Dr.Nyanのすこやかコラム
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猫のジアルジア症|下痢・粘液便が繰り返す原因と治療

本記事は、Dr.Nyan症例集「猫の感染症・寄生虫疾患編」の一部です。実際の診療症例をもとに、猫のジアルジア症の原因と対応についてわかりやすく解説しています。
1分でわかる猫のジアルジア症
- 子猫に多い腸の寄生虫感染症
- 慢性的な下痢・粘液便の原因になる
- 食欲があっても痩せることがある
- 普通の下痢止めでは改善しない
- 抗原検査やPCR検査で診断する
- 薬だけでなく環境消毒が治療成功のポイント
「治療しても下痢が繰り返す」「血便・粘液便が続いている」「子猫がいつまでも軟便」そんな症状はありませんか?
こうした症状が続くとき、ジアルジア症(Giardia duodenalis感染症)を疑う必要があります。猫に多い腸管寄生虫のひとつで、特に子猫・多頭飼育の環境で見られやすい病気です。
【症例】こんな猫が来院しました
飼い主
治療しても下痢がなかなか治らなくて…ずっと軟便なんです。
Dr.Nyan
検査でジアルジアが確認されました。
薬による治療と環境消毒を同時に行い治療しましょう。

メトロニダゾールによる5〜7日間の投薬後、便の状態が改善。同居猫も検査を行い、陽性が確認されたため同時治療・環境消毒を実施しました。
治療終了後に便検査で陰性を確認することで、再発リスクを減らせます。
ジアルジアを疑うチェックリスト
- 下痢が1週間以上続く
- 粘液便が出る
- 血便が混じる
- 子猫である
- 保護猫を迎えた
- 多頭飼育している
- 食欲はあるのに痩せてきた
- 下痢止めを飲んでも改善しない
ジアルジア症とは?

飼い主
一度治ればもう大丈夫ですか?
Dr.Nyan
環境に残ったシストから再感染することが多いので注意が必要です
ジアルジア症は、Giardia duodenalis(ランブル鞭毛虫)という単細胞の原虫が小腸に寄生して起こる病気です。原虫は顕微鏡でないと見えない微生物で、感染した猫の便に含まれるシスト(卵のような殻で覆われた休眠状態)を口にすることで感染します。
ジアルジアのシストは環境中で数週間〜数か月間生存できます。一度感染すると環境に汚染が広がり、再感染・他の猫への感染が起きやすいのが特徴です。
Dr.Nyan
ジアルジアは健康な成猫では無症状のことも多いですが、子猫・免疫力の低い猫では重症化することがあります。
症状

飼い主
普通の下痢止めでは治らないんですか?
Dr.Nyan
はい。寄生虫なので専用の治療が必要です。
感染しても無症状のことが多い
成猫・健康な猫では感染しても症状が出ないことが多く、便検査で偶然発見されることもあります。
症状が出る場合
- 慢性的な軟便・下痢(水様〜泥状・脂っぽい)
- 粘液便・時に血液混入
- 体重が増えない・痩せてきた
- 食欲は落ちないことが多い
- 元気はあるが毛並みが悪い
ジアルジア感染では、便が脂っぽく独特のにおいを伴うことがあります。
便のにおいから原因を見分けるポイントは、犬・猫の「臭い下痢」と「あまり臭くない下痢」|原因と症状・受診の目安でも解説しています。
「食べているのに痩せる」という特徴
食欲があるのに体重が増えない、あるいは少しずつ痩せてきている場合は、ジアルジアによって小腸の吸収機能が低下しているサインかもしれません。
特に子猫では、慢性的な下痢が続くことで成長不良につながることがあります。見た目だけでは分かりにくいため、定期的に体重を測定し、数字で変化を把握することが早期発見につながります。
Dr.Nyan
「治療しても下痢が繰り返す」「ずっと軟便」という場合はジアルジアを疑います。普通の下痢止めでは治りません。
重症化(子猫・免疫低下)
- 激しい水様下痢・脱水
- 体重減少・成長不良
- 元気消失・食欲不振
リスク先生
子猫の脱水は急速に進みます。水様下痢が続く・ぐったりしているなどの症状があれば早急に受診してください。
下痢が続く病気との違い
| 病気 | 特徴 | 主な検査 |
|---|---|---|
| ジアルジア | 慢性的な軟便・粘液便 | 抗原検査 |
| コクシジウム | 子猫に多い 血便が目立つ | 便検査 |
| 腸トリコモナス | 若い猫に多い 悪臭便 | PCR |
| 食事性 | フード変更後に発症 | 除去試験 |
感染経路
ジアルジアは経口感染(便からの汚染)で広がります。
- 感染猫の便を口にする(グルーミング時の被毛舐めも含む)
- 汚染されたトイレ・床・食器・水から感染
- シストは水中・湿った環境で長期間生存(最大数か月)
- 多頭飼育・保護猫施設・ペットショップで広がりやすい
診断方法

飼い主
1回の検査で分かりますか?
Dr.Nyan
見つからないこともあるので、複数回検査することがあります。
糞便検査で診断します。以下の方法があります。
診断フローチャート
慢性的な下痢・粘液便
↓
一般身体検査
↓
便検査
↓
抗原検査
↓
必要なら治療後再検査
↓
必要に応じPCR
↓
治療開始

一度の検便で陰性でも、ジアルジア感染を完全に否定できるわけではありません。
ジアルジアのシストは毎日一定量が排泄されるとは限らず、検査したタイミングによっては検出できないことがあります。
特に慢性的な軟便や粘液便が続く場合は、数日おきに複数回の便検査を行うことで検出率を高められます。

| 検査方法 | 特徴 |
|---|---|
| 抗原検査 (ELISA法) | 迅速・精度高 当院でも実施 |
| 直接塗抹検査 | 顕微鏡で虫体・シストを確認。 検出率は低め |
| PCR検査 | 最も高精度 外部検査機関に依頼 |
治療法

飼い主
薬だけで治りますか?
Dr.Nyan
環境消毒をしないと再感染します。ここが非常に重要です。
抗原虫薬の投与

- メトロニダゾール(フラジール):最も一般的な第一選択薬。5〜7日間投与。苦味が強いため投薬ストレスに注意
- フェンベンダゾール:消化管寄生虫にも同時に効果。5日間投与
- チニダゾール:メトロニダゾールが使えない場合の代替薬
治療はどれくらい続く?
一般的には5〜7日間の投薬を行いますが、症状や検査結果によっては再検査や追加治療が必要になることがあります。便が正常に戻っても自己判断で中止せず、獣医師の指示に従いましょう。
Dr.Nyan
薬を飲ませにくい場合は包み方・タイミングなどを工夫します。遠慮なくご相談ください。
同居猫の同時治療
多頭飼育の場合、症状のない猫にも感染していることがあります。全頭検査・陽性猫の同時治療が再感染防止のために重要です。
環境の消毒(再発防止の最重要ポイント)
薬を飲ませても環境中にシストが残っていると再感染します。治療と並行して徹底的な環境消毒が必要です。
ジアルジアは「薬が効かない病気」ではなく、「環境から何度も感染してしまう病気」です。
ジアルジア治療で、これが最も多い失敗例です。
トイレ・寝床・食器・床などを同時に清潔に保つことが、治療成功の大切なポイントになります。


- トイレは毎日便を除去・丸洗いする
- 食器・おもちゃ・寝床を熱湯消毒または洗剤で洗浄
- 床・カーペットを蒸気洗浄または次亜塩素酸で消毒
- 治療中は猫のシャンプーも推奨(被毛のシストを除去)
トイレ砂の全交換と容器洗浄
治療期間中は、トイレ砂を少量ずつ使用し、毎日すべて交換することが重要です。砂を継ぎ足すだけでは、底に残ったシストを十分に除去できず、再感染の原因になります。
さらに、トイレ容器自体も熱湯や次亜塩素酸ナトリウム希釈液などで定期的に洗浄・消毒することで、環境中のシストを減らし再発予防につながります。
Dr.Nyan
再発の多くは環境からの再感染です。薬だけでなく環境の清潔が治療の要です。
人への感染(人獣共通感染症)
Giardia duodenalisは人にも感染する可能性がある「人獣共通感染症」です。ただし猫から人への直接感染のリスクは比較的低いと考えられています。
以下の衛生管理を徹底してください。
- 猫の便の処理後は必ず石鹸で手を洗う
- 免疫力の低い方(乳幼児・高齢者・妊婦・免疫抑制療法中の方)は特に注意
- トイレ掃除後は手洗いを徹底する
人への感染リスクは?
猫から人への感染は比較的少ないと考えられていますが、乳幼児・高齢者・免疫力が低下している方では衛生管理を徹底することが大切です。
リスク先生
免疫が弱い方がいる家庭では特に衛生管理を徹底してください。心配な症状がある場合は医療機関にご相談ください。
こんな症状があれば早めに受診を
| 症状 | 受診の目安 |
|---|---|
| 軟便・粘液便が1週間以上続く | ⚠️ 早めに受診 |
| 治療しても下痢を繰り返す | ⚠️ 急いで受診 |
| 体重が増えない・痩せてきた | ⚠️ 早めに受診 |
| 水様下痢・脱水が疑われる | ⚠️ 急いで受診 |
| 子猫でぐったりしている | ⚠️ 直ちに受診 |
▶ その他の緊急症状はこちら:犬と猫の緊急受診サイン
よくある質問
治療後も再発しますか?
環境消毒が不十分だと再感染します。
薬だけでなくトイレ・床・寝床の徹底消毒が再発防止の鍵です。
無症状でも治療は必要ですか?
多頭飼育で他の猫への感染リスクがある場合・乳幼児や免疫低下した家族がいる場合は治療を検討します。
獣医師にご相談ください。
普通の検便で必ず見つかりますか?
通常の糞便検査での検出率は高くありません。
抗原検査キット・PCR検査の方が精度が高く、症状が続く場合はこれらの検査をお勧めします。
ジアルジアは猫以外にも感染しますか?
犬・人・その他多くの哺乳類に感染します。
犬のジアルジア症も同様の症状・治療・予防法となります。
ジアルジアは自然に治りますか?
治療しないまま自然に改善する例もありますが、環境中へシストを排出し続ける可能性があり、再発や他の猫への感染につながるため、治療をおすすめします。
ワクチンで予防できますか?
現在、一般的に使用されている猫用ワクチンでは予防できません。
アルコール消毒だけで十分ですか?
アルコールだけでは十分とはいえません。
熱湯洗浄や適切な消毒方法を組み合わせることが再感染予防につながります。
ジアルジアは完治しますか?
適切な治療と環境管理を行えば、多くの猫で完治が期待できます。
ただし環境中のシストによる再感染を防ぐため、治療後の便検査や衛生管理が重要です。
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まとめ
「治療しても下痢が繰り返す」「ずっと軟便」、これはジアルジア感染のサインかもしれません。
特に子猫や多頭飼育では広がりやすいため、様子見せず早めの検査をおすすめします。
治療には薬と環境消毒の両方が必要です。多頭飼育では全頭検査・同時治療が再発防止の鍵になります。お気軽にご相談ください。
様子見ではなく早めの受診が大切です。
この記事のポイント
- 慢性的な下痢・粘液便ではジアルジアを疑う
- 子猫・多頭飼育では特に感染しやすい
- 普通の下痢止めでは改善しない
- 抗原検査やPCR検査が診断に役立つ
- 薬と環境消毒を同時に行うことが治療成功の鍵
筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

本記事は、千葉県佐倉市で犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。
特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。
また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。
著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。