犬のリンパ腫|リンパ節の腫れ・元気消失の原因と治療

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犬のリンパ腫|リンパ節の腫れ・元気消失の原因と治療

犬のリンパ腫のイメージ(腫れたリンパ節とがん細胞の概念図)

本記事は、Dr.Nyan症例集「犬の腫瘍・がん疾患編」の一部です。実際の診療症例をもとに、リンパ節の腫れ・元気消失などのリンパ腫の症状と原因・対応についてわかりやすく解説しています。

「首やわきのリンパ節がぽっこり腫れている」「最近元気がない・食欲が落ちた」「体重が減ってきた」

こうした症状が見られたとき、犬のリンパ腫(悪性リンパ腫)を疑う必要があります。犬で最も多い悪性腫瘍のひとつで、早期発見・早期治療が予後を大きく左右します。

こうした症状が重なって見られる場合は、特に注意が必要です。

目次

【症例】こんな犬が来院しました

飼い主

1週間くらい前から首のしこりが急速に大きくなってきて、元気もなくなってきました。

Dr.Nyan

全身のリンパ節が腫大しており、多中心型リンパ腫が疑われます。細胞診で確認し、治療を開始しましょう。

犬 リンパ腫 多中心型 リンパ節腫大 全身 症例
犬のリンパ腫は発生部位によって症状が大きく異なります。しこりが目立たない消化管型では、慢性的な下痢や体重減少だけがサインになることもあります。
犬 縦隔型リンパ腫 胸腔内リンパ腫 呼吸困難 症例
胸腔内に発生したリンパ腫(縦隔型リンパ腫)のイメージ図

細胞診でリンパ腫と確定しました。
CHOP多剤併用化学療法を開始しました。

治療開始後1週間でリンパ節の縮小が見られ、状態は安定しています。

犬のリンパ腫とは?

飼い主

しこりがあればすぐに「がん」なんですか?

Dr.Nyan

いいえ。感染や炎症でも腫れますが、急に大きくなる場合は注意が必要です。

リンパ腫(悪性リンパ腫)は、免疫を担うリンパ球ががん化した病気です。リンパ球はリンパ節・脾臓・肝臓・骨髄・消化管など全身に分布しているため、リンパ腫も全身のあらゆる場所に発生します。

犬の悪性腫瘍の中でも最も多い疾患のひとつで、中高齢の犬(5〜11歳)に多く見られます。進行が速いため、リンパ節の腫れに気づいたら早めに受診することが大切です。

Dr.Nyan

リンパ腫は進行が速い腫瘍です。「しこりが急に大きくなった」「先週まで元気だったのに」という経緯で来院されるケースが多いです。

リンパ腫の種類と発生部位

リンパ腫は発生部位によって症状が大きく異なります。リンパ節の腫れだけでなく、慢性的な下痢・呼吸困難・治らない皮膚炎などが最初のサインになることもあります。

種類割合主な症状
多中心型(最多)約80%全身のリンパ節腫大。首・脇・膝・鼠径部のしこり
消化器型約10%嘔吐・下痢・食欲不振・体重減少
縦隔型約5%呼吸困難・咳・前胸部の腫れ
皮膚型約5%皮膚のかゆみ・赤み・脱毛・皮膚の肥厚
リンパ腫は「しこり」だけの病気ではありません。発生部位によって症状が大きく異なり、見えない場所で進行していることもあります。

症状

多中心型リンパ腫(最多・約80%)

全身のリンパ節が腫大します。特に首(顎の下)・脇・膝・鼠径部(内もも)のリンパ節が触れやすく、硬く・動かないしこりとして確認できます。初期は痛みがなく元気なことが多いですが、進行すると元気消失・食欲不振・体重減少が現れます。

消化器型リンパ腫

小腸や大腸に発生します。慢性的な嘔吐・下痢・体重減少・食欲不振が続きます。炎症性腸疾患(IBD)との区別が難しいことがあり、内視鏡検査・病理組織検査が必要です。

リンパ腫には、体表のリンパ節が目立って腫れないタイプ(消化管型など)もあります。その場合は、慢性的な下痢・嘔吐・急激な体重減少などが主なサインとなるため、「しこりがないから大丈夫」とは限りません

縦隔型リンパ腫

胸腔内のリンパ節(縦隔リンパ節)に発生します。胸水が溜まり、急な呼吸困難・咳・前胸部の膨らみが現れます。重症化が早いため緊急対応が必要です。

皮膚型リンパ腫

飼い主

ずっと治らない皮膚炎も関係あるんですか?

Dr.Nyan

はい。皮膚型リンパ腫は皮膚炎と間違われることが多いので注意が必要です。

皮膚のかゆみ・赤み・脱毛・皮膚の肥厚・潰瘍が特徴です。長期間「皮膚炎」として経過観察されることがあるため注意が必要です。

犬 皮膚型リンパ腫 皮膚 赤み 脱毛 症例
皮膚型リンパ腫の実際の症例。皮膚の赤み・脱毛・肥厚が見られます。長期化した皮膚炎が実はリンパ腫だったというケースがあります。

Dr.Nyan

皮膚炎と間違えやすい皮膚型リンパ腫は、「治療しても良くならない皮膚炎」として気づかれることが多いです。

緊急サイン

T細胞型リンパ腫では、「高カルシウム血症」を伴うことがあります。血液中のカルシウム濃度が異常に上昇すると、多飲多尿・脱水・腎障害・ぐったりするなどの症状を引き起こし、命に関わることもあります。
「急に水を大量に飲む」「おしっこの量が増えた」「急激にぐったりした」といった変化は緊急受診が必要なサインです。

リスク先生

呼吸困難・急激な元気消失・嘔吐が続く・食欲が全くないなどの症状が出ている場合は緊急状態です。すぐに受診してください。

原因

明確な原因は解明されていませんが、以下が関与しているとされています。

  • 遺伝的素因(犬種による発症リスクの差)
  • 慢性的な免疫の過剰活性化・免疫異常
  • ウイルス・環境要因(農薬・除草剤等の暴露)
  • 加齢(中高齢の犬に多い)

発症しやすい犬種としてゴールデンレトリバー・ラブラドール・ボクサー・バセットハウンド・スコティッシュテリアなどが挙げられますが、どの犬種でも発症します。

診断方法

検査確認できること
触診リンパ節腫大の確認・大きさ・硬さ・可動性
細胞診(穿刺吸引)腫大リンパ節から細胞を採取して顕微鏡で確認(迅速診断)
血液検査貧血・高カルシウム血症・LDH・臓器機能の評価
超音波・レントゲン腹腔内・胸腔内リンパ節・臓器への浸潤確認
病理組織検査確定診断・B細胞型/T細胞型の判定(予後・治療法の決定に重要)
骨髄検査骨髄への浸潤確認(ステージング)
リンパ腫は「しこりがあるかどうか」だけでは判断できず、細胞診・血液検査・画像検査を組み合わせ、発生部位や進行度を総合的に評価します。

Dr.Nyan

B細胞型とT細胞型では予後・治療反応性が異なります。病理組織検査でしっかり確認することが重要です。

治療法

化学療法(抗がん剤治療)

リンパ腫の主な治療は多剤併用化学療法(CHOP療法)です。ドキソルビシン・シクロホスファミド・ビンクリスチン・プレドニゾロンなどを組み合わせて使用します。約25週間のプロトコールで、B細胞型では完全寛解率80〜90%・生存期間中央値12〜14か月が報告されています。

犬 リンパ腫 抗がん剤 化学療法 CHOP 治療
化学療法(CHOP療法)に使用する抗がん剤。複数の薬を組み合わせてリンパ腫細胞を攻撃します。

犬の抗がん剤治療は、人のように強い副作用で寝込ませることを目的とした治療ではありません。生活の質(QOL)を維持しながら、できるだけ普段通りに生活できることを重視し、副作用を抑える薬も併用しながら治療を進めます。

Dr.Nyan

「抗がん剤=苦しむ」というイメージを持たれる方は多いですが、犬では「元気に過ごせる時間を増やす」ことを大切にしています。

プレドニゾロン単独療法(緩和目的)

抗がん剤治療を行わない場合、ステロイド(プレドニゾロン)単独投与で一時的な改善が期待できます。生存期間は1〜2か月程度ですが、QOL(生活の質)の維持を優先したい場合に選択されます。

補助的治療

犬 リンパ腫 ビタミンC 高濃度ビタミン 補助治療
高濃度ビタミンC点滴など補助的治療の様子。抗がん剤と組み合わせて使用することがあります。

治療の選択肢と予後(余命の目安)

治療法生存期間の目安
CHOP化学療法(B細胞型)中央値12〜14か月(寛解率80〜90%)
CHOP化学療法(T細胞型)中央値6〜9か月(寛解率はやや低い)
プレドニゾロン単独中央値1〜2か月
治療なし数週間〜2か月程度
リンパ腫は完治が難しい腫瘍ですが、化学療法によって「元気に過ごせる時間」を延ばせる可能性があります。タイプや治療内容によって予後は大きく異なります。

Dr.Nyan

「治療しても数か月」と聞くとつらいですが、治療によって「元気に過ごせる時間」が大幅に延びます。どの選択も間違いではありません。一緒に考えましょう。

早期発見のためにできること

  • 毎月のボディチェック:首・脇・膝・鼠径部のリンパ節に「しこり・腫れ」がないか確認
  • 年1〜2回の定期健診:血液検査・触診・超音波検査
  • 「元気がない日が続く」「体重が減った」を放置しない

Dr.Nyan

リンパ節は正常でも小さく触れることがありますが、急に大きくなった・左右で大きさが違うなどの変化に気づいたらすぐに受診してください。

こんな症状があれば早めに受診を

リンパ腫は発生部位によって症状が大きく異なります。初期は元気そうに見えることもありますが、進行すると全身状態が急速に悪化することがあります。

症状受診の目安
首・脇・膝・鼠径部にしこりがある⚠️ 早めに受診
しこりが急に大きくなった⚠️ 急いで受診
元気がない・食欲が落ちた⚠️ 早めに受診
体重が減ってきた⚠️ 早めに受診
嘔吐・下痢が続く⚠️ 急いで受診
呼吸が苦しそう・咳が続く⚠️ 直ちに受診
リンパ腫は進行が速く、数日で状態が大きく変化することがあります。しこりだけでなく、体重減少・下痢・呼吸異常など全身症状にも注意が必要です。

よくある質問

しこりがあれば必ずリンパ腫ですか?

いいえ。リンパ節の腫れは感染症・炎症・他の腫瘍でも起きます。細胞診・血液検査でリンパ腫かどうかを確認する必要があります。

抗がん剤治療は副作用が心配です

犬の化学療法は人と異なり、副作用を最小限に抑えながら進めます。嘔吐・食欲低下などが出ることがありますが、多くの犬が治療中も普通に生活できています。

B細胞型とT細胞型の違いは何ですか?

B細胞型は化学療法への反応が良く予後が比較的良好です(生存期間中央値12〜14か月)。T細胞型は化学療法への反応がやや低く予後が短い傾向があります(中央値6〜9か月)。どちらかは病理組織検査で確認します。

再発した場合はどうなりますか?

多くの場合、初回治療で一時寛解した後に再発します。再発後は別のプロトコールや緩和療法を検討します。

治療しない選択をしても大丈夫ですか?

どの選択も間違いではありません。年齢・全身状態・ご家族の状況を考慮しながら、最善の方針を一緒に決めていきます。

リンパ腫は治りますか?

完全に「治る」ことは難しい病気ですが、化学療法によって寛解(症状が落ち着いた状態)を目指せるケースがあります。特にB細胞型では長期間元気に生活できる犬もいます。

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まとめ

「首のリンパ節が急に腫れた」「元気・食欲がない日が続く」——これらはリンパ腫のサインかもしれません。

リンパ腫は進行が速いですが、化学療法による治療で元気に過ごせる時間を延ばすことができます。毎月のボディチェックと定期健診で早期発見を心がけましょう。

Dr.Nyan

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筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

若山動物病院院長 獣医師 若山正之(Dr.Nyan)

本記事は、犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。

特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。
また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。

これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。

本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。