犬のレプトスピラ症|急な発熱・黄疸・腎不全の原因と治療・予防ワクチンの目安

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犬のレプトスピラ症|急な発熱・黄疸・腎不全の原因と治療・予防ワクチンの目安

「レプトスピラ症」という病名を聞いたことはありますか?
まだまだ飼い主さんには馴染みが薄いかもしれませんが、これは犬にとって命に関わる危険な感染症であり、人間にも感染する人獣共通感染症(ズーノーシス)です。

「田舎の川や田んぼで起きる病気でしょ?」「都会のマンションで暮らしているうちの子には関係ないよね」そう思っている飼い主さんも多いのではないでしょうか。

飼い主

散歩で公園に行くくらいなのに、レプトスピラ症になることってあるんですか?

Dr.Nyan

はい。都会の公園でも、ネズミの尿で汚染された水たまりを愛犬が舐めるだけで感染することがあります。「うちの子は大丈夫」という油断が一番危険です。

この記事では、犬のレプトスピラ症の症状・感染経路・治療法・予防ワクチンについて、当院の症例をもとに詳しく解説します。

目次

1. レプトスピラとは?病気の正体を知ろう

レプトスピラは、細長いらせん状の形をした細菌(スピロヘータの一種)です。最大の特徴は湿った環境で長く生き残る力。乾燥には弱いものの、水や湿った土壌の中では数週間〜数ヶ月も活動を続けることができます。

この菌を持っているのは、主にネズミや野生動物。彼らの腎臓に住みついており、尿と一緒に外界へ排出されます。ネズミの尿が排水溝や田んぼ、公園の草むらに混じると、その環境自体が汚染されてしまうのです。

犬は散歩のときににおいを嗅ぐ・水たまりの水を舐める・足に付いた泥を舐めるといった日常の行動で感染してしまいます。

リスク先生

【ここがリスク!】
主な感染源はネズミや野生動物の尿です。排水溝・水たまり・草むらが汚染源になります。愛犬がその水を舐めたり、泥のついた足を舐めるだけで感染してしまうのです。雨上がりの散歩は特に注意してください。

2. 犬が感染したらどうなる?症状と進行

犬にとってレプトスピラ症は、短期間で急激に悪化する致死性の高い病気です。

初期症状(感染後2〜12日)

  • 発熱(39.5〜40℃以上)
  • 元気・食欲の低下
  • 嘔吐・下痢
  • 筋肉痛・関節痛(触ると痛がる)

飼い主

発熱や元気がない、という症状だと他の病気とも見分けがつかないですよね…

Dr.Nyan

そうなんです。初期は風邪のような症状なので見過ごしがちです。でも散歩後に急に発熱・食欲不振が起きた場合、必ず「どこを散歩したか」を教えてください。感染経路の確認が早期診断の鍵になります。

進行時の危険な症状

  • 黄疸(おうだん):眼・皮膚・歯ぐきが黄色くなる(肝障害のサイン)
  • 急性腎不全:尿が極端に減る、または出なくなる
  • 出血傾向:歯ぐきからの出血、血尿、皮下出血
  • DIC(播種性血管内凝固):全身の血管に微小血栓が生じる重篤な状態

特に恐ろしいのは腎臓と肝臓の同時障害。短期間で急激に悪化し、点滴や抗菌薬だけでは救えないこともあります。

リスク先生

【緊急サイン!】
黄疸(目・皮膚が黄色い)、尿が出ない、歯ぐきから出血——これらが現れたらすぐに動物病院へ。時間単位で状態が悪化します。

症例シナリオ:3歳ラブラドールの急性腎不全

ある日、3歳のラブラドールが元気を失い、ぐったりとした状態で来院しました。数日前に河川敷を散歩して水たまりに入ったとのこと。検査するとBUNとクレアチニン(腎機能の指標)が急上昇し、尿もほとんど出ていませんでした。黄疸も進行していました。

診断はレプトスピラ症による急性腎不全。抗菌薬と輸液治療を開始しましたが尿量は増えず、最終的に腹膜透析が必要になりました。幸い数日後に尿が出始めて回復しましたが、もし治療が遅れていたら命を落としていた可能性が高いケースです。

飼い主

水たまりに入っただけで、そんなに急に悪化してしまうんですね…

Dr.Nyan

そうなんです。当院の症例でも、河川敷の散歩後に急激にBUNやクレアチニン(腎臓の数値)が上昇し、腹膜透析が必要になったケースがあります。早期発見が生死を分けます。

3. 猫の場合——不顕性感染が多い

猫もレプトスピラに感染することはありますが、その多くは不顕性感染(症状を出さない状態)で終わるのが特徴です。完全室内飼いの猫であれば、過度に心配する必要はありません。

飼い主

猫は大丈夫なんですか?

Dr.Nyan

猫は感染しても症状が出にくく、完全室内飼いであればリスクはかなり低いです。ただし外に出る猫や、感染犬と同居している場合は注意が必要です。

4. 人にも移る!公衆衛生上の重大な危険

レプトスピラ症は人獣共通感染症であり、愛犬が感染している場合、その尿から飼い主さんに菌が移ることがあります

人の症状

  • 発熱・頭痛・筋肉痛
  • 黄疸・腎不全
  • 重症化すると「ワイル病」:多臓器不全・出血傾向

日本でも毎年、台風や洪水の後、川遊びや農作業をきっかけにした感染が報告されています。排泄物を素手で扱ったり、舐められた傷口から菌が侵入するリスクもあります。

リスク先生

【人への感染に注意!】
感染犬の尿は危険です。排泄物の処理は必ず手袋を着用し、処理後は石けんで手洗いを。傷口がある場合は特に注意してください。犬を守ることは、同時に飼い主さんやご家族を守ることでもあります。

5. なぜ「身近な病気」なのか?都会でも危険な理由

ネズミは都会にも田舎にもいる

  • 都会の下水・ゴミ置き場・繁華街
  • 田舎の田んぼ・畑・農業用水路
  • 住宅街の公園や草むら

ネズミの尿にはレプトスピラが含まれており、至る所で環境を汚染しています。

犬が感染しやすい場所

  • 公園の水たまり・草むら
  • 河川敷・田んぼのぬかるみ
  • 雨上がりの遊歩道
  • ドッグランの芝生・土
  • 排水溝・用水路の近く

飼い主

近所の公園も危ないんですね…。どこに行けばいいのか不安になってしまいます。

Dr.Nyan

散歩自体を減らす必要はありません。「水たまりに入れない」「足を洗う」「ワクチン接種」といった対策を組み合わせることが大切です。ゼロリスクは難しくても、リスクを大幅に下げることはできます。

都会でも田舎でも油断できない

都市公園やドッグランは犬の交流の場ですが、感染が広がりやすい環境でもあります。「都会だから安全」「うちの子は室内犬だから大丈夫」という思い込みが一番危険です。

6. 検査・診断・治療

主な検査

  • 血液検査:腎臓(BUN・Cre)、肝臓(ALT・AST・ALP)、貧血(PCV)
  • 尿検査:比重低下、蛋白尿、ビリルビン尿
  • 抗体検査(MAT):確定診断に用いる
  • PCR検査:急性期の菌の検出に有効

治療の流れ

  • 抗菌薬:ペニシリン系・アンピシリン・ドキシサイクリンなど
  • 輸液療法:腎臓への血流を守る積極的な点滴
  • 利尿剤:尿が出ない場合に試みる
  • 輸血:溶血・出血による貧血が進んだ場合
  • 腎代替療法:腹膜透析・血液透析(重症例)

治療が早ければ助かる命も、遅れると救えません。少しでも異変を感じたら、すぐに動物病院へ連絡してください。

項目具体的な内容
主な検査血液検査(BUN/Cre、ALT/AST、PCV)、尿検査、抗体検査(MAT)、PCR検査
初期治療ペニシリン系やアンピシリンなどの抗菌薬投与、強力な静脈輸液治療
重症時対応利尿剤の投与、貧血に対する輸血、腎代替療法(腹膜透析や血液透析)

飼い主

治療が大変そうですね…。助かる確率はどのくらいですか?

Dr.Nyan

早期発見・早期治療ができれば、多くの症例で回復できます。ただし腎不全が進行した重症例では、透析が必要になることも。だからこそ「少しでもおかしい」と思ったら、すぐに受診してほしいのです。

7. 予防:今日からできること

ここまで読んで「怖い!」と思われたかもしれません。でも大丈夫です。レプトスピラ症は飼い主さんの行動次第で大きく予防できる病気です。

散歩コースの見直し

  • 水たまりや側溝・用水路に近づけない
  • 雨上がりは草むらや泥地を避ける
  • ゴミ置き場や下水の近くを歩かせない

日常の衛生管理

  • 散歩後は犬の足・お腹まわりを水で洗い清潔に保つ
  • 排泄物の処理は必ず手袋を使い、処理後は石けんで手洗い
  • 多頭飼いでは、体調不良の犬を他の犬から隔離管理する

混合ワクチンの接種

犬用の混合ワクチンの中には、レプトスピラを予防できるタイプがあります(5種以上の混合ワクチンに含まれる場合が多いです)。地域のリスクや愛犬の生活環境に応じて、かかりつけの獣医師に相談しながら接種を検討してください。

飼い主

ワクチンを打てばレプトスピラ症は完全に防げますか?

Dr.Nyan

ワクチンは主要な血清型をカバーしていますが、すべての型を防げるわけではありません。ワクチン接種に加えて、水たまりを舐めさせない・散歩後に足を洗うといった日常の予防行動を組み合わせることが大切です。犬のフィラリア症ケンネルコフなど他の感染症と合わせて、年1回の定期健診でご相談ください。

関連コラムもあわせてご覧ください:
犬のフィラリア症|咳・疲れやすい・赤い尿の原因と治療・受診の目安
ケンネルコフ(伝染性気管支炎)|子犬の咳・鼻水・発熱の原因と治療・受診の目安
犬の慢性肝炎|元気がない・白目が黄色い・食欲低下の原因と治療・受診の目安
バイタルサイン異常|呼吸が早い・熱が高い犬猫の原因と受診の目安

飼い主さんに伝えたいこと

レプトスピラ症は「遠い世界の病気」ではなく、日常の散歩や遊びの中で誰にでも起こり得る病気です。犬にとっては致命的になり、人にも感染するからこそ、正しく知って予防することが大切です。今日からできる小さな工夫——それだけで大切な愛犬と家族を守ることができます。

よくある質問(FAQ)

都会の室内犬でも、レプトスピラ対応のワクチンを打つべきですか?

都会であっても、ドッグラン・公園・河川敷などを散歩する場合は感染リスクがあります。ライフスタイルに合わせて、レプトスピラに対応した5種以上の混合ワクチンの接種をおすすめします。かかりつけの獣医師にご相談ください。

ワクチンを打っていれば100%防げますか?

レプトスピラにはいくつかの「型(血清型)」があり、ワクチンは主要な型をカバーしていますが、すべての型を防げるわけではありません。そのため、ワクチン接種だけでなく「水たまりの水を舐めさせない」「散歩後に足を洗う」といった日常の予防行動も必ず組み合わせてください。

感染した犬と同居していますが、家族への感染リスクはありますか?

感染犬の尿に直接触れることで感染する可能性があります。特に傷のある手での排泄物処理は危険です。手袋の着用・手洗いを徹底し、感染が疑われる場合は人の医療機関にも相談することをおすすめします。

レプトスピラ症はどのくらいの速さで悪化しますか?

感染後2〜12日の潜伏期間の後、急速に悪化することがあります。「昨日まで元気だったのに今日は急にぐったり」という経過をたどることも。発熱・食欲不振・黄疸が重なって現れた場合は、すぐに動物病院を受診してください。

筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

若山動物病院院長 獣医師 若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール写真

本記事は、犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。

特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。
また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。

これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。

本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。