Dr.Nyanのすこやかコラム
飼い主様に伝えたい犬猫の病気や日常ケアについての役立つコラムをお届け♪
歯周病と寝たきりの関係・口の病気が高齢犬の体に及ぼす影響

「最近、寝てばかりいます。もう年なのでしょうか」
年を取った犬の動きが減ると、「年だから仕方ない」と思ってしまいますよね。
でも、動きが減った理由は年齢だけとは限りません。口臭が強くなったり、食べ終わるまでに時間がかかったりしていませんか?
歯周病が進むと、歯ぐきや歯を支える骨が傷み、口の不快感や食べにくさにつながることがあります。
犬の症状や治療例は、犬の歯周病の症例コラムにもまとめています。
口の病気と、立つ・歩く力。一見離れているようですが、食事や毎日の動きを通して関わる可能性があります。

飼い主
歯周病が進むと、歩けなくなるのですか?
Dr.Nyan
歯周病だけで歩けなくなるわけではありません。
ただ、食事や動く時間が減れば、体力が落ちる一因にはなります。
リスク先生
寝たきりとの因果関係は、犬ではまだ証明されていません。今ある食べにくさや痛みは、放置しないでください。
歯周病は、歯の土台が傷んでいく病気
歯は、あごの骨に直接くっついているわけではありません。
歯の根と骨の間には、「歯根膜(しこんまく)」という、細い線維の集まりがあります。
歯根膜はハンモックが体を支えるように歯を支え、かむときの力を受け止めます。
歯ぐきや歯根膜、歯を支える「歯槽骨(しそうこつ)」などを、まとめて歯周組織と呼びます。
- 歯肉炎:炎症が歯ぐきにとどまっている状態。
- 歯周炎:歯根膜や歯を支える骨が壊れていく状態。進むと歯がぐらつき、抜けることもあります。
歯石と歯垢は、何が違う?
茶色い歯石を見ると、「これが歯周病の原因だ」と思いますよね。
実は歯周病に深く関わるのは、細菌のかたまりである「歯垢(しこう)」なんです。
歯垢の細菌に対し、体は免疫の働きで対抗しようとします。
その過程で起こる炎症が長引くと、歯を支える組織が傷んでしまいます。
歯石は、歯垢に唾液中のミネラルなどが沈着して硬くなったものです。
歯石の表面はざらざらしているため歯垢が付きやすいので、取り除く必要があります。
しかし、見える歯石を取るだけでは不十分です。歯周病で深くなった歯と歯ぐきの間の溝「歯周ポケット」も調べ、中の歯垢や歯石を取り除く必要があります。

飼い主
歯が白くなれば、治ったと思っていました。
Dr.Nyan
白くなっただけでは分かりません。歯ぐきの下の炎症や、歯を支える骨の状態も大事です。
完食していても、口が痛くないとは限らない
炎症のある歯ぐきに食べ物が触れたり、ぐらつく歯に力がかかったりすると、不快感や痛みが生じることがあります。

飼い主
ごはんは完食しています。それでも痛いのでしょうか?
Dr.Nyan
食べていても、痛みがある子はいます。食べこぼす、硬い物を避けるなど、食べ方は変わっていませんか?
食べ方は、歯周病以外の口の病気や、体調の悪化でも変わります。診察では、ほかの原因も探します。
口がつらくて、食べる量や動く時間が減ったら
高齢の犬が立てなくなる原因には、関節や神経の病気、筋肉の減少、内臓の病気などがあります。
食事量が減ると、筋肉を保ちにくくなる
口が痛かったり歯がぐらついたりすると、食べたくても思うように食べられないことがあります。
途中で食べるのをやめる。食べやすい物ばかり選ぶ。
そんな日が続いていたら、いつもの量を食べられているか、食事の記録をつけてみてください。
筋肉を保つには、十分なエネルギーと、筋肉の材料になるたんぱく質が必要です。
高齢の犬は、年齢や長く続く病気の影響で、筋肉が減ることがあります。
食べる量が落ちていれば、さらに筋肉量を保ちにくくなります。
もともと筋肉が少ない子では、栄養不足が続くと、立つ、歩く、寝返りを打つといった動作も難しくなるおそれがあります。
歯周病のある子が、みんな栄養不足になるわけではありません。
大切なのは、その子が何をどれくらい食べ、体つきがどう変わったかです。

飼い主
体重は変わっていないのですが、それなら安心ですか?
Dr.Nyan
体重が同じでも、筋肉が減っていることはあります。背中や腰、太ももを触って確かめます。
動く時間が減ると、筋肉を使う機会も減る
口の不調は、食事以外の様子にも表れることがあります。例えば、こんな変化です。
食欲があっても口に問題が見つかったトイ・プードルの口臭の例も、ブログで紹介しています。
- おもちゃや遊びへの反応が鈍くなった
- 顔を触られるのを嫌がるようになった
- 静かに過ごす時間が増えた
これだけで歯周病とは決められませんが、口のつらさを疑う手がかりになります。
AAHA(米国動物病院協会)の歯科診療ガイドラインでは、歯科処置の後に「以前より活発になった」と飼い主から報告される例が紹介されています。
当院でも、「走るようになった」「動きが良くなった」と、飼い主さんから喜びの声を聞くことがあります。
「足腰が弱ったから動かない」と思っていても、口のつらさが重なっているかもしれません。
リスク先生
元気になった例があっても、寝たきりを防げる証明にはなりません。関節や神経の治療も必要な子がいます。
口の炎症は、全身にも影響する?
炎症は、細菌などから体を守ろうとする反応です。
しかも長引くと、周りの組織を傷めることもあります。
歯周病では、細菌から出る成分や、炎症を伝える物質が血液を通して全身に影響する可能性が研究されています。
AAHAのガイドラインでも、口の細菌が離れた臓器に直接感染するという説明だけでは不十分で、炎症そのものの影響にも目を向けています。
血液検査で炎症の目安になるのが「CRP」です。
CRPは炎症が起こると血液中で増えるたんぱく質ですが、その数値だけで炎症の場所や原因は分かりません。
犬38頭を調べた研究では、歯を支える組織の傷みの程度と、治療前後のCRPの変化などに関連が見られました。

飼い主
では、歯周病の炎症で筋肉が減るのですか?
Dr.Nyan
この研究だけでは、炎症で筋肉が減るとは言えません。栄養不足や、ほかの病気も考えます。
足腰の衰えに、食べにくさが重なったら
関節が痛くて、歩く時間が減っている。
そこに口の不調が加わり、食べる量も落ちてきた。
こうした状態では、動く機会と、筋肉を保つための栄養の両方が不足するおそれがあります。
例えば、食事を十分に取れるようになっても、関節が痛ければ歩くのはつらいままです。
口の治療に加えて、痛みを抑えたり、無理なく動ける環境を整えたりすることも欠かせません。
年齢とともに筋肉が減り、力も弱くなる状態を「サルコペニア」と呼びます。
体の余力が減り、ちょっとした不調で体調を崩しやすくなった状態が「フレイル」です。

飼い主
歯の治療だけでは足りないのですね。
Dr.Nyan
食事と動きやすさ、両方を考えます。滑る床にマットを敷くなど、家でできる工夫もありますよ。
人の研究では、口の衰えと体の弱りに関連がある
ここで、人の研究も一つ紹介します。
調べているのは歯周病だけでなく、かむ・飲み込むといった口の働きです。
日本の高齢者2,011人を対象にした研究では、歯の本数、かむ力、舌の働き、食べにくさなどを調べました。
かむ、飲み込むといった口の働きがいくつも衰えた状態を、「オーラルフレイル」と呼びます。
この状態の人は、その後、筋肉が衰えたり、日常生活で介助が必要になったりすることが多いと報告されています。
この結果は、口の働きと体の衰えを一緒に考える手がかりになります。
リスク先生
これは人の研究です。
犬にも同じことが起こるとは限らず、原因と結果まで分かったわけでもありません。
糖尿病がある子は、口の炎症にも目を向けて
血糖値が安定しない犬では、口の中に炎症がないかも確認します。
犬の症状と日々の治療は、犬の糖尿病のコラムで説明しています。
インスリンは、血液中の糖を細胞に取り込む働きを助けるホルモンです。
感染や炎症があると、インスリンの効きにくくなることがあります。
血糖値が安定しないときは、薬の量だけでなく、使い方や食事、ほかの病気も調べます。
歯周病があり、血糖管理がうまくいっていない犬10頭で、歯周病の治療前後を比べた研究があります。
歯周病の治療後には、血糖管理の目安となる検査値は改善しましたが、糖尿病の症状には明らかな改善が認められませんでした。
対象が少なく、治療しない犬との比較もないため、歯周病の治療だけの効果とは断定できませんが、産参考にはなるかとは思います。

飼い主
歯周病を治せば、糖尿病も治りますか?
Dr.Nyan
歯周病の治療は、糖尿病の治療の代わりにはなりません。
インスリンの量は自己判断で変えず、相談してください。
診察では、口と体の両方を診ます
診察で歯周病が見つかっても、「これが動かない原因だ」とすぐには決めません。
食事と歩き方がいつから変わったのか、ご家族の話を聞くところから始めます。
いつから、何が変わったか
- 食事量や食べ方が変わった時期
- 体重や体つきの変化
- 遊びや室内での動きが減った時期(犬では散歩の変化も)
- 立ち上がりや歩き方の変化
- 水を飲む量や排尿の変化
急に立てなくなった場合は、口の病気や年齢のせいと決めつけず、すぐに動物病院へ連絡してください。神経などの病気で、急いで対応が必要なこともあります。

飼い主
どうして「いつから変わったか」を詳しく聞くのですか?
Dr.Nyan
ゆっくり弱ったのか、急に立てなくなったのか。その違いで、疑う病気や、検査を急ぐ度合いが変わります。
歯ぐきの下まで調べ、治療方法を決める
まず口の中を見て、歯ぐきの赤み、出血や腫れ、歯のぐらつきを確かめます。
ただ、起きている状態では、口の奥や歯ぐきの下まで詳しく調べることは困難です。
詳しい検査では、全身麻酔のもとで歯周ポケットの深さを測り、レントゲン検査などで歯の根やあごの骨の状態を確認します。
歩き方や筋肉の付き方にも目を向け、関節や神経の異常がないかを診ます。
心臓や腎臓などの状態も、必要に応じて検査します。
診察と検査をもとに、どの歯を残せるか、どの処置が必要かを決めます。
歯周病の治療では、全身麻酔のもとで歯の表面や歯ぐきの下の歯垢・歯石を取り除きます。
傷みが大きく、残して管理するのが難しい歯では、抜歯も検討します。
当院では、歯ぐきの炎症を和らげるためにプラズマ治療を行うこともあります。
ただし、歯石の除去や、必要な抜歯の代わりにはなりません。
処置を終えた後も、口の状態に合った家庭でのケアと定期的な診察を続けます。
治療後、食べ方や動きは変わった?
治療後は、口臭が減ったかだけでなく、食事や普段の動きも見ていきます。
- 食べる量や食べ方は戻ったか
- 減っていた体重は落ち着いたか
- 立ち上がり方や歩く時間に変化はあるか
口の状態が改善しても、減った筋肉がすぐに戻るわけではありません。
関節や神経に病気があれば、引き続き治療が必要となります。
Dr.Nyan
食べやすくなっても歩きにくさが残れば、ほかの原因を考えます。治療前の動画が、比較に役立ちます。
高齢だから、歯科治療はできない?
「この年齢で、麻酔に耐えられるのでしょうか?」
高齢の子の歯科治療では、飼い主さんからよく聞かれる心配です。
AAHAの高齢動物診療ガイドラインでは、年齢だけで全身麻酔の可否を決めないとしています。
心臓や腎臓の働き、ほかの病気、処置にかかる時間などを調べ、麻酔の方法と処置後のケアを決めます。
治療で減らせる苦痛と、麻酔や処置のリスク。その両方を、ご家族と相談して決めます。
ブログでは、頬の腫れを繰り返していた14歳の犬の歯科処置も紹介しています。

飼い主
何もしない方が、体への負担は少ないのではありませんか?
Dr.Nyan
麻酔は心配ですよね。ただ、口の痛みが続く負担もあります。今のつらさと治療のリスクを一緒に考えましょう。
リスク先生
麻酔を受けられるかは、年齢だけでは決まりません。病気の状態や体力によって、処置の範囲や時期を変えることもあります。
家での様子を、診察につなげるには
診察室では緊張して、家と同じように動かない子もいます。
普段の様子を知っている飼い主さんの話が助けになります。

飼い主
病院に来る前に、何を見ておけばよいですか?
Dr.Nyan
食べる速さや立ち上がり方を、以前と比べてください。「いつから変わったか」も大切な手がかりです。
受診するときは、気づいた変化と、その時期を伝えてください。
家で食べている様子や歩く姿を撮った動画があれば、診察室ではわからない動きも確認できます。
まとめ|寝てばかりなら、口の中も診てもらいましょう
歯周病があるからといって、寝たきりになるわけではありません。
ただ、口の痛みや食べにくさで食事量が減り、動く時間も短くなれば、体力を保ちにくくなることがあります。
完食していても、食べ方が変わったり、口臭が強くなったりしたら、口の中も診てもらってください。
歩きにくさがある子では、足腰や神経、内臓の病気も見逃せません。
「もう年だから」と思っていた変化の中にも、治療や暮らしの工夫で楽にできることがあるかもしれません。
まずは、普段と違うと感じたことを聞かせてください。そこから、その子に合う方法を一緒に考えましょう。
よくある質問
歯周病を治療すれば、寝たきりを防げますか?
歯周病を治療すれば寝たきりを防げる、とはまだ言えません。犬で、その効果が十分に確かめられていないためです。
ただ、口の痛みや食べにくさを減らすことは、その子の毎日を楽にするために大切です。食べる量が落ちている子では、必要な栄養を取れるよう食事も調整します。
歩きにくさがある場合は、関節や神経の病気、筋肉の減少などにも対応します。口の治療だけで、すべてが解決するわけではありません。
柔らかいごはんに替えれば、受診しなくても大丈夫ですか?
柔らかい食事に替えて食べやすくなっても、歯周病そのものが治るわけではありません。歯ぐきの炎症や歯のぐらつきが残っていることがあります。
口臭が強い、食べこぼす、顔を触ると嫌がるといった変化があれば、食事を工夫しながら診察も受けてください。
普段より食べる量が減ったり、ほとんど食べられなかったりする場合は、柔らかい物で様子を見続けず、早めに動物病院へ相談しましょう。
歯磨きを始めれば、進んだ歯周病も治りますか?
進んだ歯周病は、歯磨きだけでは治せません。歯ブラシで取れるのは主に歯の表面の歯垢で、硬くなった歯石や、深い歯周ポケットの中まで十分に取り除くことはできないためです。
まず診察で歯ぐきや歯を支える骨の状態を調べ、必要な歯科処置を行います。歯磨きは、その後の歯垢をためないためにも大切なケアです。
痛がる、出血する、歯がぐらつく場合は、無理に磨かないでください。いつから、どのようにケアを再開するかは、口の状態に合わせて相談しましょう。
抜歯すると、かめなくなって体力が落ちませんか?
抜歯をしたからといって、食べられなくなり、体力が落ちるとは限りません。痛みやぐらつきのある歯では、残しておく方が食事の妨げになることもあります。
抜歯するかどうかは、歯を支える骨や歯周ポケットの状態を調べ、その歯を残して管理できるかを見て決めます。
処置後は、傷が治るまで食事の硬さや形を調整します。食べた量と体重も見ながら、栄養不足にならないようにしていきます。食べにくそうな場合は、食べ方の動画などを添えて相談してください。
すでに寝たきりでも、口の治療を相談できますか?
相談できます。歩けるようになるかどうかとは別に、口の痛みや食べにくさを減らせないかを考えます。
ただし、寝たきりになった原因や、心臓・腎臓などの状態によって、受けられる処置は違います。診察や必要な検査を行い、治療で得られそうな楽さと、麻酔や処置の負担を比べて決めます。
すぐに歯科処置を行うのが難しい場合も、痛みへの対応や食事の工夫を相談できます。口を嫌がる子に、無理な歯磨きや口の掃除を続ける必要はありません。
診察前に、家で何を記録すると役立ちますか?
「いつから」「何が」「どれくらい変わったか」が分かると役立ちます。食べた量、食べ終わるまでの時間、体重の変化を、分かる範囲でメモしてください。
食べこぼす、片側でかむ、硬い物を残すといった食べ方の変化も伝えてください。食事中や、寝床から立ち上がって歩く様子の短い動画があると、診察室では見られない動きも分かります。
撮影のために口をこじ開けたり、痛がる子を無理に歩かせたりしないでください。急に立てない、ほとんど食べられない場合は、記録をそろえるより先に動物病院へ連絡しましょう。
症状や治療を、もう少し詳しく知りたい方へ
口の症状と治療
当院の歯科処置の記録
足腰・糖尿病・シニア期の暮らし
参考文献
[1]2019 AAHA Dental Care Guidelines for Dogs and Cats
[2]2023 AAHA Senior Care Guidelines for Dogs and Cats
[3]Rawlinson JE, et al.(2011)犬の歯周病と全身の健康指標・治療への反応