Dr.Nyanのすこやかコラム
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犬の歯周病|口臭・歯がグラグラ・食べにくいの原因と治療
本記事は、Dr.Nyan症例集「犬の口腔・歯科疾患編」の一部です。実際の診療症例をもとに、犬の歯周病の原因と対応についてわかりやすく解説しています。
「口臭がひどい」「歯がグラグラ」「食べるときに痛がる」「歯茎が赤く腫れている」——そんな症状はありませんか?
こうした症状が見られたとき、犬の歯周病を疑う必要があります。3歳以上の犬の約80%が歯周病を持っているといわれ、放置すると全身の臓器にまで影響を与える怖い病気です。
【f症例】こんな犬が来院しました
飼い主
7歳のトイプードルです。最近口臭がとてもひどくて、ご飯を食べるときに痛がるようになりました。歯も一本グラグラしています。
Dr.Nyan
全歯に重度の歯石・歯垢の沈着があり、歯肉の退縮・膿も認められます。麻酔下でのスケーリングと歯周ポケット処置、グラグラの歯の抜歯が必要な状態です。
全身麻酔下でスケーリング・ルートプレーニング・抜歯を実施。処置後は口臭が消え、食欲が戻りました。以後は月1回の歯磨きチェックと年1回のスケーリングで管理中です。
歯周病とは?
歯周病は、歯の周囲の組織(歯肉・歯槽骨・歯根膜)に炎症が起きる病気です。歯垢(プラーク)の中の細菌が原因で、放置すると歯を支える骨が溶けて最終的に歯が抜け落ちます。
歯周病が怖い理由は口の中だけの問題ではないからです。歯周病菌が血流に乗って全身に広がり、心臓・腎臓・肝臓などの臓器に重大なダメージを与えることが知られています。
Dr.Nyan
3歳以上の犬の約80%が何らかの歯周病を持っているといわれています。「うちの犬は歯磨きしていないけど大丈夫」は危険な思い込みです。
歯周病の進行ステージ
Stage 0|正常な歯
Stage 1|歯垢・歯石の沈着(初期)
歯垢(プラーク)は食後8時間で形成が始まり、72時間で歯石(タータル)になります。歯石は歯ブラシでは取れないため、動物病院でのスケーリングが必要です。
Stage 2〜3|歯肉炎・歯周ポケット形成(中期)

歯肉が赤く腫れ、歯周ポケット(歯と歯肉の間の溝)が深くなります。口臭が強くなる・歯肉から出血するなどの症状が現れます。この段階では歯磨きだけでは改善せず、処置が必要です。
Stage 4|重症歯周病(末期)


- 歯がグラグラ・自然脱落する
- 強い口臭・膿が出る
- 食べるときに痛がる・片側だけで食べる
- 口周りを触られるのを嫌がる
- 顔が腫れる(歯根膿瘍・骨髄炎)
リスク先生
「歯がグラグラしている」「顔が腫れている」は末期のサインです。すぐに受診してください。
重度の歯周病になると、鼻とお口が貫通してくしゃみが止まらなくなったり、小型犬では歯周病で脆くなった顎の骨が折れてしまうことがありますので注意が必要です。
歯周病が全身に与える影響

- 心臓病(細菌性心内膜炎):歯周病菌が心臓の弁に付着・炎症
- 腎臓病:細菌・毒素が腎臓に蓄積し機能を低下させる
- 肝臓病:肝臓への細菌・毒素の蓄積
- 糖尿病の悪化:慢性炎症がインスリン抵抗性を高める
- 顎の骨折:歯槽骨の溶解で顎が骨折しやすくなる(特に小型犬)
Dr.Nyan
歯周病は「口の中だけの問題」ではありません。歯のケアは全身の健康を守ることにつながります。
発症しやすい犬の特徴
- 小型犬・超小型犬(チワワ・トイプードル・ダックスなど):歯が密集して歯垢が溜まりやすい
- 歯磨きをしていない・したことがない犬
- 硬いものを食べない・ドライフードを食べない犬
- 3歳以上の中高齢犬
- 口蓋裂・噛み合わせの異常がある犬
診断方法
身体検査・口腔内検査(歯石・歯肉炎・歯周ポケット深さ・歯の動揺度)で評価します。麻酔下でのプロービング(歯周ポケットの深さ測定)・レントゲン検査で歯槽骨の溶解程度を確認します。
治療法
スケーリング(歯石除去)

全身麻酔下で超音波スケーラーを使用して歯石・歯垢を除去します。歯周ポケット内の洗浄・ルートプレーニング(歯根面の滑沢化)も同時に行います。
Dr.Nyan
「無麻酔スケーリング」は表面の歯石しか取れず、歯周ポケット内の処置ができません。また動物が動いて危険です。当院では必ず全身麻酔下で行います。
無麻酔での処置は、見た目が綺麗になっても肝心の「歯周ポケット内」の掃除ができません。
またワンちゃんに恐怖心を与えたり、顎の骨折のリスクもあります。
抜歯
歯槽骨が著しく溶けてグラグラしている歯・根尖膿瘍を起こしている歯は抜歯が必要です。抜歯後は痛みが消え、食欲が戻るケースが多くあります。
術後のケア

スケーリング後は歯磨きを続けないと数週間で歯石が再沈着します。術後のホームケアが治療の成否を左右します。
予防方法
■ 歯科予防は「3つの組み合わせ」が重要です
犬の歯周病予防は、1つの方法だけでは不十分です。
それぞれ役割が異なるため、組み合わせることで最も効果を発揮します。
【歯科ケアの役割分担】
■ 定期的な歯科検診(早期発見) ・歯周ポケットや歯肉の状態をチェック
・歯石の付着や歯のぐらつきを早期に発見
・見た目では分からない初期歯周病を見つける
症状が出る前に発見できる唯一の方法です
■ 毎日の歯磨き(予防の基本) ・歯垢(プラーク)を除去
・歯石の形成を防ぐ
・最も重要な予防方法
■ Pidi(口腔内プラズマケア) ・細菌の増殖を抑制
・歯肉の炎症を軽減
・歯磨きで届かない部分の補助ケア
■ スケーリング(必要時の治療) ・歯石を除去(歯磨きでは取れない)
・歯周ポケット内の洗浄・治療
歯科検診で状態を確認し、必要に応じてPidiやスケーリングを組み合わせていきます。


飼い主
どれか1つだけやればいいんですか?
Dr.Nyan
それぞれ役割が違うため、組み合わせることが最も効果的です
定期的な歯科検診(早期発見)
・歯周ポケットや歯肉の状態をチェック
・歯石の付着や歯のぐらつきを早期に発見
・見た目では分からない初期歯周病を見つける
👉 症状が出る前に発見できる唯一の方法です

飼い主
歯磨きしていれば検診はいらないですか?
Dr.Nyan
歯磨きは予防、検診は早期発見です。役割が違うため両方必要です。
毎日の歯磨き

Dr.Nyan
「歯磨きを嫌がって困っている」という相談が多いです。当院でも歯磨き指導を行っています。一緒に練習しましょう。
- 毎日の歯磨きが最も効果的(歯垢は72時間で歯石になる)
- 犬用の歯ブラシ・歯磨きジェルを使用(人用の歯磨き粉はNG)
- 嫌がる場合は歯磨きシート・指ブラシから始める
- 子犬のうちから口を触ることに慣らす
リスク先生
歯磨きをしていても歯石は完全には防げません。定期的なスケーリングが必要です
定期的なPidiでの処置


飼い主
歯磨きだけではダメなんですか?
Dr.Nyan
歯磨きはとても重要ですが、炎症がある場合は医療的なケアを併用することでより効果的にコントロールできます
Pidiは、プラズマの力を利用して口腔内の細菌を抑制し、歯肉の炎症を軽減するケア方法です。特に軽度の歯肉炎や歯周病の初期段階で効果が期待されます。
歯磨きだけではコントロールが難しい場合や、歯周病の進行を抑えたい場合に補助的な治療として行います。
リスク先生
Pidiでは歯石は取れません。歯石がある場合はスケーリングが必要です。
デンタルケア補助用品
- デンタルガム・デンタルトイ(歯垢の機械的除去)
- 口腔ケアサプリメント(水に混ぜるタイプ)
- デンタルフード(歯石予防設計の処方食)
こんな症状があれば早めに受診を
| 症状 | 受診の目安 |
|---|---|
| 口臭が強くなった | ⚠️ 早めに受診 |
| 歯が黄色・茶色になってきた | ⚠️ 早めに受診 |
| 歯茎が赤い・腫れている | ⚠️ 急いで受診 |
| 食べるときに痛がる・片側だけで食べる | ⚠️ 急いで受診 |
| 歯がグラグラしている | ⚠️ 急いで受診 |
| 顔が腫れている・膿が出ている | ⚠️ 直ちに受診 |
よくある質問
麻酔が怖いのですが必要ですか?
有効なスケーリングには全身麻酔が必要です。術前の血液検査・心電図で麻酔リスクを評価し、安全に配慮して実施します。治療せずに歯周病を放置する全身リスクの方が大きいケースがほとんどです。
歯を抜いたら食べられなくなりませんか?
犬は歯がなくてもドライフードを食べられます。むしろ痛みのある歯を抜くことで食欲が戻るケースが多くあります。
何歳からスケーリングが必要ですか?
2〜3歳から歯石が溜まり始める犬が多いです。歯石の程度・歯周病の進行状況に応じて判断しますが、3歳以上は一度口腔内のチェックを受けることをお勧めします。
スケーリングの費用はどのくらいですか?
術前検査・麻酔・スケーリングで3〜5万円程度が目安ですが、歯周病の重症度・抜歯の有無によって異なります。詳細はご来院時にご相談ください。
歯磨きをどうしても嫌がります
まず口を触ることに慣らすことから始めます。歯磨きシート→指ブラシ→歯ブラシの順にステップアップするのがお勧めです。当院でも指導していますのでお気軽にご相談ください。
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まとめ
「口臭がひどい」「歯がグラグラ」「食べるときに痛がる」——これらは歯周病のサインです。3歳以上の犬の約80%が歯周病を持ち、放置すると心臓・腎臓・肝臓にまで影響します。
毎日の歯磨きと年1〜2回の定期スケーリングが愛犬の口と体を守ります。歯磨きに困っていたら一緒に練習しましょう。
様子見ではなく早めの受診が大切です。
筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

本記事は、佐倉市で犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。