若山動物病院ブログ
【蒼太探偵シリーズ】乳首の不思議|オスにも乳首がある理由

ある日のこと。
蒼太が、男の子の犬・コタローのお腹を撫でていると、指先に小さなポツポツが触れるのに気づきました。

蒼太
ひとつ、ふたつ、みっつ….…
コタローって、男の子だよね?
男の子にも乳首があるのは、なぜ?
焦った蒼太は、コタローを連れておいどん先生のところへ走っていきました。
オスにも乳首がある理由(共通の設計図)

おいどん先生
いいところに気づいたね!
実はね、『オスなのに乳首がある』んじゃなくて『乳首の準備ができてから、オスの体へと育った』というのが本当の順番なんだよ。
犬も猫も、僕たち人間も。
お母さんのお腹の中で形づくられる「一番最初の段階」では、オスとメスの体に差がありません。
共通の基本設計図があって、そのあとにホルモンの影響でオス・メスへと枝分かれしていくんです。

結衣
じゃあ、性別が決まるより前に、もう乳首の土台ができてたんだ!

おいどん先生
そう! だからオスの乳首は後から生えたものじゃなくて、身体がつくられたときの大切な『名残』なんだよ。
オスの乳首は何か役に立っている?
もちろん、オスの乳首からお乳が出ることはありません。
「じゃあ何のためにあるの?」と診察室でもよく聞かれます。
実は、その理由は至ってシンプルなんです。
「残っていても、何の邪魔にもならなかったから」です。
走る邪魔にもならないし、ご飯を食べる邪魔にもならないですよね!

結衣
なくても良かったけど、なくす理由もなかったから残ってるってこと?

おいどん先生
そう、まさにそれ。
体の中には、こういう「目立った働きはないけれど、そっと残っている痕跡」が結構あるんですよ。
乳首は何個ある?
乳首の数の目安は、お腹から胸にかけてこんな感じで並んでいます。
| 動物 | 乳首の数の目安(左右あわせた合計) |
| 犬 | 8~10個前後(大型犬は多め、小型犬はちょっと少なめな傾向があります) |
| 猫 | 6~8個前後 |
ちょっとズレていたり、7個(奇数)だったりするのもその子の可愛い個性です。

蒼太
そういえば、コタローのお腹のポツポツ、並び方が少しズレてたけど、最初は全部イボかマダニかと思って本気で焦った!

おいどん先生
「実はね、結構多い『勘違い事件』がそれなんだよ。
『先生、マダニです!』って青い顔で駆け込まれて、毛をかき分けて診てみたら『可愛い乳首でしたね』って。
また出来物だと思って、心配してた飼い主さんもいるし。
毛の長い子や子犬・子猫は、乳首がぷくっと膨らんで見えますからね。
私だって新人の頃は一瞬「おや?」とドキッとしたことがあります。
飼い主さんが焦るのも無理はありません。
乳首とマダニの見分け方
診察室で私たちがパッと見てチェックするのは、「そこの1カ所だけか、並んであるのか」です。
乳首の特徴
お腹のライン上に、左右似たような位置で「ポツポツと複数」並んでいる。
皮膚と完全にくっついていて、いきなり大きくなったりはしない。
イボの特徴
1カ所だけ、または不規則な位置にポツンとできることが多い。
表面がザラザラしていたり、色や形が周囲の乳首と違って見えることがある。
マダニの特徴
お腹に限らず「1カ所だけ」にポツンとついていて、じっくり見ると小さな脚がある。
血を吸うと日に日に大きく膨らんでいく。
吸い始めたばかりの小さなダニは、確かに乳首と紛らわしいことがあります。
リスク先生
迷っても絶対に無理やり引っ張るなよ!
無理に取ろうとするとダニの口だけが皮膚に残って、ひどい炎症を起こすからな。
判断がつかないなら、そのまま見せに来るのが一番だ。
正常な乳首と病気のサイン
オスの乳首そのものは、あってあたりまえの正常な構造です。
ただし、その周りに病気が起こることはあります。
正常なことが多い状態
- 小さくて柔らかい
- 昔から同じ場所にある
- 赤くない
- 腫れていない
- 出血や分泌物がない
- 触っても痛がらない
注意したい変化
次のような場合は、単なる乳首ではなく、皮膚や乳腺の病気が隠れていることがあります。
- 急に大きくなった
- 赤く腫れている
- 触ると熱っぽい
- 血や膿が出る
- 乳首の下にしこりがある
- 触ると痛がる
- 1カ所だけ形や色が変わった
- 本人が気にしてなめ続ける

蒼太
全部の乳首をひとつずつじっくり見るんじゃなくて、まず「1個だけ違う」ところを探せばいいんだね。

おいどん先生
そのとおり。
私が診察のときにいちばん先に見ているのも、実はそこなんだ。
左右を見比べて、1カ所だけ様子が違う場所がないか。全体が均一に変化しているより、「そこだけ」変化しているほうが、注意すべきサインであることが多いんだよ。
ただし、これにも例外があります。
発情期に近いホルモンの変化があった未去勢の子では、一時的に複数の乳首が同時にふくらんで見えることも。
この場合は「1カ所だけ」のルールに当てはまらないので、迷ったときはやっぱり一度見せてもらうのが安心です。
オスでも乳腺の病気になる?
確率は高くありません。ただ、ゼロだと言い切ることもできないんです。
まれに、
- 乳腺腫瘍
- 乳腺炎
- 皮膚炎
- 外傷
- ホルモン異常に伴う乳腺の変化
などが見つかることがあります。
特に気にかけているのは、乳首の下に触れるしこりです。
シニア期に入った男の子や未去勢の子、それから潜在精巣(お腹の中に精巣が残ったままの状態)がある子は、ホルモンバランスが崩れやすく、リスクがやや高まる印象があります。
実際に、潜在精巣のある子で、乳首まわりの変化がきっかけとなり、あとから精巣の腫瘍が見つかったケースを診たこともあります。
乳首まわりの変化が、体の中で起きている別の異常に気づくきっかけになることもあるんです。
リスク先生
オスだから乳腺腫瘍はできない、と決めつけるのは危険だ。
少ないが、ゼロではないぞ。
お家でできるチェック
自宅でチェックするときは、無理に毛をかき分けたり押したりせず、リラックスしているときに、さりげなく触れる程度で十分です。
チェックポイント
- 左右で大きさが大きく違わないか
- 1カ所だけ赤くないか
- しこりがないか
- 血や膿が出ていないか
- 痛がらないか
- 以前より大きくなっていないか
しつこく触りすぎると、スキンシップ自体を嫌がるようになってしまうので、あくまで「優しく、さりげなく」がコツです。

蒼太
でも先生、前からこの形だったかなって、正直あんまり自信ないんだけど?

おいどん先生
それ、すごくよく分かる。
だから私は、気になったらスマホで写真を撮っておくことをおすすめしてるんだ。
あとで見比べたときに変化に気づきやすくなるよ。

結衣
写真、いつも撮ってるプリクラみたいな感じ?

おいどん先生
そんな感じ! 記録に残しておくのって、実はすごく役に立つんだよ。
それと、毎日のスキンシップ自体が、いちばんのチェックになります。
触り慣れていると、「あれ、いつもと違うな」って、指先が勝手に気づいてくれるようになるものです。
こんな時は動物病院へ!
次のような変化がある場合は、早めの受診をおすすめします。
- 乳首や周囲が急に腫れた
- しこりがある
- 出血している
- 膿や分泌物が出る
- 強い赤みがある
- 触ると痛がる
- なめ続けて皮膚がただれている
- 1カ所だけ明らかに形が違う
特に、「お腹全体」ではなく「どこか1カ所だけ」様子がおかしいときは、注意して見てあげてください。
探偵蒼太の結論!
事件の答えはシンプルでした。
犬や猫の体が作られる早い段階で、オスとメスに共通する体の設計図が先にできる。
だから、性別が決まるよりも前に、乳首のほうが先に用意されていたんです。
蒼太は、コタローの温かいお腹をそっとなでながら、ほっと一息。

蒼太
コタローの乳首、病気じゃなくて、体が作られるときの名残だったんだね。

おいどん先生
そのとおり。ただし、腫れやしこり、出血があるときは、ちゃんと病院で確認しようね。
診療で大切にしていること
「オスの乳首は基本的に心配いらない」というのは、ちょっと危ういと思っています。
私が診療で意識しているのは、「基本は正常、でも例外は必ずある」という前提で診ることです。
シニア期に入った男の子や未去勢の子を診るときは、乳首まわりをさりげなく触らせてもらうようにしています。
何も見つからないことがほとんどですが、それでいいんです。
見つからないことを確認しにいくのも、診察の大事な役目だと思っています。
もし愛犬や愛猫のお腹のポツポツに気づいたら、まずは深呼吸して、慌てずに並び方を見てみてください。
左右対称に近く、複数並んでいれば、多くの場合は心配いりません。
それでも「なんとなく違う気がする」「1カ所だけ様子がおかしい」そう感じたとき、迷ったときは、遠慮せずに見せに来てください。
よくある質問
お腹を触ろうとすると嫌がって怒るのですが…
もしかしたら、見えない痛みのサインかもしれません。
単にお腹を触られるのが苦手な性格の子もいますが、急に触らせてくれなくなった場合は、皮膚炎や乳腺の炎症で「痛い」と伝えている可能性もあります。一度、病院で優しくチェックさせてくださいね。
去勢すると乳首はなくなりますか?
いいえ、去勢をしても乳首自体がなくなることはありません。ボタンのような突起は、そのまま残ります。
ただし、潜在精巣がある子の場合は、去勢によってホルモンの影響を減らせるので、乳腺まわりのリスクを下げることにはつながります。
探偵蒼太シリーズ

犬や猫の「吐く・下痢・食べない・元気がない」など様々な症状から原因、受診の目安など、病気を探る探偵蒼太シリーズです。
中学2年生の「蒼太」と獣医師の「おいどん先生」、蒼太の妹の「結衣」そして「リスク先生」が、受診の目安や危険なサインをわかりやすく解説します。
【犬編】
・犬の下痢は大丈夫?原因・危険な症状(血便・水様便)と受診の目安
・犬が食べない?原因と危険な症状・受診の目安
・犬が吐いた?原因と危険な症状と受診の目安
・犬が元気がない?原因・危険な症状と受診の目安
・犬の治らない下痢、お腹の病気じゃなかった?原因は副腎腫瘍だった
・犬の歩き方がおかしい?前足のびっこは危険?原因と受診の目安
・犬の歩き方がおかしい?後ろ足のびっこは危険?原因と受診の目安
・犬の夜鳴き|認知症だけじゃない!原因・対策・受診の目安
・犬にヨーグルトをあげても大丈夫?人間用との違いと下痢の原因
・腸内細菌は本当に健康に関係するの?|犬の腸活・免疫・病気との意外な関係
・犯人は乳酸菌だけじゃなかった!犬のプロバイオティクスとは?
・パッケージの罠を見抜け!「犬の腸活サプリ」失敗しない5つの選び方
・トイ・プードル編|第一話 ソファから飛び降りただけなのに
・トイ・プードル編|第二話 スキップ歩きの犯人はパテラ?
・トイ・プードル編|第三話 「かゆいだけ」に見える耳と皮膚のSOS
・トイ・プードル編|第四話 「食べてるから大丈夫」に潜む罠!口臭と歯のSOS
・トイ・プードル編|第五話 涙やけに潜む目のSOS
・トイ・プードル編|第六話 「ただの興奮?」に潜む罠!咳とハアハアのSOS
【猫編】
・猫がごはんを食べたいのに食べない原因は?口内炎の症状と受診の目安
・春は要注意?猫の体調不良と免疫が乱れる原因と守る生活習慣
・猫が食後すぐ吐く?それは吐出かも|原因・受診の目安・嘔吐との違い
・猫がジャンプしない?原因と注意すべき症状・受診の目安
・猫が水をよく飲む・おしっこが多い原因は?消える水皿のナゾ
・オシッコが出ない犯人は石じゃなかった?|猫の尿道閉塞とストレスのナゾ
・猫がキャットタワーに登らない理由|シニア猫の関節痛と変形性関節症のナゾ
・猫のひげの役割とは?切ると危険?
・猫のウンチが硬いと何が危険?カチカチウンチに潜む病気
・なぜ繰り返す?特発性膀胱炎(FIC)の正体
・消える猫草のナゾ|猫はなぜ草を食べるの?
【犬猫編】
・犬と猫の鳴き方はなぜ違う?猫は長く犬は短い理由と声が変わる病気
・幹細胞療法とは?犬・猫の病気に使われる理由と効果・受診の目安
・犬と猫はどうして座り方が違うの?理由と見分け方
・乳首の不思議|オスにも乳首がある理由