Dr.Nyanのすこやかコラム
飼い主様に伝えたい犬猫の病気や日常ケアについての役立つコラムをお届け♪
お母さんのいない仔猫の育て方④|生後6週目からの健康管理と動物病院デビュー
「離乳食も食べられるようになったし、そろそろ病院へ連れて行った方がいいのかな?」
前回のコラムでご紹介した離乳食への移行やトイレの自立を乗り越え、生後6週目(約1ヶ月半、体重およそ600~800g)を迎える頃になると、仔猫の体つきは驚くほどしっかりしてきます。
目が完全に開き、好奇心旺盛に部屋を冒険する姿は、まさに「赤ちゃん」から「小さな大人の猫」へのステップアップ。
この時期にとても重要になってくるのが、本格的な医学的健康管理と、初めての「動物病院デビュー」です。
動物病院には、このタイミングで「初めてワクチンを打ちたいけれど、何を持っていけばいい?」「外で保護した仔だから、お腹の虫やノミ・ダニが心配」「まだ小さくて移動させるのが不安」という飼い主さんがたくさん来院されます。
特に、お母さんの初乳(免疫がたっぷり詰まった最初の母乳)を十分に飲めていない可能性が高い保護仔猫にとって、病院での適切な予防ケアは、これから襲いかかる恐ろしい病気から命を守るための「一生ものの盾」となります。
病院に行くとなると、飼い主さんも仔猫も少し緊張してしまうかもしれませんが、正しい知識と事前の準備を整えておけば何も心配はありません。
今回は、生後6週目以降に行うべき重要な医療ケア(健康診断・寄生虫駆除・ワクチン接種)の詳細と、初めての動物病院を100%スムーズに乗り切るための準備について、Dr.Nyanが解説します。
健康で元気な未来を作るための第一歩を、一緒に踏み出しましょう!
【保護仔猫シリーズ|お母さんのいない仔猫の育て方】
① 保護したときに
② 検査のしかた
③ 離乳食への進め方と初めてのトイレ
④ 生後6週目からの健康管理と動物病院デビュー
⑤ 生後2ヶ月からの社会化期と暮らしのルール
⑥ 生後3ヶ月からの総仕上げと大人の猫への準備
【まず覚えたいポイント】
・保護仔猫は寄生虫率が高い
・初診時は検便が重要
・ワクチンは生後6〜8週頃から
・抱っこ通院は危険
・キャリー+タオルが基本
1. 生後6週目以降に行う「3つの重要な医療ケア」
離乳が落ち着き、自力でごはんを食べて体重が順調に増えている体力が備わったら、いよいよ医学的な予防ケアの出番です。主に以下の3つのケアを、仔猫の体調を見ながら進めていきます。
【健康診断と検便】お腹の虫や隠れた病気のチェック
外で保護された仔猫の多くは地域や環境にもよりますが、非常に高い確率でお腹の中に寄生虫を宿しています。これらは母猫の胎盤や母乳を介して感染する(母子感染)ほか、外の土やノミを口にすることで感染します。
検査の内容
全身の視診
触診(骨格の異常、ヘルニアの有無、口の中のチェック)
聴診(心音や呼吸音の確認)
「検便(ふん便検査)」
これらを行います。
特に顕微鏡でウンチの中に虫の卵や原虫(肉眼で見えない小さな寄生虫)がいないかを徹底的に調べます。

飼い主
ウンチに虫が見えなければ安心ですか?
Dr.Nyan
実際には、顕微鏡でしか見えない寄生虫の方が多いんです。特にジアルジアやコクシジウムは仔猫で重症化しやすいため要注意です。
代表的な寄生虫とリスク
回虫(かいちゅう)
そうめんのような白い虫。
栄養を横取りし、お腹がポッコリ膨らんだり、下痢や嘔吐を引き起こします。
コクシジウム / ジアルジア
肉眼で見えない原虫。
仔猫に激しい水下痢や粘膜便を引き起こし、重度の脱水症を招くため非常に危険です。
治療方法
検査で虫が見つかっても、決してパニックになる必要はありません。仔猫の体重や週齢に合わせて、安全に虫を駆除できる「駆虫薬(シロップ、粉薬、または首筋に垂らすスポットタイプ)」を処方します。お薬を正しく飲ませることで、きれいに退治することができます。
【ノミ・マダニ駆除】不快な同居人をシャットアウト
外にいた仔猫の被毛には、ほぼ確実にノミやその卵、あるいはマダニがついています。
仔猫へのリスク
ノミやダニは仔猫の血を吸うため、体が小さな仔猫の場合、重度の「貧血」を起こして命に関わることがあります。また、激しい痒みによるストレスや、皮膚炎の原因にもなります。
人間へのリスク
ノミは室内に持ち込まれると爆発的に繁殖し、人間の家族(特に足元など)を刺して激しい痒みを引き起こします。また、マダニは「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」など、人間にも感染する重篤な病気を媒介するため、絶対に放置してはいけません。
お薬の投与方法
生後6週目~2ヶ月頃になると、仔猫の首筋(自分で舐められない場所)の皮膚に液体を垂らすだけの、非常に安全で効果の高い「スポットタイプ」の駆虫薬が使用できるようになります。

飼い主
お風呂で洗っただけじゃダメなんですか?
Dr.Nyan
洗浄だけでは卵や新しく孵化したノミまでは防ぎきれません。医薬品でしっかり駆除することが重要です。
⚠️注意点
ホームセンターやペットショップで売られている市販の「ノミよけ(医薬部外品)」は、すでに寄生しているノミ・ダニを完全に駆除することはできず、寄せ付けない程度の効果しかありません。ません。
必ず動物病院で「医薬品」として承認されている、強力かつ安全な駆虫薬を処方してもらってください。
リスク先生
犬用だから効きそうは危険です!猫では命に関わる中毒事故が実際に起きています!
自己判断で犬用製品を使用するのは絶対に避けてください。」
【初めてのワクチン接種】ウイルス感染症から命を守る
生まれたばかりの仔猫は、母猫の初乳を飲むことで「移行抗体」という病気に対する免疫をもらっています。
しかし、この免疫は生後6週目から8週目頃にかけて徐々に体の中から消えていってしまいます。そのタイミングで、自前の免疫を作って恐ろしいウイルス感染症から身を守るために「混合ワクチン」を接種します。

飼い主
元気そうに見えるけど、まだ病院へ行くには小さすぎませんか?
Dr.Nyan
実はこの元気そうに見える時期こそ、寄生虫や感染症のチェックを始める大切なタイミングなんです。
接種のスケジュール
当日の体調が万全(発熱や下痢がないこと)であることを前提に、1回目を「生後6~8週目頃」、2回目をその4週間後(生後10~12週目頃)に接種するのが一般的です。
母猫からもらった移行抗体が体内に残っている時期に打つと、ワクチンの効果が相殺されてしまいます。
この移行抗体は、生後6〜8週頃から少しずつ弱くなっていきますので、その点を考え期間を空けて複数回打つことで確実に免疫を定着させます。
「保護時期や母猫のワクチン歴、移行抗体の残り方によっては、生後14〜16週頃まで追加接種を行う場合もあります。特に保護猫・多頭環境では、獣医師と相談しながらスケジュールを調整しましょう。

飼い主
完全室内飼いでもワクチンは必要ですか?
Dr.Nyan
はい。ウイルスは人の服や靴に付着して室内へ持ち込まれることがあります。特に仔猫では重症化リスクが高いため重要です。
予防できる主な感染症(コアワクチン)
一般的には以下の3種類の病気を予防する「3種混合ワクチン」を接種します。
猫ウイルス性鼻気管炎(猫風邪)
激しいクシャミ、鼻水、目ヤニを引き起こし、仔猫では衰弱死することもあります。
猫カリシウイルス感染症
口の中に痛い口内炎や潰瘍ができ、ごはんが食べられなくなります。
猫汎白血球減少症(猫パルボ)
白血球が激減し、激しい嘔吐と血便を伴う、極めて致死率の高い恐ろしい感染症です。
犬のパルボウイルス感染症とは別のものですが、犬と同様に猫でも非常に致死率の高い危険な感染症です。
リスク先生
ワクチン後に顔が腫れる・ぐったりする・何度も吐く場合は、すぐ病院へ連絡です!
万全の準備で挑む!「動物病院デビュー」の極意
初めての動物病院は、仔猫にとっては「知らない匂い、知らない動物の鳴き声、知らない人がいる場所」であり、人生最大の大冒険です。過度な恐怖心やストレスを与えず、また診察をスムーズに進めるための準備を整えましょう。
病院へ行くときの必須持ち物リスト
初めての来院の際は、以下の4つのアイテムを必ず準備して持参してください。これらがあるだけで、診察の安全性とスムーズさが劇的に変わります。
キャリーバッグ(プラスチック製・上開きタイプがベスト)
抱っこしたままや、段ボール箱に入れて連れてくるのは、移動中や待合室でパニックを起こした際の脱走・落下の危険があり絶対にNGです。
必ずしっかりとロックができる頑丈なキャリーバッグを用意してください。
特に「天井(上部)がガバッと開くタイプ」のキャリーは、猫を上から優しく抱き上げられるため、最もおすすめできる形です。
リスク先生
抱っこで病院へは脱走事故の原因です!待合室で驚いて飛び出し、そのまま行方不明になるケースは実際にあります!
当日の朝の「新鮮なウンチ」
お腹の寄生虫を調べる「検便」を行うため、その日(出なければ前夜)に排泄したウンチを少量持ってきてください。猫砂(おからや紙、鉱物など)がついたままで全く問題ありません。 乾燥してしまうと顕微鏡での正確な検査がしづらくなるため、ラップに包むか、ジップロック、または小さなプラスチック容器(100円ショップのミニタッパーなど)に密閉して、瑞々しい状態を保ったまま持参するのがポイントです。
大きめのバスタオル(またはブランケット)
移動中や、病院の待合室で待っている間、キャリーバッグの上からふんわりとかけて「周囲の視線を遮る」ために使用します。 猫は視界を遮られ、暗く狭い場所に隠れると本能的に安心する習性があります。他の犬や猫が見えなくなるだけで、病院内での緊張やストレスを劇的に防ぐことができます。
保護の経緯や日頃の様子を書いた「メモ」
診察室に入ると緊張してしまい、聞きたかったことや伝えるべきことを忘れてしまう飼い主さんはとても多いです。
「いつ、どこで保護したか」
「現在のミルクや離乳食の量・回数」
「現在の体重(家で測っていれば)」
「尿や便の回数と状態」
「クシャミ、鼻水、目ヤニなど気になる症状の有無」
これら簡単に紙にメモして受付や獣医師に渡していただけると、診断の正確性とスピードが格段にアップします。
失敗しない病院選びと、受診当日のタイムスケジュール
「猫に優しい病院」を探す
犬の大きな鳴き声や匂いに怯えてしまう猫ちゃんは非常に多いです。
可能であれば「待合室が犬と分かれている」「猫専用の診察時間がある」「キャット・フレンドリー・クリニック(CFC)の認定を受けている」といった、猫のストレスケアに力を入れている病院を選ぶと安心です。
受診は「平日の午前中」が鉄則
特に初めてのワクチン接種を行う日は、必ず午前中に来院してください。
万が一、接種後数時間してからアレルギー反応(顔がパンパンに腫れる、元気がなくなる、嘔吐する、蕁麻疹が出るなど)が起きた場合、午前中に打っておけば、午後や夕方の診療時間内にすぐ再受診して緊急処置を受けられるからです。
夜間や休診時間に体調が急変するリスクを避けるための、大切な鉄則です。
費用の目安について
費用は病院ごとに異なりますが、初診時の一般的な目安は…
初診料
糞便検査
ノミダニ駆除1回
混合ワクチン
合計で、およそ8,000円~15,000円前後
事前に電話で「新しく仔猫を保護したのですが、初診とワクチンで費用はどのくらいかかりますか?」と確認しておくと安心です。
よくある質問
保護したその日に病院へ行った方がいいですか?
ぐったりしている、低体温、呼吸がおかしい、目が開かないほど目ヤニが多い場合は早急な受診が必要です。一方で元気があり体温も保てている場合は、まず保温と授乳を優先し、状態を整えてから受診するケースもあります。
仔猫の検便は何回必要ですか?
寄生虫は一度の検査で見つからないこともあるため、症状が続く場合や保護直後は複数回検査を行うことがあります。
ワクチンの日にお風呂へ入れてもいいですか?
ワクチン接種当日は体調変化を避けるため、シャンプーや長時間の遊びは控えるのが安全です。
まとめ:病院は「怖い場所」ではなく「守ってくれる場所」
初めての動物病院は、仔猫にとっても、お母さん代わりを務めてきた飼い主さんにとっても一大イベントです。
でも、身構える必要はまったくありません。私たち獣医師や愛玩動物看護師は、外の厳しい環境から小さな命を繋ぎ、一生懸命に育ててくれた「あなたと仔猫の味方」です。
待合室ではキャリーにタオルをかけ、飼い主さんもリラックスして優しく声をかけてあげてください(飼い主さんの緊張は仔猫に伝わってしまいます)。
そして診察が無事に終わったら、お家に帰ってから「よく頑張ったね!」とたくさん褒めて、大好きなおやつや温かいミルクをご褒美にあげてくださいね。
この時期にしっかりとした医学的ケアの土台を作ることが、この先15年、20年と続く、健やかで幸せな日々の確かなスタートラインになります。
次回からは、いよいよ赤ちゃん期を卒業した仔猫との本格的な「暮らし編」へ突入します!「生後2ヶ月以降の社会化期(おもちゃでの正しい遊び方、甘噛みのしつけ、お留守番の練習)」について詳しく解説します。大人の猫へとステップアップしていく我が子の姿を、引き続き一緒に楽しんでいきましょう!
【保護仔猫シリーズ|お母さんのいない仔猫の育て方】
① 保護したときに
② 検査のしかた
③ 離乳食への進め方と初めてのトイレ
④ 生後6週目からの健康管理と動物病院デビュー
⑤ 生後2ヶ月からの社会化期と暮らしのルール
⑥ 生後3ヶ月からの総仕上げと大人の猫への準備
筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

本記事は、犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。
特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。