犬の腹壁瘢痕ヘルニア|手術跡の膨らみ・嵌頓の原因と治療

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犬の腹壁瘢痕ヘルニア|手術跡の膨らみ・嵌頓の原因と治療

本記事は、Dr.Nyan症例集「犬の外科・整形疾患編」の一部です。実際の診療症例をもとに、術後に手術跡が腫れる腹壁瘢痕ヘルニアの原因と対応についてわかりやすく解説しています。

「手術後しばらくして、お腹の傷跡が膨らんできた」「手術跡のあたりがプニプニ腫れている」「特に痛がっている様子はないけど大丈夫?」

こうした症状が手術後に見られたとき、腹壁瘢痕ヘルニアの可能性があります。手術跡(瘢痕)の筋肉層が弱くなり、腸や脂肪が飛び出す病態です。早期発見・適切な対処が重要です。

放置すると緊急手術が必要になるケースもあります。

目次

【症例】こんな犬が来院しました

飼い主

不妊手術から何年か経った8歳のオス犬です。お腹の傷跡あたりがポッコリ膨らんでいます。痛がっている様子はないんですが…。

Dr.Nyan

触診と超音波検査で、筋肉層の裂開部分から腸管が脱出している腹壁瘢痕ヘルニアと診断しました。手術で修復が必要です。

犬 腹壁瘢痕ヘルニア 傷跡 膨らみ 症例
腹壁瘢痕ヘルニアの実際の症例。手術跡(瘢痕部位)から腸や脂肪が飛び出してポッコリ膨らんでいます。

全身麻酔下で外科手術を実施。脱出した腸を腹腔内に戻し、弱くなった筋肉層を縫合して修復しました。術後の経過は良好で、再発なく回復しました。

腹壁瘢痕ヘルニアとは?

飼い主

手術してから時間が経っていても起こるんですか?

Dr.Nyan

はい。数週間〜数か月後に気づくことも多い病気です。

ヘルニアとは、本来あるべき位置から臓器や組織が飛び出した状態を指します。腹壁瘢痕ヘルニアは、過去の手術や外傷でできた瘢痕(傷跡)の筋肉層が弱くなり、そこから腸・脂肪・臓器が飛び出す病態です。

「瘢痕(はんこん)」とは傷が治った後に残る組織のことです。この瘢痕部位は正常な筋肉より弱いため、腹圧がかかると裂けてヘルニアが形成されます。手術後数に気づかれることが多い病気です。

なお、腹壁瘢痕ヘルニアは、生まれつき見られる「でべそ(臍ヘルニア)」や「股の付け根の鼠径ヘルニア」とは異なり、手術や外傷によってできた傷跡部分に発生する後天性のヘルニアです。

Dr.Nyan

ヘルニアは「痛くないから大丈夫」ではありません。腸が飛び出して血流が途絶えると「嵌頓(かんとん)」という緊急状態になります。

術後の膨らみには、腸や脂肪が飛び出す「ヘルニア」だけでなく、体液がたまる「漿液腫(セローマ)」という状態もあります。見た目だけでは区別が難しく、触診や超音波検査で判別します。自己判断せず、膨らみに気づいたら早めにご相談ください。

症状

飼い主

押すと戻るんですが大丈夫ですか?

Dr.Nyan

一時的に戻っても根本は治っていません。放置すると悪化する可能性があります。

腹壁瘢痕ヘルニアでは、以下のような症状が見られます。

典型的な症状

  • 手術跡・傷跡付近のふくらみ(柔らかく、押すと引っ込むことがある)
  • 触っても痛がらない(内容物が正常な場合)
  • 立ったときや腹圧がかかったとき(咳・排便時)に膨らみが大きくなる
  • 皮膚の変色・傷跡の変形

緊急サイン(嵌頓ヘルニア)

飛び出した腸が戻らなくなり、血流が途絶えた状態(嵌頓)は緊急事態です。

  • ふくらみが硬くなった・押しても戻らない
  • ふくらみが赤紫色・黒っぽくなった
  • 急に元気がなくなった・嘔吐する
  • 腹部を触ると痛がる

リスク先生

嵌頓ヘルニアは腸が壊死する危険があります。ふくらみが急に硬くなった・元気がなくなったらすぐに受診してください。

原因

腹壁瘢痕ヘルニアの原因は主に以下の3つです。

術後の傷口の裂開

最も多い原因です。手術後に傷口の縫合糸が外れたり、過度な運動・術後の舐め崩しで筋肉層が裂開し、そこからヘルニアが形成されます。手術直後〜数か月以内に発症することが多いです。

外傷・事故

交通事故・落下・強い衝撃などで腹壁の筋肉が断裂し、そこにヘルニアが形成されることがあります(外傷性腹壁ヘルニア)。

体重・腹圧の増加

肥満・妊娠・腹水などで腹圧が高くなると、以前の傷跡部位が弱くなりヘルニアが形成されやすくなります。

Dr.Nyan

術後は過度な運動・傷口の舐め崩しに注意してください。エリザベスカラーの装着と安静が術後合併症を防ぐ基本です。

肥満や慢性的な咳、便秘などで腹圧が繰り返しかかる子では、傷跡部分への負担が増え、再発リスクが高くなることがあります。

診断方法

飼い主

見た目だけで判断できるんですか?

Dr.Nyan

触診と超音波検査で、腸や脂肪が飛び出しているかを確認します。必要に応じてレントゲン検査も行います。

触診でふくらみを確認し、超音波検査で脱出している内容物(腸・脂肪・臓器)を特定します。
必要に応じてレントゲン検査も行います。嵌頓が疑われる場合は緊急検査として行います。

Dr.Nyan

「術後にお腹が膨らんできた」は必ずご連絡ください。放置すると嵌頓になるリスクがあります。

治療法

外科手術による修復

腹壁瘢痕ヘルニアの根本的な治療は外科手術のみです。全身麻酔下で脱出した内容物を腹腔内に戻し、弱くなった筋肉層を縫合して修復します。

犬 腹壁瘢痕ヘルニア 手術前 診断
手術前の状態。腹壁の筋肉層が裂開し、腸が飛び出している様子が確認できます。
犬 腹壁瘢痕ヘルニア 外科手術 修復
脱出した腸の状態、腸を腹腔内に戻し弱くなった筋肉層を縫合します。
犬 腹壁瘢痕ヘルニア 手術 筋肉縫合
脱出した腸を押してもお腹の中に戻せない状態になってします。
犬 腹壁瘢痕ヘルニア 手術 縫合 閉創
脱出した腸の血液の流れが悪くなってしまった状態です。
犬 腹壁瘢痕ヘルニア メッシュを入れた状態
お腹の中にメッシュを入れて再発を防ぎます。適切な術後管理で再発なく回復します。

リスク先生

「嵌頓」している場合は緊急手術が必要です。腸が壊死していると切除が必要になるケースもあります。早めの対処が大切です。

術後管理

  • エリザベスカラーの装着(傷口の舐め崩し防止)
  • 約2週間の運動制限・安静
  • 定期的な傷口のチェック
  • 術後2週間で抜糸

Dr.Nyan

術後の安静が再発防止の鍵です。元気になってもすぐに激しい運動はさせないでください。

術後数日〜2週間程度は、階段の昇り降り、ソファやベッドからの飛び降り、激しい遊びやドッグランなどは避けましょう。お散歩も短時間にし、腹圧が強くかかる動きを控えることが再発予防につながります。

予防方法

  • 手術後のエリザベスカラー装着を徹底する
  • 術後2週間は激しい運動・ジャンプを避ける
  • 傷口の変化(腫れ・赤み・開き)を毎日確認する
  • 適正体重の維持(肥満は腹圧上昇のリスク)
  • 異常を感じたらすぐに動物病院に連絡する

こんな症状があれば早めに受診を

症状受診の目安
手術跡付近がポッコリ膨らんでいる⚠️ 早めに受診
膨らみが徐々に大きくなっている⚠️ 早めに受診
膨らみが硬くなった・押しても戻らない⚠️ 急いで受診
膨らみが赤紫・黒っぽくなった⚠️ 直ちに受診
急に元気がない・嘔吐する⚠️ 直ちに受診
腹壁瘢痕ヘルニアの状態による違い。脱出した腸の状態による。

よくある質問

よくある質問をまとめてみました。

手術しないといけませんか?

根本的な治療は外科手術のみです。ヘルニアは自然に治ることはなく、放置すると嵌頓(腸の壊死)という緊急状態になるリスクがあります。

痛がっていないけど大丈夫ですか?

初期は痛みが出ないことがほとんどです。しかし嵌頓になると急激に悪化します。「痛がっていないから大丈夫」と判断せず、ふくらみに気づいたら受診してください。

どんな手術から発症しやすいですか?

開腹手術(避妊・去勢・消化器手術・腫瘍摘出など)後に発症することがあります。術後の管理が適切でないと発症リスクが高まります。

再発しますか?

適切な手術と術後管理を行えば再発リスクは低くなります。術後の安静・エリザベスカラー装着・体重管理が重要です。

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まとめ

「手術跡がポッコリ膨らんできた」——これは腹壁瘢痕ヘルニアのサインです。痛がっていなくても、放置すると腸が嵌頓し緊急手術が必要になることがあります。

術後は毎日傷口の状態を確認し、少しでも変化があれば様子見せず早めに受診してください。早期発見・早期治療が愛犬の負担を最小限にします。

Dr.Nyan

「なんか変かも」と感じたらお気軽にご来院ください。佐倉ICから車で約6分、駐車場30台完備です。

筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

獣医師 若山正之 プロフィール写真 小動物臨床 犬猫診療

本記事は、佐倉市で犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。