猫の糖尿病とは?「多飲多尿・痩せる・かかと歩き」の症状から治療・予防まで

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猫の糖尿病|水をよく飲む・痩せる・かかと歩きの原因と治療

本記事は、Dr.Nyan症例集「猫の内分泌・代謝疾患編」の一部です。実際の診療症例をもとに、水をよく飲む・痩せる・歩き方が変わる原因と対応についてわかりやすく解説しています。

「最近よく水を飲む」
「食べているのに痩せてきた」
「後ろ足のかかとを着けてペタペタ歩く」

こうした変化が重なったとき、猫の糖尿病を疑う必要があります。初期は元気・食欲があるため見過ごされがちですが、進行すると命に関わる状態になります。

特に初期は元気に見えるため発見が遅れやすく、気づいたときには病気が進行しているケースも少なくありません。

目次

【症例】こんな猫が来院しました

飼い主

最近後ろ足のかかとが地面に着いてペタペタ歩くようになりました。水もよく飲むし、食べてるのに痩せてきて…。

Dr.Nyan

血糖値・尿糖ともに高く、糖尿病と診断しました。かかと歩きは「糖尿病性神経障害」のサインです。

猫 糖尿病 血糖値 高血糖 検査結果
実際の血液検査結果。血糖値が正常値(80〜150mg/dL)を大きく超えており、糖尿病と診断しました。

インスリン注射と食事療法を開始。2週間後にはかかと歩きが改善し、血糖値も安定してきました。
このように早期に治療を開始すれば改善が期待できますが、放置すると重篤化するリスクがあります。

猫の糖尿病とは?

糖尿病は、膵臓が分泌するインスリンが不足・機能しなくなることで、血糖値が高い状態が続く病気です。インスリンはブドウ糖を細胞に取り込ませるホルモンで、これが不足すると食べても栄養が使えなくなり様々な症状が起きます。
つまり「食べているのに体が栄養不足の状態」になっているのが糖尿病の本質です。

猫は犬と異なり、糖尿病が進行しても目に見える変化(白内障など)が少ないため発見が遅れやすい病気です。また去勢した中高齢の太った雄猫に多い傾向があります。

Dr.Nyan

猫の糖尿病は約7割がオスとのデータがあります。5歳以上・肥満・去勢済みの猫は特に注意が必要です。

糖尿病の症状

多飲多尿(水をよく飲む・おしっこが多い)

糖尿病の初期では元気・食欲があり目立った症状がありません。進行すると血糖値が高い状態が続き、過剰なブドウ糖を尿から排出しようとするため尿量が増え、水をよく飲むようになります。猫砂の汚れが明らかに増えたら要注意です。

尿に糖が出ることで水分も一緒に排出されるため、体が脱水気味になりさらに水を飲むようになります。

食べているのに痩せる

インスリンが不足すると、食べたブドウ糖を細胞に取り込めず常に空腹状態になります。そのため食欲が増えてよく食べますが、それでも栄養が足りず体重が減少します。「食欲旺盛なのに痩せる」という特徴的な症状が現れます。

この状態が続くと筋肉や脂肪が分解され、急激な体重減少につながります。

かかとをつけてペタペタ歩く(糖尿病性神経障害)

通常、猫は歩くとき後ろ足のかかとを地面から浮かせています。糖尿病が進行すると神経の働きが低下し、かかとを地面につけてペタペタと歩くようになります。これを「糖尿病性神経障害」といい、高いところへのジャンプができなくなることもあります。

神経のダメージは血糖値が高い状態が続くことで起こるため、早期にコントロールすることが重要です。

進行した場合の症状

  • 嘔吐・下痢・食欲不振
  • ぐったりして動かない
  • 呼吸が荒い・ふらつく
  • 意識障害・けいれん

これらはケトアシドーシス(体が脂肪・筋肉を分解してエネルギーとする危険な状態)のサインです。集中治療を行っても助からないこともある重篤な状態です。
この状態は短期間で急激に悪化するため、発見が遅れると命に関わります。

リスク先生

ぐったりしている・呼吸が荒い・意識がぼんやりしているなどの症状は緊急状態です。すぐに受診してください。

猫 糖尿病 治療薬 プロジンク 集中治療
猫用インスリン製剤。毎日決まった時間に皮下注射します。飼い主様が自宅で行えるよう丁寧に指導します。

合併症

高血糖の状態が続くと以下の合併症を引き起こします。

  • 慢性腎臓病・膀胱炎(細菌感染しやすくなる)
  • 皮膚炎(傷が治りにくくなる)
  • 白内障(犬ほど多くはないが発症することも)
  • 肝臓への脂肪蓄積(肝リピドーシス)

高血糖が長期間続くことで、全身の臓器に負担がかかるのが特徴です。

糖尿病の原因

炭水化物の多い食事

猫はもともとタンパク質をエネルギー源とする動物です。炭水化物の多い市販フードを食べ続けると食後の血糖値が上がりやすく、糖尿病のリスクが高まります。

肥満

肥満の猫はインスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」が生じ、血糖値が下がりにくくなります。去勢・肥満・中高齢の雄猫は特にリスクが高いです。
これらが重なることで、インスリンの働きが低下し発症しやすくなります。

膵炎・薬の影響

膵炎によるインスリン分泌異常や、ステロイド薬の副作用でも血糖値が上がります。猫は慢性膵炎を無症状で持っていることも多く注意が必要です。

Dr.Nyan

甲状腺機能亢進症・慢性腎臓病と同時に起きることもあります。水をよく飲む症状があれば、これらを含めた検査をお勧めします。

診断方法

血液検査・尿検査で診断します。
注意点として、猫は採血時のストレスなど病院での緊張だけでも血糖値が300mg/dL以上になることがあるため、尿糖の有無や、過去1〜2週間の平均血糖値を示す「フルクトサミン」も組み合わせて診断します。

猫 糖尿病 ケトアシドーシス 集中治療
ケトアシドーシスを起こした猫の集中治療の様子。進行すると治療を行っても助からないこともある危険な状態です。
猫 糖尿病 血糖値モニタリング インスリン治療
インスリン治療中の血糖値モニタリングの様子。投与量の調整に定期的な検査が欠かせません。

一時的なストレスによる高血糖と区別することが、正確な診断には欠かせません。

治療法

インスリン注射

糖尿病の主な治療は毎日のインスリン注射です。多くの猫で一生涯の投薬が必要ですが、食事管理・体重管理が上手くいくと注射量を減らせたり、まれに不要になる「寛解」に至るケースもあります。

適切に管理すれば、長期間安定した生活を送れる猫も多くいます。

猫 糖尿病 膵臓の位置
膵臓と他の臓器との位置関係

Dr.Nyan

インスリン用の針は非常に細く、猫ちゃんもほとんど痛がらないことが多いです。当院ではご自宅で安心して続けられるよう丁寧に練習します。

特に早期発見・早期治療ができた猫では、インスリン注射が不要になる「寛解」を目指せることもあります。

食事療法

炭水化物を制限した糖尿病用フードに切り替えることが重要です。食後の血糖値の急上昇を抑え、インスリン量を安定させる効果があります。肥満がある場合は同時に体重管理も行います。

急なフード変更は食べなくなる原因になるため、徐々に切り替えることが大切です。

予防方法

完全に防ぐことは難しいものの、生活管理によってリスクを下げることができます。

  • 適正体重の維持(フード管理が最重要)
  • 炭水化物の少ない高タンパクフードを選ぶ
  • ストレスの少ない環境づくり
  • 定期的な健康診断(5歳以上は年1〜2回)

Dr.Nyan

猫は散歩ができないため、体重管理はフードの量・内容で行います。肥満でなくても発症することがあるため、定期検診が重要です。

猫の糖尿病の多くは、人でいう「2型糖尿病」に近いタイプと考えられており、特に去勢・避妊後の体重管理が重要です。

発症しやすい猫の特徴

  • 肥満の猫
  • 去勢済みのオス猫(糖尿病の約7割がオス)
  • 5歳以上の中高齢猫
  • ステロイド治療を受けている猫
  • 膵炎の既往がある猫

当てはまる場合は、症状がなくても定期的な検査をおすすめします。

こんな症状があれば早めに受診を

症状受診の目安
水を飲む量が明らかに増えた⚠️ 早めに受診
食欲があるのに体重が減る⚠️ 早めに受診
後ろ足のかかとをつけて歩く⚠️ 早めに受診
高いところにジャンプできなくなった⚠️ 早めに受診
嘔吐・下痢・食欲不振が続く⚠️ 急いで受診
ぐったりしている・ふらつく⚠️ 急いで受診
意識がぼんやり・呼びかけに反応しない⚠️ 直ちに受診
糖尿病は進行すると歩き方の異常や命に関わる症状が出ることがあります。

複数の症状が重なっている場合は、早めの受診が特に重要です。

よくある質問

猫の糖尿病は治りますか?

早期に治療を開始し食事・体重管理がうまくいくと、インスリンが不要になる「寛解」状態になることがあります。ただし多くの場合は継続的な管理が必要です。

インスリン注射は自宅でできますか?

はい。当院では丁寧な指導を行い、多くの飼い主様が自宅で実施されています。注射の針は細く、猫にとってもストレスが少ないです。

食事だけで治療できますか?

軽度の場合は食事療法のみで管理できることもありますが、多くの場合はインスリンとの併用が必要です。

放置するとどうなりますか?

ケトアシドーシスなど命に関わる状態になる可能性があります。集中治療を行っても助からないこともある危険な状態になり得るため、早めの受診が重要です。

甲状腺機能亢進症と症状が似ていますが、違いは?

どちらも「水をよく飲む・食べるのに痩せる」という症状が共通します。血液検査・尿検査で区別できますので、これらの症状があれば両方を同時に検査します。

かかと歩きは治りますか?

早期に治療を開始し血糖値が安定すると、改善するケースがあります。進行が重い場合は完全な回復が難しいこともあります。

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猫の肥大型心筋症|急な呼吸困難・元気消失の原因と治療

まとめ

「水をよく飲む・食べているのに痩せる・かかとをつけて歩く」——この3つが重なったとき、糖尿病を疑ってください。

早期発見・早期治療で寛解(インスリン不要)を目指せる病気です。また定期健診でリスクを早めに把握することも大切です。不安なことがあればいつでもご相談ください。

Dr.Nyan

「元気だから大丈夫」と判断せず、小さな変化を見逃さないことが早期発見につながります。

筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

若山動物病院院長 獣医師 若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール写真

本記事は、犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。

特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。