Dr.Nyanのすこやかコラム
飼い主様に伝えたい犬猫の病気や日常ケアについての役立つコラムをお届け♪
【口腔トリコモナス症】猫の口腔トリコモナス症とは?症状や治療法を解説
猫の口の中の病気で良く知られているのが、口内炎です。しかし口内炎の原因が何であるかを知っている方は、さほど多くはありません。
そもそも「猫の口の中の病気」が起きる原因って、なんでしょう?そんな疑問を持つ飼い主さんも多いかと思います。
せんせい〜
うちの子アクビをすると口が臭いの!
口内炎?それとも歯周病かしら?
どれどれ
口の中を診てみましょうね!
はいッ、アーンしてごらん?
せんせいッ!
痛い!痛い!痛いよ〜
口が痛くて開けるもの触られるのも嫌だよ!
あらら
歯茎も真っ赤だよ
じゃ〜チョッピリ歯垢を取って検査しようね
そこで歯の表面を軽く擦り、歯垢の検査です。
先生!
トリコモナスですよ!
口の中に住むトリコモナスを、他のトリコモナスと区別するため「口腔トリコモナス」と言います。「口腔トリコモナス」は犬とは違い、猫では見つかることは多くはありません。
「口腔トリコモナス」は、1個の細胞(単細胞)からなる原虫です。それでは口の中に炎症を起こす原因の一つである「口腔トリコモナス」について、Dr.Nyanが説明しますね。
口腔トリコモナス症の症状
口腔トリコモナス(Trichomonas tenax) の感染より起こるのが、口腔トリコモナス症です。口腔トリコモナスは口の中に棲むため、唾液を介して感染します。
日本獣医師会学会誌に、大阪歯科大学細菌学講座教授の王宝禮氏の研究成果が掲載されています。それは、猫の口腔トリコモナスは人に感染するリスクがある・・・と言うものです。
せんせい〜
口腔トリコモナスって、どんな悪さをするの?
ではどんな症状が出たら注意が必要なのかを
一緒に確認していきましょう!
口臭など歯周病の症状
口腔トリコモナスは、口の中や唾液腺の中に寄生します。そのため、口の中や唾液腺にトラブルを出します。
また口腔トリコモナスは、細菌やウイルス、真菌などと一緒に感染していることも多々あります。例えばカリシウイルス感染症や猫エイズなどです。
また口内炎や歯周病を悪化させてしまう原因ともなる、とっても嫌な原虫です。
しかも歯垢や歯石は、口腔トリコモナスの温床ともなってしまいます。
口の中にはヘビみたいな動きをする歯周菌がいます。
以下のような症状が見られるようにもなるため、注意が必要です!
- 口から腐敗臭がする
- 口の周りが涎で汚れている
- 歯茎が赤くなっている
- 歯茎がやせて歯が長く見える
- 歯がグラグラしたり抜ける
- 固いものを食べなくなる
- 食べづらそうだったり、食べるのに時間がかかる
- 顔まわりを触れられるのを嫌がる
- 目の下の頬の部分が腫れる
唾液腺の感染
口腔トリコモナスは、唾液腺の中に入り込むことがあります。その結果、唾液腺は炎症を起こし腫れたり痛みが出たりします。
唾液腺は顎の下にあるため、唾液腺の腫れを顎下リンパ節の腫れと勘違いしてしまうことがあります。
唾液腺が腫れると、
炎症から痛がることがあります。
そのため押すと噛まれちゃうこともありますヨ!
重度の慢性歯周病
口腔トリコモナスは口内炎や歯周病を悪化させる要因になります。そのため、とても痛々しい状態とさせてしまいます。このような状態になると、歯科処置を行なっても口腔内環境は良くはなりません。
しかも、それだけでなく・・・
口腔内の粘膜にまで病変を起こしてしまう、重度の口内炎や歯周病となってしまいます。
口腔トリコモナス症の原因
トリコモナス症は、口腔トリコモナス(Pentatrichomonas tenax)という原虫の感染により発症する病気です。口腔トリコモナスは長い毛(鞭毛)を持ため、口の中を活発に動き回ります。
口腔トリコモナスは細菌よりは大きいとは言われますが、顕微鏡でないと見ることができません。また口腔トリコモナスは猫だけでなく、犬など多くの脊椎動物に寄生します。
国内での
口腔トリコモナスの感染率は
猫では 10.5%
犬では 27.7%です。
これって・・
猫では10頭に1頭が、
犬は4頭に1頭が感染してるってことネ
犬に比べると低いけど、それでも多いね
ちなみにヨーロッパでは口腔トリコモナスの感染率は猫では19%で、犬では15~25%%とほぼ同程度です。この違いは、猫の飼い方の違いからなのでしょうか?
飛沫による感染
クシャミなどで飛んだ唾液の中の口腔トリコモナスを、吸い込むことで感染します。これを「飛沫感染」と言います。
舐めることによる感染
口腔トリコモナスに感染した猫の唾液が付いた皿や水飲みの器などを介して、感染します。また飼い主の手についた、唾液からも感染してしまいます。
口腔トリコモナスは、水に濡れた場所など条件によっては体外でも数日間も生きています。そのためこの間に舐めてしまうなど接触してしまうと、そこからも感染します。
これを「経口感染」と言います。
せんせい〜
腸トリコモナスは腸炎を起こすけど?
口腔トリコモナスは腸炎を起こさないの?
なぜなの?
良い質問ですね!
口腔トリコモナスも腸トリコモナスと同じように、口から入り感染します。しかし腸トリコモナス症のように、腸炎のなどの消化器症状は起こしません。
その理由は・・・
それは口腔トリコモナスは、酸に弱いからだよ!
pH5以下の酸性の中じゃ生きられない
つまり飲み込まれたとしても
胃酸や胆汁の中では死んでしまうので腸までは行きて行けないんだよ!
口腔トリコモナス症の治療
歯垢を少し擦り取り、そこに口腔トリコモナスが居るかを調べます。
口腔トリコモナス症を発症した場合、他の細菌やウイルス、真菌と混合感染をしていることがあります。そのため、それらについても併せて治療を行う必要があります。
歯磨きで歯垢を落とす
歯垢は「ワラで作られた家」で、その中に多くの口腔トリコモナスが住みます。そのため、毎日歯磨きを行うことで歯垢を取り除き口腔トリコモナスの住む場所を減らします。
しかし猫に歯磨きは、とっても難しいものです。なかなか出来ませんよね??
抗菌剤の投与
歯磨きは口腔トリコモナスを減らせても、死滅に追いやることはできません。そのためメトロニダゾールやチニダゾールという薬を投与し、口腔トリコモナスをやっつけます。
ただこれらの薬は、体重によって飲む量が違います。そのため錠剤を割るなどして、容量を調整して飲ませる必要があります。
しかしこれらの錠剤はとっても苦く、割ってしまうと苦みを強く感じるようになります。
猫は、苦い薬がとっても苦手です。
飲ませた時に味わってしまうと、口から涎を流し泡ブクブクになってしまうことがあります。そのため飲ませる時には、十分に注意することが必要となります。
オエ~苦ッ!!
上手に飲ませられず泡ブクになると、薬を飲ませるのが可哀想になってしまいますよね?でも治療中は投薬は途中でやめず、必ず投与期間を守り確実に投与することがとても大切です。
歯科処置で歯石を落とす
歯石は、口腔トリコモナスの住む「石造の家」のようなモノです。頑固で硬い石の家は、歯磨きでは壊すことはできません。また表面がデコボコした歯石にはさらに歯垢が付き、石の家はマンション化していきます。
見た目大きくなった歯石は、歯茎の中へと進行して行きます。それは大きな建物の基礎は、地下の中に大きくしっかりと作るのに似ています。
その基礎の部分を、歯周ポケットと言います。
その基礎部分にも口腔トリコモナスも棲みつき、炎症を起こした歯周ポケットはさらに深くなっていきます。
そのため歯や歯根の歯石、歯周ポケットの奥深くの歯石や感染した組織を取り除く必要があります。そして口腔トリコモナスの棲む場所を、少しでも無くす必要があります。
ただ歯科処置を行うにも痛みや不安を与えると、口を触られるのがトラウマになってしまいます。その結果、歯磨きなどのホームケアを続けることが難しくなります。
そのようなことにならなためには、歯科処置には全身麻酔が必要となります。しかし、どうしても全身麻酔が出来ない場合もあります。そのような場合には、先生とよく相談して治療方法を考える必要があります。
治療費はどのくらいかかるものなのか
軽度の口内トリコモナス症であれば、診察と検査、1週間分の飲み薬で8000円前後です。しかし全身麻酔が必要となると、50000円〜80000円前後にはなってしまいます。
そこに抜歯などの処置や心臓病などの病気がある場合には、さらに経費がかかってしまいます。
『予防に勝る治療は無い』と言いますが、本当のことと思いませんか?
口腔トリコモナス症の予防
口腔トリコモナスが棲みやすい環境を作らないように、口の中のケアの行います。
口腔トリコモナス症の予防って、歯磨なのかしら?
定期的なチェックや、日頃のケアで予防することができます。
口腔トリコモナスがいる唾液の飛沫や、唾液を直接的もしくは間接的に口に入ることで感染します。
そのため水飲み場所など、環境には十分に注意をします。
食器などは共通にしない
口腔トリコモナスに感染した猫と同じ環境で生活している場合には、他の猫へ感染させてしまいます。感染は食器や水飲み、ぬいぐるみなどのオモチャを介しても成立してしまいます。
そのため感染している猫が使うモノは、他の猫と共有しないようにします。また感染した猫は、治療が終わるまでの間は他の猫との接触を避けるようにすることも大切です。
大きめなドライフードを食べさせる
小さい時から「大粒のドライフード」を食べさせることです。
大粒のドライフードはよく噛む必要があるため、顎と唾液腺が発達します。その結果口腔内には天然の消毒薬とも言われる「唾液」がたくさん分泌され、消毒されるとともに口腔内の細菌たちも洗い流されます
その結果、口腔内の環境が良くなります。
よく噛むことで歯垢が作られにくくなり、結果として口腔トリコモナスなどが棲みずらくなるのです。これがドライフードによる歯磨き効果です。
ちなみ小さい時からの「噛む習慣」は一生忘れないモノです!
水をよく飲ませる
小さい時から「水をよく飲ませる」ように心掛けることです。水をよく飲ませると、口に中の食べかすや口内トリコモナスや細菌が胃へと流れて行きます。
水をいっぱい飲ませることは、口の中の乾燥してしまうドライマウスを防ぐことにもなります。口の中の乾燥は、唾液や口の中の粘膜の口腔トリコモナスなどの歯周菌と戦う力を落してしまいます。
それを防ぐためにも、口の中の乾燥を防ぐことが大切です!
歯磨きをする
歯磨きを行い歯垢を減らし、口腔トリコモナスの棲む場所を減らします。歯ブラシは専用のモノを使い、毎日行うように心がけます。
でもね〜猫に歯磨きを行うのは大変!
とってもレベルの高いケアなんですよ
無理せず行う、出来ないなら無理しないでネ
歯磨き用の歯ブラシは小さな物であれば、何でも良いというわけではありません。人と猫とでは歯の形が違うため、猫専用の歯ブラシを使う必要があります!
【参考HP】ライオン
デンタルケア用品を使う
唾液の分泌を促すようなスプレーやジェルも、効果があります。また歯磨き用オヤツも、噛ませることでも歯垢や歯石は落ちます。
定期的な歯科検診を行う
定期的に歯科健診を行い、早期の発見と治療を心がけます。治療が終了したなら、予防に努めましょう!
口腔トリコモナス症になりやすい猫種
猫種には関係なく感染します。
そのため上記の予防方法を実践して下さいね!
どのような猫種にも「口腔トリコモナス」の感染は見られます。しかし感染しても、そこから口の中の環境が悪化するかは猫により違いもあります。
以下の猫種が歯周病になりやすいと言われています。
- ウエットフードを食べている猫
- 糖尿病に罹ってる猫
- 水の飲みが悪い猫
- 口に中が乾き気味の猫
まとめ
口腔トリコモナスは、口の中の衛生状態が悪い猫に多くみられます。そのため口の中の衛生状態を綺麗に保ち、歯科健診を受けることが大切です。
予防に勝る治療は無い!そう思いませんか?もし何か気になる兆候が見られたら、早めにご相談ください!