Dr.Nyanのすこやかコラム
飼い主様に伝えたい犬猫の病気や日常ケアについての役立つコラムをお届け♪
【肥大型心筋症】猫の肥大型心筋症とは?症状や治療法を解説
飼い主さんにとって怖いのは「症状がよくわからず、しかも気が付いたときには病状が進んでしまっていた」そんな病気です。
猫で、このようなことが起こりうる病気の1つに「肥大型心筋症」があります。
肥大型心筋症は、左心室の筋肉が分厚くなって異常がおこる病気です。
心臓は全身に血液を送り出す、ポンプのような働きをしています。
その心臓の筋肉が分厚くなってしまうと、心臓がうまく動かずに血液の流れも悪くなってしまいます。
発症すると怖い「肥大型心筋症」の原因や対処法などについて、Dr.Nyanがわかりやすく説明します
心臓病になったら、死んでしまうのかしら?
なんか急に心配になってきちゃったわ・・・
心臓病になったからって、即命に関わるわけでは無いんだよ!
早めに見つけ出して治療していけば、大丈夫!
そうなんですね!
じゃ〜健康診断で早めに見つけてあげなくちゃ!
そして治療すれば、長生きできるっんですもんね!
肥大型心筋症の症状
肥大型心筋症って、どんな症状がでるのかしら?
外見状健康に見える猫ちゃんでも、その多くに肥大型心筋症があったとの報告があります。
つまり健康に見えても、肥大型心筋症に罹っていることもあるので注意が必要です。
【Stage A】無症状で経過
初期の症状はわかりにくく、無症状なこともしばしばです。
そのため無症状に見える猫ちゃんでも、肥大型心筋症である場合が15%もあったとの報告もあります。
無症状でも心臓の状態が悪化すると、徐々に心臓の動きが悪くなってきます。
ただ病状の進行がゆっくりな場合には、体調の変化に気づかないことが多いのが特徴です。
【主な初期症状】
- 無症状
- 心雑音が聞こえる
- 心拍数が増える
初期の段階で無症状なのは「血液の流れる量」に理由があります。
心臓に肥大がが起こると心臓の働きが悪くなり、心臓の中を流れる血液に逆流が生まれます。
逆流を起きると血液が正常に流れません。そのため心臓から送り出される血液の量が、減ってしまいます。
そこで心臓は血液を全身に流そうとして心拍数を増やし一生懸命に頑張るため、体の中を流れる血液の量が増えていきます。
初期ではこのように血液に逆流が起きても体全体には血液が十分に流れています。
そのため不調が見られないか、不調があっても確認しづらいのです。
【Stage B】様々な症状が出てくる
心臓の左心室が分厚くなるため、心室の容積が減ってしまい血液の流れが悪くなってきます。
その結果、血液をいっぱい流すために心臓の拍動が速くなり、心臓の酸素消費量が増えてしまいす。
しかし心臓に酸素が供給されないままだと心筋が酸素不足となってしまい、心臓の細胞が死んでしまいます。
その結果、心臓の機能の悪化と不整脈が生じ肺水腫など、様々な症状が徐々に見られるようになってきます。
肺水腫について説明しましょうね!
血液を送り出すのに頑張っていた心臓が徐々に疲れると、血液を送り出す力も徐々に弱まっていきます。そうなると心臓が疲れ、送り出せない血液は心臓の中に溜まり心臓は膨らんでしまいます。その結果心臓に溜まった血液は肺へと逆流し、また肺の毛細血管の中にも血液が溜まりだしてしまいます。
そうなると毛細血管は血液でパンパンになり、血液の中の水分が肺の組織の中にまで溢れ出てくるようになります。その結果、呼吸をするときに空気の入る肺胞と言う部分にも水分が溜まりだしてしまいます。
この状態になると、肺は酸素がうまく取り込めなくなってしまいます。また体の中に溜まった二酸化炭素も肺から放出できず、体の中に増えてしまいます。
いわゆるこれが「肺水腫」です。
また心臓が体に必要な血液を送り出せなくなる、「心不全」の状態にもなってしまいます。
【心不全の症状】
- 心拍数:1分間に200回以上
- 呼吸数:1分間に80回以上
- 体温:37.5℃未満
【Stage C】肺水腫や心不全を起こす
肺水腫や心不全を起こしてしまい、体を動かすのも辛い状態となります。
心臓が悪いと眠くても横になれないことありますよね?
それはね横になると体の中の血液の流れが良くなり、肺の中を流れる血液も増えてしまうのね。
しかし心臓からの逆流もあるので肺の中の血液が思うように流れないので、肺のうっ血が強まり呼吸が辛くなってしまうからなんだよ!
心臓が悪くなると、他の臓器にも影響が出ちゃうのかしら?
そうね!
血液の流れが変わるので、肺や腎臓の働きにも大きな影響が出ることがあるんだよ!
だから心臓の病気は、早期発見が大事なんだ。
【肺水腫の症状】
- 動こうとしない
- 浅くて早い呼吸をする
- 唇や舌などの粘膜が紫色になる
- 呼吸困難となる
【Stage D】末期症状となる
徐々に病状が進行すると、肺水腫や心不全などの命にかかわる危険な状態に陥ってしまいます。
また大動脈血栓症が突然発症し、血栓が後ろ足に詰まってしまい強い痛みを訴えることもあります。
しかも血栓が詰まった場所よりも下の部分では血が通わなくなってしまうと、そこに麻痺や足先が冷たくなるなどの症状が見られるようにもなります。
大動脈血栓症は【Stage C】でも見られることがあります!
【大動脈血栓症の症状】
- 急に元気がなくなり、もがき苦しむ
- 口を開け早い呼吸をする
- 後ろ足に麻痺が起こり、歩けなくなる
- 後ろ足が冷たく爪を切っても出血しない
- 股動脈に触れることができない
肥大型心筋症の原因
肥大型心筋症の原因について確認していくよ。
タウリンの欠乏
この「肥大型心筋症」は、タウリンの欠乏が関与しているのでは言われています。
タウリンについて説明しましょうね!
タウリンは心筋の収縮力を維持し、心臓の細胞を安定させる働きを持っています。
ヒトではタウリンを体内で合成されますが、猫ちゃんでは合成することができません。
そのためタウリンは食べ物から摂る必要があるため、猫ちゃんの必須栄養素の一つとなっています。
なぜ体内で合成する必要がないのかは、猫ちゃんの食性からわかります。
猫ちゃんは肉を主食としていますが、その肉にはタウリンが多く含まれています。
そのためタウリンは肉から十分に摂れるために、体内で合成する必要がなかったからなのです。
このことから猫ちゃんのフードには、必ずタウリンが入っていなくてはなりません。
タウリンは水に溶けやすい性質を持っています。
そのためタウリンをたくさん摂ったとしても、不要な分はオシッコの中に出てしまいます。
もし肉を煮て与えるなら、煮汁にタウリンが出てしまうので煮汁を飲ませてあげましょう!
タウリンは心臓だけでなく、血圧や血糖値の維持、肝臓の解毒作用、眼や脳の働きなど様々な働きに関係しています。
遺伝的要因
肥大型心筋症を起こす猫ちゃんにの一部には、遺伝子の突然変異が認められることがあります。
ただ遺伝子の変異がない猫ちゃんにも肥大型心筋症は多く発症します。
そのため遺伝子の変異を持たない猫ちゃんは発症しないわけではありません。
甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症は、甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンの分泌が過剰になり起きる病気です。
高齢の猫ちゃんに多い病気で、「元気や食欲があるのに痩せてくる」という特徴的な症状が見られます。
甲状腺機能亢進症は一見健康そうなため、病気とは思わず気が付くのが難しいとされます。
ただ治療により、健康に暮らすことができます!
歳を取ったのに、やたら元気な場合には甲状腺機能亢進症を疑うこともあります。
肥大型心筋症の主な治療方法
肥大型心筋症の疑いがあっても、あせらず治療をしていきましょう。
残念ながら、肥大型心筋症を治す治療方法はありません。
そのため内科的な対症療法を行うことが、重要な治療となります。
また治療の効果も様々で、急速に進行してしまう場合もあります。
心筋の肥厚は、高血圧が引き起こされた結果によっても起こります。
そのため治療にあたっては、心臓の状態や他の疾患について調べることが大切です。
検査を行う
身体検査
心雑音の確認を行いますが、肥大型心筋症に罹っても心雑音があるのは約半分とも言われます。
そのため聴診で異常が認められなくても、心肥大の可能性は否定できません。
血液検査
心臓以外の臓器の状態を確認する必要があります。
例えば慢性腎不全や甲状腺機能亢進症に罹っている場合では、その治療をすることで心筋の肥大が改善することがあります。
肥大型心筋症では、心臓マーカーであるNT-proBNPの検査を行うことで病態把握に役立ちます。
また投薬により検査値に影響が出ることもあるため、治療の際には注意しながら検査を行います。
レントゲン検査
胸部レントゲンでは心臓の大きさ、肺や気管、血管の状態、また胸水が出ていないか、肺水腫が起こっていないかの確認を行います。
超音波検査
超音波検査は心筋の状態や、心臓の拡張と収縮などを検査することができます。
肥大型心筋症では左の心室の壁が厚くなり、その壁が拡張末期で6mm以上となります。
また左心房の拡大や血栓の有無、血液が大動脈から全身に送り出される際の血流が乱れなども調べます。
血圧検査
高血圧によっても心筋の肥大が認められるため、血圧を測ります。
心電図検査
様々な不整脈が認められることがある為、心電図検査を行います。
【Stage A】心臓の状態や進行状況を確認する
現在心筋症に罹ってはいないが、心筋症に罹患する素因がある場合です。
治療の必要はありませんが、半年に1回は血液検査や胸部のレントゲン検査、心臓の超音波検査を行う事をお勧めします!
【Stage B】治療を開始する
心筋症には罹ってるが、まだうっ血性心不全や大動脈血栓塞栓症が発生していない状態です。
場合によっては、食事療法と投薬を始めます。
B1
左の心房の大きさが正常か、軽度に肥大している状態です。
基本的にはまだ投薬は開始しないで経過を観察しますが、半年に1回は心臓の超音波などの検査を行う必要があります。
B2
左の心房の大きさが中程度から重度に肥大している状態です。
動脈血栓塞栓症のリスクがより高ければ抗血栓療法を行う必要があります。
投薬や食事療法を行います。
- フード:ナトリウムを制限した心臓病食
- 高圧剤:血管を拡張させて血圧を下げ、血液を循環しやすくする
- 強心薬:心不全の症状を軽くする
【Stage C】治療をする
うっ血性心不全や動脈血栓塞栓症が現在、もしくは過去に発生したことがある場合です。
急性期
症状が急に悪化し肺水腫を起こした場合には入院し、利尿剤や強心剤を投薬し酸素療法など集中治療とが必要になります。
胸水が溜まっていれば抜き、肺水腫と同様の治療を行います。
症状が改善しても投薬は継続し、定期的に心臓と腎臓の検査を行い日々の状態を日記につけ記録しておくことが大切です。
慢性期
重症度に合わせた投薬を行います。利尿剤の使用
【Stage D】積極的な治療をする
投薬しても症状が不安定なため、その状況に応じた治療を行います。
- 酸素吸入:呼吸を楽にする
- 利尿剤:心臓の負担を減らし、肺に溜まっている水分を取く
- 強心薬:全身の血液の流れを改善し肺水腫を軽くする
肥大型心筋症の予防方法
そもそも肥大型心筋症って防げるの?
基本的には予防をすることが難しい病気です。
そのため定期的な検査を行い、早期に発見することが重要になります。
タウリン欠乏
現在市販されている猫ちゃん用のフードには、タウリンが含まれています。
そのためきちんと食べている場合には、タウリン欠乏症にはなりずらいと言えます。
ただ手作り食の場合には、タウリンの含有量に気をつけなければなりません。
食餌療法
うっ血性心不全や高血圧症の発症リスクを減少させるため、低ナトリウムの療法食を食べさせます。
ただ猫の心臓病用の療法症は無いため、ヒルズやロイヤルカナンなどの腎臓病用の療法食を使用します。
市販のフードや猫用のオヤツは、なるべく避けるようにします。
定期的な健康診断を受ける
心筋症は通常行っている健康診断では発見が難しい病気です。
そのため、心臓マーカーであるNT-proBNP等の検査を行うことが大切です。
この検査は、定期的な血液検査の時に追加して行うことができます。
特に好発種や中高齢の猫ちゃんでは、症状がなくても半年に1回は心臓の超音波検査を受けることが理想的とも言えます。
心臓病になると、腎臓の機能も悪くなってしまうことがあります。
そのため腎臓の機能検査を行うことも必要になります。
逆に言えば、腎臓の機能が悪くなってしまってる場合には心臓の検査も受けておくことが大切です!
心臓の病気にかかると腎臓にも影響がでる理由
心臓の機能が落ちると血液の流れが悪くなつため、心臓は頑張って血液の流れをよくしようとします。
その結果・・・
血圧が上がり動脈の血管の壁が硬くなると同時に、腎臓の血管も硬くなります。
そうなると腎臓に流れる血液の量が減り、腎臓の機能が落ちてしまいます。
肥大型心筋症になりやすい猫種
以下の猫種は要注意ですよ!
上記であげた予防方法をぜひ実践してあげてください。
- メイン・クーン
- ラグドール
- ノルウェージャン・フォレスト・キャット
- アメリカンショートヘア
- ブリティッシュ・ショートヘアー
- スコティッシュ・フォールド
まとめ
「肥大型心筋症」は症状が無くても、15%の猫ちゃんが罹っていると言われている病気です。
しかも症状がわかりづらいため発見も遅れ、また発症してしまうと亡くなってしまうことも多い病気です。
当院では早期発見はもちろんのこと発症しても楽しく暮らせるよう、スタッフ一同お手伝いさせて頂きます。
治療内容や疑問等、ご不明なことはご相談は下さい!