若山動物病院ブログ
【探偵蒼太シリーズ】トイ・プードル編|第六話 「ただの興奮?」に潜む罠!咳とハアハアのSOS

「うちの子、興奮するといつもハアハアして咳き込むんです。性格ですかね?」
トイ・プードルのご家族から、診察室で本当によく聞く言葉です。
ハアハアの多くは、暑さや緊張、うれしさで起こります。
だから私も、最初から病気と決めつけることはしません。
ただ、お話を聞いていくうちに、「いつもの興奮」の中に気管や心臓のサインが紛れ込んでいると気が付くことがあります。
トイ・プードルでは、そんな場面に何度も出会ってきました。

おいどん先生
では、診察室で私がまず何を見るのか。
そこから一緒に追ってみましょう。
- 咳とハアハア、様子を見ていいのはどんなときか
- 気管虚脱と心臓病を、どうやって見分けているのか
- 受診のときに役立つ、家での見ておきかた
病院に来るとハアハアするトイ・プードル

飼い主
先生、この子、病院に来るといつもハアハアするんです。
家では普通なのに。うれしくて興奮しちゃうんでしょうか?
抱っこされて入ってきたのは、小柄なトイ・プードル。
舌を出してハア、ハア。シッポはブンブン。
目には力がありますが、呼吸は少し速めでした。

蒼太
ちょっと緊張しているようにも見えますね。

結衣
でも犬って、暑いときやうれしいときもハアハアするよね?

おいどん先生
そうね。だから私は、ハアハアそのものより「その前後」を見るの。
いつ始まって、どこで、どのくらい続いたか。

蒼太
前後の流れも、立派な証拠ってわけですね。
ハアハアが「普通」かどうかは、落ち着き方で見分ける
ここでまず見たいのは、病気のハアハアかどうかです。
病気でなくてもハアハアする場面はあります。
- 暑い部屋や車の中にいた
- 走ったり遊んだりした直後
- 病院やトリミングで緊張している
- 飼い主さんに会えてうれしい

結衣
じゃあ、病院でハアハアしていても心配いらないの?

おいどん先生
そこが、診察室でいちばん悩むところなのよ。
暑さや緊張なら、涼しい場所で休むうちに落ち着いてくる。
でも、家でくつろいでいても続く。寝ているのに速い。咳もある。
そうなると、見方を変えないといけないわね。
診察室では、私はまずここを聞きます。
- 落ち着いたあと、呼吸が元に戻るか
- 家でくつろいでいるときにも続くか
- 咳、疲れやすさ、舌の色の変化を伴っていないか
「ハアハアしていた」というだけでは、実は何も判断できません。
どう戻っていくかまで聞いて、ようやく普通かどうかの線が引けるんです。
ただ、ここは少し注意が必要です。
シニアの子や太り気味の子は、病気がなくても落ち着くまで時間がかかりがちです。
反対に、若い子なのに少し遊んだだけで10分以上おさまらないなら、一度診ておきたいところです。
興奮すると「ガーガー」と咳き込むのはなぜ?(トイ・プードルの気管虚脱)
気管は、空気の通り道になるホースのような管です。
本来は軟骨に支えられて、丸い筒の形を保っています。
ところが、その軟骨が年齢や体質で柔らかくなると、呼吸の勢いで気管がペタンと潰れてしまう。
これが気管虚脱です。
トイ・プードルやチワワ、ポメラニアン、ヨークシャー・テリアなど、小型犬によく見られます。
診療をしていて感じるのは、体重が少し増えただけで咳がぐっと増える子が多いこと。
首や胸まわりの脂肪も、気管には負担になるんです。
診察室で私が「気管が苦しいのかも」と感じるのは、こんな様子があるときです。
- うれしくて興奮した直後に咳き込む
- 散歩でリードを引っ張ったときに「ケホッ」
- ガチョウの鳴き声のような「ガーガー」「グーグー」という音
- 水を飲んだあとにむせる
- 暑い日や湿気の多い日に、急に息苦しそうになる

蒼太
興奮そのものが病気なんじゃない。
興奮で呼吸が激しくなって、隠れていた気管のトラブルが顔を出すってことか。
リスク先生
正解。
「興奮しやすい性格だから」で片づけちゃダメだよ。
興奮は、病気を表に引っ張り出す“引き金”なんだ。
気管虚脱は、家でできることが多い病気でもあります。
首輪をハーネスに替える。体重を少し落とす。夏はエアコンで室温と湿度を下げる。
これだけで、咳の回数がはっきり減る子もいます。
もちろん、全員がそれで済むわけではありません。
咳が止まらない、呼吸が苦しそう、という段階になれば、お薬や吸入、ときには手術を考えることもあります。
咳の原因を「気管だけ」と決めつけない理由

結衣
小型犬の咳って、ぜんぶ気管虚脱なの?

おいどん先生
そこは決めつけないでほしいの。
トイ・プードルは、年齢とともに心臓の病気が見つかることも多いから。
私は、気管と心臓をいつもセットで考えているわ。
小型犬にとても多い心臓病が、僧帽弁閉鎖不全症。
心臓の中の弁がしっかり閉じず、血液が逆流してしまう病気です。
進行すると心臓が大きくなり、気管支を下から押し上げたり、肺に水がたまったりします。
それが咳や呼吸の変化として表に出てくるわけです。
やっかいなのは、咳の音だけでは「気管」か「心臓」か、きれいに分けられないこと。
私は、ここに当てはまる子では心臓も外さずに見ます。
- 夜中や明け方に咳が出る
- 寝ていたのに咳で起きる
- 散歩で歩く距離が短くなった
- すぐ座り込む、抱っこを嫌がる
- 興奮したあと、咳がなかなか止まらない
- 安静にしていても呼吸が速い

蒼太
音だけで犯人を決めたら、見落としが出そうですね。

おいどん先生
そういうこと。
咳の音、年齢、心雑音、レントゲン、それから家で撮った動画。
証拠を並べて、矛盾がないかを確かめていくのよ。
実際の診療で迷ったケース
似た相談で、今でもよく覚えている子がいます。
1.気管虚脱と心臓病が重なっていた10歳の子
「うれしいときに咳が出るくらいだし、もう歳だから」
ご家族はそう考えて、しばらく様子を見ていたそうです。
首元に軽く触れただけで「ガーガー」と咳き込み、レントゲンでは気管が平たく潰れていました。
ここまでなら、気管虚脱で説明がつきます。
引っかかったのは、聴診器を胸に当てたとき。はっきりした心雑音が聞こえたんです。
超音波検査では、僧帽弁閉鎖不全症で心臓が大きくなり始めていました。
咳のきっかけは気管。
でも、咳が長引いて呼吸が戻りにくい理由は心臓。
この子は、その両方を抱えていました。
一つの病名で割り切れないケースは、シニアの小型犬では珍しくありません。
もし気管の治療だけで終わらせていたら…と思うと、今でも少しヒヤッとします。
2.ハアハアの正体は「膝の痛み」だった7歳の子
「最近、家でもハアハアが増えて。心臓が心配で…」
そう言って来院された7歳のトイ・プードル。
ところが聴診でもレントゲンでも、心臓と気管に大きな問題は見つかりません。
気になったのは、診察台の上で後ろ足を少し浮かせる仕草でした。
触ってみると膝のお皿が外れやすい状態(膝蓋骨脱臼)で、膝に触れられるのをとても嫌がります。
痛みの治療を始めると、ハアハアは目に見えて落ち着きました。
呼吸の症状なのに、犯人は呼吸器じゃなかった。
トイ・プードルの診療では、ときどきこういうことが起こります。
3.ご家族の「数えてみたら」が早期発見につながった12歳の子
以前から心雑音があり、定期的に検診を受けていた12歳のトイ・プードル。
ある日、ご家族からこんなお電話をいただきました。
「寝ているときの呼吸数、いつもは20回くらいなのに、ここ3日は36回あるんです」
見た目は元気で、食欲もいつも通り。
それでも念のためその日のうちにレントゲンを撮ると、肺に水がたまり始めていました。
ぐったりする前に治療を始められたのは、毎晩呼吸数を数えてくださったご家族のおかげです。
診察室にいるだけでは、きっと気づけませんでした。

結衣
ひとつの病名で、ぜんぶ説明できるとは限らないんだね。

おいどん先生
そう。だから診断は「急がず、見逃さず」。
ここだけは、ずっと大事にしているの。
寝ているときの呼吸数は、家でしか分からない「本当の姿」
病院では、緊張で呼吸が速くなる子も少なくありません。
診察室で測った呼吸数は、正直なところ参考程度。
頼りになるのは、家でぐっすり眠っているときの呼吸数なんです。
【数え方】
胸が「上がって、下がる」で1回。
30秒数えて2倍すれば、1分間の呼吸数になります。
(30秒で10回なら、1分間に20回)
目安は、眠っているときに1分間30回未満。
数字とあわせて見てほしいのが「その子の普段」です。
30回を超えたら、涼しい部屋で落ち着いて眠っているときに、もう一度確認してみてください。
繰り返し30回を超える、または普段より明らかに増えている場合は、数日待たずに早めにご相談ください。
夢を見ているときや、暑い部屋で寝ているときは、一時的に速くなることもあります。
メモは、無理なく数えられたときのもので大丈夫。記録がなくても、気になる変化があればご相談ください。
苦しそうなときは、数え直すより先に動物病院へ連絡してください。
リスク先生
暑くない部屋で、寝ているのに呼吸が速い。
もう一度確認しても速いなら、数日待たずに相談してね。
ハアハアの原因は、気管と心臓だけではない

蒼太
じゃあ先生、ハアハアしていたら心臓と気管を調べれば大丈夫ですよね?

おいどん先生
探偵さんなら、容疑者を最初から二人に絞ったりしないでしょう?
ケース2の膝の子みたいに、呼吸が速くなる理由はほかにもたくさんあるのよ。
もうひとつ、トイ・プードルでよくご相談いただくのが逆くしゃみです。
鼻から「ブーブー」「ズーズー」と勢いよく空気を吸い込む発作で、「咳が止まらない」という動画を見せていただいたら逆くしゃみだった、ということも少なくありません。
多くは数十秒で治まり、そのあとはケロッとしています。
ただ、回数が増えてきた、鼻水や鼻血が出る、という場合は鼻の病気が隠れていることもあるので、一度診せてください。
診察で役立つ「スマホ動画」の撮り方

飼い主
先生、家ではこんな感じなんです。
見せていただいた動画には、静かな部屋で横になっているトイ・プードルが映っていました。
走ったあとでもないのに、口を開けてハアハアしています。

蒼太
家で休んでいるのに、この呼吸の速さ…。これは見逃せないな。

おいどん先生
まさにそれ。
咳の音も、呼吸の速さも、症状が出る前後の様子も、動画なら全部残る。
診察室の数分では見えないものが、たくさん映っているのよ。
無理に撮る必要はありません。撮れそうなら15秒くらいで十分です。
こんな場面が撮れていると、診察でとても助かります。
- 咳の音と、咳をする直前の行動
- 寝ているときの胸の動き
- 口を開けて呼吸している様子
- 散歩のあと、どのくらいで落ち着くか
- 「ガーガー」「ゼーゼー」という呼吸音
ただし、苦しそうなときは撮影より先に、動物病院へ連絡してください。
動物病院では何を見て判断しているのか
咳やハアハアの診察で、いきなり病名を当てにいくことはしません。
最初に確かめるのは「今、急ぐ必要があるかどうか」。
呼吸の苦しさ、舌や歯ぐきの色、体温、ぐったりしていないか。まずはここからです。
緊急性が低いと分かったら、次は「どこから来ている咳なのか」を探します。
気管なのか、心臓なのか、肺なのか。ここは一つの検査だけで決めないことが多いです。
- 問診:いつから、どんな場面で、どのくらい続くか
- 聴診:心雑音、呼吸音、肺の音
- 胸部レントゲン検査:気管の形、心臓の大きさ、肺の状態
- 心臓超音波検査:弁の状態、心臓の動き
- 血液検査:炎症、貧血、全身の状態
- 血圧測定:心臓や全身への負担
毎回すべての検査をするわけではありません。
お話と診察の内容から必要なものを選び、費用やその子の負担も含めて、ご家族と相談しながら進めます。
様子見でいい?すぐ受診?咳とハアハアの目安
迷うときは、まずこのあたりを見てください。
診察室でもよくお話ししている目安です。
ただ、最後に大事なのは「いつもと違う」という飼い主さんの感覚です。そこは、かなり当たります。
様子を見てよいことが多いとき
- 暑さ・運動・興奮のあとで、涼しい場所で休むと落ち着く
- 咳は一度きりで、その後はいつも通り過ごしている
早めに病院へ相談したいとき
- 興奮や散歩のたびに咳が出る
- 咳の回数が増えてきた
- 寝ているときの呼吸数が30回/分を繰り返し超える、または普段より明らかに増えている
- 散歩をすぐ嫌がるようになった
すぐに病院へ連絡したいとき
- じっとしていても苦しそう
- 舌や歯ぐきが青紫色、または白っぽい
- 咳のあとに倒れる、ふらつく
- 横になれず、座ったまま呼吸している
- 咳が止まらない
リスク先生
呼吸の異常は、「明日まで様子を見よう」が命取りになることもあるんだ。
苦しそう、舌の色がおかしい、倒れた。
この3つは迷わず電話して。夜間なら、夜間救急へ。
蒼太の推理

結衣
今日の事件、蒼太探偵の結論は?

蒼太
ハアハアと咳は、見た目だけで片づけない。
“どんなときに出て、どう戻るか”。これが決め手だ!
今日の推理ファイル
- ハアハアは、落ち着いたあとの「戻り方」で見る
- 興奮で出る「ガーガー」咳には、気管虚脱が隠れていることがある
- シニアのトイ・プードルは、気管と心臓をセットで考える
- 寝ているときの呼吸数と15秒の動画は、診察の強い味方
- 苦しそう・舌の色がおかしい・倒れたら、すぐ連絡
診察を終えたトイ・プードルを見送りながら、蒼太はメモ帳に一行書き込みました。

蒼太
犬は「息が苦しい」って言葉では言えない。
だから咳やハアハアが、代わりにサインを出しているのかもしれないね。

おいどん先生
そうね。
そして、その小さなサインに最初に気づけるのは、いつもそばにいる飼い主さんなのよ。

結衣
「いつもと違う」が、いちばんの手がかりなんだね。
事件解決!
院長(Dr.Nyan)からの一言
佐倉市で診療をしていると、トイ・プードルの咳やハアハアのご相談は、季節を問わず本当によくいただきます。
それだけ、身近な悩みなんだと思います。
トイ・プードルは感情表現が豊かで、元気いっぱいの子が多い犬種です。
「いつも興奮してハアハアしているし」「若いころから咳き込みやすかったし」と見過ごしてしまうのも、無理はありません。
実際、ただの緊張や暑さだけ、ということも多いんです。
それでも私が慎重になるのは、咳の相談で来た子の中から、心臓の病気が見つかった子を何頭も診てきたからです。
「もう少し早く来てもらえていたら」と悔しい思いをしたことも、一度や二度ではありません。
だから私は、「たぶん興奮ですね」で診察を終わらせないようにしています。
かといって、必要以上に不安をあおりたくもない。
その間にある本当の原因を、ご家族と一緒にひとつずつ確かめていく。
それが、私の診療の考え方です。
「こんなことで相談していいのかな」と迷ったら、まずはお話を聞かせてください。
撮れそうなら15秒くらいの動画や、寝ているときの呼吸数のメモも、診察の手がかりになります。
用意できなくても大丈夫ですよ。ご家族が気づいた「いつもと違う」を、一緒に確かめていきましょう。
よくある質問
興奮すると咳をします。様子を見てもいいですか?
一度きりで、すぐに落ち着き、その後いつも通りなら、急がなくてよいことが多いです。ただ、繰り返す、回数が増えてきた、散歩中にも出る、という場合は早めにご相談ください。どんなときに咳が出るか、お話を聞かせてくださいね。苦しそうなときは、すぐに病院へ連絡してください。
「ガーガー」という咳は気管虚脱ですか?
気管虚脱でよく聞かれる音ですが、音だけでは決められません。シニアの子では心臓病が重なっていることもあるため、聴診やレントゲン検査と合わせて判断します。
咳が出る子は、首輪とハーネスのどちらがいいですか?
咳が出る子や気管虚脱と言われた子には、ハーネスをおすすめしています。首輪は、リードを引いたときに気管を直接押してしまうためです。ただ、胸を強く締めつけるハーネスでは苦しくなる子もいるので、体に合ったものを選んであげてください。サイズに迷ったら、診察のときに一緒に確認しましょう。
寝ているときの呼吸数は、何回までなら大丈夫ですか?
眠っているときに1分間30回未満が、ひとつの目安です。ただ、その子の普段の呼吸数も大切です。30回を超えたら、涼しい部屋で落ち着いて眠っているときに、もう一度確認してみてください。繰り返し高い、または普段より明らかに増えている場合は、数日待たずに早めにご相談ください。記録がなくても大丈夫ですよ。苦しそうなときは、数え直すより先に病院へ連絡してください。
咳が心臓病から起こることもありますか?
あります。心臓が大きくなって気管支を圧迫したり、肺に水がたまったりすると咳が出ます。小型犬では、気管の病気と心臓病が同時に起きていることもあります。
受診するときに何を持っていけばいいですか?
動画や呼吸数のメモがあると、診察の手がかりになります。でも、無理に撮影したり、全部そろえたりしなくても大丈夫ですよ。症状が出やすい時間帯や場面を、分かる範囲で教えてください。飲んでいる薬やサプリは、名前が分かるメモや写真があると助かります。苦しそうなときは、準備より先に病院へ連絡してください。
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中学2年生の「蒼太」と獣医師の「おいどん先生」、蒼太の妹の「結衣」そして「リスク先生」が、受診の目安や危険なサインをわかりやすく解説します。
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