありません。乳腺腫瘍の予防率を高めるには、避妊手術を行う時期が大切になります。
Dr.Nyan
避妊手術を行う時期が、乳腺腫瘍の発生率に大きく関係するんだよ
- 6ヶ月齢以前では「10%以下」
- 7〜12ヶ月では「 14%」
- 13〜24ヵ月齢では「 89%」
- 24ヶ月齢以降では予防効果なし
この結果から、乳腺腫瘍の発症率を上げないためには6ヶ月齢前までに避妊手術を行うことが望ましいと言えます。
⚡ すでに2歳を過ぎた猫・シニア猫を飼っている方へ:乳腺腫瘍の予防効果は期待できなくなりますが、避妊手術には子宮蓄膿症・卵巣嚢腫など命に関わる他の病気を予防する効果があります。年齢や健康状態によっては手術のリスクも伴うため、かかりつけの獣医師にご相談ください。避妊手術の有無にかかわらず、定期的な触診と検診を続けることが大切です。
体をよく触り乳腺腫瘍を見つけ出す
乳腺腫瘍は、大きさにより病状の経過に影響するため小さなうちに見つけ出すことが重要です。
悪性の乳腺腫瘍の場合には、リンパ節への転移がなく腫瘍の直径が2cmより小さい場合には治療後の経過が良いとされています。
リンパ節への転移がなくても直径が2cm以上にもなると治療の経過が悪くなり、リンパ節への転移があれば平均的な生存期間は9ヵ月と短くなってしまいます。これらのことからも、早期発見の重要性がよくわかります。
【目安】2cmってどのくらい?
1円玉の直径が約2cmです。自宅でしこりを触ったとき、1円玉の大きさを超えていると感じたら、すでに予後に影響が出る可能性があります。1cm(米粒〜小豆大)のうちに見つけることが、愛猫の寿命を左右します。
乳腺腫瘍の多くは乳首の近くに出来ますが、少し離れた場所に出来ることもあります。乳腺腫瘍を早期発見するためにも、日々の生活の中にスキンシップの時間を作ることを心がけてください。
【チェック推奨】猫の乳腺腫瘍を見分ける3つのサイン
自宅でのセルフチェックで、以下のポイントを確認してみてください。1つでも当てはまるようなら、早めに動物病院を受診しましょう。
- 硬さ:脂肪のような柔らかさではなく、パチンコ玉や小石のような硬さがある。
- 可動性:皮膚と一緒に動かず、下の組織に癒着している感じがする。
- 成長速度:数週間で明らかに大きくなっている。
※ 1cm(米粒〜小豆大)で見つけることが、愛猫の寿命を左右します。
飼い主
小さいしこりでも手術した方がいいんですか?
Dr.Nyan
猫の乳腺腫瘍は小さいうちの方が予後が良く、手術範囲も抑えやすくなります。
乳腺腫瘍になりやすい猫
- 避妊手術を受けていない猫
- 中高齢の猫(8〜12歳ごろにピーク)
- シャム猫・シャム系の猫種(発生率が高いとされる)
飼い主
もっと早く気づけたかも…
Dr.Nyan
だから日常の触れ合いが大切なんです
受診の目安
以下のうち1つでも当てはまる場合は、早めに動物病院を受診してください。
- 乳首の周囲にコリッとしたしこりがある
- しこりが1週間以内に急に大きくなった
- 皮膚が赤くただれている・出血している
- 食欲が落ちた・体重が急激に減った
- 呼吸が早い・荒い・咳が続く(肺転移の可能性)
- 後ろ足がむくんでいる・腫れている
特に「しこりが急に大きくなった」「皮膚が破れてきた」「呼吸がおかしい」場合は、進行・転移している可能性があります。様子を見ずにすぐにご相談ください。

飼い主
どのくらいの状態になったら病院へ行けばいいですか?
リスク先生
猫は痛みや不調を隠す動物です。
「元気そうだから大丈夫」は禁物。しこりを見つけたら迷わず受診してください。
猫の乳腺腫瘍でよくある質問
猫のしこりはすべて乳腺腫瘍ですか?
必ずしもそうではありません。猫のしこりには良性腫瘍・脂肪腫・膿瘍・リンパ節の腫れなどもあります。ただし猫の乳腺腫瘍は約80〜90%が悪性とされており、しこりを見つけたら自己判断せず早めに受診することが大切です。
小さくても受診すべき?
はい、必ず受診してください。猫の乳腺腫瘍は1cm未満の段階で発見・手術した場合に最も予後が良く、平均生存期間も延びます。小さいうちほど治療の選択肢が広がります。
痛みはありますか?
初期はほぼありません。
放置するとどうなる?
腫瘍が増大し、皮膚が破れて出血・潰瘍化します。さらに進行するとリンパ節・肺・胸膜・肝臓などへ転移し、最終的には命に関わります。
小さい段階で発見・治療できた症例では、長期生存が期待できるケースもあります。
乳腺腫瘍はどのくらいの速さで大きくなりますか?
猫の乳腺腫瘍は短期間で急速に大きくなることがあります。数週間で変化するケースもあるため、様子見は危険です。
予防できますか?
はい、できます。6ヶ月齢前に避妊手術を行うことで乳腺腫瘍の発生リスクを大幅に下げることができます。ただし完全な予防ではなく、避妊手術済みの猫でも発症することがあります。避妊手術後も定期的な触診を続けることが重要です。
手術しないという選択はできますか?
できますが、推奨はされません。手術しない場合は腫瘍が増大・潰瘍化し、生活の質が大きく低下します。高齢・全身状態が悪い場合など手術が難しいケースでは、抗がん剤・免疫療法・緩和ケアを組み合わせた治療方針を獣医師と相談して決めることになります。
避妊手術を受けていれば乳腺腫瘍にならないですか?
6ヶ月齢前の避妊手術でリスクを大幅に下げることができますが、完全に予防できるわけではありません。また2歳以降の避妊手術では予防効果はほぼ期待できないとされています。避妊手術済みでも定期的な触診・検診は欠かさず行いましょう。
手術後の再発リスクはありますか?
あります。特に悪性腫瘍の場合、切除後も再発・転移の可能性があります。再発リスクを下げるには切除範囲を広くすることが有効とされています。術後は定期検診(3〜6か月ごと)でしこりの有無・肺転移の確認を続けることが重要です。
男の子の猫でも乳腺腫瘍になりますか?
まれですが発症することがあります。特にホルモン異常などが関与する場合があります。
猫・犬の腫瘍関連コラムもあわせてご覧ください:「犬の血管肉腫|突然倒れる・お腹が張る原因と治療」
まとめ
猫の乳腺腫瘍は、約80〜90%が悪性と報告されており、早期発見・早期治療が予後を大きく左右します。日頃のスキンシップで乳首周辺を触る習慣をつけること、そして6ヶ月齢前の避妊手術が最大の予防策です。
「何か変だな」と感じたら、様子を見ずに早めにご相談ください。スキンシップのなかで乳首周辺を定期的に触る習慣が、猫の命を救う第一歩です。
筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

本記事は、佐倉市で犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。