Dr.Nyanのすこやかコラム
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猫の慢性口内炎|食べられない・よだれ・難治性口内炎の原因と幹細胞治療

本記事は、Dr.Nyan症例集「猫の口腔・歯科疾患編」の一部です。実際の診療症例をもとに、猫の慢性口内炎の原因と、幹細胞治療を含む最新の対応についてわかりやすく解説しています。
「食べたそうにするのに口が痛くて食べられない」「よだれが多く口臭がひどい」「抗生剤やステロイドを使っても治らない口内炎がある」そのような姿を見るのは辛いですよね。
猫が食べられない・よだれが多い・口臭が強い場合、慢性口内炎(LPGS)の代表的な症状です。
こうした症状が続くとき、猫の慢性口内炎(LPGS:慢性リンパ球性形質細胞性口内炎)を疑う必要があります。通常の治療に反応しにくい難治性の口内炎で、幹細胞治療(再生医療)が新たな選択肢として注目されています。
【症例】こんな猫が来院しました
飼い主
6歳のオス猫です。1年以上口内炎を繰り返しています。ステロイドや抗生剤を使っても一時的にしか良くならず、また悪化してしまいます。食欲もかなり落ちています。
Dr.Nyan
口腔内に重度の歯肉口内炎があります。内科療法に反応しにくい難治性のケースです。全歯抜歯または幹細胞治療を選択肢として検討しましょう。
ご家族と相談の上、幹細胞治療を実施。治療後2〜4週間で口腔内の炎症が著明に改善し、食欲が戻りました。現在も定期的なフォローアップを続けています。
猫の慢性口内炎とは?
LPGSは「Lymphocytic Plasmacytic Gingivostomatitis(慢性リンパ球性形質細胞性口内炎)」の略で、免疫が自分の口腔粘膜を攻撃することで慢性的な炎症が続く病気です。
口内炎と聞くと「軽い病気」というイメージがありますが、LPGSは強い痛みで食事が困難になる・通常の内科療法では改善しにくい・慢性化・再発を繰り返すという特徴を持つ難治性疾患です。
Dr.Nyan
「口内炎くらい…」と思わないでください。重症のLPGSでは食べられなくなり、体重が急激に落ちることがあります。早めの診断と適切な治療が重要です。
症状
- 食べたそうにするが、痛くて食べられない
- よだれが多い・口から垂れる
- 強い口臭
- 前足で口を頻繁に拭う
- 体重減少・毛並みが悪くなる(グルーミングが辛い)
- 口を触られるのを嫌がる・攻撃的になる
- 口から出血する
Dr.Nyan
「食べようとするのに途中でやめてしまう」「ご飯の前に鳴いて近づかない」などの変化に気づいたら、口の中を確認してください。口内炎がある可能性があります。
リスク先生
全く食べられない・体重が急速に落ちている・口から出血が続く場合は重症です。脱水・低栄養になる前に早急に受診してください。
原因
LPGSの明確な原因はまだ完全に解明されていませんが、以下が関与しているとされています。
免疫の異常(最大の要因)
自己免疫反応により、口腔内の細菌(特に歯垢中の細菌)に対して過剰な免疫反応が起き、粘膜の炎症・壊死が起きます。「歯がある限り炎症が続く」とされており、全歯抜歯が根本的な治療と考えられています。
ウイルス感染(FCV・FHV・FeLV・FIV)
猫カリシウイルス(FCV)・ヘルペスウイルス(FHV)・猫白血病ウイルス(FeLV)・猫免疫不全ウイルス(FIV)が発症・悪化に関わっていることが多いです。これらの検査も必要です。
歯周病・口腔衛生不良
歯垢・歯石の蓄積が免疫反応を刺激し、LPGSを悪化させます。
Dr.Nyan
LPGSとFCV・FeLV・FIVは合併していることが多いです。口内炎の治療を始める前に、これらのウイルス検査を行うことが重要です。
診断方法
- 口腔内視診・触診(炎症の範囲・重症度の評価)
- 血液検査(全身状態・免疫異常・ウイルス検査)
- 口腔内PCR検査(FCV・FHV・FeLV・FIVの確認)
- 病理組織検査(確定診断:リンパ球・形質細胞の浸潤を確認)
- レントゲン(歯根・歯槽骨の評価)
治療法
内科療法(ステロイド・抗生剤・免疫抑制剤)
一時的な改善は期待できますが、LPGSは内科療法のみでの根治が難しく、ほとんどのケースで再発します。長期のステロイド使用は糖尿病・感染症リスクを高めるため、限界があります。
全歯抜歯(最も確実な治療)
歯垢・歯根への免疫反応を断ち切るため、全ての歯を抜歯します。約60〜80%の猫で症状が大幅に改善するとされています。ただし完全寛解に至らないケースもあります。
Dr.Nyan
「歯を全部抜いたら食べられなくなる?」とよく聞かれますが、猫は歯がなくてもドライフードを食べられます。むしろ痛みがなくなって食欲が戻るケースがほとんどです。
現在の国際的な考え方では、猫の慢性口内炎は「全顎抜歯」が第一選択とされています。そのうえで、抜歯をしても改善しない場合や、全身状態などの理由で抜歯が難しい場合に、幹細胞治療が次の選択肢として検討されます。
幹細胞治療は、通常治療で改善しない難治例に対する「希望の光」として注目されています。
幹細胞治療(再生医療)


幹細胞治療は、脂肪組織などから採取・培養した間葉系幹細胞(MSC)を静脈内に点滴投与する再生医療です。MSCは強力な免疫調整作用・抗炎症作用を持ち、LPGSの過剰な免疫反応を抑制します。
幹細胞治療の特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 内科療法・抜歯でも改善しない難治性LPGS |
| 方法 | 間葉系幹細胞を静脈内に点滴投与(麻酔不要) |
| 回数 | 通常2〜4回の投与(2〜4週間おき) |
| 入院 | 不要(通院で実施) |
| 効果発現 | 投与後2〜4週間で改善を確認 |
| 有効率 | 約70〜80%に改善が見られたと報告 |
Dr.Nyan
幹細胞治療は「魔法の治療」ではなく、すべての猫に効くわけではありません。効果が出る可能性・他の選択肢について事前に丁寧にご説明します。
対症療法・緩和ケア
- 鎮痛薬・抗炎症薬(痛みの管理)
- インターフェロン(免疫調整・抗ウイルス)
- 流動食・食欲増進薬(栄養管理)
- ロキソニン・ブプレノルフィンなど(痛みコントロール)
治療の選択肢の比較
| 治療法 | 改善率 | 特徴 |
|---|---|---|
| 内科療法のみ | 約30〜50%(一時的) | 再発しやすい・長期使用に限界あり |
| 全歯抜歯 | 約60〜80% | 最も確実・全身麻酔が必要 |
| 幹細胞治療 | 約70〜80%(報告値) | 麻酔不要・難治例にも有効な可能性 |
| 抜歯+幹細胞治療 | より高い改善率 | 抜歯後も残存する炎症への追加治療として |
日常ケアのポイント
- ウェットフード中心の食事(硬いものを避ける)
- 歯磨きが可能な場合は継続(難しければ口腔ケアジェルなど)
- ストレスを最小限に(免疫維持のため)
- 3〜6か月ごとの定期健診・口腔内チェック
- 体重・食欲の変化を毎日記録する
Dr.Nyan
LPGSは根気よく付き合っていく病気です。完治が難しいケースでもQOLを高めることはできます。一緒に最善の方法を考えましょう。
こんな症状があれば早めに受診を
| 症状 | 受診の目安 |
|---|---|
| 口臭が強い・よだれが多い | ⚠️ 早めに受診 |
| 食べたそうだが食べられない | ⚠️ 早めに受診 |
| 口内炎の治療をしても再発する | ⚠️ 早めに受診(精密検査を) |
| 体重が減ってきた | ⚠️ 急いで受診 |
| 全く食べられない・口から出血 | ⚠️ 直ちに受診 |
よくある質問
幹細胞治療はどこで受けられますか?
当院でも実施しています。事前にご相談いただければ、適応かどうかの評価・費用・スケジュールについてご説明します。
全歯抜歯は可哀想ではないですか?
抜歯後は多くの猫で「痛みがなくなって穏やかになった」「よく食べるようになった」という変化が見られます。炎症の苦痛を取り除くことが猫のQOLを守ります。
口内炎は予防できますか?
完全な予防は難しいですが、定期的な歯科検診・スケーリング・混合ワクチン接種(FCV予防)・FeLV・FIV検査で発症リスクを下げることができます。
幹細胞治療の費用はどのくらいですか?
治療回数・使用する幹細胞の種類によって異なります。詳細はご来院時にご相談ください。
ステロイドを長期使用していますが副作用が心配です
長期のステロイド使用は糖尿病・感染症リスクを高めます。他の治療選択肢(抜歯・幹細胞治療)を一緒に検討しましょう。
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まとめ
「食べたそうだけど食べられない」「口内炎を繰り返す」「ステロイドを使っても良くならない」——これは難治性口内炎(LPGS)のサインです。
全歯抜歯・幹細胞治療など、通常の内科療法では改善しない場合でも選択肢があります。諦める前に一度ご相談ください。
猫が食べられない・よだれが多いなどの症状に気づいたら、慢性口内炎(LPGS)を疑い早めに対応することが重要です。
Dr.Nyan
「食べたいのに食べられない」は危険なサインです。早めの受診がその後の回復を大きく左右します。
筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

本記事は、佐倉市で犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。