若山動物病院ブログ
犬と猫の膵炎の違い
犬と猫の膵炎では、その治療法には大きな違いがあります。
その一つが「食事の制限」です。
犬では膵炎の治療中に、食事の制限として『絶食』が行われることがあります。
しかし猫では『食事の制限は行わず』適切な栄養補給を続けます。
この違いは、何故でしょう?
それはカラダの仕組みや、代謝の違いからなんです。
猫が病気になった時には、食べさせながら治すことが重要となる動物です!
だから当院では入院して治療を行う場合には、退院する時には少なくとも入院時と同じ体重か増えてるように努力しています。
その理由について、昨日に続いて説明します。
膵臓の働き
そもそも膵臓は、どのような働きをしているのでしょうか?
膵臓の主な働きは、以下の2つになります。
消化酵素の分泌
食べ物を消化するために必要な酵素(リパーゼ、アミラーゼなど)を小腸に送り込む。
ホルモンの分泌
血糖値を調整する、インスリンなどのホルモンを分泌する。
膵炎のとき犬は食事制限をする
犬の膵炎の特徴
膵臓の主な働きは、食べ物を消化するための酵素を分泌することです。
しかし膵炎になると、この酵素が膵臓内で活性化され膵臓自体を傷つけてしまうことがあります。
つまり犬の膵炎は、膵臓が自分自身を攻撃してしまうことがあるってことなんです。
フードを与えるとどうなるのか
食事を摂ると、膵臓は食べたモノを消化を助けるために酵素を分泌します。
膵炎を起こした場合には、酵素が異常に分泌され膵臓自体を消化してしまう「自己消化」という状態に陥ります。
その結果、膵臓の傷ついた場所から消化酵素が漏れ出してしまい、周囲の臓器や脂肪組織にも炎症を引き起こします。
これにより、腹膜炎やその他の合併症のリスクが高まってしまうのです。
膵臓を休ませる
膵炎の治療では、膵臓を「休ませる」ために絶食を行うことがあります。
この絶食には、以下のような目的があります。
膵臓の負担を減らす
酵素の分泌を抑え、膵臓の負担を軽くします。
膵臓が安静な状態を保つことで、自己消化の悪循環を断ち切り損傷した組織が修復されやすくなります。
このように膵臓を休ませることで、膵臓の酵素分泌が抑えられ膵炎の回復が促されます。
また犬は比較的、絶食や食事の制限にも耐えられる動物です。
そのため数日程度の短期間の絶食を行っても、健康状態が急激に悪化することは少ないとされています。
このような理由から、犬の膵炎治療では絶食や食事の制限を行うことが一般的な対応策となっています。
フードの再開は低脂肪食で
長期間の絶食は栄養不足や体力低下につながるため、症状が安定した段階で少量の低脂肪食から再開します。
低脂肪食は膵臓の働きを最小限に抑えることができるフードです。
ただ絶食は、すべての犬に適しているわけではありません。
膵炎の重症度や犬の個体差によって、少量の食事を与えながら治療を進める場合もあります。
特に慢性膵炎の場合には体力の低下や健康問題を引き起こすこともあるため、適切な食事が選ばれます。
猫では食事制限をしないのは?
猫は犬とは異なる代謝の仕組みを持っており、食事の制限や絶食は非常に危険です。
その理由は、犬とは違う猫の代謝からです。
肝リピどーシスの怖さ
猫が食事を摂らないと、体はエネルギー不足を補うためにカラダに蓄えられた脂肪をエネルギー源とします。
しかし猫の肝臓は脂肪を効率的に処理する能力が高くはありません。
そのため脂肪が肝臓に蓄積してしまう「肝リピドーシス(脂肪肝)」という深刻な状態に陥ることがあります。
この病気は治療をしなければ命に関わる、とても怖い病気です!
猫の膵炎の特徴
さらに猫の膵炎は犬と異なる特徴を持っています。
猫では膵炎が慢性的に進行することが多く、膵臓の消化酵素分泌がそれほど活発にならない場合もあります。
そのため膵臓を「休ませる」ために行う食事の制限としての絶食は必要としません。
むしろ膵炎の治療中も、ある程度の食事を与え続けることで「カラダの代謝バランスを維持」することが重要になります
食事の工夫
膵炎の猫に与える食事は、消化が良く胃腸に負担をかけないものが選ばれます。
必要であれば、流動食や療法食を使用します。
また猫が自力で食べない場合には、強制給餌やチューブ給餌(経鼻カテーテルや胃瘻チューブなど)を行うこともあります。
これにより、膵炎の治療中も肝リピドーシスの発症を予防します。
このように食事の制限は、猫では肝リピドーシスのリスクがあり肝臓に脂肪が蓄積し命に関わることがあります。
そのため、食事の制限ができません。
また猫の膵炎では膵臓の消化酵素分泌が大きな問題となることが少ないため、適切な栄養補給が治療の中心となります。
まとめ
犬の膵炎治療では、膵臓への負担を減らすために一時的な絶食が有効とされています。
しかし猫の場合は絶食が命に関わる別のリスクを伴うため、食事を制限せず栄養を補給し続けることが最優先となります。
このような違いは、犬と猫の代謝の仕組みや消化器の生理的な特徴によるものとされています。