Dr.Nyanのすこやかコラム
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【臍ヘルニア】犬の臍ヘルニアとは?症状や治療法を解説
臍の部分が出っ張ったままになっていて、引っ込まない!そんな症状がみられたら「臍ヘルニア」を引き起こしているかもしれません。
先生!うちの子のお腹なんですけどね・・・
お腹の真ん中がプックリ腫れちゃって、しかも赤くなってるんです。
なんか悪い腫瘍のかしら?
触っても痛がる事もないけど、どうしたら良いのかしら?
お腹の真ん中がぷっくりと膨らんでいます。
あらッ、それって臍ヘルニアかもしれないよ!
一緒に頑張って治そうね。
『ヘルニア』と言うと椎間板ヘルニアのことと思われがちです。
しかしヘルニアとは、臓器などが本来あるべき位置から飛び出してしまった状態を指します。そのためヘルニアとは、体の様々な場所で起こる可能性があります。
ヘルニアの中でも『臍』の部分から皮膚の下に腸などが飛び出ている状態を『臍ヘルニア』と言います。
ここでは『犬の臍ヘルニア』の原因と対処法などについて、Dr.Nyanがわかりやすく説明いたします。
臍ヘルニアの症状
先生〜!臍って何であるのかしら?
しかも、こんなに出っぱっちゃって??
臍ヘルニアとは、一般的に言う『出べそ』のことだよ!
症状の説明の前に、臍についてチョット説明しておいた方が良いよね!
妊娠中、子宮の中で胎盤と仔犬をつないでいるのが「臍の緒(臍帯)」です。「臍の緒」は、子宮の中の仔が母親から酸素や栄養をもらうための管です。
この管の中には太い血管が走り、仔のお腹の穴の開いている部分から体内に入り込んでます。
生まれた後に不要となった臍の緒は乾燥して落ち、お腹の穴は閉じて臍になります。しかし臍が完全に閉じる前にお腹の中の組織が出てしまうと、臍ヘルニアになってしまいます。
臍の部分が腫れている
お腹の中にある胃や腸などの内臓を包み込んでいるのが、腹膜や筋膜などです。
その包んでいる腹膜に弱い部分が加わると、そこの部分に腸など内臓の圧から腫れが出来てしまいます。
臍の部分が構造的に弱いため、皮膚の下に腸などが出て腫れてきてしまったものが臍ヘルニアなんです。臍ヘルニアには「生まれつきのもの」と、「成長してから出来るもの」の二つがあります。
臍ヘルニアには、その部分が腫れてるだけで他の症状が何も見られないことも多々あります。
お腹の見た目は普通に見えますが、触るとぷっくりとした腫れが分かります。
毛を剃ってみるとぷっくりと腫れた「臍ヘルニア」が現れてきます!
臍ヘルニアの模式図です。
見たり触ったりして確認できる症状には、以下のようなものがあります。
- 臍の部分がプックリと膨れている
- お腹に力が入ると臍のプックリが大きくなる
- 仰向けに寝ると膨らみが引っ込む
- お腹の膨らみを押すと出てたモノがスルッと中に入る
- 臍の部分を触ると穴が開いてるのがわかる
臍ヘルニアの部分に腸が入り込むと、その部分を触るとグジュグジュするのが感じられます。これは腸の中の、飲み込んだミルクや空気などが混ざったものが動くことによります。
開いた穴(ヘルニア門)が小さいと、そこから出てきた腸などがお腹の中に戻りづらくなります。そのような場合には、以下のような症状が見られます。
- 腫れた部分を押しても戻りが悪い
- 腫れた部分を触られるのを嫌がる
- 腫れてる部分の皮膚が赤い
これらの症状は、ヘルニア門(お腹に開いた穴)が大きいほど少ないと言われます。
腸が締め付けられる嵌頓(かんとん)を起こす
腸の一部がヘルニア門に挟まり込んで、押しても戻らなくなってしまった状態を嵌頓(かんとん)と言います。嵌頓を起こしてしまうと、腸の動きが悪くなってしまいます。
嵌頓の状態を放置しておくと、ヘルニア門により腸が締め付けられてしまいます。その結果、ヘルニア門から出てしまっている腸の血液の流れが悪くなってしまいます。
嵌頓の症状には以下のようなものがあります。
- お腹を痛がる
- 吐き気がある
- 嘔吐
嵌頓を起こすと腸の血の流れが悪くなります。
嵌頓を起こすと、その部分に血が巡らなくなってしまい場合によっては危険な状態になってしまいます。そのため速やかな対応を行うとともに、場合によっては緊急手術を行います。
腸に血が通わない絞扼(こうやく)を起こす
ヘルニア門の締め付けが強いと、腸に血が通わなくなってしまいます。この状態を絞扼(こうやく)と言います。嵌頓は、絞扼がさらに悪化した状態です。
絞扼してしまうと血液が流れ無くなってしまいます。
嵌頓により腸へ流れる血液が止まると、その部分に壊死が起きてしまいます。絞扼の症状には、以下のようなものがあります。
- 持続的な腹痛がある
- 腸に穴が開く
- 腸が破裂する
- 敗血症を起こす
- ショックを起こす
絞扼を起こした状態が長く続くと、命にも影響しかねません。そのため、緊急手術を行う必要があります。
臍ヘルニアの原因
デベソって、ただ出っぱっているだけかと思ったわ!
デベソって言っても、そこに何が入ってるかわからないからね。
だから見た目じゃ判断が出来ないんだよ!
お腹の皮膚の下は皮下組織、脂肪、筋膜、腹膜です。皮膚から腹膜までの中で、最も強くお腹の圧力に耐えるため働くのが『筋膜』です。
臍の部分は元々が臍の緒が付いていた場所で、とても薄くなっています。そのため、臍の緒が取れて穴が塞がる前にお腹の中の内臓や脂肪の一部が皮膚の下に出てきてしまうのです。
また穴が塞がっていても、臍の部分の筋膜に弱いことがあります。この弱い部分からお腹の中の内臓や脂肪の一部が、皮膚の下に出てきてしまいます。
これも臍の部分にできるヘルニアということで、臍ヘルニアと呼びます。
臍ヘルニアの主な治療法と費用
臍ヘルニアの確認は、立った状態と仰向けにした状態で行います。また場合によっては上向けに寝ていても、プックリと腫れ出ているのがわかることもあります。
ぷっくりと腫れて出っ張った臍です。
臍ヘルニアがあった場合、超音波検査(エコー検査)やレントゲン検査で状態を確認します。
生まれた時にある臍ヘルニアは、体が育つにつれ自然に治ることがあります。また飛び出したヘルニアが戻らなくても、痛いなどの症状が無い場合には経過観察となることもあります。
ヘルニアの部分から脂肪が出ていて、押すと体の中に戻ることもあります。このような場合には、様子を見ておいても大丈夫なことが多々あります。場合によっては、ヘルニアの穴が徐々に大きくなってしまうことがあります。
手術には、大きく二つの方法があります。
- 糸で縫い合わせて閉じる
- 人工補強材(メッシュ)を使って閉じる
糸で縫い合わせて閉じる
ヘルニアの部分を、糸で縫い合わせて閉じる方法です。この手術方法では縫い合わせた場所に内臓の圧がかかると、再発してしまうことがあります。
人工補強材(メッシュ)を使って閉じる
ヘルニアを起こしている部分全体を、人工補強材(メッシュ)で広く覆いヘルニアの部分を閉じる方法です。この方法はヘルニアを起こしている部分を縫い合わせる方法と比べ、再発が少ないとされています。
メッシュを入れ込む方法の違いで、いくつかの術式があります。ここでは、当院で行っている臍ヘルニアの手術について説明します。
修復手術は、全身麻酔で行う必要があります。
弱くなった部分(ヘルニア門)の皮膚を切開します。ヘルニアの発生している場所や大きさ、癒着の程度などを確認します。人工補強材(メッシュ)を腹腔内の最適な場所に入れます。
メッシュを入れている様子です。
場合により、さらに筋膜の部分にも人工補強材(メッシュ)を入れます。皮下組織と皮膚を縫い合わせ終了します!
臍ヘルニアの治療費
手術を行う場合には、ヘルニアや犬の状態により治療費に違いがあります。
手術費や入院費を含めて、20万〜30万はかかってしまいます。また時間が経過し癒着が激しい場合などでは、入院が長くなってしまうこともあります。
臍ヘルニア以外に併発症として「内臓の組織の癒着」などがある場合には治療期間も治療費も高額になってしまいます。
臍ヘルニアの予防方法
家庭でできる予防方法はありません!早期発見、早期治療により快適に生活をさせてあげたいものです。
臍ヘルニアを起こしやすい犬種
- お腹の手術を受けた犬
- 手術した傷が化膿してしまった犬
- 栄養状態が悪い犬
まとめ
犬の臍ヘルニアの多くは、予防することが難しいと言われます。そのため、もし見つけたら早めに対応し重症化しないことが大切です。
多くの臍ヘルニアは、離乳までには確認することができます。もし少しでも気になる様子があったら、早めにご相談下さい!