Dr.Nyanのすこやかコラム
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猫の高血圧症|急な失明・元気消失・けいれんの原因と治療
本記事は、Dr.Nyan症例集「猫の内分泌・代謝疾患編」の一部です。実際の診療症例をもとに、猫の高血圧症の原因と対応についてわかりやすく解説しています。
「急に目が見えなくなった」「元気がない・食欲が落ちた」「ぼんやりしている」
こうした症状が突然起きたとき、猫の高血圧症を疑う必要があります。高齢の猫の約20%が高血圧といわれ、無症状のまま進行し臓器にダメージを与えるのが特徴です。
飼い主
急に目が見えなくなることってあるんですか?
Dr.Nyan
はい。高血圧では突然失明することがあります
見た目に異常がなくても進行するため、「症状が出てから気づく病気」である点に注意が必要です。
特に猫の高血圧は、外見だけではほとんど分かりません。普段通り食べていて元気そうに見えても、気づかないうちに目・腎臓・脳・心臓へのダメージが進行していることがあります。
そのため、「症状がないから大丈夫」ではなく、シニア期からの定期的な血圧測定が非常に重要になります。

飼い主
元気そうでも血圧が高いことってあるんですね…
Dr.Nyan
実際には、健康診断で初めて高血圧が見つかる猫も少なくありません。特に7歳以上では定期測定が大切です。
【症例】こんな猫が来院しました
飼い主
昨日から急に目が見えなくなったようで、ぼんやりしてご飯も食べません。
Dr.Nyan
血圧が200mmHgを超えており、高血圧による網膜剥離と診断しました。早急に降圧治療を開始します。

このように「突然の失明」で初めて気づかれるケースも少なくありません。
突然の失明は一見すると目の病気のように見えますが、実際には全身性の高血圧が原因であることが多いのが特徴です。
降圧薬の投与を開始し、1週間後には血圧が安定。網膜は一部回復し、ある程度の視力が戻りました。慢性腎臓病の併発も確認され、両方を並行して管理しています。
血圧が下がったからといって自己判断で薬を中止すると、再び血圧が上昇し、目・脳・腎臓などに急激なダメージを与えることがあります。高血圧は長期管理が必要になるケースが多く、「毎日の投薬」が愛猫の視力や命を守る大切な習慣になります。
リスク先生
「血圧が落ち着いた=完治」ではありません。自己判断で中止せず、必ず相談しながら調整していきましょう。
猫の高血圧症とは?
高血圧症とは、血圧が慢性的に高い状態が続く病気です。猫の正常血圧は収縮期血圧(最高血圧)140mmHg以下とされています。160mmHg以上で治療を検討し、180mmHg以上は重篤な状態になる可能性があります。
高血圧の怖さは「初期に症状がほとんどない」点です。気づかないうちに目・心臓・脳・腎臓などの臓器にじわじわとダメージを蓄積し、ある日突然「失明」「けいれん」などの重篤な症状として現れます。
Dr.Nyan
猫は病院で緊張すると血圧が上がります。
そのため複数回測定して慎重に判断します。1回の測定値だけで判断することはありません。
つまり「元気=正常」ではなく、症状が出た時点で病気は進行している可能性があります。
高血圧が引き起こす臓器障害
飼い主
高血圧って、どこに影響が出るんですか?
Dr.Nyan
特に目・心臓・脳・腎臓に重大な障害を引き起こします。中でも「失明」は突然起こることがあります。
眼(最も重篤)
高血圧で最もダメージを受けやすいのが眼の網膜です。網膜の細い血管が傷つき出血・剥離すると突然失明します。早期に降圧治療を行えば視力が部分的に回復するケースもありますが、時間が経つほど回復は難しくなります。

特に発症から時間が経つほど回復は難しくなるため、迅速な対応が重要です。
心臓
高い血圧に抵抗して心臓が過剰に働き続けることで心筋が肥厚(心肥大)し、不整脈・心雑音が生じます。肥大型心筋症を引き起こしたり悪化させることもあります。
脳
脳内の血圧上昇により出血・梗塞が起こり、けいれん・運動失調・ぐるぐる回るなどの神経症状が現れます。突然の発症が多く、緊急対応が必要です。
腎臓
高血圧が腎臓の組織を傷つけ腎機能が低下、さらに腎機能低下が血圧を上げるという悪循環に陥ります。この悪循環により、気づかないうちに病状が進行しているケースも多く見られます。
慢性腎臓病の猫の半数以上に高血圧が認められるという報告もあります。
リスク先生
高血圧を放置すると失明・腎不全・心不全・脳障害など全身の臓器に深刻なダメージを与えます。早期発見・早期治療が視力や生命を守ります。
高血圧の原因
猫の高血圧は多くが基礎疾患による二次性高血圧です。原因となる病気を治療することで血圧が改善するケースもあります。
慢性腎臓病(最多)
腎臓は体内の水分量と血圧をコントロールする役割を持っています。腎機能が低下すると水分調節がうまくいかず血圧が上昇します(腎性高血圧)。慢性腎臓病の猫の半数以上に高血圧が認められます。
甲状腺機能亢進症
過剰な甲状腺ホルモンが代謝を亢進させ血圧を上昇させます。甲状腺機能亢進症の猫の90%近くが高血圧になるとも報告されています。
アルドステロン症・その他
副腎からのアルドステロン過剰分泌によりナトリウムが体内に蓄積し、血圧が上昇します。また原因が特定できない「特発性高血圧」もあります。
Dr.Nyan
高血圧と腎臓病・甲状腺機能亢進症はセットで評価することが重要です。これらを早期に発見・治療することが高血圧の予防にもつながります。
原因疾患の有無を確認する検査が非常に重要になります。
血圧について知っておきたいこと
血圧とは、心臓が血液を全身に送り出す際に血管の内壁にかかる圧力のことです。
血圧の数値によって対応が大きく変わるため、基準を理解しておくことが重要です。
| 分類 | 収縮期血圧(最高血圧) | 対応 |
|---|---|---|
| 正常 | 140mmHg以下 | 定期モニタリング |
| 要注意 | 140〜159mmHg | 経過観察・再検査 |
| 高血圧 | 160〜179mmHg | 治療を検討 |
| 重篤な高血圧 | 180mmHg以上 | 緊急性が高い・早急に治療 |
診断・血圧測定方法
前足または尾にカフ(血圧測定バンド)を巻いて測定します。猫は緊張で血圧が上がるため、リラックスした状態で複数回測定して判断します。日を改めて再測定することもあります。

測定は尾の付け根や前足にカフを巻いて行い、痛みはほとんどありません。タオルで優しく包んだり、飼い主さんに抱っこしていただきながら、できるだけリラックスした状態で測定します。
飼い主
うちの子、病院だと緊張して暴れてしまうんですが大丈夫でしょうか?
Dr.Nyan
無理に押さえつけず、その子のペースに合わせて測定しますのでご安心ください。

血液検査・尿検査で基礎疾患(慢性腎臓病・甲状腺機能亢進症など)の有無を確認します。眼科検査(眼底検査)で網膜の状態も評価します。
治療法
基礎疾患の治療
高血圧の原因となっている病気(慢性腎臓病・甲状腺機能亢進症など)を治療します。基礎疾患が改善すると血圧が正常化するケースもあります。
降圧薬の投与
アムロジピンなどのカルシウム拮抗薬が第一選択薬として使われます。血圧が下がりすぎないよう慎重に投与量を調整し、定期的な血圧測定でモニタリングします。

Dr.Nyan
薬を始めた後も元気・食欲の変化に注意してください。血圧が急に下がりすぎると元気がなくなることがあります。変化があればすぐにご相談ください。
定期的なモニタリング
血圧・腎機能・目の状態を定期的に確認します。多くの場合は長期的な管理が必要になります。
治療開始が早いほど臓器へのダメージを抑えられる可能性が高くなります。
予防方法
高血圧は予防よりも「早期発見」が重要な病気です。
- 7歳以上は年2回の健康診断(血圧測定を含む)
- 慢性腎臓病・甲状腺機能亢進症の早期発見・治療
- 適正体重の維持(肥満は血圧上昇のリスク因子)
- ストレスの少ない環境づくり
人間の高血圧ほど塩分の影響は大きくないとされていますが、心臓や腎臓への負担を減らすため、療法食や塩分に配慮した食事管理が推奨されることがあります。特に慢性腎臓病を伴う猫では、食事管理も重要な治療の一部になります。
リスク先生
塩分の多い人の食べ物やおやつの与えすぎは、腎臓や心臓への負担につながることがあります。自己判断ではなく、病状に合った食事を選ぶことが大切です。

Dr.Nyan
定期的な血圧測定が最大の予防です。当院の健康診断には血圧測定が含まれているコースもあります。
発症しやすい猫の特徴
- 7歳以上の高齢猫(高齢猫の約20%が高血圧)
- 慢性腎臓病・甲状腺機能亢進症・心臓病の既往がある猫
- 肥満の猫
これらに当てはまる猫では、症状がなくても定期的な血圧測定が推奨されます。
こんな症状があれば早めに受診を
| 症状 | 受診の目安 |
|---|---|
| 元気がない・食欲が落ちた | ⚠️ 早めに受診 |
| ぼんやりしている・反応が鈍い | ⚠️ 早めに受診 |
| 目が見えにくそう・瞳孔が開いたまま | ⚠️ 急いで受診 |
| 急に目が見えなくなった | ⚠️ 直ちに受診 |
| けいれん・ぐるぐる回る・よろめく | ⚠️ 直ちに受診 |
| 7歳以上で最近血圧を測っていない | 定期検査を推奨 |
複数の症状が重なっている場合は緊急性が高い可能性があります。
リスク先生
「急に目が見えなくなった」は高血圧による緊急サインです。時間が経つほど回復が難しくなります。すぐに受診してください。
よくある質問
よくある疑問をまとめました。
急に目が見えなくなるのは高血圧が原因ですか?
高血圧による網膜剥離・眼底出血が原因のことがあります。急な失明は緊急サインです。早急な受診と降圧治療で視力が部分回復するケースもあります。
高血圧は自然に治りますか?
自然に治ることはほとんどありません。原因となる病気の治療と降圧薬による長期的な管理が必要です。
どのくらいの血圧から治療が必要ですか?
収縮期血圧160mmHg以上で治療を検討します。180mmHg以上は臓器へのダメージリスクが高く、早急な治療が必要です。
慢性腎臓病と高血圧は関係ありますか?
深く関係しています。腎臓病が高血圧を引き起こし、高血圧がさらに腎臓を傷つける悪循環が起きます。慢性腎臓病の猫の半数以上に高血圧が認められます。
元気がないのも高血圧のサインですか?
はい。元気消失・食欲低下・ぼんやりしているなどは、老化と見間違えやすい高血圧の初期症状です。高齢猫ではこうした変化を見逃さないことが重要です。
高血圧の予防はできますか?
完全な予防は難しいですが、腎臓病・甲状腺機能亢進症の早期発見・治療と定期的な血圧測定で高血圧のリスクを大幅に下げることができます。
元気でも血圧測定は必要ですか?
はい。無症状で進行するため定期検査が重要です。
高血圧の薬はずっと続ける必要がありますか?
多くの場合、長期的な管理が必要になります。自己判断で中止すると血圧が急上昇し、失明や脳障害などを引き起こすことがあります。定期的な血圧測定を行いながら慎重に調整していきます。
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まとめ
最後に重要なポイントを整理します。
「急に目が見えなくなった」
「元気がない・ぼんやりしている」
「けいれんした」
これらは高血圧による緊急サインです。
高血圧は初期に症状がなく、気づいたときには臓器へのダメージが進んでいることがあります。7歳以上の高齢猫では年2回の健康診断に血圧測定を含めることが大切です。
Dr.Nyan
「なんか変かも」と感じたら、症状がなくても一度血圧測定をご相談ください。
筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

本記事は、犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。
特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。
また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。