Dr.Nyanのすこやかコラム
飼い主様に伝えたい犬猫の病気や日常ケアについての役立つコラムをお届け♪
犬の子宮蓄膿症|水をよく飲む・お腹が膨らむ・オリモノが出る原因と治療・受診の目安
「最近やたら水を飲むんです」
「お腹も急に膨らんできて……太っただけでしょうか?」
そんな相談で来院された、中高齢の未避妊の女の子。
検査をすると、お腹の中には大きく腫れた子宮が確認されました。
水をよく飲むようになって、お腹周りが太ってきた感じがする。そんな症状がみられたら、子宮蓄膿症の可能性があります。
放置すると命に関わることもあるため注意が必要です。
飼い主
2〜3日前から急に飲む量が増えたんです。
トイレもすごく増えていて……
Dr.Nyan
発情は最近ありましたか?
避妊していない中高齢の女の子では、とても重要な情報なんです。

Dr.Nyan
この黒く押し広げられている部分が、大きく腫れた子宮です。
正常ではここまで見えません。
検査の結果は、お腹の腫れの原因は大きくなった子宮でした。子宮蓄膿症とは『子宮の中に膿が溜まる』病気です。
子宮蓄膿症は病変に気づきやすい病気で、しかも予防できる病気とも言われます。しかし「避妊手術を受けていても、発症する可能性はゼロではない」病気です!
ここでは『子宮蓄膿症』の原因と対処法などについて、Dr.Nyanがわかりやすく説明いたします。
子宮蓄膿症の症状
子宮蓄膿症は、一般的には避妊手術をしていない老齢の雌犬にみられます。しかし5〜6歳の中年齢層でも多く発症するため、未避妊の成犬であれば年齢に関わらず常にリスクがある病気です。
また多くの場合、発情終了後から1ヶ月から2ヶ月前後に発症します。この「ヒート(生理)が終わってから2ヶ月以内」という時期が最も要注意です。最近ヒートがあったかどうかを確認することが、早期発見の大きなカギになります。
子宮蓄膿症は、陰部から膿などのオリモノの出かたにより二つに分けられています。
- オリモノが出ている開放性子宮蓄膿症
- オリモノが全く見られない閉塞性子宮蓄膿症
リスク先生
オリモノが出ていない=軽症、ではありません!
実は「膿が出ないタイプ」の方が、発見が遅れて命に関わります。
閉塞性は気づかれにくい重症型です。
水をいっぱい飲んでオシッコをいっぱいする
子宮蓄膿症になると、水をいっぱい飲んでオシッコをいっぱいするようになります。この症状を「多飲多尿」と言います。

飼い主
お水を飲む量なんて、季節のせいかと思っていました……
Dr.Nyan
実際、とても見逃されやすい症状なんです。
でも中高齢の未避妊犬では、とても重要な変化なんですよ。
多飲多尿を起こしてしまう原因は、子宮の中で増えた細菌の出す毒素です。この毒素により腎臓の機能に障害を起こしてしまい「多飲多尿」となってしまうのです。
リスク先生
急に水を飲む量が増えた、これは子宮蓄膿症で最も多い初期サインの一つです。
つまり子宮蓄膿症の原因となっている細菌の出す毒素により腎臓の機能にトラブルが起こる、そんな怖い病気なのです。

飼い主
お水をいっぱい飲むだけでも、そんな危ない病気のことがあるんですね……
Dr.Nyan
そうなんです!特に避妊していない中高齢の女の子では、急に水を飲む量が増えたのはかなり重要なサインなんですよ。
太ったように感じる
子宮の中の膿が増えると、子宮が大きくなってしまいます。そのため、まるで妊娠したかのようにお腹周りが大きくなったように見えてしまいます。また妊娠とは思わず、太ったと勘違いしてしまうこともあります。
オリモノが出る
開放性子宮蓄膿症の場合には、子宮の入口(頚管)が開いており子宮内に溜まっている膿などが体の外に出てきます。そのため、陰部の周りや後ろ足の毛が膿で汚れてしまいます。
また歩くたびに、ポタポタと膿が落ちてくることもあります。膿は白っぽく甘酒のような感じのモノから、血が混じったようなモノまで様々です。
閉塞性子宮蓄膿症の場合は子宮の入り口が閉じているため、膿が落ちてくることはありません。そのため気がつきにくく、重症化してしまうことも多々あります。

飼い主
オリモノが出ない方が危険なんですか?オリモノが出ていないなら安心かと思っていました……
Dr.Nyan
はい。膿が子宮の中に閉じ込められてしまうので、気づかないまま急激に悪化することがあります。
熱が出てぐったりしている
子宮蓄膿症が進行すると、熱が出たりぐったりすることがあります。子宮蓄膿症で怖いのが、敗血症と子宮の破裂です。
嘔吐や下痢を伴うこともあり、急性胃腸炎や膵炎と間違われることもあります。敗血症とは感染症をきっかけに、あらゆる体内の臓器が機能不全になる病気です。

飼い主
急性胃腸炎みたいに見えることもあるんですね……
Dr.Nyan
そうなんです。
実際にはお腹の病気ではなく、命に関わる感染症が隠れていることもあります。
敗血症になると、子宮の中の細菌が全身に回ってしまっているので発熱やだるさが症状としてでてきます。最悪の場合、死に至ってしまうこともあります。
子宮が大きくなりすぎると耐えきれず、お腹の中で破けてしまうこともあります。子宮が破けてしまうと、子宮の中の細菌がお腹の中に広がります。
また子宮が破裂しないまでも、子宮に小さな穴が開き膿が漏れ出てしまうこともあります。こちらも治療が遅れると、死に至る可能性があります。
リスク先生
「年だから元気がないだけ?」——その思い込みが危険です!
ぐったり・発熱・食欲低下がある場合は、すぐに受診してください。
子宮蓄膿症の原因
飼い主
子宮蓄膿症は卵巣からのホルモンの影響と子宮内への細菌の感染から起こるんだよ。
じゃ原因について詳しく説明するね!
卵巣からのホルモンの影響
発情後に卵巣から分泌されるホルモンは、子宮の内膜に様々な変化を起こさせます。
この変化は受精卵を着床させやすくするものなのですが、その反面感染を起こさせやすくもしてしまいます。
子宮の変化には以下のようなものがあります。
- 子宮内膜を厚く水々しくする
- 子宮の出入り口である子宮頚管を閉じる
- 受精卵の着床を助けるため免疫力を下げる
卵巣の機能障害や腫瘍などから、ホルモンの分泌が異常となることがあります。そのような場合には以下のような症状が見られますので、注意が必要です。
- 発情期間がいつもよりも長い
- 発情周期が不規則である
- 久しぶりに発情し出血も見られる
特に卵巣に腫瘍が発症した場合には、子宮蓄膿症が多く見られます!


子宮内への細菌感染
健康であれば子宮内に入り込んでしまった大腸菌やブドウ球菌などの細菌は、自然に排除されてしまいます。しかしホルモンの作用で子宮頚管が閉じてしまうと、子宮内の細菌は排除されずに溜まり、細菌感染を引き起こします。
また発情後期は受精卵の着床を高めるため、子宮の免疫力が下がっています。そのため感染に対する防御力も低くなり、子宮内は細菌が増殖しやすい状態になっています。
子宮蓄膿症の主な治療法と費用
Dr.Nyan
子宮蓄膿症の治療には、外科的治療と内科的治療の二つの治療方法があります。
血液検査やレントゲン検査、超音波検査で子宮の状態を確認し、治療方法を決めます。
手術で子宮を摘出する外科的治療法
卵巣と子宮を切除するのが一般的な方法です。特に膿が出てこない頸管閉鎖型子宮蓄膿症の場合には、できるだけ早く手術することが重要となります。


Dr.Nyan
開腹すると、破裂寸前まで膨らんでいることもあります。
そのため子宮蓄膿症は“緊急手術”になることが多い病気なんです。
子宮蓄膿症を発症した場合、腎臓や肝臓の障害など様々な合併症を生じていることが多々あります。そのため手術も、リスクが高いものとなります。特に術後は腎不全や貧血が表面化してくることがあり、点滴管理や輸血が必要になるケースもあります。手術後の入院治療・経過観察が非常に重要な理由はここにあります。
また腎臓や肝臓の障害が、手術後に腎炎や肝炎として表面化してくることもあります。つまり子宮蓄膿症は手術すれば終わりではなく、手術後も治療を続ける必要がある病気なのです。また治療のかいなく、亡くなってしまう場合もあります。
投薬などの内科的治療法
手術を行うには、全身の状態が悪すぎることもあります。
そのような場合には投薬などの内科的な治療を行い、状態の一時的な回復を待ち手術を行うこともあります。また子宮の摘出手術を望まない場合にも、同様に内科的な治療を行うこともあります。
内科的治療としては、膿を排泄させる処置として子宮を収縮させるために薬や抗生物質の投与や輸液を行います。ちなみに子宮を収縮させる処置は、膿が出てる場合にのみ行います。
内科的治療後、回復しても次回の発情後に再発することがあります。そのため治療後も気を抜かず、引き続き経過を観察していきます。また全身の状態が良いのであれば、子宮を手術で摘出することを考えることも必要と思います。
子宮蓄膿症の治療費
子宮蓄膿症にかかってしまった場合、どのくらいの治療費がかかるのでしょうか?
子宮摘出手術だから、やることは普通の避妊手術と同じだろうと思われる方もいるかと思います。しかし内容が全く違います。
普通に行う避妊手術は、健康状態が良好な時に行われます。しかし子宮蓄膿症の手術は、健康の状態の悪い状態で行います。最悪は、腎炎や肝炎などの合併症を伴う中での手術となってしまうこともあります。
費用は合併症が起こらない場合でも、10万円を超えてしまいます。合併症を伴うようになると、さらに高額になってしまいます。
やはり症状的にも経費的にも、避妊手術は早期に行うことが望まれます。

飼い主
普通の避妊手術と同じくらいかと思っていました……
Dr.Nyan
子宮蓄膿症では、点滴・血液検査・入院管理が必要になることも多く、治療内容が大きく変わるんです。
子宮蓄膿症の予防方法
子宮蓄膿症は、犬の病気の中でも多い病気とされています。
避妊手術を受ける
子宮蓄膿症の最も確実な予防は、避妊手術を受けることです。元気なうちに受ける避妊手術は、将来の命を守る最大のプレゼントとも言えます。また避妊手術は発情時期のストレスを減らすだけでなく、乳腺腫瘍の発症予防にもなります。
ちなみに避妊手術を受けていても、子宮の一部が残っている場合があります。その場合には「断端子宮蓄膿症」として発症することがあります。
避妊手術を望まない飼い主さんは「早期発見を心がける」
妊娠出産を望んでいる場合や、避妊手術のリスクを心配し手術を望まないこともあると思います。
現状では、子宮蓄膿症の絶対的な予防方法はありません。そのため子宮蓄膿症をできるだけ早期の段階で発見し治療を行うことが、併発症の発症と重症化への予防となります。
子宮蓄膿症が発症しやすい時期には、特に初期症状に十分に気をつけて下さい!
子宮蓄膿症を起こしやすい犬種
- 5歳以上の犬
- 避妊手術を受けていない犬
- 出産経験がない高齢犬
よくある質問
犬が水をよく飲むのは子宮蓄膿症のサインですか?
はい、可能性があります。子宮蓄膿症では細菌の毒素により腎臓の機能が低下し、多飲多尿(たくさん水を飲み、尿の量が増える状態)が見られることがあります。
犬のお腹が膨らんでいるのは太っただけではないのですか?
子宮蓄膿症では子宮の中に膿が溜まり、子宮が大きくなることでお腹が膨らんで見えることがあります。妊娠や肥満と間違えやすいため注意が必要です。
子宮蓄膿症の主な症状は何ですか?
多飲多尿、お腹の膨らみ、元気がない、発熱、食欲低下などが見られます。開放性の場合は陰部から膿のようなオリモノが出ることもあります。
オリモノが出ていない場合でも子宮蓄膿症の可能性はありますか?
はい、あります。子宮の入口が閉じている「閉塞性子宮蓄膿症」ではオリモノが見られないため、気づきにくく重症化しやすい特徴があります。
子宮蓄膿症はどの犬に多い病気ですか?
避妊手術をしていない中高齢のメス犬に多く見られます。特に発情後1~2ヶ月の時期に発症しやすいです。
子宮蓄膿症の原因は何ですか?
発情後のホルモンの影響で子宮の免疫力が低下し、そこに細菌感染が起こることで発症します。ホルモンと細菌の両方が関与する病気です。
子宮蓄膿症の治療方法は何ですか?
主に子宮と卵巣を摘出する手術(外科的治療)が行われます。状態によっては投薬などの内科的治療を行う場合もあります。
子宮蓄膿症を放置するとどうなりますか?
敗血症や子宮破裂を引き起こし、命に関わる危険な状態になることがあります。早期発見と早期治療が非常に重要です。
子宮蓄膿症は予防できますか?
最も有効な予防方法は避妊手術です。手術を行うことで発症リスクを大きく下げることができます。
どのタイミングで動物病院を受診すべきですか?
水をよく飲む、お腹が膨らむ、元気がない、オリモノが出るなどの症状が見られた場合は、すぐに動物病院を受診してください。
子宮蓄膿症はどのくらい緊急性がありますか?
子宮蓄膿症は敗血症や子宮破裂を起こすことがあり、命に関わる緊急疾患です。特に元気消失・発熱・食欲低下・嘔吐を伴う場合は、早急な受診が必要です。
今すぐチェック!こんな症状があったらすぐ病院へ
- 急に水を飲む量が増えた(特に発情後2ヶ月以内)
- お腹が急に膨らんできた、または太ったように見える
- 陰部からオリモノや膿が出ている
- 元気がない・食欲が落ちた・ぐったりしている
- 熱っぽい・嘔吐や下痢がある
まとめ
子宮蓄膿症は全身的な合併症を起こしやすく、しかも命も奪われやすい病気です。しかし避妊手術で、予防ができる病気でもあります。
もし全身麻酔や手術の内容などで、気になることがありましたらご相談ください。当院では痛くない手術を心がけています!
・急に水をよく飲む
・お腹が膨らむ
・オリモノが出る
・元気がない
このような症状がある場合は、早めに受診してください。
筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

本記事は、犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。
特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。
また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。