犬が急にケンケン歩きに…膝蓋骨脱臼の症例|症状・原因・治療と受診の目安

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犬が急にケンケン歩きに…膝蓋骨脱臼の症例|症状・原因・治療と受診の目安

実際に来院された症例です。
「走っていたら急に片足を上げて歩くようになった」と来院された犬。
診察の結果、膝蓋骨脱臼が確認されました。

本記事では、当院で多く見られる膝蓋骨脱臼の症例をもとに解説します。
※複数の症例をもとにまとめた内容です。

飼い主

走っていたら急に片足を上げて歩くようになったんです

Dr.Nyan

膝蓋骨脱臼の可能性がありますね。診てみましょう

膝蓋骨脱臼で後ろ足を上げている犬の症例

左足の膝がズレてしまい足を浮かせています。

犬の関節の病気でよく見られるのが『膝蓋骨脱臼』です。膝蓋骨脱臼とは、膝蓋骨が本来あるべき位置からズレて膝の関節が正常に動かなくなってしまう病気です。

膝蓋骨脱臼の初期は痛みが無く病変に気づきにくいのですが、気をつければ重症化を防げる病気でもあります。ここでは『犬の膝蓋骨脱臼』の原因と対処法などについて、Dr.Nyanがわかりやすく説明いたします。

目次

膝蓋骨脱臼の症状

Dr.Nyan

膝蓋骨脱臼をしてしまうと以下のような症状が見られるよ!

  • 膝からパキパキと音がする
  • 片足を上げている
  • 脚を触ると痛がる
  • 散歩中に急にケンケンして歩く

膝蓋骨脱臼の初期は、歩き方に異常が見られない限り気がつきにくいものです。しかし脱臼したままの状態でいると膝の骨の変形や関節炎を起こしたり、靭帯を痛めてしまいます。

その結果症状が進み足を浮かせる時間も長くなり、最終的には足を全く着かない状態へとなってしまいます。

飼い主

せんせい〜膝蓋骨って何?

Dr.Nyan

そっか!
じゃ〜膝蓋骨についてチョット説明するね!

膝の関節は、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)、膝蓋骨(膝のお皿)の三つの骨からできています。
下の写真を参考までにご覧ください!

犬の膝関節の構造(大腿骨・脛骨・膝蓋骨)

関節より上の方が大腿骨、下の方が脛骨、そして黄色い矢印の先の小さな骨が膝蓋骨です。膝蓋骨の中央の部分が靭帯で隠れていますが、この靭帯は膝蓋骨が横に外れないように支えている靭帯です。

膝蓋骨は、太ももの骨にある滑車溝と呼ばれる部分にはまっています。写真の赤い矢印の部分で白く見えている部分が『滑車溝』です。

膝蓋骨がはまる滑車溝の構造

赤い矢印の部分が滑車溝です。

膝蓋骨は歩いたり走ったりするときに、膝をスムーズに伸ばしたり曲げたりするために重要な役割を担っています。その膝蓋骨が本来あるべき位置からズレたり、滑車溝の外に出てしまうのが膝蓋骨脱臼です。

飼い主

せんせい〜
私の膝って、どうなってるのかしら?

Dr.Nyan

膝蓋骨のレントゲン写真見てごらん!膝蓋骨が滑車溝から外れてしまっているよ!
比べやすいように下に正常なのを載せるね。

膝蓋骨脱臼で滑車溝から外れているレントゲン画像

赤丸の部分が滑車溝、赤い矢印が滑車溝から外れた膝蓋骨

正常な膝蓋骨の位置を示すレントゲン画像

正常な膝蓋骨の位置:滑車溝の中に膝蓋骨があるのがわかります。

Dr.Nyan

膝蓋骨脱臼には二つのタイプがあるんだよ!

膝蓋骨脱臼には、膝蓋骨のズレる方向で二つに分けられています。

  • 膝蓋骨が内側にズレてしまう『膝蓋骨内方脱臼』
  • 膝蓋骨が外側にズレてしまう『膝蓋骨外方脱臼』

膝蓋骨内方脱臼は多くの犬種で、特に小型の犬種でよく見られます。症状は、内方脱臼でも外方脱臼でも同じです!

膝蓋骨脱臼の重症度別4つのグレード

ここでは重症度により分けられている「4つのグレード」について詳しく説明します。

グレード1:指で押すと脱臼するが手を離すと元に戻る状態

ソファーやベッドの上り下りなどしていて、突然に足を上げることがあるが自然に治ってしまいます。このように何かをキッカケに脱臼はしても生活になんら支障が無いため、気が付かないことも多い状態です。

触診で膝蓋骨を横に押すと簡単に滑車溝から外せるが、手を離すと元の正しい位置に戻る状態です。正常な膝蓋骨は、横に押しても滑車溝から外れることはありません!

グレード2:脱臼したり自然に元に戻ったり不安定な状態

ときどき足を浮かせケンケンして歩くこともあるため、飼い主さんも異常に気が付きやすい状態です。しかし普通に歩くこともあるため、様子を見てしまうことが多々あります。

症状としては軽いのですが、繰り返し脱臼してしまうと関節炎を起こしてしまうこともあります。膝蓋骨は普通は正常な位置にいるが、触診で膝を曲げると膝蓋骨が簡単に滑車溝から外れてしまう状態です。

グレード3:手で元の位置に戻せるが即脱臼してしまう状態

脱臼した足を上げ、3本足で歩くなどの症状が見られるようになります。しかも脱臼した状態が続くため、膝の関節にダメージを与えてしまいます。

異常な歩き方をしていたのに時間が経つうちに、普通に歩いているように見えるようになってしまうことがあります。これは脱臼が治ったのでは無く、脱臼が慢性化したため痛みが薄れてしまったことによります。

治ったと勘違いして放置しておくと、グレード4へと進行してしまいます。膝蓋骨は常に外れたままだが、触診で膝蓋骨を押すと正常な位置に戻せる状態です。

グレード4:常に脱臼したままで重篤な状態

脱臼した足を上げたままで、3本足で背を丸くして歩きます。脱臼の慢性化により、関節の骨の変形と筋肉が縮んでしまった状態です。そのため手術を行なっても、元のようには足を使えないこともあります。

膝蓋骨は常に外れたまま、しかも膝蓋骨を押しても正常な位置には戻らない状態です。

膝蓋骨脱臼の原因

Dr.Nyan

膝蓋骨脱臼の原因には、先天性と後天性の2つがあるんだよ!

先天性の脱臼の場合

生まれつき滑車溝が浅く、膝蓋骨がズレやすくなっています。また膝関節の周囲の筋肉や靱帯が、膝蓋骨を支えきれなくなっています。

先天性の膝蓋骨脱臼は、小型犬に多く見られます。膝蓋骨脱臼は成長期に悪化することも多いため、こまめな観察と定期的に健康診断を受けることが大切です。

後天性の脱臼の場合

膝に自然ではない力が加わり、膝蓋骨がズレてしまったり外れてしまうことによります。

膝蓋骨が脱臼を引き起こす犬の行動には以下のようなものがあります。

  • 散歩してたら突然に・・つまずいた?ぶつけた?
  • 後ろ二本足でピョンピョンと跳ねていたら
  • ソファーやベッドに上がったり下りして
  • フローリングで滑って
  • 走っていて捻った

明らかな原因が分からなく気がついたら脱臼していたなど、日常の生活の中で普通にしていることが原因になってしまいます。

膝蓋骨脱臼の主な治療法と費用

Dr.Nyan

膝蓋骨脱臼の治療には、内科的治療外科的治療の二つの治療方法があります。

内科的治療

内科的療法では脱臼を治せませんので、根本的な問題は解決はできません。しかし犬の年齢や病状などで、選ばれることがあります。

内科的療法は症状が悪化しないよう病状の進行を抑え、生活の質を落とさない目的で行われます。

  • 基本的な治療として痛み止めと安静
  • 関節炎の進行を抑える目的でサプリメントを使用
  • 肥満の場合には減量を行い膝関節への負担を軽くする
  • 膝にサポーターなどを装着
膝蓋骨脱臼の内科的治療(安静・減量・サプリ)

内科的療法で抑えられない場合には、外科的療法が勧められます。

外科的治療

外科的治療の場合、手術により靭帯・膝蓋骨・脛骨粗面(靭帯がすねの骨に付いている場所)が一直線になるようにします。

膝蓋骨脱臼の手術による矯正イメージ

靭帯、膝蓋骨、脛骨粗面の位置関係

  • 滑車溝を深く削り膝蓋骨が外れないようにする
  • 脛骨粗面の位置をズラし、靭帯、膝蓋骨、脛骨粗面を一直線にする
  • 膝蓋骨のズレた方の縮まった靭帯を緩める
  • 膝の関節の緩んでしまった方の筋膜を縫い縮める

手術方法は脱臼の原因や症状に合わせて行われます。また場合によっては、いくつかの方法を組み合わせて行います。

重度の膝蓋骨脱臼については専門医を紹介する場合もありますので、ご相談ください!

外科的治療後にはリハビリを行う

手術後には生活の質を取り戻すためにも『リハビリ』を行います。

膝蓋骨脱臼を起こした足と正常な足では、足の筋肉の量が変わってしまっています。

そのため手術をしても筋肉量の少ない足を使わず3本足で生活しようとしてしまい、歩き方や姿勢に異常が見られます。できるだけ早く正常な歩き方ができるように、積極的なリハビリとしてマッサージやトレーニングを行う必要があります。

マッサージやトレーニングの内容は、その犬の症状や性格から決めていきます。

膝の靭帯を鍛えるリハビリの様子です。

上記の犬は、水中トレッドミルというプールとウォーキングマシーンを組み合わせた水中歩行機で水中療法を行なっています。

水中トレッドミルは水の浮力を利用し、足腰の骨や関節などの負担が減らした運動が行えます。そのため手術後、比較的早い時期からリハビリが行えるため運動機能の回復が速くなります。

膝蓋骨脱臼の治療費

膝蓋骨の修復手術では、20万円前後かかってしまいます。

投薬など内科的治療を行っても、根本的に治るわけではありません。また外科的治療を行っても、元の健康な状態に戻らない場合もあります。

しかも重度の膝蓋骨脱臼になると、それだけ治療費もかかってしまいます!やはり症状的にも経費的にも、治療も処置も早期に行うことが望まれます。

Dr.Nyan

重度の膝蓋骨脱臼の修復手術は
CT、MRIを設置している整形外科専門の動物病院を紹介致しております。

膝蓋骨脱臼の予防方法

膝蓋骨脱臼の予防には、膝に負担がかからないようにすることです。

日々のケアを十分に行うことで、膝蓋骨脱臼を予防するとともに重症化も防ぎます。膝蓋骨脱臼の予防のため以下のことに気を付けましょう。

犬の体調・身だしなみのケア

  • 太りすぎないように気をつける
  • ふくらはぎや太ももの筋肉をつける
  • 爪を長くしておかない
  • 床で滑らないように足の裏の毛を短く切っておく

犬の膝に負担のかかる運動を避ける

  • フリスビーやボール投げなどダッシュをする遊びは避ける
  • ドッグランでの追いかけっこなどは避ける
  • 急に向きを変えるような運動を避ける
  • 膝に体重がかかるような運動を避ける

飼育環境を整える

  • 足が滑らないような床材にする
  • ソファーやベッドには上らないよう躾ける
  • 後ろの二本足で立ったりピョンピョンさせないよう躾ける

犬の膝の様子や動きを日頃から観察する

膝蓋骨脱臼は、膝を触ったり動きを観察することでも確認することができます。以下は自宅でできるチェックリストです。ぜひ活用してください!

【膝蓋骨脱臼・チェックリスト】

  • 膝を曲げたときに膝からパッキという音がする
  • 足を触っていたときにコキッとした感触を手に感じる
  • 左右の太ももの筋肉量が違う
  • 後足を片方ずつ持ち上げたとき手にかかる重さが違う
  • 伏せからスムーズに立てない
  • 立たせたとき後足の足先が内側や外側に向いている
  • 時たま後足を後ろの方にグーッと伸ばす
  • 歩いているとき後ろ足が左右同じように地面についていない
  • 歩いたり走ったりするとき突然ケンケンしている
  • 運動後に後足の動きに何か違和感を感じる

一つでも当てはまる項目があった場合には、ご相談ください。早期発見、早期治療により生活の質を落とさないようにしましょうね!

膝蓋骨脱臼を起こしやすい犬種

  • 小型犬
  • トイプードル
  • チワワ
  • ヨークシャーテリア
  • ポメラニアン

犬の膝蓋骨脱臼でよく見られる症状

犬が急にケンケン歩きをしたらすぐ病院に行くべき?

軽度の場合は一時的に戻ることもありますが、繰り返す場合や痛がる様子がある場合は早めの受診が必要です。膝蓋骨脱臼は放置すると関節炎や靭帯損傷につながることがあります。

膝蓋骨脱臼は自然に治ることはありますか?

一時的に元の位置に戻ることはありますが、根本的に治ることはありません。特に繰り返す場合は進行する可能性があるため注意が必要です。

手術は必ず必要になりますか?

軽度(グレード1~2)の場合は内科的管理で経過を見ることも可能です。ただし症状が進行した場合や生活に支障がある場合は手術が必要になります。

放置するとどうなりますか?

関節の変形や慢性的な痛み、靭帯損傷を引き起こし、最終的には歩行困難になる可能性があります。早期対応が非常に重要です。

家でできる予防方法はありますか?

体重管理、滑りにくい床環境、過度なジャンプの回避などが重要です。日常のちょっとした工夫で進行を防ぐことができます。

どのタイミングで手術を考えるべきですか?

日常的に足を上げる、痛みがある、歩行異常が続く場合は手術適応を検討します。特にグレード3以上では早期手術が推奨されることが多いです。

まとめ

小型犬によく見られる膝蓋骨脱臼は、チョット気をつければ重症化を予防できる病気です。脱臼しても大丈夫そうだからといってそのままにしておくと、逆側の足も痛めてしまいます。

膝蓋骨脱臼について不安をお持ちなら「日々のケアの方法」をお教えしますので、ご相談くださいね。足腰が丈夫で元気に暮らせるよう、お手伝いいたします。

筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

佐倉市 若山動物病院 院長 若山正之 獣医師プロフィール写真

本記事は、佐倉市で犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。