若山動物病院ブログ
【蒼太探偵シリーズ】トイ・プードル編|第三話 「かゆいだけ」に見える耳と皮膚のSOS

「先生、ただの耳のかゆみだと思うんですけど?!」
診察室で、トイ・プードルの飼い主さんから何百回と聞いてきた言葉です。
足をパタパタさせて耳を掻く。
足先をずっと舐めている。
体を絨毯にこすりつける。
最初は「ちょっとした癖かな」「トリミングのあとだし気にしてるのかな」と見過ごしてしまいがちですよね。
でも、私たちが耳鏡で耳の奥を覗き込むと、全く違う景色が見えてきます。
赤く腫れあがった粘膜、ねっとり溜まった黒い耳あか、そして独特の甘酸っぱい匂い。
「ただのかゆみ」どころか、中でマラセチアや細菌が爆発的に増えて、叫び出したいほどの違和感と戦っている子が本当に多いんです。
今回は、現場で毎日のように出くわすトイ・プードルの「耳と皮膚のトラブル」について、蒼太たちと一緒に紐解いていきましょう。
第三事件:診察台の上で見せた「小さなSOS」
ある日の診察室でのことです。
3歳のトイ・プードルちゃんが、診察台の上で落ち着かない様子で後ろ足をモゾモゾ動かしていました。
本当は耳の後ろをガリガリ思い切り掻きたい。
でも診察台の上だから必死に我慢している……そんな健気でつらそうな動きです。
抱っこしている飼い主さんが、申し訳なさそうに切り出しました。

飼い主
先生、最近ずっと耳を掻いていて。
近づくと、少しにおう気もするんです……

蒼太
耳を掻くのって、そんなに気にした方がいいの?

結衣
うちもトリミングのあと、耳を気にしてる日があるよ?

おいどん先生
一時的な刺激のこともあるけどね。
トイ・プードルで耳のかゆみや匂いが長引くときは、中で炎症が起きてるか、背景にアレルギーが隠れてることが本当に多いんだよ。
「耳掃除で済むはず」が一番危ない
外耳炎は、耳の穴から鼓膜までの通り道(外耳道)が炎症を起こす病気です。
診察室で耳の中を診せてもらうと、だいたいこんな変化が起きています。
- 耳の奥まで赤い(入口だけでなく、奥の粘膜まで腫れている)
- 耳あかが増える(黒っぽい、ベタつく、黄色い汁が出る)
- 独特の匂いがする(酸っぱいような、脂くさい匂い)
- 頭をブルブル振る(違和感や痛みを振り払おうとしている)
- 耳の付け根を触ると嫌がる(かなり痛みを感じている証拠)
ここで私たちは、見た目だけで薬を決めることはしません。
耳あかを少量取って、顕微鏡で調べます。
マラセチアがウジャウジャいるのか、それとも細菌が暴れているのかで、使う薬が変わるからです。

蒼太
耳あかを顕微鏡で調べるだけで、そこまで判っちゃうんだ!

おいどん先生
うなんだよ。
匂いだけじゃカビなのか細菌なのかは絶対に決められないからね。合わない薬を塗ってもこじらせるだけ。
だから、耳あかを顕微鏡で覗く検査は絶対に外せないんだよ。
リスク先生
ちなみに『耳掃除をすれば治るはず』と綿棒で奥をゴシゴシ擦るのは絶対にやめてください
。奥へ耳あかを押し込み、繊細な耳道を傷つけて悪化させる原因になります。
トイ・プードルの耳と皮膚にトラブルが出やすい理由
トイ・プードルという犬種は、どうしても耳の中に毛がフサフサ生えてきます。
通気性が悪いうえに垂れ耳ですから、耳の中は常に「湿気がこもりやすい温室」のような状態です。
でも、ここで考えてほしいのです。
「耳が蒸れたから外耳炎になった」だけで片付けてしまっていいのだろうか、と。
何回もお薬で治療しているのに、薬をやめるとすぐ再発する……
そういう子を詳しく調べていくと、背景にアトピー性皮膚炎や食物アレルギー、あるいはホルモンの病気が隠れているケースが非常に多いのが現実です。

結衣
えっ、耳のトラブルなのに、全身のアレルギーが関係してるの?

おいどん先生
耳の穴もね、言ってみれば全身と『一枚の皮膚』でつながってるからね。
耳だけに薬を入れてその場をしのいでも、体質っていう根本原因を放っておいたら、何回でも繰り返してしまうんだよ。
診察室でチェックする「耳以外」のサイン
耳のかゆみを訴えて来院された子でも、耳だけを診て診察は終りません。
トイ・プードルの場合、かゆみは全身にSOSを出していることが多いからです。
- 耳:掻く、頭を振る、赤い、においが強い
- 足先:指の間をなめる、毛が茶色く変色する(よだれ焼け)
- 顔まわり:口や目の周りをこすりつける
- 体:わきや股が赤い、フケが出る、ベタつく
- 日常の変化:夜にかゆくて起きる、ずっと同じ場所を舐めている
「いつからかゆいか」「ごはんを変えた時期は?」「季節によって悪くなる?」といった問診を、パズルのピースを嵌めるように組み立てていきます。
それは外耳炎だけなのか、それとも全身のアレルギーの一症状として耳に出ているのか見極めるためです。

蒼太
足先を舐めてるのも、耳のかゆみとつながってるかもしれないんだね。

おいどん先生
その通り!
耳だけ、皮膚だけって切り離して診ちゃうと、一番大事な『原因の本体』を見逃してしまうんだ。
かゆい場所、季節、年齢、耳あかの状態など、全部繋ぎ合わせて判断しなきゃダメなのね。
「マラセチアがいた」では終わっちゃダメ
検査で「マラセチアですよ」とお伝えすると、飼い主さんは「じゃあカビを殺すお薬をもらえば治りますね!」とおっしゃいます。
しかしマラセチアは、健康な犬の皮膚にも住んでいる常在菌です。
そのため皮膚の環境が崩れた結果として、マラセチアが増えてかゆみが出てしまっているのです。
本当に大事なのは、「なぜマラセチアが増えてしまうような環境になったのか?」という理由を探ることです。
単に薬で菌をやっつけるだけでは、皮膚のバリア機能が壊れたままであれば薬をやめたら再発してしまいます。
これでは「治ったように見えて」実は治っていないため、「いたちごっこ」になってしまいます。
リスク先生
マラセチアや細菌は『諸悪の根源』というより、皮膚のバリアが破られた結果として湧いてきた『二次災害』であることが多いのです。
家でのケアで「良かれと思ってやってしまう落とし穴」
家でのケアも本当に大切ですが、親心からの手入れが逆効果になっている場面にもよく遭遇します。
- 耳のチェック:
匂いや汚れを観察するにとどめ、赤みや痛みがある時は綿棒などで無理に掃除しない。 - スキンケア:
シャンプーのしすぎや、流し残し・乾かし不足はかゆみを悪化させます。
その子に合った頻度を守りましょう。 - 日常の記録:
トリミング後にかゆがる場合は、バリカンやシャンプーの刺激が原因のことも。
かゆがる仕草や赤くなっている場所をスマホで写真や動画に撮っておくと、診察がスムーズになります。

結衣
耳掃除もシャンプーも、やれば良いってわけじゃないんだね。

おいどん先生
そうだねぇ。良かれと思ってやった手入れが、かえって皮膚のバリアを傷つけることもあるからね。
その子にとっての『ちょうどいい状態』を一緒に探していくのが一番なんだよ
このサインがあれば早めに受診を
- 何度も耳を掻く、頭を強く振る
- 耳の中が赤い、腫れている、ツーンとしたにおいがある
- 黒い耳あかや黄色い耳だれが出ている
- 触ろうとすると嫌がる、怒る、逃げる
- 足先をなめ壊している、血が出ている、夜も眠れていない
- 治療しても何度も再発する
慢性化すると、耳の皮膚がゴツゴツと分厚く硬くなり、耳道そのものが塞がってしまうことがあります。
そうなるとお薬も届きにくくなり、治療に長い時間がかかってしまいます。
軽いうちに対処するのが、何よりその子をラクにしてあげられます。
「かゆみ」ではなく痛みのこともあります
ここで一つ、知っておいてほしいことがあります。
それは「耳を気にして掻いている=皮膚病」とは限らない、ということなんです。
過去の症例でも、耳の奥深くに入り込んだ草の種、耳ダニ、奥にできた腫瘍、さらには歯の痛みや首の関節痛、強いストレスから、耳周りをしきりに気にして掻く素振りを見せる子がいました。
特に以下のような症状がある場合は、通常の và外耳炎とは違う「緊急性の高い病気」の可能性があります。
- 片耳だけを急激に痛がる
- 首をかしげたまま戻らない(斜頸)
- 体がよろめく、目が細かく揺れている(眼振)
「いつものかゆみかな」と様子を見ず、違和感を抱いた時点ですぐに受診してください。

蒼太
かゆそうに見えても、本当は耳の奥が痛かったり、首や歯が原因のこともあるんだね!

おいどん先生
そうなんだよ。
わんちゃんは『かゆい』と『痛い』を言葉で分けて教えてくれないからね。
人間の思い込みで決めつけず、全身をまるごと診てあげることが何より大切なんだ。
院長(Dr.Nyan)から
トイ・プードルの耳や皮膚のトラブルは、「この子の体質だから」「プードルにはよくあることだから」と、半ば諦め顔で付き合っていらっしゃる飼い主さんにたくさんお会いしてきました。
ですが、想像してみてください。
24時間どこかがず〜っと痒い、耳の中がムズムズして不快、足先が気になって熟睡できない。
これは、言葉にならないほど大きなストレスです。
当院は「今出ているかゆみを薬で抑え込んで終わり」とは思ってはいません。
「なぜこの子の皮膚バリアは崩れてしまったのか?」
「なぜマラセチアが増える環境になっているのか?」
その根本原因を一つひとつ紐解き、ご家族の生活スタイルに合わせた無理のないスキンケア、食事管理、必要最小限のお薬を組み合わせていくことです。
完璧を目指して飼い主さんが疲れてしまっては意味がありません。
「ちょっと耳の匂いが気になるかも」「最近よく足先をペロペロ舐めているな」 そんな小さな違和感で構いません。
こじれて慢性化してしまう前に、いつでもご相談ください。
トイ・プードルらしい元気いっぱいの笑顔と穏やかな夜を取り戻せるよう、一緒にがんばりましよう!

おいどん先生
次回は、トイ・プードルで実はすごく相談が多い『歯とお口のトラブル』についてお話しするよ。
『口臭はあるけどご飯は食べてるから大丈夫』って思っている飼い主さんは、ぜひ読んでほしい内容なんだよ!
よくある質問
トイ・プードルの耳がにおうだけでも受診したほうがいいですか?
においが一時的で、赤みやかゆみがなければ少し様子を見ることもあります。
ただ、においが続く、耳あかが増える、頭を振る、耳を触ると嫌がる時は外耳炎の可能性があります。
早めに耳の中を確認しておくと安心です。
家で耳掃除をしてもいいですか?
痛みや赤みがなく、獣医師から方法を教わっている場合は、自宅での耳ケアが役立つことがあります。
ただし、綿棒で奥をこする、強い洗浄液を自己判断で使う、痛がる耳を無理に洗うのは避けてください。
マラセチアはうつりますか?
マラセチアは、犬の皮膚にもともといることがある微生物です。
問題になるのは、誰かからうつるというより、その子の皮膚環境やアレルギーを背景に増えすぎる場合です。
繰り返す時は、増える理由を一緒に確認します。
アレルギー性皮膚炎は治りますか?
アトピー性皮膚炎のように体質が関わる病気では、「完全に治す」より、かゆみを抑えて普段の生活を楽にする管理が中心になることがあります。
季節、食事、スキンケア、薬の使い方を組み合わせて、その子に合う方法を探します。
トリミング後にかゆがるのは普通ですか?
トリミング後に、一時的に少し気にする程度なら珍しくありません。
ただ、赤みが強い、耳を痛がる、足先をなめ壊す、数日たっても続く時は、皮膚炎や外耳炎が隠れていることがあります。
毎回悪化しやすい子は、タイミングや症状をメモしておくと診察の役に立ちます。
探偵蒼太シリーズ

犬や猫の「吐く・下痢・食べない・元気がない」など様々な症状から原因、受診の目安など、病気を探る探偵蒼太シリーズです。
中学2年生の「蒼太」と獣医師の「おいどん先生」、蒼太の妹の「結衣」そして「リスク先生」が、受診の目安や危険なサインをわかりやすく解説します。
【犬編】
・犬の下痢は大丈夫?原因・危険な症状(血便・水様便)と受診の目安
・犬が食べない?原因と危険な症状・受診の目安
・犬が吐いた?原因と危険な症状と受診の目安
・犬が元気がない?原因・危険な症状と受診の目安
・犬の治らない下痢、お腹の病気じゃなかった?原因は副腎腫瘍だった
・犬の歩き方がおかしい?前足のびっこは危険?原因と受診の目安
・犬の歩き方がおかしい?後ろ足のびっこは危険?原因と受診の目安
・犬の夜鳴き|認知症だけじゃない!原因・対策・受診の目安
・犬にヨーグルトをあげても大丈夫?人間用との違いと下痢の原因
・腸内細菌は本当に健康に関係するの?|犬の腸活・免疫・病気との意外な関係
・犯人は乳酸菌だけじゃなかった!犬のプロバイオティクスとは?
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・トイ・プードル編|第一話 ソファから飛び降りただけなのに
・トイ・プードル編|第二話 スキップ歩きの犯人はパテラ?
・トイ・プードル編|第三話 「かゆいだけ」に見える耳と皮膚のSOS
【猫編】
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