Dr.Nyanのすこやかコラム
飼い主様に伝えたい犬猫の病気や日常ケアについての役立つコラムをお届け♪
猫の膿胸|息苦しそう・元気がない原因と治療・受診の目安
「息苦しそうで、
じっと座ったまま
横になろうとしないんです」
先日、そのような深刻な状態で猫ちゃんが来院されました。
検査をすると、本来なら空気で満たされているはずの胸の中が「膿(うみ)」でいっぱいになり、肺が小さく縮んでしまっていました。病名は「膿胸(のうちょう)」。最悪の場合、呼吸困難や敗血症で命を落とすこともある非常に恐ろしい病気です。
恐ろしいのは、この病気が「最初は普通の体調不良に見える」ということ。
愛猫を突然の危機から守るために、飼い主さんが絶対に知っておくべき症状や予防策を、当院の治療実績を交えて詳しくお伝えします。

飼い主
息はしているけど、なんだか呼吸が浅くて苦しそうなんです…
Dr.Nyan
膿胸の可能性があります。検査を行いましょう
膿胸とは胸の中の「胸膜」に何らかの理由で感染が広がり、「胸腔」に膿の混じった液体が溜まる病気です。

Dr.Nyan
『胸膜』は肺や心臓、肋骨や肋骨周りの筋肉を覆っている膜のことだよ!
また『胸腔』とは、その膜の間にある空間のことを指すんだよ!
胸の中に溜まった膿が肺を圧迫するため、空気が入る空間が狭くなり息苦しくなります。膿胸は犬猫ともに発生しますが、一般的には猫に多いように思います。

飼い主
胸に膿が溜まるって、人でもかなり苦しそうですね…
Dr.Nyan
そうなんです。肺そのものが悪いというより、「肺が膿で押しつぶされる」イメージなんですよ
膿胸の症状
猫膿胸の特徴的な症状は、息をするのが辛そうなことです!症状が進むと呼吸困難になり、最悪は死に至ることもあります。
Dr.Nyan
どんな症状がでたら注意が必要なのか、一緒に確認していきましょうね!
【初期症状】はっきりとした症状はあらわれない
膿胸の初期症状は特徴的な症状が現れません。そのため飼い主さんは、猫の異常に気付けないことが多い病気です。
- 食欲が落ちる
- 元気が無い
- 熱が出る

飼い主
ただ元気がないだけだと、風邪かな?って思ってしまいます…
Dr.Nyan
このように、どんな病気にもあるような症状が見られます。
実際に膿胸の初期は「なんとなく元気がない」だけのことも多く、発見が遅れやすい病気なんです。
膿胸の初期はハッキリした症状が現れないため、早期発見がしづらい病気です。そのため、病状が進行してから気がつくことがほとんどです。
【中期症状】息が荒くなり苦しそうにする

飼い主
呼吸が少し早い気がするんですが、それだけでも危険ですか?
Dr.Nyan
猫は呼吸器症状を我慢する動物です。呼吸数が増えている時点で、すでにかなり苦しいことがあります。
膿胸は症状が現れるまでに、数週間の時間がかかります。その間に胸の中の膿の量が徐々に増え、病状が進行し元気や食欲が減り息も徐々に荒くなっていきます。
溜まった膿の量により以下のような症状も見られるようになります。
- 痩せる
- 咳をする
- 脱水症状
下は、膿胸を起こしてしまった胸のレントゲン写真です。胸の中に膿が溜まった部分は白く、また肺が小さく黒く写っています。

黄色い丸印の中の黒い部分が『縮んでしまった肺』です。健康な肺は肋骨に囲まれる部分まで大きく広がって、黒く写っています。

飼い主
こんなに肺が小さくなってしまうんですね…
Dr.Nyan
はい。本来は空気で広がっている肺が、周囲の膿で圧迫されて縮んでしまっている状態なんです。

健康な胸のレントゲン写真では肺が黒く、その中に心臓が白く写っています。
重症化する前のこの段階の状態のときに治療が始まればよいのですが、遅れて重症化してしまうと治療が長引いてしまいます。その場合には、ICUなどでの集中的な治療が必要になってしまいます。
【末期症状】呼吸が浅く早くなりあえぐようになる
重度になると呼吸は浅く早く呼吸が辛そうに「あえぐ」ようにもなり、少し動くだけでも苦しがります。
末期になると以下のような症状が見られるようになります。
- 息が荒く早い
- 息をするのが辛そう
- 口を開けて息をしている
- 舌の色が紫色のなってしまう
- 呼吸困難
- ぐったりして脱力状態である
胸に痛みが出てくるため、体に触られるのを嫌がります。
また横になると胸が圧迫され呼吸が苦しくなりため、少しでも楽に呼吸するために首を伸ばし頭を上げ座った姿勢を取り続けます。横向きに寝ることも、できなくなります。

飼い主
座ったままじっとして動かないのも危険なんですね…
Dr.Nyan
はい。「香箱座りのまま動かない」「うずくまる」のも呼吸困難のサインになることがあります。
症状が進むと細菌が血液の中で増えてしまう敗血症を起こし、ショックや多臓器不全を起こし亡くなってしまうこともあります。
リスク先生
猫が口を開けて呼吸している場合は非常に危険です!“少し様子を見る”は絶対に避けてください!
膿胸の原因
続いては膿胸の原因について紹介していきます。
Dr.Nyan
原因はケガとは言われるけどね〜よくはわからんのですよ!
膿胸は発症や感染経路などの原因が、ハッキリわからない病気と言われています。
喧嘩やケガなどの外傷

飼い主
完全室内飼いでも膿胸になることはありますか?
Dr.Nyan
あります。ですが外に出る猫はケンカや感染症のリスクが高く、特に注意が必要です。
喧嘩やケガなどの外傷が原因で、胸腔に細菌が増え膿が溜まることがあります。
胸の奥まで達するような傷の場合は特に注意が必要です。
また、交通事故や高いところからの落ちたことにより、発症することもあります。
猫風邪(上部気道感染症)などから
感染症から肺炎を起こし、膿が溜まることもあります。
「ただの風邪(くしゃみ・鼻水)が、なぜ胸に膿が溜まる原因になるのか」は結びつきにくいですよね?
実は「猫風邪をこじらせて重い肺炎を起こすと、その炎症や細菌が肺の表面を突き破って胸膜にまで広がり、それが膿胸の原因になってしまうのです。
- 猫風邪(猫ヘルペスウイルス感染症、猫カリシウイルス感染症など)
- 細菌性肺炎
- 猫白血病ウイルス感染症
- 猫FIV
- 胸膜炎
などの病気になった際は気を付けましょう。
また猫風邪に感染してると思われる場合には、その原因を知るためにPCR検査を行うこともあります。
そのような場合には検体を採取し、検査センターに検査依頼することもあります。

飼い主
猫風邪が胸まで悪化することもあるんですね…
Dr.Nyan
特に体力が落ちている猫や子猫では、肺炎や膿胸へ進行することがあります。
誤飲・誤食
誤飲・誤食が原因で膿が溜まってしまうこともあります。
特に先の尖ったものを誤って飲み込んでしまった時は要注意。誤食が原因で食道に穴が開き肺炎を起こし、膿が溜まることがあります。
肺以外の場所への感染症の影響
肺以外の場所に細菌感染症があり、その細菌が血液に乗り胸の中に入り込み発症してしまうこともあります。例えば、口内炎や歯周病などです。
Dr.Nyan
膿胸の細菌が血液で別の臓器に運ばれ、そこで感染症を起こしてしまうこともあるんだよ!
膿胸の主な治療法と費用
膿胸は、とても息苦しい病気です。治療を安全に行うために血液検査や超音波検査、細菌培養や感受性試験など詳細な検査を行う必要があります。
猫の中には、怒りっぽい猫や呼吸の状態がとても悪い猫もいます。
そのような場合には、鎮静剤を使ったり酸素吸入を行い状態を見ながら検査を行う必要があります。
治療の基本は酸素吸入と、胸の中に溜まった膿を抜くことです。
しかし膿胸を治療して治っても、良好な経過が得られるのは約50%〜80%と言われます。つまり「2割〜5割の子が、その後に体調不良を訴えてしまう非常に恐ろしい病気」また「再発もしてしまう病気」です。
そのための、治療は注意して行うことが重要になります。
リスク先生
膿胸は「治療して終わり」ではありません!
再発や重症化のリスクもあるため、継続管理が重要です!
酸素吸入を行う
膿胸は肺の中に空気が入らないため、とても息が苦しい状態が続いています。しかも息苦しい状態が長いと、全身の臓器や組織に十分な酸素が届かなくなってしまっています。
このような低酸素の状態の時に、処置などで緊張させると簡単にショックを起こしてしまうことがあります。

飼い主
興奮すると悪化するんですか?
Dr.Nyan
呼吸が苦しい状態では、少しのストレスでも酸欠が悪化してしまうことがあります。

不慮の事故を防ぐためにも十分のに酸素吸入を行い、呼吸を楽にしてあげることが重要になります。また場合よっては酸素吸入の際にリラックスできるよう、鎮静剤を使うこともあります。
リスク先生
呼吸困難の猫を無理に押さえつけるのは危険です!移動や診察も慎重に行う必要があります!
胸(胸腔)の中から膿を抜く
肺を圧迫している膿を抜くために、胸に針を刺し膿を吸い出します。しかし胸の中の膿がドロドロで濃い場合には、針を使って膿を吸い出すことは難しくなります。

このような場合には、胸の中にチューブを設置して膿を吸い出します。また胸の中を洗浄液などで洗浄処置を繰り返し行い、胸の中を綺麗にします。

飼い主
胸に針を刺すってかなり大変な治療ですね…
Dr.Nyan
ですが膿を抜かないと肺が広がれず、呼吸が改善しないことが多いんです。
設置したチューブは、胸の膿が綺麗になるまで付けておく必要があります。その場合には家での管理が難しいので、入院が必要になります。
抗生物質などを投与
膿胸の原因となっている細菌に対して、抗生物質を投与します。また脱水などの症状が現れていれば、輸液を行います。
洗浄を行い、また抗生剤の効果がみられると結構治りが良く膿の量も減り呼吸も楽になります。しかし肺炎や気管支炎を併発している場合は、症状が長引いてしまうこともあります。
膿胸の治療費
治療をする上でしっかりとした原因を知る必要があるため、重度であればあるほど治療は高額となってしまいます。
また重症になれば入院期間も長くなってしまい、治療費は高額になりがちです。やはり症状的にも経費的にも、早期発見が大切です。
猫膿胸の予防方法

飼い主
予防できる病気なんですか?
Dr.Nyan
完全に防ぐことは難しいですが、「重症化リスクを下げる」ことはできますよ。
屋内飼育の徹底
膿胸を起こす原因には、外傷や細菌感染が関係しているといわれています。そのため屋外に出さないようにし、感染症にかかるリスクやケンカの機会を減らすことが大切です。
またケンカをしないよう、雄猫は去勢手術をしておくことも必要です。
混合ワクチンを打つ
膿胸の原因に、猫風邪があります。
猫風邪の中には、ワクチンをしておけば重症化が防げるものもあります。そのため混合ワクチン接種をしておくことが大切です。

しかしワクチンを接種していても、感染を完全には防ぐことができないのでご注意ください。ワクチンは感染しても、重症化しにくくさせるものです。
日頃から様子を見ておく
呼吸が早いなどの異常を、早く見つけ出せば重症化を防げます。そのためにも、日頃から健康状態を意識し確認してあげましょう!

飼い主
家で簡単に確認できる方法はありますか?
Dr.Nyan
寝ている時の呼吸数を数える習慣は、とても役立ちます!
呼吸数を測ることで、初期の段階で膿胸を見つけ出し治療することができます。
正常な呼吸数
安静時の正常な呼吸数は、1分間に約20〜30回程度です。
「正常な呼吸数」の測り方
興奮時や遊んだ後に測ると回数が多くなってしまい、飼い主がパニックになる可能性があります。
「必ず『猫がリラックスして寝ている時、または安静にしている時』に測ってください。
お腹(または胸)が上下して1往復するのを『1回』と数えます」
リスク先生
開口呼吸や座った姿勢のままで横にならないというのも、呼吸困難と判断するための重要なポイント!
猫の呼吸数の正常値と受診の目安
猫の呼吸数は、呼吸器疾患を早期発見するための重要なサインです。
特に「寝ている時の呼吸数」は、毎日の健康チェックとして非常に役立ちます。
| 1分間の呼吸数 | 猫の状態・緊急度 |
| 20 〜 30回 | 正常(深く熟睡している時は15回ほどになることもあります) |
| 31 〜 39回 | 要注意(少し早い状態。何度も続くようなら数日中に動物病院へ) |
| 40回 以上 | 異常・要受診(息苦しさ、発熱、痛みなどのサイン。早めの受診を) |
| 60回 以上 | 極めて危険(緊急)(いつ呼吸が止まってもおかしくない一刻を争う状態) |
猫膿胸を起こしやすい猫種
Dr.Nyan
猫種には関係なく感染するので要注意!
上記であげた予防方法をぜひ実践してあげてください。
- 屋外に出てしまう猫
- 同居猫がいる猫
- 去勢していない雄
- 猫 ワクチン接種していない猫
猫の膿胸でよくある質問
Dr.Nyan
最後に、実際によく受ける質問をまとめました。受診の判断の参考にしてくださいね!
猫が息苦しそうなときはすぐ受診すべきですか?
はい、早めの受診が必要です。呼吸が苦しそうな場合は緊急性が高いことが多く、膿胸や胸水など命に関わる病気の可能性があります。
膿胸は自然に治ることはありますか?
自然に治ることはほとんどありません。胸の中に溜まった膿は放置しても改善せず、呼吸状態が悪化してしまうため、必ず治療が必要になります。
膿胸の治療にはどれくらいの期間がかかりますか?
状態によりますが、数日から数週間の入院治療が必要になることが多いです。胸腔ドレナージや洗浄、抗生物質治療を継続して行います。
膿胸は再発することがありますか?
はい、再発することがあります。特に原因がはっきりしない場合や基礎疾患がある場合には注意が必要です。
膿胸の予防はできますか?
完全な予防は難しいですが、屋内飼育やワクチン接種、ケガの予防などによってリスクを下げることができます。
呼吸が苦しいときに自宅で様子を見ても大丈夫ですか?
おすすめできません。呼吸困難は急激に悪化することがあり、自宅で様子を見る間に危険な状態になることもあります。すぐに動物病院を受診してください。
膿胸の治療費はどれくらいかかりますか?
重症度や入院期間によって異なりますが、検査・入院・処置を含めて高額になることが多いです。早期発見により治療費を抑えられる可能性があります。
まとめ
膿胸は早期発見と早期治療で、重症化させないことが大切です。元気や食欲、疲れやすい呼吸が変など、何か気になる兆候が見られたら、早めにご相談ください!
猫の最高長寿は38年、長生きさせてあげましょうね。
筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

本記事は、犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。
特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。
また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。