Dr.Nyanのすこやかコラム
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犬の血管肉腫|突然倒れる・お腹が張る原因と治療
本記事は、Dr.Nyan症例集「犬の腫瘍・がん疾患編」の一部です。実際の診療症例をもとに、突然倒れる・お腹が張るなどの症状と血管肉腫の原因・対応についてわかりやすく解説しています。
「急にぐったりして立てなくなった」「お腹が急に張ってきた」「散歩中に突然倒れた」などの症状があれば注意が必要です。
こうした症状が突然起きたとき、血管肉腫(けっかんにくしゅ)を疑う必要があります。血管肉腫は進行が非常に早く「サイレント・キラー(静かな殺し屋)」とも呼ばれる悪性腫瘍です。早期発見が命を守る唯一の手段です。
【症例】こんな犬が来院しました
実際に当院で診療した症例です。
飼い主
昨日の夜から急にぐったりして、今朝からお腹が膨らんでいます。
Dr.Nyan
超音波検査で脾臓に腫瘤があり、腹腔内出血が起きています。血管肉腫が強く疑われ、緊急手術が必要な状態です。
緊急手術で脾臓を摘出しました。
術後の病理検査で脾臓血管肉腫と確定診断されました。
その後、抗がん剤治療を開始しました。
血管肉腫は再発・転移のリスクが高く、継続的な検査が必要です。
血管肉腫とは?
血管肉腫は、血管の内側を覆う細胞(血管内皮細胞)が悪性腫瘍化した病気です。血管から発生するため、血流の多い臓器に好発します。
血管肉腫が「サイレント・キラー」と呼ばれる理由は2つあります。
① 腫瘍が大きくなるまで症状がほとんど出ないこと
② 腫瘍が突然破裂して大量出血を起こすこと。
「昨日まで元気だったのに突然倒れた」というケースが非常に多い病気です。
Dr.Nyan
血管肉腫は犬に多く、特に中高齢の大型犬・ゴールデンレトリバー・ラブラドール・シェパードなどの犬種に多く見られます。
発生しやすい部位
| 発生部位 | 特徴・症状 |
|---|---|
| 脾臓(最多) | 約50%が脾臓発生。破裂すると腹腔内出血を起こし突然倒れる |
| 心臓(右心房) | 約25%。心嚢液貯留→心タンポナーデで急に倒れる |
| 皮膚・皮下 | 青〜黒っぽい腫瘤。皮膚型は比較的予後が良い |
| 肝臓・肺・その他 | 転移巣として見られることが多い |
Dr.Nyan
脾臓・心臓の血管肉腫は外から見ても全くわかりません。「急に倒れた」「元気がなくなった」という症状で初めて発見されることがほとんどです。
症状
血管肉腫では、進行段階によって症状が大きく異なります。
破裂前(慢性期)
腫瘍が小さいうちは症状がほとんどありません。以下の軽微な変化が見られることがあります。
- なんとなく元気がない・疲れやすい
- 食欲の波がある
- お腹がやや張っている気がする
- 粘膜(歯茎・舌)が白っぽい(貧血)
破裂後(急性期・緊急状態)
- 急に立てなくなった・ぐったりした
- お腹が急に大きく張ってきた
- 歯茎が白い・チアノーゼ(紫色)
- 呼吸が速い・苦しそう
- 脈が弱い・触れにくい
- 意識が薄れている
リスク先生
破裂による腹腔内出血や心タンポナーデは数時間で命に関わる状態になります。これらの症状があれば直ちに受診してください。
原因
明確な原因は解明されていませんが、以下が関与しているとされています。
- 遺伝的素因(犬種による発症リスクの差)
- 紫外線暴露(皮膚型の場合)
- 慢性炎症・免疫異常
- 加齢(中高齢の大型犬に多い)
診断方法
超音波検査・レントゲン・血液検査を組み合わせて診断します。
確定診断は手術摘出した組織の病理検査で行います。
| 検査 | 確認できること |
|---|---|
| 超音波検査 | 脾臓・肝臓・心臓の腫瘤・腹水・心嚢液の確認 |
| 胸部レントゲン | 肺転移・心陰影の拡大確認 |
| 血液検査 | 貧血・凝固異常(DIC)・臓器機能の評価 |
| 心電図・心エコー | 心臓型の場合の心機能・心嚢液評価 |
| 病理組織検査 | 確定診断(手術摘出後に実施) |
超音波検査で脾臓に腫瘤が見つかっても、それが良性の血腫なのか、悪性の血管肉腫なのかは画像だけでは区別できないことがあります。
そのため、「診断」と「破裂予防による治療」を兼ねて脾臓摘出手術を提案するケースが多くあります。
Dr.Nyan
超音波検査は血管肉腫の早期発見に最も有効な検査です。症状がなくても、シニア期(7歳以上)の大型犬は年1〜2回の腹部超音波検査をお勧めします。
治療法
緊急治療(破裂時)
腹腔内出血・心タンポナーデが起きている場合は、まず輸血・点滴による救命処置を行います。心タンポナーデは心嚢穿刺(液体を抜く処置)で一時的に改善します。
激しい出血がある場合、緊急で止血剤の投与や輸血が必要になることがあります。
これは血管肉腫そのものを治す治療ではありませんが、ショック状態から一時的に救命し、次の選択肢(緊急手術・緩和ケアなど)を検討するための大切な時間を作る目的で行われます。
外科手術(脾臓摘出・心膜切除など)
根本的な治療は外科手術による腫瘍の摘出です。脾臓型は脾臓全摘出、心臓型は心膜切除を行います。手術単独の生存期間中央値は約1〜2か月です。
抗がん剤治療
手術後にドキソルビシンを中心とした抗がん剤治療を行うことで、生存期間が4〜6か月程度に延長することが報告されています。再発・転移のリスクが高いため、術後の継続治療が重要です。
Dr.Nyan
「抗がん剤は副作用が心配」というご相談をよく受けます。犬の抗がん剤治療は人と異なり、副作用を最小限に抑えながら進める方法を取ります。
緩和ケア(QOL重視)
手術や抗がん剤治療を行わない場合でも、痛みを和らげ快適に過ごせるよう緩和ケアを行います。ご家族のご意向・年齢・全身状態を考慮しながら一緒に最善の方針を決めます。
手術や抗がん剤治療を希望されない場合でも、痛みの緩和や出血リスクを抑える薬、補助的なサプリメントなどを用いながら、できるだけ穏やかに過ごせる時間を支える治療が可能です。
「最後までその子らしく過ごさせたい」というご家族の思いを大切にしながら、QOL(生活の質)を重視したサポートを行います。

飼い主
無理な治療ではなく、苦しくないように過ごさせてあげたいです…
Dr.Nyan
積極的治療だけが正解ではありません。その子とご家族に合った“穏やかな過ごし方”を一緒に考えていきましょう。
予後(余命の目安)
| 治療方法 | 生存期間の目安 |
|---|---|
| 手術のみ | 中央値1〜2か月 |
| 手術+抗がん剤 | 中央値4〜6か月 |
| 皮膚型(手術のみ) | 比較的良好(数か月〜1年以上も) |
| 治療なし | 数日〜数週間 |
Dr.Nyan
予後が厳しい病気ですが、治療で「少しでも長く、穏やかに過ごせる時間」を作ることができます。治療の選択肢について一緒に考えましょう。
早期発見のためにできること
- 7歳以上は年1〜2回の腹部超音波検査(特に大型犬・リスク犬種)
- 定期的な血液検査(貧血・凝固異常の早期発見)
- 毎日のボディチェック(皮膚の変色・しこりの確認)
- 「なんとなく元気がない」を放置しない
Dr.Nyan
血管肉腫に「完全な予防」はできませんが、定期的な超音波検査で腫瘍が小さいうちに発見できることがあります。定期健診が最善策です。
発症しやすい犬の特徴
- 大型犬(ゴールデンレトリバー・ラブラドール・ジャーマンシェパード・バーニーズなど)
- 7歳以上の中高齢犬
- オスの方がやや多い傾向
こんな症状があれば直ちに受診を
| 症状 | 受診の目安 |
|---|---|
| なんとなく元気がない・疲れやすい | ⚠️ 早めに受診 |
| 歯茎が白っぽい(貧血) | ⚠️ 急いで受診 |
| お腹が急に張ってきた | ⚠️ 直ちに受診 |
| 急にぐったりした・立てなくなった | ⚠️ 直ちに受診 |
| 呼吸が速い・苦しそう | ⚠️ 直ちに受診 |
| 意識が薄い・ぐったりしている | ⚠️ 直ちに受診 |
よくある質問
突然倒れたのは血管肉腫のせいですか?
脾臓や心臓の血管肉腫が破裂し、腹腔内出血や心タンポナーデを起こすと突然倒れることがあります。他の原因(心臓病・低血糖など)の可能性もあるため、速やかな検査が必要です。
手術すれば治りますか?
血管肉腫は再発・転移のリスクが高く、手術単独では根治が難しい病気です。術後の抗がん剤治療を組み合わせることで生存期間の延長が期待できます。
超音波検査で早期発見できますか?
超音波検査は血管肉腫の早期発見に有効です。ただし非常に小さな腫瘍は見つけにくいこともあります。リスクの高い犬種・年齢では定期的な検査が重要です。
痛みはありますか?
腫瘍が破裂していない段階では痛みがほとんどないことが多いです。破裂後の出血は急激な痛みと全身状態の悪化を引き起こします。
抗がん剤治療はどのくらいかかりますか?
一般的に3週間ごとの投与を4〜6回行います。副作用を最小限に抑えながら進め、定期的な血液検査でモニタリングします。費用や詳細はご来院時にご相談ください。
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まとめ
「急にぐったりした」「お腹が急に張ってきた」「元気がない日が続く」
血管肉腫はこうしたサインを出しながら静かに進行します。
予後が厳しい病気ですが、早期発見・早期治療で愛犬との時間を延ばすことができます。7歳以上の大型犬では定期的な腹部超音波検査を強くお勧めします。
「様子見」で済ませず、異変を感じたら早めに受診することが大切です。
Dr.Nyan
「なんか変かも」と感じたり、「急にぐったりした」「お腹が張ってきた」などの異変の様子見ず、早めにご相談ください。
筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

本記事は、犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。
特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。