Dr.Nyanのすこやかコラム
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犬の急性大腸炎|血便・粘液便・頻回排便の原因と治療
本記事は、Dr.Nyan症例集「犬の消化器疾患編」の一部です。実際の診療症例をもとに、犬の急性大腸炎の原因と対応についてわかりやすく解説しています。
「急に何度もトイレに行く」「血便やゼリー状の便が出る」「排便しようとしても少ししか出ない」
こうした症状が突然起きたとき、急性大腸炎を疑う必要があります。犬の消化器疾患の中でも非常に多く、適切に対処すれば多くは数日で回復しますが、放置すると重症化することもあります。
【症例】こんな犬が来院しました
飼い主
4歳のラブラドールです。昨日の夜から急に血便が出て、今朝も何度もトイレに行っています。元気はあるんですが…。
Dr.Nyan
頻回の排便・粘液血便・しぶり腹が見られます。触診で結腸に過敏性があり、急性大腸炎と診断しました。

絶食・点滴・整腸剤・抗生剤の治療を開始し、2〜3日で症状が改善。その後は消化のよい食事に切り替えて徐々に回復しました。
急性大腸炎とは?

飼い主
下痢なのに元気ってこともあるんですか?
Dr.Nyan
はい。大腸炎は元気や食欲が保たれていることも多く、血便だけが目立つことがあります。
急性大腸炎は、大腸(結腸・直腸)に炎症が起きた状態です。大腸は便を形成し水分を吸収する役割を持っているため、炎症が起きると水分吸収がうまくいかず下痢が起きます。
急性大腸炎の特徴は「頻回の排便(1日に何度もトイレに行く)」「少量ずつ出る」「粘液・血液が混じる」「しぶり腹(排便しようとしても出ない)」の4つです。元気・食欲がある場合でも、血便が続く場合は早めの受診が必要です。
Dr.Nyan
急性大腸炎は「元気はあるのに血便が出る」というパターンが多いです。元気があるから様子を見ようと放置すると悪化することがあります。
数日で改善する急性大腸炎だけでなく、3週間以上下痢が続く、または何度も繰り返す場合は「慢性腸症(CE)」が疑われることがあります。その場合は単なる下痢止めではなく、療法食による食事管理、便検査、血液検査、超音波検査、内視鏡検査などで原因を詳しく調べる必要があります。
症状

飼い主
何度もトイレに行くのはなぜですか?
Dr.Nyan
大腸に炎症があると便意を強く感じるため、少量ずつ何度も排便しようとします。
大腸炎の典型的な症状
- 頻回の排便(1日に何度もトイレに行く)
- 粘液便・血便(便に赤い血液・ゼリー状の粘液が混じる)
- しぶり腹(排便の姿勢をとるが少量しか出ない、または出ない)
- 軟便〜水様便
- 腹部不快感・お腹が鳴る

血便の色でわかること
血便には、赤い血が混じる「鮮血便」と、黒くタール状になる「黒色便(メレナ)」があります。鮮血便は出口に近い大腸や直腸の炎症で見られることが多く、急性大腸炎でもよく認められます。一方、黒色便は胃や小腸など、より奥の消化管からの出血を示すことがあります。受診時には、便の色・量・粘液の有無・回数を伝えると診断の助けになります。
Dr.Nyan
赤い血が少し混じる場合は大腸炎で見られることがあります。ただし、黒くベタつく便や出血量が多い場合は、胃や小腸からの出血も考える必要があります。
重症サイン(すぐに受診)
- 元気・食欲が明らかになくなった
- 嘔吐を繰り返す
- 脱水症状(皮膚の弾力がない・目がくぼむ)
- 腹部が張っている・触ると痛がる
- 24時間以上改善しない・悪化している
特に若い犬では、下痢や嘔吐の原因が腸炎ではなく、おもちゃ・布・ひも・果物の種などの異物誤飲による腸閉塞であることがあります。吐き気が止まらない、お腹を触ると嫌がる、ぐったりする、便が出ないなどの症状がある場合は、外科的な対応が必要になることもあります。
リスク先生
出血量が多い・元気がない・嘔吐を繰り返す・お腹を痛がる場合は、単純な大腸炎ではなく、異物誤飲や腸閉塞など重篤な疾患の可能性があります。すぐに受診してください。
急性大腸炎の原因
急性大腸炎の原因は大きく分けて以下の4つに分類されます。
食事性(最多)
拾い食い・食べすぎ・急な食事の変更・傷んだものを食べた場合などに起きます。犬は食べてはいけないものでも口にしてしまうことが多く、これが最も多い原因です。
ストレス性
環境の変化・旅行・来客・花火などのストレスで腸が過敏になり炎症を起こします。「ストレス性大腸炎」とも呼ばれ、緊張しやすい犬に多く見られます。
感染症・寄生虫
パルボウイルス・コロナウイルス・カンピロバクター・サルモネラなどの感染、またはジアルジア・鞭虫などの寄生虫感染で大腸炎が起きます。子犬や免疫力の低い犬では重症化しやすいです。
炎症性腸疾患(IBD)
免疫の異常で腸に慢性的な炎症が起きる「炎症性腸疾患(IBD)」が原因のことがあります。急性大腸炎を繰り返す場合や治療に反応しない場合は内視鏡検査による精密検査が必要です。

Dr.Nyan
大腸炎を繰り返す場合はIBDや腫瘍の可能性もあります。1回で終わらず再発を繰り返す場合は精密検査をお勧めします。
診断方法

飼い主
検査しないとわからないんですか?
Dr.Nyan
多くは症状と触診で診断できますが、繰り返す場合は検査が必要になります。
問診・触診・便検査を基本に、必要に応じて血液検査・レントゲン・超音波検査を行います。繰り返す場合や重症例では内視鏡検査で大腸の状態を直接確認します。




治療法
絶食・消化管の休息
軽度〜中等度の場合は12〜24時間の絶食が基本です。腸を休ませることで炎症が回復しやすくなります。水分は与えて構いません。ただし子犬・老犬・基礎疾患のある犬は低血糖のリスクがあるため、必ず獣医師の指示に従ってください。

薬物療法
- 整腸剤・プロバイオティクス(腸内環境を整える)
- 抗生剤(細菌感染・二次感染の予防)
- 止瀉薬(重症例では使用)
- 点滴(脱水・電解質バランスの補正)
食事管理
絶食後は消化のよい低脂肪フード(ゆでた鶏肉・白米など)を少量ずつ与えます。その後7〜10日かけて徐々に通常のフードに戻します。急な食事変更はしないようにしてください。
Dr.Nyan
絶食中も水は飲ませてください。脱水が進むと病状が悪化します。食欲が戻ってきたらまず白米・鶏肉など消化のよいものから始めましょう。
予防方法
- 拾い食いをさせない(散歩中のリード管理)
- フードを急に変えない(7〜10日かけて徐々に切り替える)
- 食べすぎ・おやつの与えすぎを避ける
- ストレスの少ない環境づくり
- 定期的な検便で寄生虫感染を確認する
- 混合ワクチン・フィラリア予防の継続
Dr.Nyan
フードの切り替えはゆっくりと。急な変更は腸に大きな負担をかけます。新しいフードは10日以上かけて少しずつ増やしてください。
こんな症状があれば早めに受診を
| 症状 | 受診の目安 |
|---|---|
| 血便・粘液便が1回出た | ⚠️ 早めに受診 |
| 1日に3回以上の下痢・頻回排便 | ⚠️ 早めに受診 |
| 元気・食欲が低下してきた | ⚠️ 急いで受診 |
| 嘔吐も伴っている | ⚠️ 急いで受診 |
| 24時間以上改善しない・悪化 | ⚠️ 急いで受診 |
| 脱水が疑われる・ぐったりしている | ⚠️ 直ちに受診 |
よくある質問
血便が1回出ただけでも受診が必要ですか?
はい。血便は軽い大腸炎から重篤な疾患まで様々な原因で起きます。1回でも元気・食欲が正常であれば早めに受診し、原因を確認することをお勧めします。
自然に治ることはありますか?
軽度の食事性大腸炎は絶食で24〜48時間以内に改善することがあります。ただし血便・嘔吐・元気消失を伴う場合は必ず受診してください。
何を食べさせればいいですか?
12〜24時間の絶食後、ゆでた鶏胸肉と白米(脂質少なめ)を少量ずつ与えます。市販の消化器サポートフードも有効です。獣医師に相談してください。
大腸炎を繰り返す場合はどうすればいいですか?
炎症性腸疾患(IBD)・食物アレルギー・腸内寄生虫・腫瘍などの可能性があります。内視鏡検査や病理検査で原因を特定する必要があります。
子犬の下痢は危険ですか?
はい。子犬は体が小さく脱水が急速に進みます。また感染症(パルボウイルスなど)のリスクも高いため、下痢が続く場合はすぐに受診してください。
血便が赤い場合と黒い場合で違いはありますか?
はい。赤い血が混じる場合は大腸や直腸の炎症で見られることが多く、急性大腸炎でもよくあります。一方、黒くタール状の便は胃や小腸など上部消化管からの出血を示すことがあり、より注意が必要です。
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まとめ
「急に血便・粘液便が出た」「何度もトイレに行く」「しぶり腹がある」——これらが重なったとき、急性大腸炎を疑ってください。
元気があっても油断は禁物です。血便や頻回排便がある場合は「様子見」ではなく早めに受診し、原因を確認することが大切です。繰り返す場合は精密検査で原因を突き止めましょう。
数日で改善することも多い病気ですが、繰り返す場合や長引く場合は慢性腸症(CE)や炎症性腸疾患(IBD)などの精査が必要になることがあります。
Dr.Nyan
「なんか変かも」と感じたらお気軽にご来院ください。
筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

本記事は、犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。
特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。