猫のくしゃみ・鼻水が止まらない?原因は甲状腺機能亢進症かもしれません

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猫の甲状腺機能亢進症|食べるのに痩せる・夜鳴きは病気?原因と治療・受診の目安

本記事は、Dr.Nyan症例集「猫の内分泌・代謝疾患編」の一部です。実際の診療症例をもとに、食べるのに痩せる・夜鳴きが続く原因と対応についてわかりやすく解説しています。

「うちの子、最近よく食べるのに、なんだか痩せてきた気がする…」
「夜中に急に大声で鳴くようになった。年のせい?」
「急に怒りっぽくなって、触ると噛むようになった」

こうした変化を「老化のせいだろう」と見過ごしていませんか?
それ、甲状腺機能亢進症のサインかもしれません。

甲状腺機能亢進症は「元気そうに見えるのに体の中では消耗が進んでいる」病気です。特にシニア猫では見逃されやすく、気づいたときには進行していることも少なくありません。

目次

【症例】こんな猫が来院しました

飼い主

14歳の子なんですが、よく食べるのに痩せてきて、夜鳴きも増えて…。性格も変わった気がして心配で来ました。

Dr.Nyan

「食べるのに痩せる」「夜鳴き」「性格の変化」——この3つがそろったとき、まず甲状腺機能亢進症を疑います。血液検査でT4を確認しましょう。

猫 甲状腺機能亢進症 血液検査 T4高値 異常値
甲状腺ホルモン(T4)が基準値を大きく超えた実際の検査結果。7歳以上のシニア猫では、健康診断でのT4測定を推奨しています。

この猫の検査結果では、T4値が基準値を大きく超えていました。甲状腺機能亢進症と診断し、投薬治療を開始。数週間後には夜鳴きが落ち着き、体重も安定してきました。

このように、適切に治療すれば症状は改善しますが、放置すると心臓や腎臓への負担が蓄積していきます。

甲状腺機能亢進症とは?

甲状腺は「のどぼとけ」のすぐ下にある左右1対の小さな器官です。ここから分泌される甲状腺ホルモンは、全身の細胞の代謝を調節する重要な役割を担っています。
代謝とは「体のエネルギーの使い方」のことで、このホルモンが増えすぎると常に全力で走り続けているような状態になります。

甲状腺機能亢進症とは、甲状腺が過剰に活性化し、甲状腺ホルモンが必要以上に分泌され続ける病態です。代謝が異常に高まることで、全身にさまざまな症状が現れます。

7歳以上の猫の約10%が罹患するといわれており、高齢猫に最も多い内分泌疾患のひとつです。

Dr.Nyan

「元気に見えるから大丈夫」が最大の落とし穴です。体の中ではエンジンがかかりすぎた状態が続いており、放置すると臓器の老化が急速に進みます。

甲状腺機能亢進症の症状

行動・性格の変化(初期から現れやすい)

この病気の特徴は「元気すぎる」ことです。一見良い変化に見えるため、発見が遅れやすい点に注意が必要です。

飼い主

元気なのは良いことかと思っていたんですが、病気のサインだったんですね。

Dr.Nyan

気づいたときに来てくれたことが大切です。シニア猫に急な性格の変化が出たときは、まず検査を受けてください。

  • 活動的になり落ち着きがなくなる
  • 怒りっぽくなる・興奮しやすくなる
  • 触ると噛む・引っかくなど攻撃的になる
  • 大きな声で叫ぶ・変な声で鳴く
  • 夜鳴きが増える(深夜に突然大声で鳴き出す)
  • 食欲があるのに体重が減る(最も重要なサイン)
  • 水をたくさん飲み、尿量が増える
  • 毛がボサボサになり、艶がなくなる
  • 毛が抜けやすくなる
甲状腺機能亢進症 猫 食べるのに痩せる 活動的
食欲旺盛でよく動くが体重が著しく減少している猫。「元気すぎる・痩せてきた」が重なったときは甲状腺機能亢進症を疑ってください。

食べるのに痩せるのは「摂取カロリーより消費カロリーが大きく上回っている状態」で、体の筋肉や脂肪が急速に分解されているサインです。

リスク先生

「食べているのに痩せる」は絶対に見逃してはいけない危険サインです。心臓・腎臓・血圧に回復困難なダメージが蓄積します。早めの受診を強くお勧めします。

心臓・内臓への影響

甲状腺ホルモンは心臓・胃腸・自律神経・体温調節にも深く関わっています。過剰分泌が続くと内臓にも深刻な負担がかかります。
特に心臓への負担が大きく、心筋症や心不全につながることもあります。

臓器起きやすい変化
心臓心拍数の増加・心雑音・心筋障害
血管高血圧
消化管嘔吐・下痢・食欲変動
全身体温上昇・筋肉の委縮・急速な老化
甲状腺機能亢進症で影響を受けやすい臓器

Dr.Nyan

聴診で心雑音が出ることもあります。甲状腺と診断したら、必ず心臓と血圧もセットで評価しています。

進行するとどうなるか

飼い主

元気そうだから、もう少し様子を見てもいいですか?

リスク先生

「様子を見る」が最も危険です。見た目は元気でも体の中では老化が加速しています。気になったその日が受診のタイミングです。

初期は元気に見えていても、病気は静かに進行しています。進行するにつれて体力・食欲が落ち、嘔吐や下痢を繰り返すようになります。甲状腺機能亢進症は代謝が過剰に活発なため老化が加速する病気です。
見た目は元気でも、体の中では臓器の寿命を削っている状態が続いています。

末期を迎えると燃え尽きたように急速に衰弱し、命に関わる状態になることがあります。

甲状腺機能亢進症の原因

甲状腺の細胞が腫瘍化・過形成などにより異常増殖し、ホルモンを過剰に産生することが主な原因です。ほとんどは良性の変化ですが、ホルモンを出し続けることで体に大きな影響を与えます。

飼い主

ホルモンってそんなに影響あるんですか?

Dr.Nyan

全身のスピードを上げる「アクセル」のようなものです。踏みっぱなしになると体が消耗していきます。

腫瘍は良性がほとんど(悪性は約2%未満)で、腫大した甲状腺は首を触ると分かることもあります。7歳以上の高齢猫全般に発症リスクがあります。

Dr.Nyan

首元に膨らみを感じたら無理に触らず来院してください。同じホルモン系の病気に糖尿病もあるため、血液検査でまとめて確認するのがおすすめです。

診断方法

血液検査による甲状腺ホルモン(T4)測定が基本です。1回の採血で判定できるため、7歳以上のシニア猫の健康診断に組み込むことを強くお勧めしています。

Dr.Nyan

当院のシニア猫健診では甲状腺ホルモン検査を標準で実施しています。元気なうちから基準値を把握しておくことが早期発見の鍵です。

治療法

内科的治療(投薬):最も一般的

甲状腺ホルモンの合成を抑える薬(チアマゾールなど)を継続投与します。自然には治らない病気のため、基本的に生涯投薬が必要です。投薬前後に血液検査でホルモン値を確認しながら用量を調整します。過剰投与で甲状腺機能低下症になることがあるため、定期的な血液検査が必須です。

Dr.Nyan

薬が難しい場合は耳に塗るジェル剤もあります。治療が安定すれば健康な猫と変わらない生活ができますよ。

療法食(ヨウ素制限食)

ヨウ素を制限した処方食(ヒルズ y/d など)は甲状腺ホルモン分泌を抑える補助効果があります。ただし食事だけでの大きな改善は難しく、投薬治療の補助として位置づけられます。

外科的治療(手術)

悪性腫瘍が疑われる場合や薬の投与が困難な場合、内科治療に反応しない場合(腎不全がないことが前提)に選択肢となります。両側摘出後は生涯ホルモン補充薬が必要です。当院では外科治療が必要な場合、専門病院をご紹介しています。

重要:治療で「隠れ腎臓病」が表面化することがある

リスク先生

治療を始めると、隠れていた腎臓病が表面化することがあります。治療の失敗ではなく、隠れ腎不全が顕在化する現象です。事前に把握しておくことが重要です。

甲状腺機能亢進症になると全身の血流量が増え、腎臓への血流も増加します。その結果、腎不全の症状が「見かけ上マスクされた」状態になっていることがあります。治療でホルモン量が適正化されると、それまで隠れていた腎機能の低下が初めて顕在化するのです。
これは「治療で悪くなった」のではなく、「隠れていた問題が見えるようになった」状態です。

Dr.Nyan

治療前に必ず腎機能・心臓・血圧を同時に評価します。腎不全がある場合は、両方のバランスをとりながら治療を進めることが大切です。

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予防方法

残念ながら、甲状腺機能亢進症を確実に防ぐ方法は現時点では存在しません。
重症化を防ぐには定期的な健康診断による早期発見しかありません。

Dr.Nyan

7歳を過ぎたら年1〜2回の健診にT4検査を加えてください。採血1本で分かります。早く見つけるほど、治療の選択肢が広がります。

発症しやすい猫の特徴

特定の品種に限らず、7歳以上の高齢猫全般に発症リスクがあります。10歳を超えるとさらに発症率が高くなります。性別・避妊去勢の有無にかかわらず発症し、屋内外どちらの猫でも起こりえます。
シニア期の猫は年に1〜2回の健康診断を受け、甲状腺ホルモン(T4)の定期チェックを行うことが早期発見の最善策です。

こんな症状があれば早めに受診を

症状受診の目安
食欲があるのに体重が減っている⚠️ 早めに受診
夜鳴き・落ち着きのなさが増えた⚠️ 早めに受診
急に怒りっぽくなった・触ると攻撃する⚠️ 早めに受診
水をたくさん飲み、尿量が増えた⚠️ 早めに受診
毛並みが悪くなり毛が抜けやすくなった早めに受診
7歳以上で最近健康診断を受けていない定期検査を推奨
甲状腺機能亢進症で受診を検討すべき症状の目安

これらの症状が1つでも当てはまる場合は、様子を見るよりも早めの受診をおすすめします。

飼い主

元気に見えても、7歳を過ぎたら一度検査した方がいいんですね。

Dr.Nyan

「なんか変かも?」と感じたら、その日に来てください。佐倉市の若山動物病院でシニア猫の健診を随時受け付けています。

よくある質問

猫が食べるのに痩せるのはなぜですか?

甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると代謝が異常に高まり、食事で摂ったエネルギーを大幅に上回る消費が続くためです。この病気の最も典型的なサインです。

初期症状は何ですか?

「元気すぎる」「夜鳴きが増えた」「落ち着きがなくなった」「食欲が増えた」などが初期から現れます。一見健康に見えるため発見が遅れやすいのが特徴です。

性格が急に変わるのも病気のサインですか?

はい。甲状腺ホルモンが神経系を過剰に刺激するため、怒りっぽくなる・興奮しやすくなる・攻撃的になるといった行動変化が見られます。急な性格の変化は必ず受診してください。

何歳から発症しますか?

7歳以上の高齢猫に多く、10歳を超えるとさらに発症率が上がります。

どうやって診断しますか?

血液検査で甲状腺ホルモン(T4)の値を測定します。1回の採血で判定でき、健康診断への組み込みが可能です。

治療を始めると腎臓病が出てくると聞きましたが?

甲状腺機能亢進症が腎不全を隠してしまうことがあります。治療でホルモンが正常化されると、それまで隠れていた腎機能の低下が顕在化するケースがあります。

治療しないとどうなりますか?

進行すると心臓病・高血圧・腎臓病などの合併症を引き起こします。老化の加速が著しく、最終的には急速な衰弱から命に関わる状態になります。

一生投薬が必要ですか?

基本的には生涯投薬が必要ですが、治療が安定すれば健康な猫と変わらない生活ができます。
適切にコントロールできれば、日常生活はほぼ問題なく過ごせるケースが多い病気です。

予防方法はありますか?

確実な予防法はありません。定期的な健康診断と早期発見が最善の対策です。特に7歳以上の猫には年1〜2回のT4検査をお勧めします。

まとめ

「よく食べるのに痩せる」
「夜鳴きが増えた」
「急に怒りっぽくなった」
この3つが重なったとき、甲状腺機能亢進症を強く疑ってください。早期発見・早期治療が、愛猫の生活の質と寿命を守る最善の手段です。

Dr.Nyan

「年齢のせい」と思い込まず、違和感を感じた時点で検査することが大切です。

筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

獣医師 若山正之 プロフィール写真 小動物臨床 犬猫診療

本記事は、佐倉市で犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。