犬の腸トリコモナス症|水様便・血便が続く原因と治療

  1. ホーム
  2. Dr.Nyanのすこやかコラム
  3. 犬の腸トリコモナス症|水様便・血便が続く原因と治療

Dr.Nyanのすこやかコラム

コラム記事検索

犬の腸トリコモナス症|水様便・血便が続く原因と治療

本記事は、Dr.Nyan症例集「犬の感染症・寄生虫疾患編」の一部です。実際の診療症例をもとに、水様便や血便が続く原因と適切な対応についてわかりやすく解説しています。

「水のような下痢が何日も続いている」「血が混じった便が出た」「元気がない・ご飯を食べない」こうした症状を「ただの下痢だろう」と様子見していませんか?
それ、腸トリコモナス症のサインかもしれません。

腸トリコモナス症は「ただの下痢」と見分けがつきにくく、様子を見ているうちに脱水や衰弱が進むことがあります。特に子犬では進行が早く、早期の判断が重要です。

目次

【症例】こんな犬が来院しました

飼い主

水のような下痢と血便が3日続いていて、元気もなくなってきました…。

Dr.Nyan

糞便検査で、運動性のある原虫(腸トリコモナス)を多数確認しました。消化管内に寄生虫感染が起きています。

検査の結果、腸トリコモナス症と診断。抗菌剤による治療を開始し、10日間の投薬で症状が改善しました。
このように適切な治療で改善する一方、放置すると症状が長引いたり再発を繰り返すこともあります。

腸トリコモナス症とは?

腸トリコモナス症は、腸トリコモナス(Pentatrichomonas hominis)という原虫が大腸に寄生して起こる病気です。原虫とは単細胞の微生物で、顕微鏡でないと確認できません。
原虫は細菌やウイルスとは異なり、体内で増殖しながら腸の粘膜にダメージを与えるのが特徴です。

健康な成犬では感染しても無症状のことが多いですが、免疫力が未発達な子犬・免疫力が落ちた老犬では重症化しやすい病気です。
つまり「感染=すぐ発症」ではなく、体調や免疫状態によって症状の有無が変わります。

飼い主

ただの下痢ではないんですか?

Dr.Nyan

水様便や血便が3日以上続く場合は、寄生虫感染の可能性を考えます。特に子犬は要注意です。

腸トリコモナス症の症状

下痢・血便などの消化器症状

腸トリコモナスは結腸・盲腸などの大腸に寄生します。大腸炎を引き起こし、以下のような症状が現れます。
特に「水様便+血便」の組み合わせは大腸のトラブルを強く示唆するサインです。

  • 水のような下痢
  • 血が混じった便(血便)
  • 粘液便
  • 食欲・元気の低下
  • 脱水
  • 肛門周囲の赤み・腫れ

最初は軽い下痢でも、徐々に水のような便に変化し、排便回数が増える傾向があります

犬 腸トリコモナス症 脱肛(直腸脱)症例
激しい下痢で肛門から腸が飛び出した「脱肛(直腸脱)」の症例

強いいきみが続くことで直腸が外に出てしまう状態で、早急な処置が必要になります。

リスク先生

脱水や衰弱が進むと命に関わる状態になります。水様便・血便が続く場合は早急に受診してください。

混合感染で重症化しやすい

飼い主

なかなか治らないのはなぜですか?

Dr.Nyan

他の寄生虫・細菌・ウイルスと同時感染(混合感染)していると、治療しても症状が長引くことがあります。

腸トリコモナスはジアルジア・イソスポラ・回虫などの寄生虫と同時に感染していることがあります。パルボウイルスやコロナウイルスとの混合感染にも注意が必要です。

犬 腸トリコモナス症 回虫 混合感染 症例 佐倉市 若山動物病院
腸トリコモナス症と同時に回虫の感染も確認された症例

「薬を飲んでも治らない」と感じる場合は、別の感染が隠れている可能性があります。

腸トリコモナス症の原因

感染した犬の便に含まれる腸トリコモナスを口にすることで感染します(経口感染)。便で汚染された足・被毛を舐めることでも感染します。体外でも数日間生存するため、環境の消毒が重要です。目に見えないレベルで環境に残るため、「見た目がきれい=安全」とは限りません。

Dr.Nyan

無症状の犬が感染源になることもあります。症状がなくても定期的な検便で確認することが大切です。

診断方法

糞便検査で腸トリコモナスを確認します。ただし検出率が高くないため、新鮮な便・直接採取した便での検査が必要で、複数回繰り返すこともあります。
1回の検査で見つからないこともあるため、症状が続く場合は再検査が重要です。

Dr.Nyan

検便で見つからないこともあります。症状が続く場合は繰り返し検査を行います。

治療法

抗菌剤による治療

メトロニダゾール・チニダゾールなどの抗菌剤を投与します。非常に苦い薬のため、投薬時の工夫が必要です。

犬 腸トリコモナス症 メトロニダゾール 治療薬 佐倉市 若山動物病院
腸トリコモナス症の治療に使用するメトロニダゾール(FLAGYL)。苦味が強いため投薬には工夫が必要です。

飼い主

薬ですぐ治りますか?

Dr.Nyan

症状が消えても途中でやめると再発します。必ず投与期間を最後まで守ってください。

対症療法

  • 脱水がある場合は点滴
  • 整腸剤・抗生剤の投与
  • 食欲がない場合は強制給餌
  • 重症例では入院治療

特に脱水の改善は回復に直結するため、早期対応が重要です。

予防方法

環境の清潔を保つ

感染の多くは環境由来のため、日常管理が予防の中心になります。

  • 便はすぐに処理し、トイレ・敷物をこまめに清潔にする
  • 散歩中に他の犬の便に近づかせない
  • 多頭飼育ではトイレを分け、感染犬を隔離する

消毒方法

以下の薬剤が有効です。

  • 次亜塩素酸ナトリウム
  • ポビドンヨード
  • 塩化ベンザルコニウム

定期的な検便

Dr.Nyan

定期的な検便で早期発見を心がけましょう。特に子犬・多頭飼育の場合は定期健診をおすすめします。

感染しやすい犬の特徴

犬種には関係なく感染します。以下の犬は特に注意が必要です。

  • 生後6か月未満の子犬(免疫未発達)
  • 老齢の犬(免疫力低下)
  • 多頭飼育・ペットショップ・保護犬施設出身の犬
  • 基礎疾患や免疫抑制状態にある犬

これらに当てはまる犬は、軽い下痢でも早めの検査をおすすめします。

こんな症状があれば早めに受診を

症状受診の目安
水様便・血便が3日以上続く⚠️ 早めに受診
元気・食欲が落ちてきた⚠️ 早めに受診
肛門周囲が赤い・腫れている⚠️ 早めに受診
脱水が疑われる(皮膚の張りがない)⚠️ 急いで受診
肛門から腸が飛び出している(脱肛)⚠️ 直ちに受診
子犬・老犬で症状がある⚠️ 急いで受診
水様便・血便・脱肛など、腸トリコモナス症で早急な受診が必要となる症状の目安一覧

「原因を確認する」ことが、重症化を防ぐポイントです。

飼い主

様子を見ても大丈夫ですか?

Dr.Nyan

水様便や血便がある場合は早めの受診が重要です。子犬は特に急速に悪化します。

よくある質問

よくいただくご質問をまとめました。

犬の下痢が続く場合はすぐ受診すべきですか?

水様便・血便・元気や食欲の低下を伴う場合は早めの受診をお勧めします。特に子犬・老犬は急速に悪化することがあります。

自然に治ることはありますか?

成犬では一時的に落ち着くことがありますが、自然に完全治癒することは少なく再発します。適切な治療が必要です。

人にうつることはありますか?

犬から人への感染は一般的にまれですが、衛生管理には十分注意してください。

他の犬にうつりますか?

はい。感染犬の便を口にすることで感染します。多頭飼育では隔離と環境の清掃が重要です。

治療期間はどのくらいですか?

軽度であれば1〜2週間の投薬で改善することが多いですが、重症例や混合感染では長期治療や入院が必要になることもあります。

再発することはありますか?

はい。免疫力が低下している場合や環境中に原虫が残っている場合は再発します。投薬を途中でやめないことが重要です。

家でできる予防はありますか?

便をすぐ処理する・清潔な環境を保つ・他の犬の便に近づけないことが基本です。定期的な検便も重要な予防策です。

子犬は特に注意が必要ですか?

はい。子犬は免疫力が未発達なため重症化しやすく、脱水・衰弱から命に関わることがあります。早期対応が非常に重要です。

関連するシリーズ記事(Dr.Nyan症例集)

犬の感染症・寄生虫疾患編
犬の鉤虫症|下痢・血便の原因と治療
犬の回虫症|ウンチに白い虫がいる原因と治療
犬のフィラリア症|症状・予防と治療
犬の口腔トリコモナス症|口臭・歯ぐきの腫れの原因と治療

犬の消化器疾患編
犬の急性大腸炎|下痢・血便の原因と治療
犬の急性膵炎|急に吐く・下痢する原因と治療
犬の便秘|ウンチできない原因と治療

まとめ

最後に重要なポイントを整理します。

「水のような下痢」
「血便が続く」
「元気や食欲がない」

これらが重なったとき、腸トリコモナス症を疑ってください。特に子犬では急速に重症化するため、早めの受診が命を守ります。定期的な検便で早期発見を心がけましょう。

Dr.Nyan

水様便や血便が続く場合や、「なんか変かも」と感じた場合は、お早めにご相談ください。

筆者・若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール

若山動物病院院長 獣医師 若山正之(Dr.Nyan)のプロフィール写真

本記事は、犬・猫の診療を行う獣医師・若山正之が監修・執筆しています。
1975年より小動物臨床に従事し、現在は若山動物病院院長として地域医療に携わっています。長年の臨床経験に基づき、一般診療から予防医療、シニア医療まで幅広く対応しています。

特に、病気の早期発見・早期対応を重視し、飼い主様にわかりやすい説明と納得いただける診療を心がけています。また、幹細胞療法や免疫療法などの先進医療にも取り組み、動物の生活の質(QOL)を重視した治療を提供しています。
これまでに一般飼い主様向けのセミナーや講演活動を多数行い、正しい医療知識の普及にも尽力しています。著書に『老犬生活 完全ガイド』『犬と猫の老齢介護エキスパートブック』などがあります。
本記事は最新の獣医療知見と臨床経験をもとに作成していますが、症状や状態によって対応は異なるため、気になる症状がある場合はお早めに動物病院へご相談ください。