Dr.Nyanのすこやかコラム
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猫の腸トリコモナス症|血便・下痢が続く原因と治療・受診の目安
元気いっぱいに遊んでいるけれど、トイレに行くといつも水っぽい下痢。しかも、なんだかお尻のあたりがツンと臭う……。
そんな症状があったら、お腹の中で「腸トリコモナス」という目に見えない小さな寄生虫が暴れているかもしれません。
「完全室内飼いだから」「いつも綺麗な環境にしているから大丈夫」と思っていても、ブリーダーやペットショップ、保護施設にいた頃から、すでに体内に潜んでいたというケースはとても多いのです。
さらに、この寄生虫は多頭飼いの環境だと、あっという間に他の猫ちゃんへうつってしまう強い感染力を持っています。
今回は、大切な家族を長引く下痢から守るために、飼い主さんが今すぐ知っておくべき正しい知識とケアの方法を紐解きます。

飼い主
保護した子猫が血便でぐったりしています…
Dr.Nyan
血便+元気消失は危険サインです。感染症の可能性が高い状態です
このような相談は、実際の診察でも少なくありません。
特に保護したばかりの仔猫では、寄生虫感染が原因となっているケースが多く見られます。
本記事では、実際の症例をもとに
腸トリコモナス症の症状・原因・治療・受診の目安をわかりやすく解説します。

飼い主
室内飼いなのに寄生虫っているんですか!?
Dr.Nyan
しかも普通の検便では見逃されることも多い厄介な寄生虫なんです
ウンチの検査で、活発に動き回る「腸トリコモナス」が見つかりました!この腸トリコモナスは、お腹の中に住む虫の中でも検査で発見しづらい原虫です。
原虫とは、1つの細胞からなる小さな生き物で、感染症の原因となることがあります。原虫の仲間で、皆さんがよく知っているものにミドリムシやゾウリムシなどがいます。
では「腸トリコモナス症」の原因や対処法について、わかりやすく説明していきます。


飼い主
ただの下痢と何が違うんですか?
Dr.Nyan
血や粘液が混じる場合は、大腸の炎症や感染が疑われます
腸トリコモナス症の症状
腸トリコモナス(Tritrichomonas foetus(T. blagburni)という原虫が感染して起こる病気が、腸トリコモナス症です。
腸トリコモナスの感染は、直接的もしくは間接的にウンチを口にすることにより起こります。ただ健康な体で免疫力にも異常が無い場合には、腸トリコモナスに感染しても発症することが少ないと言われています。
しかし免疫力の弱い仔猫や高齢猫、また免疫力が低下している場合には発症しやすくなります。
腸トリコモナスに感染しても、症状が出ないこともあります。
ではどんな症状が出たら注意が必要なのか、一緒に確認していきましょうね!
下痢などの消化器症状
腸トリコモナスは、結腸や盲腸など大腸に寄生します。
成猫では感染しても発症せず、無症状でいることがあります。しかし仔猫や、年齢や免疫力が落ちている場合には発症してしまう場合があります。
【無症状キャリアに注意】体力のある成猫はトリコモナスが腸内にいても全く下痢をせず、元気なままのことがあります(無症状キャリア)。しかし、そのような猫のウンチから子猫や免疫力の低い猫にうつると激しい下痢を引き起こすことがあります。「見た目が元気だから大丈夫」とは言えない寄生虫であることを覚えておきましょう。
感染し発症すると大腸炎を起こし、以下のような症状が見られるようになります。
- 水のような下痢便
- 血混じりの便
- 粘液便
- 激しい下痢からの脱水

飼い主
様子見しても大丈夫ですか?
Dr.Nyan
繰り返す下痢や血便がある場合は、早めの検査が必要です

血便はジアルジアなどの感染でも起こります。
しかも下痢に伴い、元気が無くなり食欲も落ちてしまうことも多々あります。
リスク先生
血便+食欲低下は重症化のサイン。早期対応で予後が変わります
下痢から肛門に違和感を感じるのか、肛門を舐めることなどにより肛門周囲が赤くなることもあります。また肛門に腫れを起こしたりもします。
激しい下痢が続くと、激しい「しぶり」や「いきみ」から腸が肛門から飛び出てしまうこともあります。この状態を「脱肛(直腸脱)」と言いますが、対処が遅れると出てしまった腸が壊死してしまう事もあります。


飼い主
そこまで悪化することもあるんですか…?
Dr.Nyan
はい、放置すると命に関わる場合もあります

飼い主
他の虫も一緒にいることがあるんですか?
Dr.Nyan
はい、ジアルジアや回虫などとの混合感染も多く、その場合は治療が複雑になります
混合感染を起こしてしまう
腸トリコモナス以外の原虫、例えばジアルジアやイソスポラ、コクシジウムなどの寄生虫が同時に寄生している場合もあります。

また細菌やウイルスなどにも感染して、症状が悪化している場合もあります。
このように混合感染している場合には、腸トリコモナスを治療しても症状が治らないこともあります。
特にパルボウイルスやコロナウイルスなど、感染すると消化器症状を起こすウイルスの感染には十分に注意する必要があります。
特に仔猫では重症化しやすく、入院での治療が必要となる場合が多々あります。激しい症状を起こしていたり混合感染している場合には、亡くなってしまうこともあります。

飼い主
治療しても治らないことがあるんですか?
Dr.Nyan
他の寄生虫や感染があると、症状が長引くことがあります。原因の特定が重要です
腸トリコモナス症の原因

飼い主
どうして感染してしまうんですか?
Dr.Nyan
主に感染した猫のウンチを口にすることで感染します。しかも仔猫や免疫力が低い猫ほど発症しやすいです。
トリコモナス症は腸トリコモナス(Tritrichomonas foetus(T. blagburni)の寄生が原となり起こる病気です。
腸トリコモナスは長い毛(鞭毛)をもち、それを動かすことにより腸の中を動き回ります。
腸トリコモナスは細菌よりは大きいとは言われますが、顕微鏡でないと見ることができません。また腸トリコモナスは猫だけでなく、犬など多くの動物にも寄生します。
口からの感染
腸の中に住む腸トリコモナスは、ウンチと一緒に体外に排泄されます。そのウンチが付いた足や被毛を舐めてしまうことでも感染します
これを「経口感染」と言います。
しかもウンチと一緒に出た腸トリコモナスは、乾燥には弱いものの、水分のある湿った環境(排泄されたばかりの軟便の中など)では数日間生き残り、感染力を保ちます。そのため「すぐ死ぬから安心」という油断は禁物です。この間にも感染を引き起こしてしまいます。

飼い主
薬でちゃんと治りますか?
Dr.Nyan
適切に続ければ改善するケースが多いです
腸トリコモナス症の主な治療と費用
ウンチの検査(検便)を行い、腸トリコモナスの感染を調べます。
検便による腸トリコモナスの検出率は、あまり高いとは言えません。1回の検査で見つからなくても、陰性とは言い切れません。

飼い主
検査で見つからないこともあるんですか?
Dr.Nyan
はい、そのため繰り返し検査することが重要です
検出率UPには持参された便ではなく、肛門から直接採取した便を検査することが大切です。
しかし、それでも見つからないことも多々あります。そのため腸トリコモナス症を疑う場合には、繰り返してウンチの検査を行う必要があります。

飼い主
何度検査しても見つからないのに下痢が治りません…
また、トリコモナスは顕微鏡検査で虫の数が少なかったり、採取後に時間が経って動かなくなっていたりすると非常に見落とされやすい寄生虫です。「何度も顕微鏡検査をして陰性だったのに、下痢が治らない」という場合は、外部の検査機関への遺伝子検査(PCR検査)を依頼して初めて感染が発覚するケースも多くあります。治りにくい下痢が続く場合は、主治医にPCR検査の相談をしてみましょう。
トリコモナス症を発症した場合、他の寄生虫や細菌との混合感染もあります。もし混合感染が見られたなら、それらの治療も併せて行わなくてはなりません。
抗菌剤の投与

飼い主
普通の薬では効かないことがあるんですか?
Dr.Nyan
メトロニダゾールが効きにくいケースがあります。ロニダゾールなど別の薬を相談することも大切です
治療には、メトロニダゾールやチニダゾールという薬を投与します。ただし、メトロニダゾールは猫の腸トリコモナスに対して効果が限定的で、再発率が高いケースも報告されています。近年では、より効果の高い「ロニダゾール」という駆虫薬が選択されることも増えています(※国内未承認のため、取り扱いのある動物病院にご相談ください)。

ただこれらの薬は、極苦く猫に飲ませるのが大変だという欠点を持っています。
そのため投薬時に薬を味合わせてしまうと・・・
顔を上げて目をつむり、口から泡状のよだれが出てしまうことがあります。
しかも、この状態が長く続いてしまうと心配になってしまいます。
「薬を飲んだ直後に泡を吹いた!と慌てて来院されることもありますが、多くは強い苦味への反応です」


飼い主
毒でも飲んだのかと思って慌てました…
Dr.Nyan
強い苦味への反応で起こることがあります。
目をつぶり涎ダラダラの様子です!薬を飲ませる際にはコツを必要としますので、注意してくださいね!
下痢が治り見た目には治ったように見えても、薬を飲ませるのを途中でやめてはいけません。必ず投与期間を守り、投薬をしっかり行いましょう!そして投薬が終わったら、駆除がうまくいったかを確認することが重要です。

飼い主
下痢以外のケアはどうすればいいですか?
Dr.Nyan
脱水や栄養不足にも対応します。ひどい場合は入院での点滴が必要になることもあります
対処療法を行う
下痢以外の症状がある場合には、その治療を含め全身状態に合わせた療法を行います。
腸トリコモナス症は重度の下痢を起こすことも多く、脱水の状態が悪化することもあります。そのため水分補給が難しいなら、輸液を行うなどの治療が必要となります。
また腸内の崩れた環境を整えるために、整腸剤を使います。感染があれば抗生剤や抗菌剤を使います。
食べない場合には、強制給餌を行う必要もあります。
腸トリコモナス症の治療費

飼い主
治療費はどのくらいかかりますか?
Dr.Nyan
軽症なら1週間で5,000〜8,000円程度ですが、重症・混合感染では入院が必要になる場合もあります
検査と治療でかかる費用は、軽症であれば1週間の投薬で平均5000円~8000円程度です。ただ体重や病状、また使用する薬によっては費用が異なります。
重症になると治療方法も変わります。また場合によっては入院も必要となり、治療費もかかってしまいます!
腸トリコモナス症の予防
腸トリコモナスを含むウンチから感染します。そのため感染している猫のウンチの扱いを慎重に行い、十分に注意する必要があります。
屋内飼育の徹底
腸トリコモナスはウンチとの接触が感染の原因となるため、猫を外に出さないことが予防につながります。また新しい子を迎え入れた場合には、その子に感染が無いことが確認できるまでは隔離期間を設けます。
Dr.Nyan
トイレ管理だけでも感染リスクはかなり下げられます。
掃除を徹底する
ウンチは素早く片付け、掃除を徹底することが大切です。また使用していたトイレや敷物などはよく洗い、清潔に保ちます。
多頭飼いの場合には、トイレの数を増やすことも必要になります。

大きなトイレを多数置いてみました。
Dr.Nyan
猫はウンチで汚れたトイレを、そのまま使ってしまうこともあります。
気にしないで使うトイレって危険かもです!
隔離を行う
腸トリコモナスに感染した猫と同じ環境で生活している場合には、他の猫へ感染させてしまいます。
そのため感染している猫は隔離し、他の猫との接触を避けます。

飼い主
仲良しだから隔離がかわいそうで…
リスク先生
非常にうつりやすいです。1匹だけ治療してもピンポン感染が起きるため、全頭同時の検査・治療が必要です
多頭飼いの場合は特に注意が必要です。トリコモナスは猫同士がお尻を舐め合ったり、同じトイレを共有したりすることで一瞬で同居猫に広がります。1匹だけ治療しても、他の猫からお互いにうつし合う「ピンポン感染」が起きやすいため、多頭飼いの場合は全頭を同時に検査・治療することが治療成功のカギとなります。

飼い主
どうやって消毒すればいいですか?
リスク先生
トリコモナスは熱に弱いので、トイレは定期的に熱湯消毒するのが最も効果的です
自宅での消毒方法
腸トリコモナスは熱(熱湯)に弱いという特性を活かした消毒が最も効果的です。トイレ本体は定期的に熱湯消毒を行いましょう。また以下のような薬剤も有効とされています。
- 次亜塩素酸ナトリウム
- ポビドンヨード
- 塩化ベンザルコニウム

飼い主
どのくらいの頻度で検便すればいいですか?
Dr.Nyan
年1〜2回の定期検便が推奨です。特に子猫や多頭飼い・外出猫は早めの検査が大切です
【トイレの衛生管理の具体的ポイント】ウンチをしたらすぐに周辺の砂ごと多めに撤去し、水分が残らないようにします。トイレ本体は週1回以上、熱湯を注いで消毒(トリコモナスは熱に弱いため、熱湯が最も効果的)。下痢でお尻の毛が汚れた場合は、ウエットティッシュで拭くだけでなく乾いたティッシュで水分をしっかり拭き取り、水分を残さないことが感染拡大の防止になります。
健康診断を行う
定期的に検便を行い、早期の発見と治療を心がけます。
腸トリコモナス症を起こしやすい猫種
Dr.Nyan
猫種には関係なく感染します。
そのため上記の予防方法を実践して下さいね!
- 外に出ている猫
- 幼齢期の子猫
- 老齢の猫
- 免疫力が弱まっている猫
猫の腸トリコモナス症でよくある質問
猫の血便や下痢は腸トリコモナス症の可能性がありますか?
血便や粘液便を伴う下痢が続く場合、腸トリコモナス症の可能性があります。特に仔猫では注意が必要です。
腸トリコモナス症はどのように感染しますか?
感染した猫の便に含まれる原虫を口にすることで感染します。被毛や足についた便を舐めることでも感染が広がります。
腸トリコモナス症は人にうつりますか?
猫に寄生する腸トリコモナス(Tritrichomonas foetus / blagburni)は、人間の性病のトリコモナスとは全く種類が異なり、健康な人間に感染して症状が出るリスクは極めて低いとされています。過度に心配する必要はありませんが、衛生面を考慮し、ウンチを触った後は必ずしっかり手を洗いましょう。
どのような猫が発症しやすいですか?
仔猫や高齢猫、免疫力が低下している猫で発症しやすくなります。
症状はどのようなものがありますか?
水様便、血便、粘液便、食欲低下、元気消失などの消化器症状が見られます。
無症状のこともありますか?
感染していても症状が出ない場合もありますが、他の猫への感染源になるため注意が必要です。
検査はどのように行いますか?
便検査で原虫の動きを確認しますが、検出が難しいため複数回の検査が必要になることがあります。
治療はどのように行いますか?
メトロニダゾールなどの抗原虫薬を一定期間投与します。途中でやめずに継続することが重要です。
治療すれば必ず治りますか?
多くのケースで改善しますが、混合感染がある場合や再感染により長引くこともあります。

飼い主
治ったと思ったのに、また下痢しました…
Dr.Nyan
無症状の同居猫から再感染しているケースも少なくありません
予防する方法はありますか?
トイレの清掃を徹底し、便の早期処理を行うこと、複数飼育では隔離管理を行うことが重要です。
まとめ
腸トリコモナス症は、特に仔猫で発症しやすい寄生虫感染症です。
血便や下痢が見られた場合には、単なる消化不良ではなく感染症が隠れている可能性も考える必要があります。
早期に検便を行い、適切な治療を開始することで重症化を防ぐことができます。
少しでも気になる症状がある場合には、早めにご相談ください。
筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

本記事は、犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。
特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。
また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。