猫の慢性腎臓病の看護|療法食・強制給餌・皮下輸液の在宅ケアポイント

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猫の慢性腎臓病ケア②|療法食・強制給餌・皮下輸液の在宅ケアポイント

猫の病気の中で、シニア期以降に非常に多く見られるのが「慢性腎臓病(CKD)」です。

この病気は一度悪くなってしまった腎臓の機能を元に戻すことはできません。そのため、治療の主軸は「これ以上悪化させないこと」と「今ある症状を和らげてあげること」、つまりご自宅での「看護(ケア)」が非常に重要な意味を持ちます。

今回は、慢性腎臓病と診断された愛猫のために、ご自宅でできる「食事・栄養補給編」として、療法食・強制給餌・皮下輸液(点滴)について獣医師が詳しく解説します。

▶ 前半記事はこちら:猫の慢性腎臓病ケア①|水を飲ませるための7つの工夫

▶ 関連コラム:猫の慢性腎臓病|水をよく飲む・おしっこが多い原因と治療

目次

こんなお悩みはありませんか?

飼い主

先生、うちの子が慢性腎臓病と診断されてしまいました…。療法食を全然食べてくれないし、お薬や点滴を毎日続けるなんて、私にできるか不安です。

Dr.Nyan

診断を受けてショックですし、これからのケアに不安になるお気持ち、よく分かります。慢性腎臓病の看護は「一生涯」続くものです。だからこそ、飼い主様も猫ちゃんも、お互いに無理なく笑顔で続けられる方法を一緒に見つけていきましょうね。まずは一番のお悩みである「食事」のポイントからお話しします。

腎臓病療法食(フード)の重要性

科学的根拠(エビデンス)に基づいた慢性腎臓病の治療において、最も効果が認められているのが腎臓病専用の療法食です。ある研究では、療法食を継続した猫は食べていない猫に比べて生存期間が有意に延長したという報告もあります。

なぜ療法食が必要なのか?

腎臓病の療法食は、主に以下の3つの成分が厳しくコントロールされています。

タンパク質の制限

タンパク質が体内で代謝されると、尿毒症の原因となる老廃物(窒素化合物)が生じます。これを減らすためにタンパク質を制限しますが、極端に減らすと筋肉が落ちて痩せてしまうため、「良質で高消化性のタンパク質」を適量配合しています。

塩分(ナトリウム)の制限

腎機能が低下すると塩分の排出が難しくなり、血圧上昇や心臓への負担につながります。療法食では塩分が控えめに調整されています。

リンの制限

腎不全が進行するとリンが体内に蓄積し、さらに腎機能を悪化させる悪循環を引き起こします。療法食ではリンの含有量が大幅にカットされています。

リスク先生

腎臓病が進むと「高リン血症」になりやすく、これが腎臓をさらに傷める大きな原因になるんだ。リンのコントロールは腎臓病ケアの最重要ポイントのひとつだよ!

療法食を食べてくれないときの工夫

リスク先生

腎臓病の療法食は、タンパク質や塩分、リンを制限しているため、猫ちゃんにとっては「味が薄くて美味しくない」と感じやすいんだ。でも、食べないからといって無理強いして、食事の時間が恐怖になってはいけないよ!

猫が療法食を嫌がるときは、以下の工夫を試してみてください。

フードを温める

缶詰やパウチなどのウェットフードは、人肌程度(38〜40℃)に温めると香りが立ち、食欲をそそります。ドライフードも少しぬるま湯でふやかすと効果的です。

手から与えてみる

お皿から食べなくても、飼い主様の指先や手のひらに乗せると、安心感からペロッと食べてくれることがあります。

トッピングや風味付けを活用する

どうしても食べない場合は、通常のフードに「リン吸着剤」や「活性炭(尿毒素を吸着するサプリメント)」を混ぜて与える方法もあります。「何も食べずに痩せてしまうこと」が一番のリスクですので、まずはエネルギーを摂取することを最優先に考えましょう。獣医師から食欲増進剤を処方してもらうことも有効な選択肢です。

飼い主

療法食を全く食べてくれない場合、無理やり食べさせてもいいですか?

Dr.Nyan

無理強いは禁物です。食事の時間が「嫌な体験」として記憶されてしまうと、逆効果になります。まずは温める・手から与えるなどの工夫を試し、それでも難しければ次の「強制給餌」を一緒に練習しましょう。

自宅での強制給餌(シリンジ・チューブ)

自力で十分な量を食べられない場合、飼い主様がサポートして栄養を補給する「強制給餌」が必要になることがあります。

指で与える方法(まだ飲み込める猫に)

まだ普通に飲み込むことができる猫に行います。

  1. ペースト状にしたフードを人差し指の先に少量とる(お互いに慣れるまでは少量から始めましょう)
  2. 猫の口をやさしく開ける(いろいろな方法があるので、やりやすい方法を見つけてください)
  3. 口を開いたら上顎にペーストを塗る(口を開けられない場合は、唇をめくり歯茎に擦りつけるだけでも食べる子がいます)

噛まれることがありますので、嫌がらないように手早く、かつ優しく行いましょう。

シリンジ(注射器の筒)を使う方法

飼い主

シリンジで食べさせる時に、むせてしまわないか心配です…。

Dr.Nyan

一気に入れず、「飲み込むのを待つ」ことがコツです。焦らず少量ずつ行えば、安全に栄養補給できる子も多いですよ。

ペースト状の療法食や、ドライフードをふやかしてミキサーにかけたものをシリンジに入れます。

  1. 強制給餌用のシリンジにペーストを入れる
  2. 猫の口の横(犬歯の後ろの隙間)からシリンジの先を差し込む(最初は無理のないよう、慣れるまで少量から)
  3. 飲み込むタイミングを見計らいながら、ゆっくりと少量ずつフードを流し込む

リスク先生

正面から無理やり入れると誤嚥(肺にフードが入ってしまうこと)の原因になるので要注意!必ず口の横から入れて、ゴクンと飲み込むのを確認しながら行ってね。

チューブ(経管栄養)を使う方法

飼い主

強制給餌をしようとすると、嫌がって暴れてしまいます。お互いにストレスになってしまって、見ているのも辛いです…。

Dr.Nyan

その場合は、無理をせず「経管栄養チューブ(鼻、首、または胃に通すチューブ)」の設置を検討しましょう。「可哀想」と思われるかもしれませんが、実はこれ、猫ちゃんにとっても飼い主様にとっても非常にメリットが大きい方法なんです。

チューブを設置すると、口を無理に開けさせることなく、サラサラにしたフードや水分、お薬を確実に胃に送り込むことができます。食事にかかる時間が大幅に短縮され、お互いのストレスが激減するため、QOL(生活の質)を維持するための前向きな選択肢として多くの飼い主様に喜ばれています。

猫の食道チューブによる経管栄養の様子|佐倉市 若山動物病院
食道チューブを設置した猫。口を使わずに栄養・水分・投薬が行えます。

水分補給と自宅での皮下輸液(点滴)

慢性腎臓病になると、尿を濃縮できなくなり、薄い尿を大量に出すようになります(多尿)。そのため、体内の水分が常に不足し、脱水状態に陥りやすくなります。脱水を防ぐための最大の武器が「輸液(点滴)」です。

リスク先生

腎臓病の猫は常に「隠れ脱水」の状態になりやすい。脱水が続くと腎臓への血流が減り、病気がさらに進んでしまうんだ。水分補給は療法食と並ぶ最重要ケアだよ!

静脈輸液と皮下輸液の違い

静脈輸液(入院治療)

血管に直接点滴を流します。効果は非常に高いですが、動けないようにケージ内での管理が必要なため、通常は入院が必要です。

皮下輸液(在宅治療が可能)

首の後ろや背中の皮膚の下(皮下組織)に、一度にまとまった量の輸液剤を注射します。皮下に溜まった水分は数時間かけてゆっくりと体内に吸収されます。短時間(数分〜十数分)で終わるため、通院だけでなく、やり方を習得すればご自宅で行うこと(在宅輸液)が可能です。

自宅で点滴(皮下輸液)を行うメリット

住み慣れた我が家で、大好きな飼い主様の手でケアをしてあげることで、猫ちゃんを通院のストレスから解放することができます。当院では、ご自宅での点滴をご希望の飼い主様に対し、病院内でしっかりと技術指導(針の刺し方・衛生管理・保定のコツなど)を行い、自信を持ってできるようになるまでサポートいたします。

飼い主

自宅で点滴なんて、本当に私にできるか不安です。猫も嫌がらないか心配で…。

Dr.Nyan

最初は誰でも怖いものです。当院では実際に病院で練習していただき、「できる!」と感じてから帰っていただいています。慣れれば10分もかからず終わる子も多いですよ。わからないことがあればいつでもご相談ください。

自宅で猫に皮下輸液(点滴)を行う飼い主の様子|佐倉市 若山動物病院
皮下輸液は、住み慣れた自宅で猫ちゃんの負担を最小限に行える優れたケア方法です。

まとめ:一生涯、無理なく続けられる看護を

Dr.Nyan

慢性腎臓病の看護で一番大切なのは、「飼い主様が燃え尽きないこと」です。完璧を目指すあまり、飼い主様が疲弊して笑顔が消えてしまうと、猫ちゃんもそれを敏感に察知して不安になってしまいます。

今日療法食を食べなくても、明日食べれば大丈夫。自宅での点滴が難しければ、病院に連れてきていただければ私たちがやります。「ここまでなら頑張れる」というラインを、私たち獣医師・スタッフと一緒に話し合いながら、愛猫との穏やかな時間を一分一秒でも長く紡いでいきましょう。

不安なこと、わからないことがあれば、いつでも佐倉市の若山動物病院までご相談ください。

▶ あわせて読みたい:猫が食べない理由と対処法|食欲不振・偏食・食事へのこだわりを徹底解説

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猫の慢性腎臓病に関するよくある質問

腎臓病の療法食をどうしても食べない場合、市販のシニア用フードでも大丈夫ですか?

何も食べずに体重が落ちてしまうよりは、好むフードを食べて体力を維持する方が優先されます。その場合は、通常のフードに含まれる「リン」を吸着・排出を助ける「リン吸着剤」や「活性炭サプリメント」の併用を強くおすすめします。ただし、使用するサプリメントや量については必ず獣医師にご相談ください。

自宅での点滴(皮下輸液)で、針を刺すのが怖いです。猫は痛くありませんか?

猫の背中の皮膚は比較的厚く、神経が鈍いため、人間が想像するほどの強い痛みは感じていないことが多いです。ただし、針を刺す瞬間の一瞬のチクッとした感覚や、冷たい液が入ってくる違和感で嫌がることはあります。当院では、猫ちゃんがリラックスできる保定方法と、痛みを最小限にする針の刺し方を丁寧にお教えします。

慢性腎臓病は、早期発見すれば治る可能性はありますか?

残念ながら、慢性腎臓病によって破壊されてしまった腎臓の組織(ネフロン)が再生することはありません。しかし、早期に発見して療法食・内服薬・適切な水分補給を開始すれば、残された腎臓の機能を長持ちさせ、発症していない猫と変わらない寿命を全うできるケースも多くあります。7歳を過ぎたら、定期的な血液検査・尿検査をおすすめします。

皮下輸液の頻度はどのくらいが適切ですか?

輸液の頻度は、腎臓病のステージや猫の状態によって異なります。週1〜2回から始まり、進行するにつれて毎日行う必要が出てくる場合もあります。担当獣医師の指示に従い、定期的な血液検査で電解質バランスを確認しながら調整していきます。

筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

若山動物病院院長 獣医師 若山正之(Dr.Nyan)

本記事は、犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。

特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。
また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。

これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。

本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。