犬のお腹の手術跡が腫れている?腹壁瘢痕ヘルニアの症状・原因・治療と受診の目安

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犬のお腹の手術跡が腫れている?腹壁瘢痕ヘルニアの症状・原因・治療と受診の目安

犬の手術跡が腫れてきた、お腹がふくらんできた…
そんな症状が見られた場合、「腹壁瘢痕ヘルニア」を起こしている可能性があります。

飼い主さん

先生!うちの子、お腹の手術で縫ったところが腫れちゃってきてるんです。
触っても痛がる事もないし、どうしたのかしら?

Dr.Nyan

あらッ、ひょっとして腹壁瘢痕ヘルニアかもしれないよ!
一緒に頑張って治そう。
当院で実際に見られる症例を参考に、説明するね。

ヘルニアとは、臓器などが本来あるべき位置から飛び出してしまった状態を言います。そのためヘルニアには、起きた場所により色々なモノがあります。ヘルニアで有名なのが椎間板ヘルニアです。

ヘルニアの中でも、お腹の手術のキズあと(瘢痕:はんこん)に出来るモノ、『腹壁瘢痕ヘルニア』についての話です。腹壁瘢痕ヘルニアは、お腹を切った手術(開腹手術)の合併症のひとつとも言われます。

ここでは『犬の腹壁瘢痕ヘルニア』の原因と対処法などについて、Dr.Nyanがわかりやすく説明いたします。

※当記事は手術中の写真を参考画像として載せています。苦手な方はお控えいただくか、十分注意してご覧ください。

目次

腹壁瘢痕ヘルニアの症状

Dr.Nyan

瘢痕(はんこん)とは医学的に言う『傷あと』のことなんだよ!

お腹の手術で出来た瘢痕は、傷が治っても傷の無い健康な部分と比べると弱くなっています。そのためお腹に力がかかると、手術を受けた部分(瘢痕)から腸が出てきてしまうことがあります。これが『腹壁瘢痕ヘルニア』です。

手術した場所が腫れている

犬は四つ足で生活しているため、立つとお腹には常に内臓の圧がかかります。そのため腹壁瘢痕ヘルニアになると、前に手術した場所の皮膚の下に腫れを確認することができます。

腹壁瘢痕ヘルニアを起こしても、痛みなどの症状が何ら見られない場合があります。

腹壁瘢痕ヘルニアで手術跡が腫れている犬の腹部

黄色い丸で囲んだ部分が腹壁瘢痕ヘルニアを起こしたところです!

腹壁瘢痕ヘルニアで腸が皮下に出ている状態のイラスト

腫れている部分のイメージです。

上記の図のように、お腹の中のモノが皮膚の下に出てしまうため以下のような症状が見られます。

  • 立つとお腹が膨らむ
  • お腹に力が入るとお腹が膨らむ
  • 仰向けに寝るとお腹が引っ込む(元の状態に戻る)
  • お腹の膨らみを押すと出てたモノが中に入る

犬のお腹の異常としては、犬のお腹が膨らむ原因も参考になります。
さらに併せて以下のような症状が見られることもあります。

  • 腫れた部分を良くなめる
  • お腹を痛がる
  • ウンチの出が悪い(便秘になる)

このような症状が同時に見られたなら開いた穴(ヘルニア門)が小さく、そこから無理矢理に腸が出てこようとしている可能性があります。

ちなみにヘルニア門が大きいほど、このような症状になることが少ないと言われます。

腸が締め付けられる嵌頓(かんとん)を起こす

腸の一部がヘルニア門に挟まり込んで、お腹の中に戻らなくなってしまった状態を嵌頓(かんとん)と言います。嵌頓を起こすと、腸が動くことが出来なくなってしまいます。

飼い主さん

えっ…腸が戻らなくなることもあるんですか?

Dr.Nyan

そうなんだ。これを「嵌頓」って言って、放っておくと危険な状態になることもあるんだよ。

嵌頓の状態をそのままにしておくと、挟まり込んでいる腸がヘルニア門により締め付けられてしまいます。そのため腸の血液の流れが、さらに悪くなってしまいます。その結果、場合によっては腸閉塞を起こしてしまいます。

嵌頓の症状には以下のようなものがあります。

  • 腹痛がある
  • 吐き気がひどい
  • 嘔吐がある
  • 腸閉塞を起こす
嵌頓により腸の血流が悪くなっている状態

嵌頓を起こすと腸の血の流れが悪くなります。

嵌頓は危険な状態になってしまうこともあるため、速やかな対応が必要です。そのため緊急手術を行います。

腸に血が通わない絞扼(こうやく)を起こす

ヘルニア門の締め付けが非常に強くきつい場合には、腸に血が通わなくなってしまいます。この状態を絞扼(こうやく)と言います。

絞扼により腸の血流が途絶え壊死が進む状態

絞扼を起こすと、腸へ血液が流れなくなってしまいます。腸へ流れる血液が止まると、その部分に壊死が始まってしまいます。

絞扼の症状には以下のようなものがあります。

  • 持続的な腹痛がある
  • 腸に穴が開く
  • 腸が破裂する
  • 敗血症を起こす
  • ショックを起こす

腹壁瘢痕ヘルニアから絞扼を起こすと、時間と経過とともに状態が悪化し亡くなってしまいます。そのため、即刻緊急手術を行わなくてはなりません。

~Dr.Nyan ポイント~
少ないけど先天性の腹壁瘢痕ヘルニアもあるよ!

先天性の腹壁瘢痕ヘルニアの症状

  • 食が細く発育が遅い
  • 食後や運動後に呼吸が早く疲れやすい

呼吸器の症状は、離乳期を迎える頃に現れることが多いようです。

腹壁瘢痕ヘルニアの原因

不妊手術などでお腹を切った場合、手術が終われば開いたお腹は縫い合わせ閉じます。

飼い主さん

手術痕がキレイ、手術が上手なんですね!

Dr.Nyan

いやぁ〜
お腹の中の傷までは見ること出来ないから、見た目じゃ判断が出来ないんだよ!

実際に手術で切っているのは皮膚と、その下の皮下組織、脂肪、筋膜、腹膜です。皮膚から腹膜までの中で、最も強くお腹の圧力に耐えるため働いているのが『筋膜』です。

『筋膜』は、筋肉の周りを包んでいる膜です。手術でお腹を閉じるときには、この筋膜をしっかりと縫い合せなくてはなりません!

しかし筋膜そのものが元々弱かったり、縫い方や栄養状態が悪かったりすると筋膜がきちんと付きません。その結果、筋膜に弱い部分ができてしまうのです。弱くなっている筋膜が、自然に強くなることはありません。

この弱い部分からお腹の中の内臓や脂肪の一部が、皮膚の下に出てきてしまいます。これを腹壁の傷痕(瘢痕)にできるヘルニアということで、腹壁瘢痕ヘルニアと呼びます。

腹壁瘢痕ヘルニアの主な治療法と費用

腹壁瘢痕ヘルニアの確認は、立った状態と仰向けにした状態で行います。また超音波検査(エコー検査)やレントゲン検査を行いヘルニアの状態を確認します。

主な治療法は手術です。手術には、大きく二つの方法があります。

  • 糸で縫い合わせて閉じる
  • 人工補強材(メッシュ)を使って閉じる

糸で縫い合わせて閉じる

ヘルニアの部分を、糸で縫い合わせて閉じる方法です。この手術方法では縫い合わせた場所に内臓の圧がかかり、再発してしまうことがあります。

人工補強材(メッシュ)を使って閉じる

ヘルニアを起こしている部分全体を、人工補強材(メッシュ)で広く覆いヘルニアの部分を閉じる方法です。この方法はヘルニアを起こしている部分を縫い合わせる方法と比べ、再発が少ないとされています。

飼い主さん

手術ってやっぱり必要なんですか…?

Dr.Nyan

多くの場合は手術が必要になるけど、状態に合わせて最適な方法を選ぶから安心してね。

メッシュを入れ込む方法の違いで、いくつかの術式があります。

人工補強材(メッシュ)を用いた腹壁ヘルニア修復手術の様子

メッシュを入れている様子です。

~Dr.Nyan ポイント~
腹壁瘢痕ヘルニアを放置しておくとどうなるの?

腹壁瘢痕ヘルニアは、自然に治ることはありません。ただ飛び出したヘルニアが戻らなくても、痛いなどの症状が無い場合には経過観察となることもあります。

しかし…そのままの状態を放置しておくと、ヘルニアの穴が徐々に大きくなってしまうことがあります。

数年放置しておいた、腹壁瘢痕ヘルニアが以下のレントゲン写真です。

腹壁瘢痕ヘルニアで腸が大きく突出したレントゲン画像

こんなにも腸が皮膚の下に出ていても痛みを何も無く、元気に走って食べて暮らしていたそうです!症状が無くても、このようなことを防ぐためにはヘルニアを起こしている場所を塞ぐ必要があります。

腹壁瘢痕ヘルニアの治療費

手術を行う場合には、ヘルニアや犬の状態により治療費に違いがあります。

手術費や入院費を含めて、20万〜30万はかかってしまいます。また時間が経過し癒着が激しい場合などでは、入院が長くなってしまうこともあります。

腹壁瘢痕ヘルニア以外に、併発症として骨折などがある場合には治療期間も治療費も高額になってしまいます。

腹壁瘢痕ヘルニアの予防方法

家庭でできる予防方法はありません!早期発見、早期治療により快適に生活をさせてあげたいものです。

腹壁瘢痕ヘルニアを起こしやすい犬種

  • お腹の手術を受けた犬
  • 手術した傷が化膿してしまった犬
  • 栄養状態が良く無い犬

犬の腹壁瘢痕ヘルニアでよくある質問

腹壁瘢痕ヘルニアは自然に治りますか?

自然に治ることはなく、多くの場合手術が必要になります

放置するとどうなりますか?

ヘルニアが大きくなったり、嵌頓や絞扼を起こして命に関わることがあります

どのタイミングで受診すべきですか?

お腹の膨らみや手術跡の異常に気づいた時点で早めの受診が必要です。

飼い主さん

早く気づいてあげることが大事なんですね

Dr.Nyan

その通り。小さな変化でも気づいたらすぐ相談してほしいな。

まとめ

犬の腹壁瘢痕ヘルニアの多くは、予防することが難しいと言われます。

実際の診療でも、症状が軽いうちは見過ごされがちですが、嵌頓や絞扼に進行すると命に関わる状態になります。
そのため「様子を見る」よりも、早期に評価・対応することが非常に重要です。
もし少しでも気になる様子があったら、早めにご相談下さい!

筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

佐倉市 若山動物病院 院長 若山正之 獣医師プロフィール写真

本記事は、佐倉市で犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。